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170話 ※とある用心棒※ Prt.2


 7-25. ※とある用心棒※ Prt.2



    ※ ※ ※ ザナファルド 視点 ※ ※ ※



 聖女アンジェラ。


 噂は俺も聞いていた。数年前、国が聖女として認めた少女で、たしか公爵家の令嬢だった筈だ。そして、この国の王子と婚約者でもあると発表されていた覚えがある。


 聖女アンジェラ様は美しい容姿をしており、誰にでも心優しく、驚異的な光魔法の使い手だと噂されていた。今では、王都で行なわれている聖女様の治療を目的に他国からも大勢の人々が集まるのだとか。


 その世界中で有名となった少女が今、俺の目の前で_____



 「ぐえっ…じ、じぬ……じんじゃう、ア、アンジェ…ラ……」


 「安心なさい、ミネル。人の体はね、この程度では簡単に死なないから」



 ___俺をここまで案内した少年の首を掴み、持ち上げている。


 噂通り確かに容姿は整っているのだが、どうやら誰にでも心優しいという噂は嘘だったようだ。


 今、この部屋に居るのは聖女アンジェラと案内してくれた聖女の付き人だという少年、そして俺。少年と一緒に居たもう一人の彼は屋敷へ入る事を許されずに外で待機している。聖女が滞在しているという屋敷へ到着した時、屋敷の前に執事とメイドが立っていた。そして、その使用人達によって聖女が居るという部屋へと案内された。


 そして部屋に入るなり少年が「アンジェラ~、あのさぁ」と声を掛けた。その瞬間に少年は首を掴まれ、笑顔の聖女に持ち上げられてしまった。結果、今の状況に………




 「さて……それじゃあ、ミネル。今日、この町の広場で小さな子供が立派な木を生やしたというフザけた噂が町中でされている説明をして欲しいのだけど……今の状況から、それは後で聞くとしましょう。それで?今そこに座る彼について何があったのか1から全て詳しく話しなさい」


 「えー、1から~?」


 「……ミネル、天国って素晴らしい所みたいよ?あとで感想、聞かせてね」


 「ワタクシが貴女様に喜んで詳しく説明いたしましょう!」


 彼等の関係性が分からない。少年は付き人だと言っていたので使用人の1人かと思ったが、令嬢に対する少年の態度がおかしい。先程の案内してくれた執事とは全く違う。


 それからは俺と出会った公園から始まり、大精霊ダイアナ様の登場についてを話す少年。その瞬間、少年の額に聖女の手が掴みに掛かる。


 「……は?え、ちょっと待って。は?何を言っているの、ミネル。ごめんなさい、もう一度言って。意味が分からないわ。貴方は今、何て言ったのかしら?」


 「痛い痛い痛い痛い痛いッ、ちょー痛いッ!!割れる割れる、頭が割れるッ!!」


 「アレクシスが居る前で大精霊の召還を?……え?さすがに私の聞き間違いよね?」


 「い、いえいえ、良い耳をお持ちですよギィャあぁぁぁぁぁーーーー!!!!」


 やはり、あの御方は大精霊様で正解だったようだ。そして泣き叫ぶ少年をポイッと捨てた聖女が立ち上がり、急いで部屋を出て行った。


 「……大丈夫か?少年」


 「へ、平気。俺にはチートな回復方法があるから……」


 〝チート〟という言葉は分からないが、どうやら大丈夫みたいだ。




 聖女は部屋を出て一時間くらいで戻って来た。


 「まったく……情報を規制する人の立場も考えなさい。陛下がどれ程、厳重に情報規制や操作をしていると思っているの。そこの貴方も、この子が大精霊様を召喚した行為を誰にも教えてはダメよ。もし、それを誰かに教えた場合は覚悟することね」


 「……殺すか?俺には脅しにもならんぞ」


 「そうね……死ねれば楽になれるのにね」


 俺の隣に居た少年が「ひぃっ」とプルプル震えた。俺も背中にゾクリッとしたものを感じ、右手が震えている。この少女は、なんて冷たい目ができる。まだ歳若い少女がする…いや、できる目では無いだろう。俺は、この少女に逆らう事無く了承した。



 「それで?ミネルを殺そうとした犯人を、どうして此処へ連れて来たのかしら?説明なさい」


 「その事なんだけどさ。アンジェラ、ちょっと………」


 少年はそう言って聖女を部屋の端へと連れて行き、二人でコソコソと話し始めた。おそらくは俺の病気についてと、彼女に俺の治療を頼んでいるのだろう。時々、聖女が「本気?」とか「そういえば」とかの言葉が聞こえたが、それ以外は何も聞こえなかった。そして、密談を終えた二人が戻って来る。


 「事情は聞いたわ。ええ、理解しました。ミネルが貴方の治療を求めているのであれば私は反対しないわ。ですが、1つだけ約束して頂ける?」


 「……何をだ?」


 「完治の願いが叶った後、残りの人生は決して善良な者を殺さないと誓って下さい」


 「……あぁ、分かった。法によって裁かれる判決が死でなければ、これからは真っ当に生きる事を約束し、ここに誓う」


 「そう……なら、あとで契約書を準備させますので書名して下さい。もちろん、ただの契約書では無く特別な物ですけど」


 「分かった」


 「それと、貴方は法によって裁かれる事はありません。貴方の身柄はコチラで引き取る事になりましたので」


 「………………は?」


 聖女の言葉が理解できずに俺は固まってしまった。


 「ちょ、ちょいちょい!はいはいはーい!アンジェラ、アンジェラ、どゆ事!?俺、初耳なんですけど!?」


 少年も驚いたのか、右手を挙げて聖女に尋ねる。


 「彼が騎士団に連行される事は無くなり、彼の身柄はモンテネムル家が預かる事になったというだけよ」


 「そんな事ができるのか?ザナファルドってば犯罪者なんですけど?」


 「ミネル、覚えておきなさい。大抵の事は金と権力でどうとでもなるものなのよ。これは世界の真理と言っても過言では無いわ」


 「……」 「……」


 女神のような素晴らしい微笑みで言う聖女の言葉だが、内容がとても酷い。隣に居る少年も絶句しているのが分かった。


 「さて、それでは治療を開始しましょうか。施術中は後ろを向き、決してコチラを見てはダメですからね。あと………こちらを」


 「……耳栓?」


 「ええ、そう。耳栓をして下さい」


 「…何故だ?」


 「理由はお気になさらず、こちらの都合ですので。さぁ、どうぞ」


 「あ、ああ、分かった」


 聖女から耳栓を受け取り、耳に装着しようとした時に少年から「あっ、ちょっと待って」と止められた。


 「ザナファルドさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど。貴方が働いていた奴隷商に10歳くらいの獣人で、狼人の女の子は居なかったかな?髪は白銀で黄色い瞳をしてる女の子」


 獣人で10歳くらいの女の子?少年に尋ねられ暫く記憶を探ったが、その子の記憶は無かったので首を振った。


 「いや、記憶には無いな。何人か獣人族を見た憶えはあるが、狼人は昔に何人か居たくらいで皆が子供では無く大人だった」


 「ほ、本当に?」


 「ああ、本当だ」


 「あれー?」


 少年は首を傾げて不思議に思っていたが、白銀の髪ならば目立つだろうし俺は見ていないと確信している。


 少年との会話を終え、聖女に背を向けてから耳栓をする。何も聞こえなくなり、視界に映るのは部屋の入口にある扉だけ。それから少し後に光が溢れ、部屋中を照らした。とても暖かい、優しい光だ。


 しかし、俺はまだ期待はしていない。今まで何人も、この病を治すと言っては莫大な治療費の支払いを求めてきたからだ。結局は治せず、自分を治癒術師や治療師と名乗った奴等は金だけを持って逃げて行った。


 だが、もし…もしも、この聖女が俺を苦しめている病を治せたならば……俺は――――――




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