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184話 イベント終了!…だけど、


 8-03.イベント終了!…だけど、



 ゲームに登場した聖剣は喋る事ができた。

 そして、その声は有名な男性声優さんが採用されていた。まぁ、乙女ゲームだし。

 よく海外ドラマの吹き替えとかで聞き覚えのある声だった。

 落ち着きのある声で、その声だけで格好良いと言いたくなるような魅力があった。映画の吹き替えではヒロインを口説く時、何人の女性達が興奮しただろうか。


 それ程の声だったのに____



 【我は何度も呼んだ。何度も、お主を、呼び続けたのだ!聖女であるお主を幾日も!幾日も!そうだというのに……なぜお主は我の元に来てくれなんだ】

 「すんませーん」

 【一度、やっとお主と交信が可能になった日があった。だが、お主は!〝今、忙しいから〟という理由で一方的に遮断し、その後も放置とは酷すぎる仕打ちだと思わんか薄情者っ!】

 「すんませーん」

 【あの交信が成功した日、お主は言った。〝絶対、会いに行くから〟と……〝絶対〟会いに行くからと!!その言葉を信じ我は待ち続けた。待ち続けたのだ!お主を!それが、どれ程の寂寞な日々だったのか分かるか!?】

 「すんませーん」


 空中に浮かぶ聖剣から発せられる抗議の嵐。

 俺は冷たい床の上で正座をして聞き流して__ではなく、反省を示して聖剣様の言葉を心に受け止めています。

 この状態が始まってから早10分……そろそろ足がプルプルしてきた、ちょっと痛い。


 後方に居る国王様や騎士団長様は、助けを求めたのだが来てくれない。

 というよりも近付けないらしい。

 何やら俺と彼等との間に結界が張られているようだ。最初は2人ともパントマイム上手だなぁ、と思っていたが透明な壁が存在しているのだと気が付いた。


 【聞いておるのか、聖女よ!?】

 「本当にすんませんしたー」


 聖剣の抗議を聞き流しているのがバレたみたいで、聖剣からの光が強くなってしまった眩しい。

 女性の耳元で愛を囁けば即落ちするとも云われた声優さんの声が台無しだ。これのドコに落ち着きのある大人の魅力が感じられるのよ。

 ゲームでの聖剣は威厳のある存在だったのになぁ。




 あれから20分くらいだろうか、やっと聖剣さんの愚痴が終わりました。

 その間、俺はずっと正座をしていたのでもちろん足が痺れましたよ。

 治癒魔法でサクッと治ったけど。魔法バンザイ。


 【さて、聖女よ。この世界に混沌の闇が訪れようとしている】


 おっ、やっと聖剣の覚醒イベントが開始されたらしい。ゲームとは場所も状況も全く違うけど、セリフが同じだ。

 俺はドッコイセっと立ち上がる。


 【その闇を祓い、除ける為にも必ずや我の力が必要となるであろう。聖女よ、お主に……お主…に?】

 「…………?」


 何故か聖剣さんが黙ってしまった。

 彼?には顔が無いので、今の状況が分からない。とりあえず発光しているだけ。

 なんで黙るの?もしかして寝た?


 【……お主、男か?】

 「今、気付いたのかよ!?」


 今さらだった聖剣からの性別確認につっこんだ。

 ずっと男だよ。最初に気付こうよ。


 【どういう事だ?この気配は確かに聖女による波長。それなのに何故、その聖女の波長を男性体が放っておる?】


 あー、それは悪役な令嬢役だった人が原因です。


 【女神の加護は……確かに有しておるな。しかし、性別が男……この場合〝聖女〟という言葉は正しいのだろうか?】


 そこ?


 【しかし、聖女でなければ我の封印を解く事ができぬし……うぬぅ】


 どうやら聖剣さんは俺が男である事に困惑しているみたいです。

 聖剣さんが困惑するのも分かる。俺だって最初、男なのにヒロイン役だったミネルソフィとしてこの世界に誕生した事に困惑したし。それに、今では聖女様。男なのに。うん、泣ける。

 ヒロインちゃんが男になってしまった原因は、黒き女帝さんが死後の世界で神様みたいな存在に願った特典のせいらしい。

 俺は男で助かってるけど、聖女が男になってしまったのは確かにゲームの物語をぶっ壊している。


 【……まぁ、()いか】


 あ、良いんだ。


 【さて、聖女よ。いや、聖男か?いや、しかし……うむ、聖女よ】


 聖剣様は聖女で納得したようだ。女ではなく、男。聖女としての資格が揃っている男。聖女でなければ覚醒は不可能なので、無理でも納得するしかない。しかし、やっぱり男。

 うん、俺も混乱する。


 【聖女よ、次期に訪れる混沌の世界を祓う為に中央にある宝石に触れなさい】

 「はいはーい」


 聖剣さんの言葉を聞き、素直に剣の中央に飾られた宝石をペタンと触る俺。


 【……聖女よ。お主、少し警戒心が足りぬのではないか?もっと自分の安全を考え、危険が無いかを尋ねるべきだと思うぞ】

 「………神聖な聖剣様に、危険は無いと信じていますから」


 嘘ッス。その質問はゲームの中でヒロインちゃんが尋ねていたので聞かなかっただけです。


 【この世には呪物の剣も存在している。人を騙し、生命力を奪う物もな。素直さは美徳かもしれんが、騙されたのであれば阿呆と呼ばれるぞ。今世の聖女は不用心だな。以後、気を付けよ】


 ……不用心では無く、純情とか他の良い言い方があると思います。阿呆なのは今さらです。



 【では、力を解放する】


 聖剣はそう言った後、剣全体から白い光を放った。

 ゲームでも、この現象が起きて大聖堂は白い光に包まれたとかだったな。

 もしかして王城にある宝物庫で聖剣が覚醒したから、城全体が光りに包まれているのだろうか。

 そんな事を考えながら聖剣の覚醒が終わるのを見守っていると、少しずつ光が収まっていった。


 聖剣の光が収まると、そこには銀色に輝く少しだけ形状が変わったNEW聖剣様が宙に浮いていた。

 ゲームでも何度か見た姿となり、俺は一安心。これで魔王の力が復活しても対処できるだろう。


 【我の封印は解かれた。感謝するぞ、聖女よ】

 「はい、あざーしたぁ!んじゃ」


 ……やった。やったぞ、ついにやったんだ!

 俺は最も重要なヒロインちゃんのイベントをクリアしたのだ!

 これで、あの魔王さんが力を取り戻したとしても世界の崩壊を免れる。俺の未来は明るい。

 あとは、この聖剣を攻略キャラが装備すれば万事OKだ。まぁ、王道だった俺様王子が持てば良いんじゃないかな。


 俺は重要イベントを無事に終えた事に喜び、聖剣に一礼してからクルリと踵を返す。

 先程、城で拝借したお菓子でも孤児院の子供達に届けて俺への株でも上げてこようかな。

 さてさて、はよ帰ろう。



 【待て、聖女よ】

 「んあ?」


 後方で待機し、覚醒イベントを見守っていたユナイセル陛下とガイアード騎士団長の元へと帰ろうとした時、聖剣に呼び止められて振り返った。



 【……我を共に連れて行け】


 ……はい?


 「え、嫌ですけど?」


 うん、いらない。


 【な、何故だ!?】


 即答で拒否した俺に、まるで〝ガーン!〟という効果音が聞こえてきそうな程に驚いている聖剣さん。


 「何故って、それは俺が聞きたいですよ。なんで聖剣という超目立つ物体を俺が持っていかにゃーならんのです?それに……うん、恥ずいし」

 【我は神々が創造せし聖剣なのだぞ!?その我の何処に羞恥の要素が含まれているというのだ!?】


 えー、そんな全身ピカピカ光っているクセによく言うよ。

 そもそも聖女である事を隠して潜んで暮らしている俺に、国の宝でもある聖剣を持つ訳がない。

 そんな超目立つ剣を俺が装備するなんて無いだろうし、絶対にマジックバックの中でコヤシになるだけだろう。


 【我は剣の頂点に属する聖剣。その一振りは神々の神罰。幾億の魔物だろうと我が居れば安全なのだぞ。そんな我が共にあれば心強いであろう?】


 えーと、心強いとかいう前にまず持てない。俺の細腕で、この聖剣を振る姿が全く想像できないのだ。

 ゲームでは去年起きた魔竜襲撃事件でヒロインちゃんが両手で持った聖剣を振るう姿があったけど、もしかしたら俺はその時のヒロインちゃんよりも非力なのではと思う。

 毎日、教会で掃除や料理、何時間も祈りを捧げ続けたミネルソフィ=ターシア。

 毎日、お菓子を食べてダラダラ過ごし、水の入ったバケツすら持ちたくないと思っている俺。

 俺と彼女が腕相撲でもすれば必ずや俺の完敗となるだろう。うん、無理だな。



 【お主が我を傍に置かなければならない理由。それは、お主にも責任があるのだぞ?】


 えぇ~と渋る俺に、強い口調で俺を責めてきた。

 何言ってんの?今日初めて会うのに、と思ていた俺だが無関係ではなかった理由を聖剣から聞かされる事になる。





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