047話 マッチ売りのミネル
3-7.マッチ売りのミネル
俺はフードを外し、夜の路地裏をフラフラ1人で歩く。
マッチ マッチは要りませんか?
演じるは、本で読んだ憶えのあるお金のない少女。マッチを売りつける、あの子を抜粋。
ああぁ、寒い。誰もマッチを買ってくれる人が・・・というか人っ子一人いないわね。さ、寂しい。
壁に手を付き、よよよよよ~と膝をつく。
ああぁ、マッチの火が暖かいわ。ええ、とっても・・・ちょっと火の精霊さん、もう少し抑えて下さる?とても熱いわ。
もう一つ、もう一つと火の精霊からアンコールを受け、マッチに火をつけていく。すると、周りから火の精霊がたくさん集まってきた。
ああ、どうしましょう。火が炎となり燃え盛ってしまったわ。でも、寒くなくなったわね。良かったわ、暖か~い。
「こらこらこら、坊主!テメー、こんな所で火遊びなんかすんじゃねぇよ!危ねぇだろうが!」
「こんばんは、お兄さん。マッチは、マッチは要りませんか?」
「はぁ?マッチだぁ?いらねぇよ、そんな古臭いもん。もう誰も使わんわ!」
「そ、そんな。ボクはもうずっと何も食べていないんです。ですからどうか、どうか一つだけでも」
「・・・お前、なかなか可愛いじゃねぇか。よし!お前、腹いっぱい飯が食いてぇのか?なら俺に着いてきな」
俺は男と手を繋ぎ、裏路地の奥へと進んで行く。
・・・・もしかして、かかったかな?
○ ● ○ ● ○ ●
「囮、ですか?」
俺達は晩御飯を食べ終えた後、王都にあるタジル達の拠点に居た。リナリクトの町にあった拠点よりかは小さいけど、立派な屋敷。きっと王都は土地代が高いと思うが、落ち着く一軒家って感じで俺は好き。
「そ。ミネルには〝囮〟として俺達が今やっている依頼に協力してほしい。ミネルなら絶対に向いてると思うんだよな」
「ミネル君は俺達と出会った時の事を覚えていますか?裏奴隷商に関係していた奴等の事です。その組織が王都でも活動をしていると情報が冒険者ギルドに入ってきました。その依頼が以前、捕まえた実績がある俺等にギルドから指名依頼として来ました」
「情報集め、結構大変だったのよ?でも大体の出現場所は絞り込めたの。後はどうやって住処を探るかを相談してたのよね」
あ~、懐かしい。協力料として報酬をギルマスからもらったな。
「そんで、その場所にミネルが囮として歩き回る。子供の方が誘拐しやすいから、ミネルは格好の獲物だ。そして無事に裏奴隷の商売人に接触できれば、この魔道具を発動してくれ。魔力を通すだけで、ミネルが何処に居るか分かるようになってるからな」
タジルから小さな髪留めを渡された。なるほど、発信機みたいなものか。
「俺はミネルを必ず無事に助ける。約束するよ」
「分かりました。でも、旧市街の土地の権はお願いしますよ?体を張るんですから、頼みますね」
「・・・ああ」
ジルさんの寡黙さは健全。一言と頷くだけだった。再会した時も、何も言わずに頭を撫でられた。本当は、もう少し話してほしい。久々に会って、話したのが今の二文字ってどうなの?
○ ● ○ ● ○ ●
「ここに居たら、お前がお腹いっぱい食べられる様にしてくれる人が来るからな。大人しく待ってな」
男にそう言われて、いかにも怪しげな建物の、怪しげな競売場の裏にあった牢屋に俺は入れられた。
牢屋 競売場 首輪を着けた子供達 結局ご飯をくれなかった怪しい男
はい、ビンゴ。どっからドゥ見ても裏奴隷商の競売場じゃん、此処。
さっそくタジルに貰った魔道具を発動。早く助けちくり~。
「ひっく、ひっく。父様ぁ、母様ぁ、兄様ぁ・・・助けてよぉ。俺は此処だよぉ・・ひっく」
此処には何人もの子供の奴隷が居るみたい。それにしても、俺の隣の牢屋に入れられて泣いている子。凄く良い素材の服を着ているな。もしかして大商人の子とか貴族の子では?
「さっきから、うっせぇぞ!そこのガキ!いい加減、泣くのを止めろ!!」
向かいの、ちょっと遠い場所にある牢屋で鎖に繋がれた男が怒鳴った。この場所、薄暗くて顔がよく見えない。
泣いていた男の子は「ひっ」と言った後、また泣き始める。
「ちっ!だからガキは嫌いなんだ」
・・・え?ちょっと待て。お前、その声___
「あんの~、すみませーん。1つお疑いしてもよろしいでしょうか~?」
「あ?んだよ、うっせぇなぁ」
「できましたら~、あなた様のお名前をお聞かせ下さいませんかぁ?」
「はぁ?なんだそりゃ。何で俺がお前に名乗らにゃいけねぇんだよ、ガキ」
「是非!是非ともお願いします。この通り!」
「ちっ、変なガキ。・・・俺の名前はフェイレシル。フェイレシル=ラシュールだ。これで満足か?」
フェイレシル=ラシュール
・・・おい。なぁ、おい。マジか?え、マジなのか?
この人、攻略キャラじゃん!!何でこんな所に居んだよ、お前!!