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175話 白と黒の消滅魔法


 7-30.白と黒の消滅魔法




 放たれた黒い炎は空間を切り裂くように空を駆け、魔竜族を撃墜した。


 あの魔竜達は肺すらも焼かれたのかと思うとゾッとする。周りの被害に遭わなかった魔竜達も突然の出来事に慌てているみたいだ。


 「悪役令嬢のアンジェラがスザきゅんと同じ闇属性が得意で本当に良かったわ。ただ、練習場がいくつも大破したのは残念だったけど……まぁ、結果的に習得できたし良しとしましょう」


 「あぁ、なるほど。小夜さんが言ってた〝少しする事〟ってコレだったのか」


 隣の小夜さんが「ええ」と、とても可愛らしく微笑んで言うのだが、その行為は魔族の大量虐殺。これが〝綺麗なお花で冠を作ってみたの〟的な事だったら、どんなに良かったか……


 「それより、秋斗君。アレを見なさい」


 小夜さんが何かに気付いたようで、真っ直ぐ前に指を向けた。小夜さんが示した空には、魔竜達が大きく口を開け、赤く何かが輝いていた。


 「あれは『ドラゴン・ブレス』ね。秋斗君___いえ、ソフィ。貴方の防性魔法で守ってちょうだい」


 「げっ、やっぱりドラゴン・ブレスか了解。ていうか、ソフィって……」


 「そんな格好をしている貴方を君呼びするのは少し抵抗があるのよ。さぁ、それよりも早く結界を」


 「そんな格好って小夜さんが無理やり……たくっ、分かったよ」


 理不尽。まぁ、今に始まった事ではないし、逆らうと色々と怖いから止めておこう。


 ゲームで敵キャラとして登場した竜族は遠距離攻撃に『ドラゴン・ブレス』があった。口から凄い物を吐き出す技だ。ただ、このドラゴンブレスは魔法攻撃では無く物理攻撃として設定されてあった。竜が火を吹こうが、水を吹こうが、それは全て物理攻撃らしい。何故に?と思ったが、竜族から放出される火や水などは体内にあるナントカという器官で生成されるのであって、魔法で生み出された物ではないとかナントカ。……つまり人間が口からゲ○を吐いたら、それは物理攻撃になるのだろう。


 うん、詳しくは攻略サイトを見て下さい俺は知らん。


 「……【祈りを捧げます・神々の祝福は・神聖なる慈悲・破壊される事なかれ・傷付く事なかれ・泣く事なかれ・悪意は全て・許されざる罪です ≪オーロラル・シャインフィールド≫】」


 体の中から魔力がドッと無くなる感覚に襲われ、〝あれ?〟と思ったが魔法は発動された。虹色に輝く球体が町を包み込む。まるでシャボン玉みたいに綺麗な物が町の上空に出来上がった。


 その直後、魔竜達によるドラゴン・ブレスが町へと放たれた。テレビで見たビームみたいにコチラへと一直線に放たれたその攻撃は町を破壊する事無く、町を包み込んだ虹色のシャボン玉にぶつかり、阻まれ、衝突の音だけが町に鳴り響く。


 ドラゴン・ブレスによる町への集中砲火は止み、俺の防性魔法は壊れずに済んだ。さすがはヒロインちゃんが得意とする光属性の防性魔法。すげー頑丈。でも……デカくね?


 「ありがとう、ソフィ……だけど、まさか町全体を指定範囲に設定して魔法を発動させるなんて相変わらずの非常識ね。私は、魔竜達と自分達の間に盾を張ってくれるだけで良かったのに……魔力残量は大丈夫なの?」


 呆れ顔で俺に礼を言う小夜さん。


 いやいやいや、俺も自分達を包み込むイメージだった……ハズなんだけど。


 そう思っていた俺に、空で浮遊していた光の精霊達が親指をグッと立てて笑っているのに気が付いた。あぁ、またか。本当に君らは自由だね。ていうか、何で俺の魔法に干渉が出来るんだよ。


 「魔力は平気。俺だってこれから大技をするって時に、こんな馬鹿な事をするつもり無かったよ。これは精霊達が勝手に_____」


 「それにしても魔竜の数が多いわね。全てを滅するのは無理かもしれないわ」


 「あれ、聞いてる?」


 ねぇ、俺の話し聞いて。馬鹿のままで終わりにしようとしないで。


 「そういえば、乙女ゲームではこのイベントに〝アイツ〟が来ていたハズよね。あの魔王軍幹部の我儘で自己中、泣き虫な魔竜族の王子」


 あぁ、アイツか。いつも腕を組んで赤いマントの威張り散らしているガキ大将。


 子を大事にする竜族の習性で、甘く甘く育てられた王子。今回の襲撃も、その王子が原因で引き起こされた事なんだよな。魔竜族は最強。つまり俺様は最強。人族よ恐れよ。魔族よ称えよ。我ら魔竜族は選ばれし存在なのだ、ぐわーはっはっは!だっけ?


 まだ幼い王子なのにその性格ってどうよ?そして勝負に負けても泣きわめいて負けを認めようとせずに逃亡する残念王子。ただ、見た目だけは良い設定だった。ゲームでも最後は逃げて死なずにいたキャラだしな。




 さて、敵さんがドラゴン・ブレスを二度三度と放ったがシャボン玉が壊れる事がなく、諦めたらしい。すると前方に居た魔竜達が左右に分かれ、奥の方から立派な鎧を着た少し大きい魔竜が一匹現われた。


 明らかに周りの魔竜達とは装備が違う。下級の魔族ではなく上級魔族に属する魔竜なのだろう。


 「貴様等、我等の邪魔立てをするのであれば死を覚悟しろ!」


 上級魔族らしい魔竜さんが俺等に怒鳴る。町中に聞こえるような凄く大きな声だ。この魔竜さんの肺活量は素晴らしいのだろう。


 「ソフィ、風魔法で拡声機能を私に付与できる?」


 「ん?ああ、出来るよ」


 「なら、お願い」


 小夜さんからの頼みで、俺は彼女に風魔法で音声増幅を付与する。


 「ごきげんよう、魔族の皆様方。さて、邪魔立てですか?どうせ人族は皆殺しにする予定なのでしょう?ならば邪魔をされて当然ではなくて、お馬鹿さんね。そんな事よりもお尋ねしますわ。今回の襲撃、魔王幹部である『ゼネシス』さんはいらっしゃっているのかしら?」


 小夜さんの声は優しく空に響き、魔竜達に届く。さすがは乙女ゲームの重要人物、見た目だけではなく声も綺麗とか他の令嬢が嫉妬しそうだな。


 「き、貴様ぁ!いずれは魔竜王となられる我等が殿下、ゼネシス様を〝さん〟付けとは、許さんぞ!」


 「あら、そうなの。それで?そのゼネシス様とやらは御一緒なのかしら?」


 「此度の進軍を指揮なされているのがゼネシス様だ!喜べ人間共、貴様等はゼネシス様の偉大なる歴史の礎と成れるのだ!栄光に思うが良い!」


 上位魔竜さんが槍を掲げて宣言する。すると周りに居た他の魔竜達が咆哮を始め、町の人達から悲鳴が聞こえた。どうやら乙女ゲームの設定通り、あの幹部は来ているらしい。そして、この襲撃も彼が原因か。


 「ふふふっ……あらあら、防御膜も突破出来ない矮小な分際で何をはしゃいでおりますの?笑わせないで頂きたいですわ」


 「なっ……脆弱な人間風情が奇跡的に下級兵の攻撃を耐えたからといって傲慢になるでない!我が力であれば、こんな薄い膜なんぞ貫くは容易い。魔竜族の力、その身で思い知るがいい!!」


 「まぁ、人間風情ですって?たかが爬虫類の分際で何を仰っているのかしら。踏み潰して差し上げましょうか」


 「キ、キサマァァアアア!!その傲慢、態度、我等に対する侮辱、全てが万死に値する!消えるがいい!!」


 ……そだね、綺麗な声でも言葉が酷いと台無しだよね。まぁ、ゲームに登場したアンジェラらしいと言えば忠実に再現されているけどさ。


 小夜さんの言葉に上位魔竜さんは大激怒。口を大きく開きドラゴン・ブレスを放とうとしている。確かに先程の魔竜達より輝きが強く威力が増しているのだと分かる。そして、周りに居た他の魔竜達も上位魔竜さんに続きブレスを放つつもりだ。


 一瞬、空が赤く光り、魔竜達によるブレス攻撃が開始された。ブレス攻撃が轟音と共に町を守るシャボン玉に衝突する。赤く光る光線が障壁に当たり、シャボン玉が赤く熱をもつが突破する事はなかった。この防性魔法は魔王の攻撃すらも耐えるからな。


 魔竜族からのブレス攻撃は次第に止み、守護領域は町を完璧に守った。空に舞う光の精霊達がハイタッチをしている姿に和む。



 「な、なん…だと……そんな、馬鹿な…魔竜族の力が通じぬ…筈が………」


 「……【闇の盟約の元・我が呼び声に答えよ ≪ジェスバン=ダークナイト≫】」


 敵が驚愕で固まっている隙に、小夜さんが大精霊の召還を行なった。


 小夜さんの影からゆっくり現れたのはシルクハットを被った細長の男性。闇を司る大精霊ジェスバン=ダークナイトだ。でも、何故か少し元気が無い。


 【……あぁ、アンジーよ。すっかり大人へと変貌してしまったのだな……私はとても悲しい】


 登場した瞬間から何故か嘆いている闇の大精霊。


 確かに今のアンジェラはボンっ!キュッ!ボンっ!のナイスボデーだからな。まだ13歳とは信じられないプロポーション。つまり、まだまだ成長する可能性があるという事だ。乳なんてモゲそうで怖い。


 「あら、ジェスバン。可愛い光の聖女様が一緒に居る場所へ貴方を詠んであげたのに随分じゃない?」


 【なに!?おおぉ、光の聖女よ、久々であるな。相変わらず小さくてカワユイのぉ!】


 いやいや、久しぶりって……初めて会ったのはランブレスタ王国で開かれた前夜祭の日だけどさ、闇の大精霊さんは蘇生魔法を行なった俺を無視して「セレーナたんの匂いがする」とか言って話す前に消えたじゃん。


 あと、小さい言うな。殴りたいが相手は大精霊なので止める。きっと触れないのだろうし、俺の拳は空振りになる未来が見えている。俺はそこまで馬鹿じゃないのだ。


 「ジェスバン、協力なさい。最大級の消滅魔法を本気で放つわ」


 【おお、了解した。破壊、破滅は私の望みだ。光の聖女よ、良く見ておくのだぞ。この私の力をな】


 小夜さん、もしかして俺を女装させた理由って………うん、考えないようにしよう。確かに今、闇の大精霊さんの協力は必要だし。きっと俺の気のせいなのだ、考えない方が幸せだと思う。



 「ソフィ、準備は良い?指定範囲は上空よ、間違わないでね」


 小夜さんの合図に、俺は頷いた。


 町の空に集まる光の精霊達に東側へ避難してもらい、闇の精霊達を西側へと避難してもらった。他の精霊達は町の外や中へと避難してもらう。最大級の消滅魔法は相容れない属性の精霊達をも消してしまうから。


 俺は両手を胸の前で組み、聖女の祈りポーズを整えた。隣の小夜さんは黒い日傘を開き、日光を遮断しながらクルクルと回し始め、ゆっくりと左手を前へと差し出す。


 そして、二人の声が上空で木霊する。




 「……【神々は悲しみ・救いの涙は・怒りに満ちる・神罰の時・全てが終わる・最後の日を・せめてもの慈悲に・祈りなさい____ 」




 「……【永久の混沌・逃げられぬ絶望・口遊む狂歌・暗きに怯え・血に恐れ・涙に嘆け・生きるを望む・愚かな者共・死は安らぎ・受け入れなさい____ 」




 小声で唱えているつもりでも最大の上級魔法は大量の魔力が含まれている為に、空間に透き通るように響いてしまう。


 そして、トロメンフィスの町よりも大きな魔法陣が上空に出現する。東の空には輝く白い魔法陣、西の空には轟く黒い魔法陣。白と黒の魔法陣は、少しずつ完璧な魔法陣へと織り成していく。その魔法陣を見た魔竜達が慌てだした。


 突如、巨大な魔法陣に囲まれた事態に「撤退っ!!」と恐怖を感じた上位魔竜から命令をが下された。何が起こるのかは分からないだろうが、これ程の巨大過ぎる魔法陣だ。濃密な魔力で幾何学的に描かれていく魔法陣が危険でないハズがない。


 上位魔竜から出された撤退の合図に下級兵達が慌てて魔族領へと踵を返す。だが、それはもう遅かった。




 「____≪アルマ・ラスト・メギド≫】」



 「____≪デス・ザ・クロスフィクション≫】」









 この日、ランブレスタ王国にある北方の町に魔王軍の竜族が襲撃する事件があった。しかし、その上空を埋め尽くす絶望は、白と黒の二人の女神により救われたという。空が白と黒に輝き、その聖なる光が絶望の空を澄み渡る青へと変貌させた。その雲一つない青い空に民達は喜び、誰もが神々に感謝した。


 この2人の女神は地上に残り、この先も人々を救い、平和な世界へと導いたそうだ。





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