表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/187

183話 怪奇現象?


 8-02.怪奇現象?



 1年前。

 国王と初めて会った日、お互いが条件をだして契約が結ばれた。


 俺は、国が保管している聖剣に会わせてもらう。


 国王は、俺が16歳になった時この国にある貴族学園へと俺を入学させ、第二王子であるエルナルド殿下の監視をさせる。


 その契約は一年前のもの。本当は、その1年前に聖剣と会えると思っていた。

 しかし、今やこの国は2人の聖女様で大忙し。もちろん国を導く国王も比例して、寝る間も惜しんでの多忙な日々だったらしい。

 自国の貴族、他国の王族や貴族からの質問や面会が求められ、それ等への対応が続いていたらしい。

 2人の聖女様を招待しようと祝宴の招待状が他国からドッサリと送られてくる。聖女アンジェラはランブレスタ王国の貴族令嬢として何度か参加しているが、聖女ソフィは未だ一度として参加していない。

 その他にも、この国へとやって来る観光客にも対応が求められる。日々、お祭り騒ぎの様になり活気があって良い事なのだが、人口が増える事により起こる犯罪、商人の流通への対処、王都に住む人も増えて管理が求められる。


 観光客が増えた事でこの国はかなり潤ったが、治安も悪くなったらしい。

 喧嘩や盗みは日常茶飯事で起きてしまい、騎士達は毎日王都を駆けまわっている。

 その報告を受け、犯罪の処理や改良修繕をしなければならない騎士団長も多忙な毎日だ。



 そんな事を陛下の口から聞かされ、右から左へと耳を通り抜けて行く言葉達をミネルは見送った。脳内に停車する言葉は一つも無かったらしい。


 「…では、宝物庫への扉を開くぞ」


 ただ「そうなんですかー」と見るからに聞き流しているミネルに溜息を吐いて、ユナイセル陛下は鉄製の扉に触れ、何やら小声でボソボソと呟いた。

 すると、大きな鉄製の扉がゆっくりと開いく。


 「すげぇ……というか鍵とかじゃないんですね」

 「ああ、この扉は王家の者が持つ魔力によって反応します。そして今、陛下が呟かれた言葉が鍵となり扉の開閉を示されるのです」


 巨大な扉が開いていく姿に圧倒される俺に、隣に立つ騎士団長が教えてくれた。

 扉の前に立つ陛下の後ろ姿を見ながら、大きな扉が開いていく姿を眺める。

 そして、無事に宝物庫の扉が開き終え、陛下がコチラへと振り向いた。


 「さぁ、入れ。聖剣の間まで案内しよう」


 陛下の言葉で、横に居た騎士団長が「どうぞ、ミネル殿」と歩くように施してくれる。

 騎士団長の言葉で歩き出した俺は、宝物庫の中へと入って行く陛下の後ろに着いて行った。


 宝物庫の中に入ると長い通路になっており、少し寒い。そして、歩いていくと広い場所に出た。

 そこは円形型に広がっており、中央に何故か噴水がある。

 壁には、いくつもの頑丈そうな扉があり、扉の上には数字の書かれた銅製の板が掛けてあった。

 あの扉の中にはどんな宝が保管されているのだろうと、少し見てみたくなっているミネルはウズウズしていた。


 「私の後ろに着いて来い。他の場所へは不用意に近付くなよ、罠がある」

 「陛下、陛下。あの噴水の水って飲めるのですか?すんごい綺麗」

 「………お前は私の言葉を聞いていたか?不用意に近づくなと言ったばかりだろう」

 「はいはい、大丈夫です、聞いておりましたですよ……なんで噴水の周りだけ芝生なんだろう?」

 「あれは昔、水の大精霊様から頂いたとされる宝玉により生み出されている水だ。教会にも同様の物があり、この水を使用して聖水を生成させていると聞く。飲んでも毒ではないが、水を汚す事が無いよう控えて欲しい」

 「残念、飲んじゃダメなのか……少しだけでも?」

 「すまないが駄目だ。もう一度言うが近付くなよ」


 もう一度言う陛下はつまり、頷いたミネルを信じていない。現に後ろに居る騎士団長にミネルの行動に注意していろと視線で送り、騎士団長も陛下に頷いた。つまり騎士団長も信じていない。

 そんなミネルは陛下の後るを着いて行くが、チラリチラリと噴水を見ていた。


 「聖剣の間はこの奥にある。行くぞ」


 そう言って陛下はミネルの好奇心を噴水から奥にある通路へと向けた。そうでなければ「ちょっとくらい…」と呟くミネルを危険だと思ったからだ。

 その通路を奥へと進むと、先程あった扉とは造りが違う、少し古そうな赤い扉の前に辿り着いた。

 取っ手の無い扉。その扉に陛下が触れ、また何かを呟く。すると扉が開いた。宝物庫の巨大な扉と同じ仕組みなのだろう。

 扉が開くと、また奥に続く道があった。

 ……どれだけ広いんだよこの宝物庫、と肩を落としゲンナリするミネル。


 更に奥へと続く道を陛下の案内で歩いて行く。案内と言っても一本道なのだが。

 そして、道を歩いて行くとまた広い場所に出た。


 「この場所が、この城が所有する宝物庫の最奥にある保管場所だ」


 陛下が案内してくれた場所は、先程の噴水があった場所と同じくらいの広さがあった。

 先程の場所とは違い此処には噴水は無く、壁にあったいくつもの扉も無い。代わりに広場の中央には台座がいくつも並んでいた。

 その台座の1つ1つにガラスケースが設置されており、中には豪華な物や怪しい物などが保管されていた。

 紐でグルグル巻きにされている本、鎖がまかれた武器、綺麗な刺繍が施されたマント、宝石が付いた王冠等々。中にはビンに入った目玉もあった。ミネルはそれだけは見ていない事にした。


 「ミネル君、アレが君が望んでいた聖剣だ」


 国王陛下が指差した先、その場所は他の台座よりも一段高くなっていた。その場所に、他よりも少し大きい台座が3つ。

 その中央の台座に、俺が望んでいた物が保管されていた。


 天井から白い光に照らされ、神々しく居座る芸術品。

 神々から授けられたとされる、この国が保有する聖剣。俺が求めていた物。


 「我々はこの場所で待機している。存分に聖剣と対面すると良い」

 「………」

 「……ミネル君?」

 「あっ、はい!ありがとうございます、陛下!」


 やばい、やばい。少し見惚れてしまった。

 でも、すげぇなー。ゲームと全く同じ物をリアルで見るなんて感動。

 しかも、しかもだ。この聖剣も凄いが、その台座の右に収められている物も凄い。


 「………すげぇ、エルナルドの最強武器だ」


 その台座に保管されていたのは乙女ゲームの攻略キャラ、エルナルド=C=ランブレスタの最強武器だった。

 神竜の牙と光竜の鱗により精製された両手剣だっけ。

 属性は、もちろんエルナルドと同じで光属性。

 闇に属する者に驚異的な殺傷能力があり、しかも所有者の体力・魔力に回復効果があるというチート装備。

 確か、この最強武器でエルナルドが召喚した守護者は6枚の翼に重々しい鎧を着こんだ天使だったはず。



 おっと、違う違う。今回の目的は〝聖剣〟だよ。

 この世界で初めて見た攻略キャラの最強武器に見惚れてしまった。

 どうせ俺には使えない物だし、一目見られただけで満足だ。それよりも聖剣に集中しなければ。


 俺は中央の台座へと向かい、聖剣へと近付いて行った。


 ……?

 ………あれ、気のせいかな?俺が近付いて行くと聖剣が少しずつ光っているように見えるんだけど。


 一歩、近付く……光る。

 二歩、下がる……消える。

 一歩、近づく……微妙。

 二歩、近づく……超光る。


 ちょっと面白い。

 いやいや、ていうかナニコレ、センサーライト?


 俺は後ろに控えている陛下と騎士団長に振り返った。

 2人とも顔が歪んでいる。あれはどんな感情の顔かは不明。


 まぁいいかと聖剣へと辿り着いた時には、剣が白く発光していた。

 そういえば、ヒロインちゃんの時も白く発光していた覚えがある。なら、これはイベントの流れと同じなのだろう。

 そして、この後は聖剣が俺に話し掛け……俺に話し…あり?声がしないな。


 何処かから声がして、その声に導かれたヒロインちゃんは剣の中心部にある宝石に触る物語なんだけど。

 まぁ、良いか。とりあえず宝石に……あっ。


 「ガラスケースが邪魔で聖剣に触れない……」


 どうしよう……

 乙女ゲームではヒロインのミネルソフィ=ターシアが聖剣の中央に飾られてある宝石に触れて聖剣の覚醒が始まるんだよな。

 なら俺も、聖剣の中央にある宝石に触る必要がある……のだが、台座がガラスケースに保護されているので聖剣に触る事ができない。


 「このガラスケース、退けても良いのかな?」


 待機しているユナイセル陛下を、ちらっと見る。

 陛下は腕を組んで怪訝な顔をされていた。そんな姿でもイケメン顔。流石は攻略キャラの父親、鼻毛が伸びたら良いのに。


 「………さぁ、どうしよう」


 困った。うん、困った。

 ガラスケースを退けたとしても俺の身長では届かない。というか、このガラスケースを1人で退かすのも無理だ。

 このままでは聖剣の覚醒イベントを達成するどころか発生すらしない……マズいぞ。

 どうしたら良いのか分からず、しばらくボケーっと聖剣の前で突っ立っていた。


 「……ん?」


 なんか聖剣が動いた……?

 気のせいかと思い、また聖剣の前でボケーと立つ。


 すると聖剣が動きました。ええ、動いたんです、聖剣が、無機物が。

 動いたというか宙に浮いた。

 台座に収まっていた聖剣がゆっくりと上に登って行き、そのまま昇天するのかと思ったら途中で止まった。

 そして、宙に浮いたまま静止していた聖剣がスーと俺の方へと向かって来る。


 俺は「んぎゃー」と泣き叫びました。

 突然の幽霊現象に大混乱、逃げようとしても足が動かなかった。

 なんで!?と足を見れば足元が光っている。何コレ、強制イベント?死ぬの?俺、死ぬの!?

 まるでテレビで見たポルダーなガイスト的な怪奇現象に見舞われ、死を覚悟した俺。女の子に一度だけでもモテたかった。


 最後の遺言を残したが、しかし良く考えろ。相手は聖剣だ。

 幽霊的な何かが操れる代物ではないのだ。冷静になれ。

 きっと……そう、きっと聖剣の周りだけが無重力になっただけだ。幽霊体験は全て科学で説明できるとテレビに出演していた白衣のヒゲが言っていたではないか。

 そうだよ、きっとこの星の自転が停まって何かしらの力が働き、何かしらの要因で聖剣だけが重力の束縛を逃れたのだ。

 ……でも、何で俺に向かってくんの?

 俺は磁石になったのだろうか?俺はN極で、聖剣がS極ならばこのままでは聖剣で怪我する恐れあり。今すぐS極にジョブチェンジしなければ。


 涙目で混乱中の俺に、ゆっくりと近付いて来る聖剣。正にホラー。

 しかし、このままではガラスケースに当たってしまう。

 そうだ、そうだよ。俺には今、ガラスケースという盾があるではないか。

 王家の宝物庫なのだから強化ガラスなのだろう?絶対そうなのだろう?信じるからな。

 残念だったな、聖剣よ。お主のホラー攻撃は俺には届かんよ、ぬははははっ。


 そう思っていた俺に対し、ホラー装備の聖剣は台座を保護していたガラスケースをすり抜けてきた。


 「ほぎゃー」と自分の危機を感じた俺が叫び、後ろで待機している二人に助けを求めようとした時、聞き覚えのある声が俺の頭の中に響いた。




 【聖女ぉぉぉぉおおお!!我は会いたかったぞぉぉおおおおお!!】




 ………あの有名な男性声優さんの美声が台無しとなる悲痛なセリフで少し冷静になれますた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ