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186話 お菓子って別腹だよな


 8-05.お菓子って別腹だよな



 王城の貴賓室。


 名のある貴族や他国の重要人物を城へ招待した時、利用される豪華な部屋。

 内密な話がされる事を考慮し、部屋には防音魔法が施されている。

 そして、窓には外部からの耐物理と耐魔法の保護がされており暗殺などの対策となっている。

 内部からの攻撃には弱いけど。つまり中から椅子を投げれば簡単にこの窓は割れてしまう。

 緊急脱出の為だとかなんとか。


 そういえばこの部屋、スザクとセイリュウさんが利用していた部屋に似ている。

 似ているというか、ほぼ同じ。俺を助けたトイレも同じ場所にあるし、違うのは装飾品の色くらい。

 だとしたら、万全だという防音機能は微妙かもな。あの時、不思議な声(光の大精霊?)が聞こえてきたから。




 そんな貴賓室の一室で俺は今、陛下と騎士団長と対面してソファーに座っている。



 メイド達がテキパキと無駄な動き無くお茶の準備を行ない、それを終えた彼女達は一礼して部屋から出て行った。

 開かれていた扉がメイド達の退室と共に2人の騎士の手によって閉ざされた。

 これから、この部屋への入室は許可がなければ誰も入れない。

 なんたって今、この部屋には国で一番重要なユナイセル陛下が居て、その陛下からの命令だからだ。


 国王と騎士団長。そんな重要人物と共に居るのが白の聖女として有名となったミネル(女装中)。


 「さて、ミネル君。説明をしてくれるか?」


 長い足を組み、真剣な表情で陛下が尋ねてきた。

 メイドさん達が準備してくれたお菓子を、さっそく堪能しようとした俺の手が止まる。


 国王様が説明を求めるものは一つ。

 俺が今、所持している小さくなっちゃった聖剣について。


 「はい。しかし、少々お待ちを」


 今から俺はお菓子タイムなのです。


 「陛下へ説明を、ミネル殿」


 俺がもう一度、お菓子へ再チャレンジしようと手を伸ばしたが、お菓子の入れ物ごと騎士団長様が俺から遠ざけた。


 「…………」

 「…………」

 「…………」


 金色の鮮やかなパッケージで包まれたお菓子が遠のく。

 そして、2人の真剣な表情が俺に向けられている。

 どうやら聖剣が小さくなった説明をするまで、お菓子はお預けらしい。

 しかし、どう説明をしたものか。

 正直に、簡潔に「小っちゃくなっちゃった☆」と言えば許されるのか?でも、それは説明ではなく、ただの状況だよな。


 う~ん、と考えている俺にユナイセル陛下が口を開く。


 「まず、今回の現象。聖剣が宙に浮くなど見た事も聞いた事も無い……ミネル君は知っていたのか?」

 「いえいえ、俺もアレにはビックリしましたよ。もちろん知りませんでした」

 「ふむ、そうか………」


 アレには本当にビックリしたよ。

 幽霊的な仕業かと思って失禁しそうだったし。

 あっ、してないからな。俺のパンツは無事だから。


 「では、最もの疑問である今の聖剣の現状について尋ねよう。その縮小した聖剣は……本当に本物の聖剣なのだな?」


 俺の首元にある聖剣に目を向けながら尋ねるユナイセル陛下。

 今、問題となっている聖剣は柄の部分に紐を巻き付け、ネックレスにして首から掛けている。

 そのネックレスの先端に小さくなった聖剣があり、陛下と騎士団長は困惑していた。


 「はい、本物です。どうやら聖剣様は魔力が殆んど残っていないらしく、回復するまでは俺に持っているようにと言われました」

 「………君が聖剣へ話し掛けている姿を見て、まさかとは思っていたのだが本当に聖剣と君は会話をしていたのだな」

 「え?ええ、はい、そうですけど……陛下や騎士団長様には聞こえなかったのですか?聖剣様の声」

 「いや、我々は聖剣に向かって君が独り言を話している姿にしか見えなかった。君が言う〝聖剣の声〟は聞こえていない」

 「………え」


 少し遠くに待機していた2人だけど静かな空間だったし、同じ部屋に居るのだから聖剣の声は聞こえていたと思っていた。

 そういえば一年前も、初めて聖剣の声が聞こえたけど他の誰も反応しなかったな。

 ゲームでもヒロインちゃん以外、他の修道女や神官も無反応だったし。

 俺にしか聞こえないように聖剣がしていたのか、それとも聖女であるミネルソフィ役だからこそ聖剣の声が聞こえたのかは謎だな。

 聖剣が起きてくれたら教えてくれるかな。


 「しかし、困りましたな陛下。我が国の宝である聖剣が、この様な姿になってしまうとは……。宝物庫から聖剣が無くなった事を元老院や神殿関係者に知られれば大変な事態となり兼ねません」

 「………そうだな」

 「ミネル殿が仰るには、彼が聖剣を所持するのは聖剣自らの願い、逆らう訳にもいきません。それに返して頂くとしても………」


 そう言って騎士団長が立ち上がり、俺の首元にある聖剣に触れようとする。



 バチッ!!



 聖剣全体に透明なシールドが張られ、触れようとした騎士団長の手が電気みたいな光に弾かれた。

 聖剣の覚醒イベントが終わった後、小さくなった聖剣を見たいと仰った陛下へ聖剣を渡そうとした時にも同じ現象が起きた。


 「……この状況では、それも叶いません」


 俺は今の現象を知っている、乙女ゲームで見覚えがあったから。

 聖剣に選ばれた攻略キャラ以外の者が聖剣に触れようとすると弾かれてしまう自動防衛システム。

 ゲームでは聖剣を奪おうとした魔王軍幹部の1人…誰だっけ?…が腕を弾かれて負傷するイベントがあったんだよ。

 人間である騎士団長さんは弾かれるだけで済んだけど、魔の者ならば火傷みたいに腕が負傷してしまっていた。


 「ふむ………」


 騎士団長さんの手が弾かれるのを見て、陛下が考え込み沈黙する。

 俺は今の内に遠ざかっていたお菓子の入れ物を奪う事に成功。口に広がる勝利の味を堪能する。


 その後、まろやかな風味の紅茶を5杯くらいおかわりしてしまった。

 この茶葉は後で必ず、お土産として貰って帰ろう。甘みがあるから孤児院の子供達も喜んで飲みそうだ。


 「……こうなってしまっては致し方ない、ミネル君が聖剣を所持する事を許そう。ガイアード、至急、聖剣の模造品を制作するよう手配しろ。もちろん極秘裏に、見た目を重視で造れ。民衆への聖剣公開は当分、保留とする。今まで通り宝物庫に保管してあるとしろ。絶対に神殿関係者には知られるなよ、もちろん元老院にもな」

 「はっ!」


 ユナイセル陛下の命令に騎士団長は片手を胸に置いて頭を下げ、部屋から出て行った。


 元老院……確かランブレスタ王国の相談役を担っている老人達だよな。

 乙女ゲームでは王道のエルナルド殿下に関係する人達で、そのルートをプレイしていない俺は顔を知らないが、たまに姉さんが「元老院とかいう糞ジジィ共、しばきたいわぁ」とか言いながら冷蔵庫の扉をバシンッ!と閉めて母さんに怒られていたのを覚えている。

 姉さん曰く、その元老院とかいう人達はエルナルドの兄である第1王子に関係しているみたい。

 確か「狸ジジィ」とか姉さんが言っていたので、その元老院の人達は狸らしいです。


 「ミネル君。君は聖剣が内包する魔力が残り僅かだと知り、聖剣への面会を願ったのかい?」

 「いえいえ、それは俺も知りませんでした」

 「不思議だな。君の求めで聖剣への面会が果たされた時、聖剣が空中に浮く、聖剣が言葉を理解し話す、姿が縮小する、と信じられない事態が多発するとは」

 「不思議な事もあるもんですねー」

 「ああ、本当にな」

 「ええ、ええ、本当に……」

 「………」

 「………」


 陛下、そんな無言で見つめられても惚れねぇよ?


 まるで〝何か知ってんだろ?話せやボケ〟と目で語る陛下であるが無視である。

 聖剣が話す事は、別世界でプレイした乙女ゲームの覚醒イベントで知っていました、なんて言える訳が無い。イタイ子扱いされたり、悪ければ精神異常を疑われる。

 ボク、シラナイヨ。


 「……では、話しを変えよう」


 良かった。これで机にあるケーキを味わえ___


 「ミネル君、きみへ貴族の称号を贈ろうと思う」

 「………は?」


 今、なんて言ったの陛下。

 貴族とか聞こえたんだけど。


 「えっと、貴族?貴族って?」

 「貴族とは社会的な特権が認められ、その特権階級を国王から賜わる特別な称号であり地位でもある。その称号は、他の社会階級の人々と明確に区別され____」

 「え、待ってください。貴族の意味が知りたいのではなくてですね……えっと、誰が貴族?」

 「きみが、だよ。ミネル君」


 きぞく……貴族!?俺が!?


 「無理です、ごめんなさい」


 俺は頭を下げて拒否。

 知ってるぞ。貴族は煌びやかな生活ができるが、その代わり王家の配下となるやつだろう?

 俺がもし貴族になれば、明日には主君への無礼とかで捕まり首チョンパ。


 「まぁ、聞きなさい」

 「陛下は俺に死ねと言いたいのですか?」

 「だから、聞きなさい。貴族という立場は、ただの身分の仮置き程度に思ってくれてかまわない。ミネル君は2年後の16歳の時、貴族学園へ入学する事を約束したね。その入学許可を無事に通す為、ただの仮置きと思ってくれ」


 あぁ、なるほど。

 エルナルド殿下の監視役として俺が貴族学園へ入学するのに必要なのか。

 でも俺、貴族はこうあるべきとかいう気位?気品?気質?みたいなの全く分からないんだけど。知りたくもないし。


 「返事は十分に考えてからで構わない。答えが出次第、私に知らせてくれ。この方法が一番、手間が無く、簡単な方法なので許可してほしいと願っている」

 「分かりました、考えときます」

 「返事はモンテネムル公爵へ伝えてくれ」

 「はい」


 俺は頷き、陛下は立ち上がる。


 「では、そろそろ私は退散しよう。この部屋は好きに使うと良い。泊まるのであればメイドに伝えろ」

 「分かりました、ありがとうございます」


 ユナイセル陛下は一度頷いた後、扉の方へと向かう。


 「ああ、そうだ。ミネル君、貴族の家名についてなのだが___」


 扉の前で立ち止まったユナイセル陛下がコチラへと振り向いた。


 「その家名を〝ターシア〟にしても良いぞ」

 「……え」


 呆然とする俺に、ニヤリと陛下が笑う。

 そして、そのまま何も言わず扉から退室していった。



 ……



 ……………………え





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