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174話 まるでGの様だ


 7-29.まるでGの様だ



 この町よりも、さらに北。その場所に魔族達が住む大地、魔族領がある。


 魔族以外が住む事を許されず、過去に土地欲しさに進軍したとある国は滅ぼされたと云われている。その魔族領に、この町から大きな山が見える。雲にも届くその山頂に黒い何かが集まる姿が見え、町全体を不安にさせていた。そして今日、その黒い何かが空に広がり、住民達が急いで避難を始め、町を治める領主も緊急事態と判断して危険を知らせる時計塔の鐘を鳴らした。


 町全体に響く大鐘の音は、いつもは正午を知らせる為だけに鳴る音。しかし、今日は住民達に時刻ではなく危険を知らせ、避難を呼びかける。


 その後、静かになった時計塔の頂上に俺と小夜さんは居た。



 ―――俺はまた、女装をさせられて(泣)



 「あー首がチクチクする。なんで、また女の格好なんだよ。カツラ飛びそう」


 「それはエクステよ、ウィッグよりかは楽でしょう?金属チップで圧着してあるから、この程度の風では取れないわ。安心なさい」


 その内、女装するのに抵抗が無くなってくるのだろうか。少し不安だ。というか今回、女装する必要性が分からない。


 先程、小夜さんが「そうだわ」と何かを思い出して魔道具らしき物を取り出し、塔の下に居たマーサさんを呼び出した。俺達がいる場所へと到着したマーサさんは、小夜さんの命令で俺にメイクや着替えを施し、一礼をしてから元の場所へと戻って行った。


 元のピンク髪と同じ色のエクステ?で髪は肩に当たるくらいの長さまでに増え、この町へと向かう道中に着ていた純白のドレスをまた着せられた。下からの風でスカートが捲し上げられないか心配だ。もし、そうなれば男パンツを履いた女装人が目立つ塔の天辺に堂々と立っているという場面になる。……俺、今そんな変態行為をしているのかと思うと泣く。


 「……で、女装させた意味は?」


 「ええ、綺麗にしないとね。せっかくのデビューですもの」


 「は?デビュー?何の?」


 「気にしないで、こっちの話しだから。それより、前にも言ったと思うけど声には気を付けなさい。特に魔法の詠唱は小声で唱えてちょうだいね。ただでさえ詠唱には魔力が含まれてあるから声はよく響いてしまうの。上級に近付く程、より声は遠くまで届いてしまうわ」


 確かに、それは気を付ける。13歳になった俺は、もう男性の低い声帯へと変化してきているからな。女性ではなく、男が女装しているとバレるかもしれない。


 「それと確認だけど、光の精霊達はもうこの町に集まっているのかしら?」


 「ああ、王都程じゃないけど沢山来てくれたみたいだ。空に浮かびながら皆で遊んでるよ」


 俺は空を見上げる。今、トロメンフィスの上空では光の精霊達が集まっていた。他にも、それぞれの属性の精霊達が一緒になって空で踊っている。とても可愛いくて楽しそうだ。


 「………ダメね、やっぱり見えないわ」


 「確か小夜さんは〝闇〟なら見えるんだっけ?」


 「ええ、私の≪ブラッティ・アイ≫は闇の精霊限定なの。秋斗君のスキル〝精霊眼〟よりも格下の魔法だから全ての精霊を見る事はできないわ」


 まぁ、ヒロインちゃん設定は優秀だからな。俺もこのスキルは大好きだ。でも、本当はレギオールが持つ〝精霊の愛子〟みたいに精霊達と話しが出来るようになりたい。




 俺と小夜さんが話している時も、魔竜族達がこの町へと近付いて来ている。山頂に集まっていた黒い塊は、今では竜だと分かるくらいに姿が見えていた。空へと広がり、その集団の黒い姿はまるでゴキブ__げふんげふん__とても不快な気分になる。魔竜の速さを考えると、あと数分にはこの町へと到着するだろう。


 「では、今回の作戦を再確認するわね。私が左側の空を、秋斗君が右側の空を担当する。それで良いわね?」


 「おうよ!でも、ヒロインのミネルソフィは悪役令嬢のアンジェラより消滅魔法が苦手だったからなぁ、それが少し心配かも」


 「……王都の大聖堂を消滅させた貴方が、よく言えるわね」


 「あー……」


 そういえば、そんな事もあったような記憶から無くそうとしていた黒歴史のような。



 「う、うわぁぁあああ!!」


 町の中から男性の悲鳴が聞こえた。青空を覆い尽くす程の黒い塊を見て驚いたのだろう。


 それに、魔竜達の動きが思っていたよりも速い。空に集まっていた黒い小さな物が、はっきりと竜だと分かる程に近付き、避難していた人達が驚きと恐怖で体が止まっている。多くの人が避難を止め、先程の男性が指差した空を見て驚く。その表情は誰もが絶望に染められていた。


 恐怖が伝染し広がってしまった。だけど、誰かが走り出した事で止まっていた時間が動き出した。全員が悲鳴を上げ、走って避難を始めた。避難する人々は騎士が誘導する指示に従わず、我先にと指定された避難場所へと向かう。誰かが走り出した事で他の人達も誘発されてしまい、町が少しパニックとなっている。前に居る人を退かして逃げる者、家族と離れてしまった者、母の名を泣いて叫ぶ子供。騎士達が「落ち着いて避難して下さい」と呼びかけているが、死にたくないと必死に避難する者達は誰も聞いていない。


 そして、とうとう魔竜達が町へと到着しようとしている。


 最初に狙われたのは、どうやら人間では無く家畜。町から少し離れた場所で飼われていた牛達だ。農場で暮らしていた人達は既に避難を終えているが、牛達を連れて避難する事は出来ない。牛舎に残された牛達を魔竜達は美味しそうな餌として狙いを定め、襲おうとしていた。


 牛に気を取られている魔竜族を狙い、町を囲む壁の上から魔術師達が攻撃魔法を、狩人達が弓で攻撃を放つが防がれてしまった。魔竜達は魔族。知識があり、技術もある。人間と同じく鎧を着こみ、盾を持っていた。魔獣に分類される竜種とは違い、その知識がある魔竜達は当然、装備を整えていた。



 「さて、まずはあの羽虫達にご挨拶でもしましょうか」


 そう言って小夜さんは持っていた黒い日傘を畳み、その日傘の先端を魔竜達に向けた。


 「……≪ファントム・フレイム≫」


 小夜さんの呪文と共に日傘の先から闇が放たれる。


 それは黒い炎。詠唱破棄を行なった事から闇属性なのだと分かるが、それは火を想わせる形を成している。その魔法を見た俺はある攻略キャラを思い出した。その魔法は、確か____


 「さ、小夜さん?その黒い炎。俺、乙女ゲームで見覚えがあるんだけど………」


 「あら、気付いてくれた?ええ、そう。攻略キャラであるスザきゅんが最終ダンジョンの魔王城で習得する事で使用可能になる『闇の焔』。あの奥義を参考に生み出した新魔法なの」



 闇と火、その二つの属性を組み合わせる事によって成せる『闇の焔』。攻略キャラである黒曜スザクが最終ダンジョンで覚える、彼の最強の技。それまでは闇属性しか使えなかったスザクだが、魔王城で父親から最強武器である『カグツチ』を譲り受ける事で習得する。


 「攻略サイトで楽しみにしていたのに結局見れなかったのよね。再現できた時は嬉しかったわ。本当はスザきゅんが炎を纏うスチル写真が見たかったんだけどね」


 そういえば小夜さんは魔王城を攻略する前に死んだとか言ってたな。余程、スザクが使う闇の焔が見たかったのだろう。しかし、あれはスザクの最強武器であるカグツチがあったからこそ使用できた技だったのに……小夜さんも十分に非常識だと思う。



 放たれた黒い炎は真っ直ぐに魔竜達へと向かい、盾を構えた竜達を纏めて飲み込んでいく。黒い炎に飲まれた魔竜達は、黒い煙を上げながら何匹も地面へと落ちていった。


 「……えげつなぁ」


 装備など関係なく、防御体勢をしようと無駄かのように重度の火傷を負い落下する竜達。その姿を見て俺は「うわぁ」と声を漏らした。


 さすがはスザクの最終奥義を真似ただけはある。アレを防ぐにはアレクシス並みの防御力がないとダメなのだろう。





  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 男は呆然と空を見上げていた。


 先程まで、青空を埋め尽くす竜達の姿に〝死にたくない〟〝助かりたい〟と逃げていた。しかし、今では走る行為を止め、ただ空を見上げている。


 周りの者達もこの男同様、呆然と空を見上げていた。避難をしていた時の騒然さが嘘かのように周囲が静寂に包まれている。


 その原因は先程の現象。自分達の上空を、黒い何かが通り抜けて行ったのだ。最初は「ゴォォオオ」という音に驚き、誰もが空を見上げた。そして黒い何かは自分達の上空を通り抜け、町の外へと放たれていった。


 その方向には、自分達が恐れた元凶が居る。


 怖いが、誰もがあの黒い何かが向かっていった方角を振り返る。そこには竜達によって黒へと変貌していた空が、一直線上にだけ元の青い空を取り戻していた。その部分に居たであろう竜達は煙を上げながら落下していく。


 それはつまり、あの黒い何かは竜達に放たれた攻撃なのだと分かった。自分達を恐怖に駆り立てた存在を、容易く撃墜するほどの威力。その希望を彼等は自然と何処から放たれたのだと捜して、見付けた。


 その場所は、この町の観光名所として有名な時計塔だった。


 先ほど避難を知らせたその時計塔の頂上に、塔の転落防止の為にある外壁の上で2人の人物が立っていた。


 1人は黒。このランブレスタ王国で聖女として任命され、この国の大貴族。モンテネムル公爵家の御令嬢アンジェラ=K=モンテネムル様。腰まである黒くて美しい髪が風によって波打ち、女性として理想的な体形を黒いドレスで身を隠している。黒い日傘を右手に持ち、左手で風に舞う髪を整えていた。


 その聖女アンジェラ様の隣には、もう1人居た。


 こちらは白。アンジェラ様より少し身長が低く小柄で、とても可愛らしい少女だった。肩に届くくらいに整えられた髪は、とても珍しいピンク色。その髪を白いリボンで飾り、純白のドレスと共にレース編みされたリボンが風によって波打っている。


 「……女神様だ」


 誰かの呟きが静かになった空間に広がった。


 塔に立つ2人の少女は、彼等にとって救いの女神に見えた。歴史に無い程の恐怖が町を襲おうとしていた時、救いの手を差し伸べる為に天から舞い降りた女神様。誰もが、あの少女達を希望を込めて女神なのだと錯覚した。


 町の住民も、騎士達も、冒険者も、全てが時を止めたように呆然としている。そんな、2人の女神様という存在は、噂となりランブレスタ王国にも広がる事となる。



  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




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