020話 ※クリス※ Prt.1
2018.4.21 クリス視点を追加しました
1-20.※クリス※ Prt.1
※ ※ ※ タジルの仲間 クリストファー 視点 ※ ※ ※
俺には好きな人がいます。
彼女は俺と同じ町で育った幼馴染。彼女は、その町にあるパン屋の娘だった。とても可愛らしく、他の男の子達からも人気者でした。
しかし、可愛らしい見た目ですが、気が強くてとても格好良かったです。悪い人達が居れば、女の子なのに堂々と注意をしていました。相手が大人の男性であったとしてもです。それが、とても尊敬できて、そして心配でもありました。
彼女の父親は元冒険者らしいです。彼女も〝いつか父さんみたいな冒険者になりたい〟といつも言っていました。彼女の弓の技術は父親の指導のおかげで大人顔負けの素晴らしさでした。
しかし、その時の俺は彼女とはあまり話せない立場だったのです。
俺は・・・貴族でしたから。
俺__いえ、私の名前はクリストファー=R=フレミシル。フレミシル伯爵家の三男です。
私の父であるフレミシル伯爵。この町の領主に選ばれ、この町を国王陛下から拝命され治めている大貴族。町に住む人達からの評価は悪くありません。私の父は優秀な人ですから。
私が貴族界を去る決意をした出来事がありました。それは、父に連れられ王都で行われる社交界のパーティーでの事です。初めての社交界デビューである私は緊張し、どうしたらいいのか分からず一人で立っていました。父と母は友人や上司の方への挨拶でいません。あの頃の私は失敗する事に、とても恐怖を感じていましたから、立ってい事しか出来ませんでした。
そして、そのパーティーで・・・とても嫌な思いをします。
__あの子がフレミシル家の三男ね?初めて拝見致しましたが、とても可愛いらしいお顔立ちですわね。
__あら、本当ね。でも残念ながら三男なのでしょう?お可哀想に。それでは伯爵家を継ぐ事は不可能でしょう。
__ええ、フレミシル家は長男も次男も、とても優秀だとお聞きます。残念ながら無理でしょう。
__とても整ったお顔ですから、何処かの御令嬢と婚約する事があの子の幸せね。
__高位の御令嬢と良い縁談があれば三男さんも良い人生を迎えられるわ。どなたかいらっしゃらないの?
私には聞こえていないと思ったのか、それともまだ子供の私には理解出来ないと思ったのかは分かりません。しかし、その酷い内容は周りの会話から沢山聞こえてきました。まだ10にも満たない子供の私には耐えられず、貴族らしく悠然とする事が出来ませんでした。
何故、私は〝可哀そう〟なのですか?
何故、私の幸せを貴女達が決めるのですか?
何故、私の恋愛を貴女達が考えるのですか?
私は、王城内に用意されてあった休憩部屋へと逃げました。泣く事は決してしておりません。王族や貴族が集まる場で泣いた事が分かれば、周りからもっと酷い事を言われるからです。
その夜、母に弱音を言ってしまい申し訳ありませんでしたが、その時の母の言葉は今でも覚えています。
〝これが貴族界では普通なのよ〟
もし、それが事実ならば私は貴族界で生きていく自信が無くなりました。その時の私は、母が言う〝あの程度の言葉〟でかなり落ち込んでしまったからです。
その日の夜は、自分の部屋で1人で静かに泣きました。
初めて社交界へ行った日から数日が過ぎ、私はあの子に出会いました。
屋敷で落ち込んでいる私を心配して、兄の1人が町に出掛けて気分転換すれば良いと仰ったので。なので私は護衛の人達と共に町に出掛け、これからの事について考える事にしました。
父が治める町は、とても活気があり良い町だと分かります。商店街で買い物をする客、売り物を紹介している店主、皆が良い笑顔でした。そんな商店街を歩いていると、とても良い香りが私の嗅覚を刺激したのです。
それは焼き立てのパンの香りだと、すぐに分かりました。私は気になって香りを辿ります。別に、お腹が空いていた訳ではありませんでしたが何故か惹かれたのです。そして見えてきたのは一軒のお店。人気があるらしく、とても長い列を成していました。
お店の中を覗いた時の事は今でも忘れません。お店のお手伝いをしているエプロン姿の可愛らしい女の子。その女の子が可愛らしくお客様に笑い掛けていました。
女の子の名前は『ミストリア』。
お客様からも人気があるらしく、たくさんの方達に話し掛けられていました。そのお客様に笑顔で話す女の子、その子の顔から目が離せませんでした。
つまり、それが私の初恋ですね。
私はその時、お店に入る勇気が無くそのまま屋敷へと帰ります。でも、やはり気になってしまい次の日にも護衛を連れて同じ場所へと向かっていました。
しかし、その日は残念ながら彼女は居ませんでした。なので店内へ入り、パンを買う事で彼女について店主である大きな男性に尋ねました。
「ん?トリアか?あの娘なら近くの悪ガキ共とベリー摘みに行っている筈だ。ついでに川遊びでもして来いと言ったから帰りは遅ぇぞ」
「あぁ、そうだったんですね。ありがとうございます」
「娘に何か用だったのか?伝言なら聞くぞ?」
「あ、いえ、たいした事ではありませんので・・・これを頂けますか?」
「おうよ、280円な。まいど」
この店主さんの娘だったのですね。つまり彼女は、この場所で暮している。此処へ来れば彼女に会えるという訳ですか。また、あの子の笑顔が見れたらと思いました。
それから数日、貴族の教育を学ぶために忙しい日々が続き、パン屋へ行く時間がありませんでした。
そして、やっと時間に余裕が出来た時、今度は護衛を連れずにコッソリと屋敷を抜け出しました。以前、商店街でパンを買った事が母様にバレて怒られてしまったからです。きっと、護衛が話したのでしょうね。伯爵家の者が庶民達が食す物を食べるなんて、と。貴族意識がお強い母には許せない事だったようです。
その日は店内の様子を見ずに入りました。
「いらっしゃいませぇ」
元気の良い、可愛らしい声が私を迎えてくれます。そして、あの可愛らしい笑顔を向けてくれました。なんと今日は彼女が店のお手伝いをしている日だったのです。私は、緊張しながらパンを3つ買いました。
「このパンを頂けますか?」
「はい!出来立てで美味しいですよ!ありがとうございます!」
それが彼女との初めての会話でした。客商売の為の会話だと分かっていましたが、とても嬉しかったです。ただ、あの時の私は嬉しさのあまり食べたパンの味を覚えていませんでしたね。〝出来立てで美味しい〟と彼女に教えてもらったというのに、残念です。
その後、同じ年齢という事で彼女と話す機会が何度かできました。
会話をしていく内に彼女と私の仲は良くなり、彼女の事を〝トリア〟と呼ぶようになりました。彼女も、私の事も〝クリス〟と呼んで頂けるようになりました。
彼女、トリアさんは私が領主の息子だと知らなかった様です。私が教えた時は驚いていましたが、変わらずに接して欲しいという私の願いを叶えて下さっています。
トリアさんが冒険者を目指している事は、仲が良くなり彼女自身から教えてもらいました。
トリアさんの父も了承しているらしく、15歳になるまで弓の技術を磨いているそうです。私も彼女に弓の扱いを教わりましたが、その時に知ったのは私は剣術よりも弓術の方が向いているという事でした。
彼女と共に、トリアさんの父親であるパン屋の店主に弓術を教わり、私達は冒険者になれる15歳となりました。
私は15歳となり、貴族の世界から去りました。両親へは一枚の手紙を残して最後のあいさつとしましたね。そして、私はトリアさんと一緒に冒険者の道へと歩み始めました。
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