179話 ※アレク※ Prt.1
7-32.※アレク※ Prt.1
※ ※ ※ 攻略キャラ アレクシス=D=ベルセネス 視点 ※ ※ ※
自分の父は立派な人物です。
ランブレスタ王国で最強とされ、我が国が誇る騎士団で総隊長を務めています。とても強く、正義感が誰よりも強いと思っています。自分は幼い頃から、そんな父が誇りです。
天気の良い早朝は毎日木刀の素振りをしているのですが、たまに父上が見てくれて練習相手にもなって頂けます。父上からは、自分は攻めるのではなく守る事に特質しているようだと幼少の頃に言われたのですが、当時はとても落ち込みました。自分には剣術の才能が無いのかと泣きたくなったのです。
ですが、国を守る守護騎士として優秀な才能があると父上に認められ、自分の力は国を守る為に使おうと誓いました。
そんな自慢の父上に、今日は王城へ初めて連れられて来ました。父上に案内されるがままに向かったのは大きな扉の前。その扉を守る騎士へ声をかけた父上は、自分に「習った礼儀作法を怠るなよ」と小声で指導されます。
大きな扉が開き中へ案内されると、そこには自分と同じくらいの男の子が居ました。
「エルナルド王子、この子が私の息子です。剣の腕はまだ未熟ですが、将来は立派に貴方様を守る騎士となるでしょう」
自分が10歳の時、初めてこの国の王族と出会いました。
豪華な部屋で出会ったのは、このランブレスタ王国の第2王子であるエルナルド様だった。父上が王子に自分を紹介した後、自分を前へ出して自己紹介を促がすように背中を一度ポンと軽く叩きます。
「は、初めまして!自分、じゃなくて私の名前はアレクシス=D=ベルセネスといいま、申します!よろしくお願いします!」
王家への初めての挨拶は噛み噛みでした。緊張していたのは自覚していますが、ヒドイ挨拶でしたね。
自分の挨拶を聞いたエルナルド王子は、少し笑いながら「あぁ、よろしくな」と仰って下さいました。
その御姿はとても美しく、窓からの光りが王子のもつ金色に輝く髪に反射して神々しくも見えました。とても綺麗な御姿に自分は少しの間、呆けてしまいます。お恥ずかしい。
太陽のように輝く黄金の髪、澄み渡る空のように青い瞳。本当に現国王であるユナイセル陛下と同じ容姿をされたお方でした。
エルナルド第二王子と出会って数日後、大事件が発生します。
なんと、エルナルド様が御一人で城を抜け出したそうなのです。この事件は直に城で大騒ぎとなり、監視と警護を任されていた自分は父上から今までの人生で最大のお怒りを受けました。
エルナルド様が行方不明となった当日の夜に冒険者ギルドからの知らせが入り、エルナルド様が無事に保護されたと知った時は本当に安心しました。その後、エルナルド様はユナイセル陛下からお叱りを受け、数日間を自室にて反省する事となります。驚くほどの学術書を陛下から宿題と命じられ、涙目になられていたのを覚えています。
しかし、その日からエルナルド様に変化がありました。エルナルド様の母上であるこの国の王妃様に人形が欲しいと言い、とても小さな女の子の人形を持つようになりました。
とても鮮やかなピンク髪が特徴的で、その目立つ色のせいで妹姫様に隠し持っていたのがバレた事もありました。妹姫様が「お兄様、その子は何て名前なんですの?」と聞かれた時、エルナルド様は悲しそうに「名前は……ない。分からないんだ」と仰っていたのを覚えています。一体、エルナルド様はどうなされたのでしょうか?
人形を持つ事は内緒にしてほしいとエルナルド様から言われました。その時、この人形はある人を忘れない為なのだとお教え頂きました。名前も何処に住んでいるのかも不明な女の子。その子を忘れない為に、この人形を持つとお決めになったそうです。
しかし、やはり王家の男児が人形を所持する行為は外聞に悪いとされ、この事は決して口外しないようにと王妃様からも言われました。次代の王は少女趣味、と囁かれたくはありませんから。
あれから3年。
自分は無事に騎士見習いとして認められ、エルナルド殿下の警護を引き続き任されています。エルナルド殿下とは気軽に話し合える仲となり、共に剣術や勉学に励みました。エルナルド殿下はまだ、あの人形を大切に所持しておられます。
「アレク……頼みがあるのだが良いか?」
エルナルド殿下は3年の月日で、さらに御立派になられました。幼く天使の様な御姿から、とても凛々しく誰もが美男子だとお認めになられる程の御方です。貴族のお嬢様方からも日々騒がられ、エルナルド殿下が描かれた絵画はとても高値で取引されているとの事です。
「どうかしましたか、エルナルド様。まさか、また王都見物に向かいたいと仰るのではないですよね?」
エルナルド殿下は、よく王都の市民街に行きたいと仰られる。せめて貴族街までにして欲しいのですが、あの地区は貴族が住む豪邸しかありませんので面白くは無いそうです。
「アレク、今は俺と二人だけだろう。〝エルナルド様〟は止せ、敬語も不要だ」
「幼少からの教えでこの言葉が治らないのはご存知でしょうに……それで、頼みとは何ですか?エル」
他に人が居ない事を確認し、エルナルド殿下を敬称でお呼びする。殿下は自分から様付けで呼ばれるのを嫌っていますから仕方がありません。執事やメイド達に決して聞かれないように気を付けなければ。
「去年の誕生祭、その前夜祭の日に〝奇跡の少女〟と呼ばれた少女の噂がされた事を覚えているか?」
「ええ、それはもちろん覚えております。自分は式場には居りませんでしたが、エルは目の前でその奇跡をご覧になられたのでしたね」
毎年、この国で開催される国王様の御生誕を祝福する『誕生祭』。去年、その誕生祭で大事件が発生しました。
ランブレスタ王国の中心とも言える、このランブレスタ城に賊が入り込んでしまったのです。
賊の標的は、世界でも有名となった聖女アンジェラ様。その情報を入手した我々騎士団は厳重に警戒を行なっていたのですが……まさか内部に裏切り者が居るとは思いませんでした。しかも、騎士団の中にです。
そして不幸な事に、その賊の手によってモンテネムル公爵家現当主様が命を落とされたそうです。
アンジェラ様は御自分の父が亡くなられた御姿を見てしまい、ご乱心なされたと聞きましたが詳しくは分かりません。あの時のアンジェラ様を……いえ、あの時何が起きたかを誰も話そうとしないのです。
しかし、その日からある噂がこの王都に広がりました。『死者を蘇らせる少女』。そう噂される〝奇跡の少女〟についてです。
御伽話か何かだと鼻で笑う人もいますが、それを証明するかのようにあの日に亡くなられたというモンテネムル公爵家の御当主であるローダリス=K=モンテネムル様が今日も王城にて仕事をなされているのです。
「やっと………やっと彼女を見付けた」
エルナルド様が懐からあの小さな人形を取り出して、そう呟きました。
「俺は確信した。彼女こそが聖女であり、モンテネムル家の令嬢は偽物なのだと。だから俺の妻となり、次代の王妃となるのは彼女が相応しい」
「お待ちください、エル。聖女としてモンテネムル公爵家のアンジェラ様をお選びになられたのは陛下と教会総本部の方々です。例え殿下であろうと許される発言ではありませんし、アンジェラ様が聖女である事は変えられません」
「分かっている。だから俺とアレクしか居ないこの場で言っている。お前だけは俺の味方だと確信しているからな」
「殿下………」
あぁ、なんて嬉しいお言葉でしょう。自分はエルナルド様に仕える事ができ、幸せにございます。
いえいえいえ、そうではありません。今は聖女様についてです。アンジェラ=K=モンテネムル様が聖女である事は3年前、王家から大々的に国民達に発表なされた事。それ故に、エルナルド殿下とアンジェラ様は婚約者だと陛下がお決めになられたのです。
……エルナルド殿下とアンジェラ様の仲があまり良ろしくない事は承知しています。エルナルド殿下は何故かアンジェラ様を避け、アンジェラ様もエルナルド殿下には無関心なのです。そう考えると確かに将来の王家が心配になります。
「……そこでアレク、頼みがあるんだ」
「はい、何でしょう?」
「父上がやっと口を滑らせた。一年前に噂され、行方が分からなくなっていた〝奇跡の少女〟。そう呼ばれていた少女が今度の騎士団の任務に同行するらしい」
一年前から殿下はユナイセル陛下に奇跡の少女の事を尋ね続けてきましたが、全て流されていましたね。そして今日、やっと情報を入手できたそうです。
「だからアレク、その騎士団の遠征に俺も参加する」
「いけません、殿下!」
エルナルド殿下の言葉に驚き、大声で否定してしまいました。部屋の扉を守る衛兵から「どうされました!?」と外から声を掛けられ、急いで「なんでもありません、すいませんでした」と謝罪します。
エルナルド殿下は3年前の行方不明の日から、行動力が無駄にあると感じています。今回の様に、困る行為をなされる事も多々ありました。
「何故だ、やっと俺が探し求めていた彼女と出会える絶好の機会なのだぞ。アレク、急いで遠出の準備を整えろ。どうせ父上に頼んでも認めては貰えないし、メイドや執事の手も借りられん」
殿下は、先程自分が口にした否定の言葉を聞いていらしたのだろうか?完全に無視されています。
「陛下には秘密で同行なされるおつもりなのですか!?いけません、エル!ダメです、認めませんよ」
「だから何故だ。少しの間、留守にするだけだし置手紙も残す。帰還した後には父上から罰を受けるだろうが、俺はそれでも構わない。謹慎だろうが何だろうが俺は覚悟ができている」
「エル、此度の遠征は演習ではないのです。北東の町に魔物の氾濫が予期されるかもしれないという緊急の遠征。そこへ次期王とお認めになられたエルをお連れする行為は認められません。絶対にダメです、諦めて下さい」
「自分の身は自分で守れる。日々、お前と共に修練してきたのだ。剣の腕も師範から褒められようになったし、魔法の訓練もしている」
「それでもダメです。いくらエルの頼みでも、それは認められません」
「アレク、やっとなのだ。やっと彼女と出会えるかもしれないんだ。俺にとって運命の彼女に」
「ダ・メ・で・す」
自分とエルナルド殿下は少しの間、睨み合って沈黙します。そして、自分の意思の硬さが分かって頂けたのでしょう。エルの方から折れて下さいました。
「……分かった。では、アレクがその〝奇跡の少女〟を調べてきてくれ。アレクも騎士団の一員としてその遠征に参加するのだろう?」
「はい、騎士見習いとして参加するようにと命じられました。ですから、エルの護衛は先輩の騎士の方が暫く務める事になります」
「なら、その遠征で俺の代わりに……頼む」
「……分かりました、それでしたら構いません」
殿下が御自分で遠征に参加なされるのを御止めできるのでしたら、その少女についてを調査しましょう。
数日後、自分は北東の町へと出発する騎士団の行軍に参加しました。エルナルド殿下が仰った通り、一年前に噂された〝奇跡の少女〟が乗る馬車と共に。
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