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176話 2人の聖女


 7-29.2人の聖女



   □ ■ □ ■ □ ■



 「そ、そんな……ロンツォ!!」


 「……無事か、アレク……良かっ…ぐっ」


 「ロンツォ!すぐに治療部隊へ___」


 「無駄だ、アレク……俺は、もう永く無い……もう、お前の顔さえ……見えないんだ」


 「ダメです、ダメですロンツォ!諦めてはいけません、貴方は自分が必ず助けますから!」


 「……お前が、無事なら……それで良い……」


 「目を、目を開けて下さい、助かりますから、必ず助けますから!」


 「ははっ……お前の、泣き顔が、見れねぇのは……残念だ…な……」


 「誰か、誰か治療師を此処へ!ロンツォが重傷を負いました、早く治癒師を!!」


 「アレク……大きな声を、出すなよ……(ねみ)ぃんだよ、俺は……静かに、眠らせてくれ……」


 「ダメです、ロンツォ。自分はまだ助けてくれた貴方にちゃんと礼も言えていないのに、逝ってはいけません!」


 「ははっ……なら、早く、言え……眠ぃんだ……」


 「貴方が助かれば何度だって言いますから……どうか生きて下さい、ロンツォ」


 「……ほら、はや……く……し…ろ………」


 「…………ありがとう…ございます、ロンツォ」


 「…あぁ………」


 「…………ロ、ロンツォ?」


 「………………………………」


 「……うぅ………うわぁぁああああああああ!!!!」



   □ ■ □ ■ □ ■



 あの時のムービーにはマジで泣いた。


 そういえばアレクシス、魔竜族襲撃イベントの時は見掛けなかったな。今回のイベントで魔竜族は町へ侵入できなかったからアレクシスの友人とやらも無事だろう。


 というか、この乙女ゲームで重要な攻略キャラ達は過去のトラウマで人が死に過ぎじゃね?


 タジル → 冒険者仲間、ジルさん、クリスさん、トリアさんを亡くす。

 スザク → 父親のセイリュウさん。それに、シグマさんも死んでいたと思う。

 フェイ → 父親を含む村人が数十人。

 レギオ → 母親のミリアーナさん。そして王都で多数、疫病が原因で亡くなる。

 アレク → 友人を含めた騎士が何人も命を落とした。


 ……このゲームの製作者はストレスでも溜まっていたのだろうか。マイクフロスト=K=モンテネムルも、義姉のアンジェラを殺して好感度がアップするとか頭の可笑しい設定だった。という事はだ、エルナルド王子が心配。彼のトラウマは第1王子に関係していると姉さんから聞いた覚えがあるから、彼にも死人が出るような物語設定されているかもしれない。同じプレイヤーの小夜さんも黒曜スザク・ルートしか知らないとか言っていたから心配だ。


 王都へと帰る道中、走る馬車の中で流れる外の風景を眺めながらボンヤリとそんな事を考えていた。





 あの『魔竜族襲撃事件』から5日が経ち、ようやく王都へ帰る事となった。


 騎士団は後処理などで大忙しらしく、王都から応援を呼び何隊かを町に残す事にしたらしい。まぁ、町の外には小夜の黒炎にやられた竜が放置されたままだからな。道も壊れたし。冒険者は何もせずに終わってしまった今回の事件に、報酬が気になっていたけど、ちゃんと緊急招集に応じたので領主様からギルド経由で礼金が配られたとの事。もちろん、貴族から護衛を頼まれて町を去った冒険者には報酬は無いし、ちょっとした指導(暴力あり)が成されるとか。


 俺と小夜さんも休息を終え、町での観光も満足して王都へと帰る事になった。孤児院の子達にもお土産を沢山買ったから喜ぶだろう。自分へのお土産の方が多いけど。




 今回の事件で、俺は光属性の最大消滅魔法を放った。その代償として、また倒れた。でも以前の大聖堂消滅とは違い、次の日には元気に目が覚めましたよ。倒れた時も、以前のような突然ブラックアウトせず、ちゃんと意識もあった。でも、視界がグルグルとして気持ち悪く、頭がズキズキと痛かった。なんか脱水症状に似ていたかな。


 地面にグテーと倒れた俺をセバスさんが(お姫様)抱っこで運び、小夜さんもマーサさんに運ばれた。できれば背負って運んでくれよと言いたかったが、それよりも強い眠気に襲われたので後は任せて意識を手放した。グースカと眠る俺を無事に屋敷まで運んでくれたのに感謝。


 次の日、小夜さんは動けなかった。相変わらず大精霊の召還は代償が最悪だと嘆いていた。俺は女神様の加護が強くなっているのか以前の様に四日も眠り続ける事無く、一日寝れば復活できたので今日も元気に町観光。でも、店の殆んどが閉店していて泣いた。


 小夜さんのお見舞いにも行ったけど、少しでも動こうとしたり寝返りをしようとしたら悲鳴を上げる程の痛みがあるらしい。しかも、それが全身。あぁ、可哀想に………ところでさ、正座で足が痺れている人を見たらさ、人差し指でツンツンしたくならないか?俺はなる。


 そぉ~と、小夜さんの死角から人差し指を立たせて近付いた。だけど、あと数㎝という所で俺の人差し指がガシリッと握られて失敗に終わり、小夜さんがニコリと笑った。俺は「冗談だよ、ごめんね」と謝ったのだが、彼女は「あら、そう」と言いながら俺の指を曲げてはいけない方向へと曲げやがった。


 在らぬ方向を差す俺の指。ボキリッという異様な音が部屋に響き、激痛に襲われた俺の絶叫が屋敷に響いた。




 ひどい、ひどいよ小夜さん……まさか本気で人の指を折るなんて思わなかった。少しでも動くと激痛がするとか言ってたくせに、その体を動かしてでも人様の指を骨折させるとは。てか、普通折るぅ?俺、4分の1は冗談だったのに……


 回復魔法が得意なおかげで全治10秒だったけどさ。だからといって、もう一度折ろうとする小夜さんは馬鹿なのかもしれない。



 あと、気になる事もあった――――――



   ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○



 小夜さんの全身から来る痛みが治まった後の事。屋敷での会話。


 「あら?そういえば、秋斗君。貴方も大精霊の召還を行なったのよね?」


 「ああ、したよ。初めての召喚だったけど、ちゃんと成功した」


 「……その後、貴方が動けない状態を見た覚えがないのだけど。というか毎日、走り周っていなかった?召喚の代償はどうしたの?」


 「あー、そういえばそうだね。全然こないな、代償。なんでだ?」


 「え、なにそれ。なんで貴方だけ無事なの?私は何日もベットの上で苦しんだのに。なんで秋斗君には、その苦しみが無いのよ。不公平だわ」


 「そう言われてもなー。無いなら無いで、その方が嬉しいし……って、ちょっと小夜さん?何で黒い靄が体から出てんの?そして、何で俺に近付いて来んの?」


 「……だて、仕方ないじゃない。私はこのストレスをどうしたら良いのよ。秋斗君は物語の主人公役だとしても、私だって重要人物の1人よ。それなのに、こんな不公平ってないわ」


 「そ、そだねー。でも、それを俺に言われても……」


 「秋斗君もそう思うのね?なら、同じ物語の登場人物として、同じ大精霊を召還した身として、あの痛みや苦しみを共有しましょう?」




 「……へ?」




   ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○



 ……その後の事は聞かないでくれ。


 ただ、彼女が黒の魔女として恐れられる日が近いかもしれない。そう感じた一日だった。


 でも確かに大精霊を召喚し、その代償として体中が痛くなるはずだが俺にはこなかった。今も無事に体を動かせている。その理由を小夜さんと考えたが分からず、結局はヒロインちゃんの設定だった女神の加護のおかげだろうという事になった。








 そして、もうすぐ王都に着く。


 途中の休憩や野宿などでは騎士団の人達から凄く注目されていた。出発の時も注目されていたが、今回は何人も話し掛けてきた。対応は全部、小夜さんに任せているたのだが俺にも握手をしてほしいと頼んでくる騎士達が現われる。とりあえずニコニコ笑いながら握手しておいた。泣きながらブンブン振るのは止めてほしい。


 「やっと帰って来れたわね」


 「王都、王都だ!私は戻って来た!リターン・オブ・マイ・スイート・ホーム!」


 「……とりあえず落ち着きなさい。でも、今回のイベントが無事に終えて良かったわ。設定上、魔王軍の幹部が登場する物語だったから、もう少し手こずると思っていたのに。まぁ、その幹部は逃げたでしょうけどね」


 全力の消滅魔法を放ったあの日、襲撃してきた全ての魔竜族を滅する事は出来ず、後方に居た何体かの魔竜達が魔族領まで引き返していくのが見えた。きっと魔王軍の幹部だったアイツは、あの撤退した群れに居ただろう。あの幹部は偉そうな態度だが、いつも後方に居てたから。




 平和への喜びを感じながら、馬車の窓から外を眺める。遠くに見えた王都へと続く道を馬車が進む。その馬車の窓から暖かい太陽の光を浴び、無事に帰ってきたんだなぁと安心した。



 だけど____



 「…………ん?」



 馬車が王都へ近付くにつれて異様な雰囲気を俺は感じた。


 なんだ?何かが違う。いつもの王都とは何かが違っている。気になった俺は馬車にある窓を開け、王都を見る。風が馬車内に入り、ピンク色のカツラ(ウィッグだっけ?)が飛んで行かない様に手で抑える。すると、王都から〝パンッ パンッ〟という小学校の運動会で聞き覚えのある音が聞こえた。


 この音、国王様の誕生日を祝う為に開催された『誕生祭』でも聞いた覚えがある。だけど、今年の誕生祭には次期がまだ早い。だとしたら何かの祭り?でも、そんな行事が今の時期に王都であったかなぁ?



 馬車から見える王都が少しずつ大きく、よく見える様になってきた。先程から連続で聞こえる〝パン、パン〟という音に加え、ラッパの様な音も聞こえてきた。そして、何か太鼓みたいな音も鳴り始める。やっぱり祭りか?


 「小夜さん。王都って今の時期、何か祭り事なんてあったっけ?」


 「いえ、知らないわ。でも、先程から聞こえる演奏は祝祭を祝う為の音色ね。何かあったのかしら?」


 「何かって?」


 「さぁ……王妃様が御子を授かられたとかかしら。でも、ゲームにはそんな物語はなかったし……」


 小夜さんも知らないらしい。しかし、その理由は見えてきた王都の北門により判明する。その門に、衝撃的な物体が飾られていた。


 北門への入り口付近では道の左右に騎士達が槍を掲げて整列している。奥の方で、軍服みたいなのを着た演奏隊が音楽を奏でているのが見えた。そして、一番重要な箇所。北門に大きく掲げられた横断幕。そこに書かれている内容は――――――



 『


    黒の聖女 アンジェラ=K=モンテネムル様


    白の聖女 ソフィ様



    無事の御帰還 お慶び申し上げます


                          』




 ……


 …………


 ……………………しろのせいじょ?


 え、は?な、なっすかアレは!?


 ……とりあえず、ただいま。いやいや、違う違う。待て待てちょっと待て。一旦落ち着こう。そう、冷静に……うん、見間違いだよな。きっと見間違えなのだ。そんな事が書かれている筈が無いじゃないか、ははっ。ふぅー、ちょんとしろよ俺。あぁ、ビックリしたぁ。


 俺は落ち着く為に目を瞑り、一度呼吸を整えた後、もう一度王都の外門に飾られている布を見る。だが、やはり書かれている内容は同じ。何度見ようが、何度落ち着こうが、何度読もうが結果が変わる事は無かった。



 「あら陛下、仕事が早いわね」


 俺が口を空けてポカーンと固まっていた時、同じ物を見た小夜さんが呟く。


 「え……え、何?さ、さささ、小夜さん。ど、どどど、どゆ事?え、何、知ってたの?ねぇ、知ってたの!?今、陛下って聞こえたけど国王陛下の事だよな!?あの野郎様の仕業なのか!?」


 「落ち着いて、秋斗君。私は何も言っていないわ。きっと幻聴か何かよ、しっかりなさい」


 「嘘だ!絶対に嘘だ!俺、聞こえたもん!さっき「あら陛下、仕事が早いわね」って小夜さんは絶対に言った!」


 「ヒドイわ、秋斗君。貴方の被害妄想で聞こえてしまった言葉で、親友の私を責めるなんて……ううぅ」


 「あっ、ごめん。そっか、そうだよな。ごめん、悪かった」


 「いいえ、良いのよ。秋斗君も混乱しているのよね」


 ハンカチで目元を拭う小夜さんを見て、慌てて謝る俺。


 そ、そうだよな。俺の聞き間違いだよな。小夜さんも自分が聖女と呼ばれる事を嫌がっていたし、あんな大きい横幕に聖女と書かれているのは不快だろう。疑うなんて悪い事をしてしまった、すんません。


 今はそれよりも、この王都の状況だ。どうしよう、やはり国王であるユナイセル陛下へ尋ねるのが一番早いよな。でも、そう簡単に会える人では無い。だって俺のせいで忙しいとか言ってチクチク攻撃してきたから。あ、でも俺は国王から報酬として、王城の宝物庫に収められている聖剣に会える事になっている。ならその時、陛下に会えるかも。


 ………こんなにも王都で大々的に騒がられているのだ、犯人は国王で間違いは無いだろう。キック力が怪物な少年探偵やお祖父さんの名を賭けたがるポニーテール少年が居なくても分かる。犯人は奴だ。


 なんて事をしてくれたんだ、あの野郎。〝白の聖女 ソフィ様〟……は、恥ずい。


 それに陛下と騎士団長様よ、今回アンタ等は一度たりとも〝こっそり〟を守らなかったな。今度、彼等に〝こっそり〟を学ばす為に、こっそりと彼等の靴に画びょうでも仕込んでやろうか。俺には激レアアイテムの〝闇の衣〟があるんだぞ。不法侵入してやろうか。俺にだってそれくらいの度胸は……まぁうん、許してやっても良い。




 俺達が乗る馬車が北門を進む。馬車にある窓のカーテンを閉めて中が見えなくする俺。しかし、向かいに座る小夜さんはカーテンを開けて外に手を振っていた。整列している騎士達は動く事はなかったが、顔が喜びに溢れて輝いている。さすがは魔女、騎士達を魅了したようだ。


 そして、馬車を警備していた騎士が入場の手続きをしてくれて、王都の中へと入る。すると、突然聞こえる大喝采。沢山の人々が手を振り、空からは花やら紙やらが降り注ぐ。


 気になり、風の精霊達に声を区別して聞かせてもらった。一度に皆が騒ぐと内容が分からない。



 ―――聖女様が御帰還なされたぞぉぉぉおお!!


 ―――ランブレスタ王国に舞い降りた癒しの聖女様ぁ!!


 ―――聖女アンジェラ様ぁぁ、聖女ソフィ様ぁぁ、おかえりなさぁい!!


 ―――パンツ、何色ですかぁ!?


 ―――騎士達を無事に帰らせて頂いて、ありがとうございますぅ!!



 わーわー聞こえる外からの声に、目眩がした。癒しの聖女、救いの聖女、中には美少女や美の女神なんかもあった。外から聞こえる人々の声に俺は耳を塞ぎ、プルプルと震える。顔を下に向け恥辱に耐えた。


 そんな俺を乗せた馬車は周りから多くの民達に祝福をされ、ゆっくりと貴族街へ向けて進んで行く。







 「(ふふっ。デビューの第一歩は大成功ね。これで秋斗君を――――――)」



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