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172話 食事用ナイフを投げるなんて


 7-27.食事用ナイフを投げるなんて



 この町に到着してから数日が過ぎた。


 小夜さんから地獄の説教が執行されたあの日、無事に敵キャラだったザナファルドの治療を終え、三刀流の絵姿(スチル)を見る野望も叶いつつある。さすがはヒロインちゃんの聖女様設定、マジ優秀。


 何かを小夜さんに相談していたザナファルドはある用事を済ませたいとの事で一ヶ月後、王都にあるモンテネムル本邸に来るらしい。そして、色々な約束事を小夜さんと取り決め、契約書にサインした。内容は知らない、聞いても理解出来ないし。その契約に使う書類も、闇属性が得意な小夜さんに全部用意してもらった。


 無事に契約が結ばれ、彼は去って行った。次に会えるのは一ヶ月後の王都。その前に俺も準備が必要だ。彼と再会する前に和服を手に入れなければならない。あと、レギオから映像を記録する魔道具も借りておかなければ。


 首は絞められたけど俺の妄想が叶う日は近い。首は絞められたけど……死ぬかと思ったけど……小夜さんってばヒドイよな、わざわざ苦手な光魔法で身体強化して首を掴む事ないじゃん。




 さてさて、今日も朝から良い天気。ぐっどもーにんぐ。


 初日は色々と大変な目に遭ったけど、次の日からは平和な日々が続いた。たまに聖女様と奇跡の少女と面会を求める人が居たけど、小夜さんに全部任せて俺は離脱。それからは乙女ゲームの設定野郎からの強制イベントは発生される事なく、アイスクリームを食べ歩き、チーズ料理を味わい、プリンやタルトを堪能した。この町の近くでは牛を育てているらしく、乳製品が美味しくて安い事が調査で分かりました。乳製品の事なら、是非ともトロメンフィスへ!


 ………あれ?俺、何しに来たんだっけ?



 「この町に来てから5日が経ったけど、魔竜族の襲撃イベントはまだ発生していないみたいね」


 メイドさん達が準備してくれた朝食を今日も優雅に食べている小夜さんが、スプーンを使わずにスープの皿を持ち上げてグビグビ飲む俺に話し掛けてきた。


 ……そうだった、イベントの為にこの町まで来てたんだった。


 「私の記憶では、そろそろの筈。ゲームに流れたムービーには農場近くに咲く白い花が風景として映っていたわ。調べた所、あの植物はこの季節の短い次期にだけ花を咲かせるらしいの。だから、本当にそろそろよ。秋斗君、町はどうだったかしら?」


 「ヤバいよ、露店のアイスクリームは激ウマ。プリンも濃厚で、タルトもサクサクで、チーズフォンデュが食べ放題の店も発見したんだ。しかも時間無制限で激安でデザートも沢山種類があった。あそこの店ってば、よくあんな値段で潰れないなと感心したよ。是非とも王都にも店を開いてほしい」


 「……そういう事では無くて、町の状況。つまり人の流れや、住民達の噂話とかを聞いているのよ」


 「えっ、さぁ?」


 「………」


 ひゅっ  ドスッ!


 「………」ガクガク((( ;゜Д゜)))ブルブル


 俺が座る椅子の背もたれに、小夜さんが朝食用に使用していたナイフを投げて突き刺さりました。公爵家のお嬢様としてどうなの?食事マナーに違反してるというか朝食用のナイフって普通、立派な椅子に突き刺さらないと思う。それ、どうやったのん?


 「……投げナイフ、上手だね」


 「貴族令嬢としての嗜みよ。それより、もう一度尋ねるわね。町の状況はどうだったのかしら?」


 「そ、そういえば初日は人が並んでいた店が、最近では列が無くなってすぐに入れる店が増えたかなぁ」


 「そう、つまりは人口の流通が少なくなっているのね。そうなれば物流も減少し、景気減退の恐れもある。それは、やはり遠方の山に見える黒い影が原因かしら。そうなると近くの町や村にも噂が広がりつつある可能性が高いわね。ご苦労様、秋斗君」


 よく分かんないけど小夜さんの怒オーラが消えたので許されたらしい。


 そういえば〝休店〟と書かれた店も増えた気がする。人の数は分からないけど鎧を着た人がよく見掛けるようになった。最初は騎士や冒険者も町の観光を楽しんでいるのかな?とか思っていたけど違うみたい。どうやら町の警戒態勢を上げ、戦闘能力が高い冒険者などを地方から招集していると教えられた。


 困った事もあって、せっかく集めた戦力の高い優秀な冒険者を護衛として雇い、町から離れようとする金持ちが現れているとの事。緊急で冒険者達を集めたのに、集まった彼らを雇い町を離れられたら元も子もない。しかし、金を積まれてしまうと了承する冒険者も出てしまうらしい。罰則が軽いのが原因だろうとタジルが溜息交じりに教えてくれた。


 Aランクの冒険者として有名なタジル達も何人かの商人や下級貴族から頼まれたと頭を抱えていた。ちゃんと断っているけど、冒険者として商人を敵に回すのは痛いんだって。金のある商人は専属の護衛がいるのだから、その人で我慢して欲しいとも言っていた。


 あと気になるのは……


 「本当に何処に居るんだろうな、フェイの妹さん……」


 朝食を食べ終えて、熱いお茶で一休憩しながら呟いた。


 「乙女ゲームの物語上、てっきりザナファルドが雇われている違法奴隷商に捕らわれているんだと思ってたのになぁ。でも、彼は見てないって言ってるし。どうなってんだ?」


 「だから私は〝レイナリス=ラシュールは魔族領に居る可能性が高い〟と教えたでしょう?そもそも、他国ならともかく、ランブレスタ国内は調べ尽くしたわ。特に違法な奴隷商や、その奴隷を購入した者達は全て。それでも居なかったと書かれた資料を秋斗君にも渡したでしょう?」


 「あんな文字の羅列が永遠と書かれた物を俺が全部読める訳無いじゃん」


 「……」


 うん、あんな文字だけが書かれた紙の束を渡されても一枚読んだだけでギブアップ。アレを全部読めるのは変態だけだ。


 それにしても何で乙女ゲームの物語と違うんだろうな。物語では用心棒であるザナファルドを倒し、違法な奴隷として捕まっていた人達が解放される。その中にフェイの妹さんや母親が助かって感動の再会ムービーが流れていた。そして、フェイが狼人族の新しい長となり、ヒロインちゃんと幸せになる流れだったのに。


 そもそも、この世界のフェイレシルだけがゲームの物語と違う箇所が多い。ゲームでは国に認められた奴隷商に売られていたのに、違法な奴隷商にエルナルドと一緒に捕まっていたし。フェイレシルとレギオールの仲が何故か悪いし。そして、フェイの母親や祖父は見つかったのに妹さんが行方不明。どうなってんの?



 「秋斗君、今日も町に出掛けるみたいだけど気を付けなさい。あのイベントが何日の何時に発生するのかは分かっていないのだから。それなのに大量の魔力を消費するなんて、もう絶対にしないでね」


 今日も始まった、小夜さんの小言。初日の騒ぎから毎日、俺に注意するようになった。さすがに、もう耳にタコ状態。小夜さんのこういう所が少しオバちゃ___ゲフンゲフン。


 「今回のイベントは住民はもちろん、騎士団にも被害が出てしまう重大な事件。それなのに、魔法を使って魔力を消費するとか走って体力が無くなったとか絶対にしないで」


 「……はい」


 「あのイベントが発生してしまったら最大の消滅魔法を必ず成功させなくてはならないのよ。確かに秋斗君の魔力量は非常識だけど人命が掛かっている以上、万全を期して事に当たらなければならないのは秋斗君も分かるでしょう?つまり体力と魔力、共に万全の状態である事。それを消費させる行為は絶対に控えて頂戴……分かった?」


 「………ボソッ(昨日も聞いたッス)」


 「…この屋敷に監禁しても良いのよ?セバスを見張りに付けて」


 「はい、気を付けますです!」


 何て事を言うんだ。人を監禁するのは犯罪行為なんだぞ。


 昨日と同じく、今日も小夜さんからの注意事項をきちんと聞いて俺は了承した。そもそも乙女ゲームのイベント発生力が悪いと思ったけど、そんな事を言ってしまった瞬間に俺の観光エンジョイな日々が終わりを迎えてしまう。


 「秋斗君がやらかした大精霊様の件も、王都に居られる陛下に伝えておいたから早急に対処して下さるはずよ。アレクシスの口も封じられたはず。秋斗君が王都で平和に暮らせているのは陛下の温情であると忘れないでね」


 はぁーお腹いっぱい。今日も良い天気だなぁー。


 「だから絶対に____」


 「失礼いたします、アンジェラお嬢様」


 終らない小夜さんの小言を止めてくれたのは、食堂へ入って来たセバスさんだった。ぐっじょぶ、セバスさん。これで町に出掛けられるかも。


 「……何かしら?」


 「御会談中、申し訳ありません。どうやら騎士団に何やら騒ぎがあった様です。詳しくはマーサが調べておりますが、魔族領域の空に黒い何かが大量に集まりだしたとの事です。おそらくは、もうすぐ避難の為に___」



 ボ――ン…ボ―――ン…



 セバスさんの報告の途中、窓の外から鐘の音が聞こえてきた。町の中央にある時計塔に取り付けられた鐘が鳴っているのだろう。


 「……ミネル」


 「うん、始まったかな」



 攻略キャラ、アレクシスのトラウマイベントが―――――




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