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182話 重要イベントの始まり


 8-01.重要イベントの始まり



 王都ランブレスタの中央に存在する、ランブレスタ城。

 美しく設計されたその城は、王都に訪れた観光客にとって注目の的となっている。王都に住む者達にとっても見慣れた建築物だが、その壮大さにはいつでも見惚れる事だろう。

 ランブレスタ王国へ訪れたのであれば一度は見ておきたい建物である。


 今、その王都ランブレスタは他国から注目されている。

 理由は、この国が1年前に発表した事についてだ。


 『2人の聖女』


 1人は4年前にも発表されたモンテネムル公爵家の令嬢、アンジェラ=K=モンテネムル。

 発表された4年前から聖女としての御力で他者を癒し続け、既に他国でも有名となった心優しき聖女様である。

 病や怪我、手足の欠損、治療師からは諦められていた者達が彼女の元に訪れ、全ての者達が奇跡を授かったという。

 神々から授かった癒しの力で、苦しむ者達を救い続ける聖女アンジェラ。


 そして、今から1年前。

 ランブレスタ王国は新たに〝聖女〟の称号を1人の少女に授与し、発表した。


 その少女の名前はソフィ。


 その少女の詳しい生い立ちを知る者は極僅かだという。

 その情報を最も知るであろうと噂される人物は、ランブレスタ国王ユナイセル陛下だと噂される。

 最初に少女が人々の印象に残ったのが2年前、ランブレスタ城で開催された誕生祭だからだ。

 その誕生祭の前日に開催された城内のパーティーで、少女は死者を蘇らせるという奇跡を発現し、ランブレスタ王国だけでなく他国でも有名となり噂にもなった奇跡の少女だった。


 教会で行なわれた属性検査で発覚した訳でも無く、教会が認めた者でも無い。特殊な例外として、国の判断だけでこの少女を聖女として発表された。


 その少女についての情報をユナイセル陛下は極秘扱いとして全力で管理している。

 その事から、少女は陛下の隠し子ではないか?という噂も聞こえてくる。



 今世に現われた2人の聖女。それは十分な騒ぎの火種となった。

 喜ぶ者も居れば、これが災厄の訪れる予兆なのではないかと勘ぐる者も現われた。





 2人の聖女は、特殊な__いや、特徴的な服を着用している。

 聖女アンジェラは〝黒〟を象徴とした衣類や物品を好まれるとされ『黒の聖女』と呼ばれるようになった。


 聖女ソフィは、聖女アンジェラとは対照的な〝白〟を特徴とした衣類を着用されている事が多く『白の聖女』として有名となった。


 聖女ソフィについて、国民達はおろか、この国の貴族でさえ知る者は少ない。

 少ないどころか、ほぼ居ないと言っても良い。

 突如現れた少女ソフィについて国王陛下は何一つ、王族の家族にも教えていないという。


 憶測は憶測を呼ぶ。

 陛下の隠し子説という噂から始まり、少女は本当に神々の使者ではないのか。

 いやいや、もしかしたら話題作りに聖女を演じているだけかもしれない。

 教会総本部の判断を無視しての発表なのだから、何かしらの教会への攻撃ではないのか。

 他国よりも優位になりたいという陛下の傲慢さの象徴なだけではないのか。



 全ては噂にすぎない話。たが、少女の実力は数日で誰もが認めるものとなった。

 聖女アンジェラは貴族学園に通う学生。学業に専念する事になった彼女の代役として、今では王都の大聖堂で行なわれている聖女様による治療は白の聖女ソフィが務めている。

 その治療は聖女アンジェラにも負けず劣らずの治癒力で、どんな病も傷も完璧に治療されている。


 悪意ある噂は払拭され、次第に聞かなくなっていった。

 そして、世間は少女を真の聖女として認め、今世に現れた2人の聖女様を祝福する。




 有名人となった白の聖女ソフィは今、王都にある王城に滞在していた。

 特定の人物しか面会が認められておらず、白の聖女ソフィに会うには国王陛下からの許可が必ず求められる。それは何者であろうと例外は無い。

 もちろん、聖女ソフィの周辺警備は万全。

 城の滞在中、国王陛下を守護する騎士団長が護衛として任命されているからだ。






 「ソフィ様、陛下から準備は整ったとの事です。どうぞコチラへ」


 聖女ソフィが城に用意された客室で休憩していると、扉が三回ノックされ外から騎士団長の声が聞こえた。

 口いっぱいにクッキーを詰め込んでいた少女は騎士団長の声に反応し、机に置いてある紅茶をグビグビと飲んで口の中の食べ物を急いで胃に流す。

 口元に付いていたクッキーの粉を無意識に袖で拭いてしまい、慌ててハンカチで袖の粉を拭き取る。

 残っていた茶菓子は持参した袋に入れ、自分の鞄へと押し込んだ。


 少女は、机の上にある全てのお菓子の収納を終えた事を確認して立ち上がり、扉へと向かう。

 開かれた扉には、スカートの裾を摘まみながら騎士団長へ挨拶する淑女の姿があった。


 聖女の1人、かつて奇跡の少女と噂された白の聖女ソフィ。

 肩に掛かるくらいの長さに整えられた、とても特徴的で鮮やかなピンク色の髪は白いリボンで整えてある。

 身長はとても低く、騎士団長の腰くらいまでの高さしか無い。とても小柄な少女だった。


 「それでは、私が宝物庫へと御案内致します」


 騎士団長は聖女ソフィの姿を確認し、王城にある宝物庫へと聖女を案内する。

 その騎士団長の言葉に聖女ソフィは軽く頷き、ガイアード騎士団長に続いて城の廊下を歩き出した。



 聖女ソフィ様の声を聴くのは稀である。そう、騎士団長と共に聖女を護る他の騎士は言う。

 聖女ソフィ様は特定の人物以外、何故かあまり話されない。

 その理由を騎士達は知らない。

 何かを聖女様から教えて頂く時、騎士団長が少女へと近付き耳を寄せ、少女の言葉を騎士団長様が伝える。

 その事から、聖女ソフィ様は恥ずかしがり屋の可愛らしい少女だと騎士達の間では噂されていった。





 宝物庫。


 ランブレスタ王家が大昔から収集された、貴重な品々が眠る場所。

 秘宝と呼ばれる物品、禁忌とされた書物、世に出すには危険な武器などがこの厳重な倉庫へと保管されている。


 「……来たか」


 大きな扉が開き、中へと案内された白の聖女。

 その部屋には壁一面に大きな鉄製の扉があり、その鉄の扉の前に男性が立っており、部屋へと入って来た聖女や騎士団長達に声を掛けた。


 「陛下、白の聖女様をお連れ致しました」

 「ご苦労。ガイアード以外の警護は皆下がれ」


 頑丈そうな鉄製の扉の前に居た人物は、このランブレスタ王国の君主。

 ランブレスタ国の国王、ユナイセル=C=ランブレスタ陛下だった。


 陛下の命令で護衛をしていた者達は皆、一礼をしてから部屋から出ていく。

 部屋に残されたのはユナイセル陛下とガイアード騎士団長、そして白の聖女ソフィだけとなった。



 「お久しぶりです、陛下。まさか1年も約束を放置するとは思いませんでした」

 「すまないな。こちらも色々と忙しかったのだ、許せ」

 「聖剣に会わせてもらうという約束、自然消滅なされるおつもりなのかと心配しましたよ」

 「はっはっはっ、国王である私が約束を反故にする訳があるまい」

 「……反故にはしないけど遅らせはするんですね」


 白の聖女ソフィは遠慮もせずに国王に苦言する。

 その言葉は親しげで、国を治める王に対する態度ではない。


 そして、何よりもその声。

 姿と声が合っていない。まるで活発的な少年の声色をしている。

 だが、それは正しい。これは最重要機密とされているのだが、白の聖女と呼ばれるソフィは少女はなく、今年14歳となった少年なのだ。

 もう一度言います、男性です、男性。間違えてはいけません。


 「確かに王でありながら1年も約束を遅らさせてしまったのは事実。本当にすまないと思っている」


 全く悪いと思ってはいないその顔で、陛下は少年に謝罪した。


 「まぁ、美味しいお菓子を堪能できたので良しとします。さぁて、護衛の騎士さん達も居なくなったし、この邪魔なヒラヒラ衣装、全部脱いじゃって良いですよね」

 「……代わりの服はあるのかい?」

 「マジックバックの中にあるので、ご心配無く」


 白の聖女と呼ばれる人物は少年である。それは、極少数の者達しか知らされていない極秘事項。

 少年の正体は王都ランブレスタに住む孤児で、名前をミネル。

 この世界が、自分がプレイした乙女ゲーム『愛ある出会いの奇跡 ~君と癒しを共に~』と酷似する世界だと知る人物の1人である。


 「……やっとか。やっと念願だったあのイベントが達成できるんだ。永かったなぁ」


 マジックバックから取り出した服に着替えながらミネルは呟いた。

 ミネルがこの世界に来た日から、ずっと目標にしていた事。

 それは、この世界に存在する魔王が力を取り戻した時、必ず必要とされる物に関係しているイベント。

 もし、そのイベントが達成されていなければ、ゲームの物語ではこの世界が崩壊してしまう程の重要なイベントとなっていた。



 『聖剣の覚醒』



 今日、その重要なイベントが達成できる日となった。




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