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178話 ☆書きたかった話☆

モブキャラについての話です

なんか うん すいません (・・*)ゞ

読まなくとも ほぼ関係ないので



 7-31.☆書きたかった話☆



 俺は、めげない男だ。


 身長、平均的。体重、平均的。顔、標準。髪の色、茶色。特徴、何もない。


 訓練学校では同級生から忘れられ、教室に俺が残っていても電気を消され、集合写真では「あれ?これ誰だっけ?」と必ず誰かが呟く。だが、俺はめげない。


 これは全て、俺のスキル『存在薄い』に関係している事だからだ。


 幼い頃は、この影が薄い存在をどうにかしたくて勉学に励み、運動も頑張った。しかし、どれだけ頑張ろうと周りの人達が俺の事を中々認識してはくれない。


 こんな俺でも、今ではランブレスタ王国の国王、ユナイセル陛下の直属の部下になれた。


 俺にとって人生最大の幸運。国王直下の部隊に配属されるという事は、陛下を守る近衛兵よりも優遇されるという噂だ。騎士や文官よりも給料が良いとも聞いた。


 仕事の内容は、主に情報関連。国王に必要なあらゆる情報を集め、陛下へと伝える。それだけを求められる部署。


 国王直属の部下には暗殺なども行なう部署があるが、俺には不向きだとされた。理由は人を殺せないから。臆病と言われるかもしれないが刃物を誰かに向ける行為ができない。怖い、恐ろしい、泣きそうになる。その性格から情報収集部隊に配属された。




 「ジョージ、次の指令がきた」


 「はい、先輩」


 言い忘れていたな。俺の名前はジョージ。世界で1、2位を争う程のありきたりな名前だ。


 「先輩、待って下さい」


 「早く来い、置いて行くぞ」


 このぶっきら棒な人は俺の先輩で、部下想いで優しい人だ。今も上司として厳しく接しようとしているが、遅い俺の事をちゃんと待ってくれている。


 この先輩と俺が組みになったのには理由がある。他の誰かと俺が組めば、相方は俺を忘れて何処かへ行ってしまうからだ。組みで行動しなければならない仕事、他の誰かでは俺の相方が務まらなかった。


 しかし、この先輩は空間把握のスキルを持っているので、俺の存在もちゃんと認識できている。世の中には色んなスキルがあるんだなと感心した。


 「それで、次は何をするんですか?」


 「旧市街にある孤児院の調査。それと、怪しいローブ姿の子供についての情報を求められている」


 「旧市街の孤児院と……怪しいローブ姿の子供…ですか?」


 「ああ、そうだ。お前も数日前、この国にある大聖堂が消滅したのは知っているだろう。その犯人と(おぼ)しき子供が、その孤児院に滞在しているかもしれないと教会からの知らせが入った」


 大聖堂消滅事件。数日前に起きたこの大事件は今でも騒がれ、城内では連日この事件についての会議が開かれている。


 その事件の犯人は小さな子供とされていた。あの大聖堂を消滅させる程の力を有しているのに子供?と誰もが思うが、目撃者が多数いた事から確実だろうとなっている。その子供が旧市街にある孤児院に居るとなれば、これは重要な任務。必ずや成功させなければならない。



 ……と、意気込んでいた時もあった。


 到着した孤児院は平和な風景そのもの。孤児達が楽しそうに庭で遊び、庭にある食べ物を皆で分け合いながら談笑している。


 任務の標的はローブ姿の小さな子供。しかし、あの孤児院には小さな子供が数えられない程いる。しかもローブ姿の子供なんてこの数日、一度も見ていない。


 このままでは陛下に知らせる情報が無いと焦った俺は、先輩が留守の間に孤児院に忍び込もうと考えた。もしかしたら、そのローブ姿の子供は孤児院の中で隠れ暮らしているのではないかと考えたからだ。


 俺は放浪者の姿に変装し、孤児院の庭にある果実を貰いに来た定で侵入を開始。そして、孤児院にお手洗いを借りようとして中で迷子になるという作戦に出た。


 誰一人、廊下で歩く俺の存在を認識していない。このまま建物内部を調査しようとした時だった___



 【これ以上、入ってはダメよ。侵入者さん】


 「え?」


 誰かの声が聞こえたかと思うと、俺は意識を失っていた。覚えているのは、あの時の声が女性だった事と、急激な睡魔に襲われたくらいだ。


 目覚めると、俺の体は植物の蔓でグルグル巻きにされて木に吊るされていた。


 「……お前、何やってんだ?」


 そして、そんな俺を先輩が呆れ顔で見上げている。


 「あ、あれ?俺……」


 「アホ面でグースカ眠っていたが、何かあったのか?」


 「わ、分からないです。とりあえず先輩、助けて。動けないです」


 先輩に救助され、吊るされていた木から降りる事ができた。いったい自分に何が起きたのか分からないが、俺の作戦は失敗した事は理解できた。


 「ジョージ、撤収だ。どうやら事が動いて、次の任務が指示された」


 「え、この孤児院の調査報告はどうするのですか?」


 「……報告無しとして調査は終了だ。この任務は別の部隊に引き継がれる」


 報告無し。それは、つまり情報収集の失敗を表す。しかも、別の部隊に移されるという事は俺達では力不足と判断されたという意味。


 「すいません、先輩。俺……」


 「反省は後だ。それよりも、ある伯爵家から重要な報告が入った。今回の大聖堂消滅事件は、教会内部に元凶アリとの知らせだ。それについての調査を俺達が任された」


 先輩の言葉に、落ち込んでいた顔をバッと上げた。そんな重大な任務を任されるのは俺達がまだ信頼されているという証。


 俺は、めげない男だ。次の任務は成功させてみせる。







 「旧市街の孤児院に住む少年の監視?」


 あれから数年。仕事にも慣れ、自分にも自信が付いてきた。そんな時、先輩から聞かされた今回の任務内容は、昔に失敗した任務にとても似た内容だった。


 「ああ、そうだ。名はミネル、孤児らしい。その子供の監視を陛下から任せられた」


 「陛下から……ですか」


 孤児の監視を陛下から指示される。どう考えても普通ではない任務だった。しかし、国王陛下からの指示は絶対だ。俺達は陛下の部下で、信頼されているのだから。



 この旧市街にある孤児院には久しぶりに訪れた。最後に来たのは、数年前の失敗した任務以来か。だが、今回は正体不明の子供ではなく、名前が『ミネル』と分かっている。


 その標的である少年は、すぐに発見できた。


 とても背が低く、幼い少年だ。とても特徴的な髪の色をしている。ピンク色の髪なんて初めて見た。しかし、その目立つ色のおかげで追跡が容易い。遠くに居ても発見できるので簡単だ。


 この少年が標的である『ミネル』という子供なのは間違いない。近くに居た獣人の男から、そう呼ばれていたから。



 今日も標的である少年の後を追う。ミネルという少年は、至って普通だ。王都をうろちょろ動き、新しく整備された獣人街と呼ばれる地区へよく行っている。毎日、復旧作業が続く大聖堂へ入っているが信心深い者ならば普通の行為。


 不思議なのは、たまに少年の姿を見失う事。その場合、先輩が追ってくれる。少年がいつも黒い布を羽織ると「あれ、どこだ?」と探す事になる。なんだか俺のスキルに似ているなと感じた。



 今、少年は獣人街にある大公園でベンチに座り、大人の男と話している。姿からして冒険者なのだろう。男は大きな弓を背負っていた。そして、少年と冒険者の男が別れた事を確認する。


 「目標が移動を開始しました。追跡を再開しますか?」


 「了解。目標は我々の事を感づいてはいない様子、追跡を許可する」


 先輩からの追跡支持が出されたので、少年の後を追う事になった。


 「了解しまし___」


 「お前達は誰だ?」


 「___っ!?」


 先輩への返事が、誰かの声によって遮られた。その声に反応して振り向こうとすると……


 「おっと、動くなよ?間違って、このまま刃が喉を貫いてしまうかもしれない」


 俺は動けなかった。俺の喉元には鋭いナイフが止められていた。下手に動けば、そのナイフが俺の喉に突き刺さる位置にある。


 「さて、もう一度聞くぞ。お前達は誰だ?」


 俺の後ろに居る男は、俺を人質にして先輩に尋ねた。俺は先輩に涙目で助けを求める。ぜんぱい、だずげで。


 「わ、我々は王直属の諜報員。国家機関の関係者だ。ソイツを離してやってくれ」


 先輩は、俺のお助け視線を受けて正直に答えてくれた。もし嘘だとバレたら俺の命は無いと判断してくれたのだろう。身分を明かす行為は重い罰があるのに、先輩は俺の命を選んでくれた。


 「ん~、それはまだだな。お前達は、どうして俺の大事なミネルを監視している?答えろ」


 「そ、それは………言えない。それを話す事を我々は許可されていない」


 身分を明かすのは重い罰となるが、王からの指示を誰かに話せば俺達の命が無い。なので当然、言える筈が無かった。


 「ふ~ん、契約か……なら、ちょっと冒険者ギルドまで一緒に来てもらおうか。もちろん、これはお願いではない、命令だ」


 「………分かった、従おう」


 先輩と俺は、標的の子供と話していた男に連れられ、王都にある冒険者ギルドへと連れて行かれた。



 到着した冒険者ギルドでは嘘を見破るスキルを持つ女性に色々と尋ねられたが、なんとか重要な部分は黙秘できた。しかし数時間後、その場所にある人物が現われる。


 「なんだい、タジル君。師匠を呼びつけるなんてヒドイじゃないか」


 俺と先輩が捕まっている部屋に、見覚えのある人物がやって来た。確か、彼はラクシャス伯爵家に仕える護衛の男だ。何度か、国王陛下と話す姿を見た覚えがある。


 「ロイドさん、頼んだ子は連れて来てくれました?」


 「ミネル君に関係しているらしいから、仕方なくね。お~い、瞳ちゃん。ちょっとコッチ来てくれるか?」


 伯爵家に仕える護衛の男ロイドが誰かを呼んだ。そして、扉から入って来たのは赤い髪をした少女だった。


 「ロイドさんが呼んだの。絶対そうなの」


 「悪いんだけど、この椅子に縛られている男二人を視てくれるかい?」


 ロイドの願いに、頷いて了承する少女。そして、俺達は…………全ての情報を奪われた。



 「すいません、先輩。俺……」


 数日後、俺達は解放された。王家の上層部が俺達の身分を証明してくれたからだ。そして、王城に戻ってきた俺は先輩に謝った。


 「反省は後だ、ジョージ。次の任務の指示がきた」


 「ま、待ってください。今回の事で『ミネルという少年はラクシャス伯爵家と何か関係がある』と分かったのです。その報告を___」


 「あの少年がラクシャス家と関係しているのは既に承知だと、上層部から言われた」


 「……え」


 また、失敗してしまったのか。また、報告無しとなってしまった。俺は肩を落として落ち込んだ。今回、身分を明かした罰は陛下からの許しを頂けたらしい。俺達が仕える国王様はお優しい。


 「それより、ジョージ。次の任務は重大だぞ。聖女アンジェラが北東の町に向かう事が決まり、それに奇跡の少女が同行するらしい。俺達の次の任務は、その少女に危険が迫らないかの監視だ」


 「奇跡の少女って……あの?」


 先輩は俺の疑問に「ああ」と頷く。


 奇跡の少女。約1年前に突然、登場して噂となった女の子。その噂は〝死者を蘇生させる〟という信じられない話しだった。俺も最初、同僚の友人からその噂を聞いて笑ってしまった程だ。しかし、その奇跡を大勢が目撃していたらしい。


 御伽話になりつつあった奇跡の少女。その監視という事は、先輩が言うように確かに重大な任務だ。それを任された俺達は、まだ信頼されているのだろう。


 俺は、めげない男。次の任務は成功させる。



 しかし、その任務は町に到着すると変更され、何故かその町に来ていたらしい前回の任務の標的だった『ミネル』という少年の監視を命じられた。


 その少年を町で見失い、まさか少年が襲撃されるとは思わなかった。前回も、今回も、あの少年が関わると任務が失敗する。あの少年と俺は相性が悪いらしい。今回の失敗も国王陛下からのお許しを頂いたが、俺は落ち込んで先輩にまた謝った。


 しかし、反省した後はクヨクヨしない。だって俺は、めげな――――





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