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165話 不運な一日 Prt.3


 7-20.不運な一日 Prt.3



   □ ■ □ ■ □ ■



 アレクシス=D=ベルセネス。ランブレスタ王国騎士団長の一人息子。


 他国でも最強と名高い騎士団総隊長を父親に持ち、それを誇りに思っている。有名な父親に恥じぬよう、小さな頃から剣術に没頭し、己を鍛えてきた。


 わずか11歳の頃、剣術の練習試合で現役の騎士に勝つという武勇伝がある。だが13歳の時、騎士見習いでの遠征任務中に仲間の一人が彼を庇い、死んでしまうというトラウマ持ち。


 戦場での油断が原因で仲間を死なせてしまったと思い詰める彼は、より一層に剣術を磨く。しかし、何年経とうとも自分を庇って死んだ仲間の事が忘れられないでいる。


 魔王討伐隊に選ばれ、ヒロインと親交を深める事により悲しい過去から前へ進む事ができる。




 属性の主軸は『土』。他に『火』と『水』の属性が可能。


 得意武器は『盾』。近距離防衛型。


 攻略難度はA~Dでいうと、C級。彼と共に、死んだ騎士の墓を訪れれば好感度が大アップする。



   □ ■ □ ■ □ ■




 攻略パーティーで唯一の防御特化型、それが彼だった。


 乙女ゲームでは、どの戦闘でも壁役として彼を使用する。彼だけが盾の装備が可能で、その分の防御力が加わり守備力がどの仲間より飛び抜けていたからだ。


 たまにYouTu○eで彼をパーティーから抜き、タジルとスザクの回避特化型を壁役としている動画が流れていたけど、それは本当に上級者がする事。RPGに慣れていない人はアレクシスを盾役にするのが安全だ。


 彼が盾役として優秀なのは防御力だけではない。


 父親である騎士団長と同じで、アレクシスは大地に接触している限り自動で自然治癒効果が発動するスキルを持つ。なので彼と戦闘する場合は建物の中か船の上など地面から離れた場所で戦った方が良い。マジで耐久力があり過ぎるから。


 そういえば、彼の守護者も有名だったなぁ。


 最強武器を手に入れる事で使用できる守護者降臨。彼の守護者は忘れもしない、あの有名な『孫悟空』だった。


 ………そうだよなぁ、すんごい違和感。地球では有名な人物像だけど、この世界で孫悟空って……。まぁ、この世界は日本制作のゲーム世界だし、と思うけどやっぱり違和感がハンパない。もちろん、その守護者の孫悟空さんは乙女ゲームの登場人物なので超美男子に描かれていた。残念な事に、守護者には声が無かったけど。


 そこで1つ、思う事がある。俺の、というかヒロインの守護者を俺は知らない。そして攻略キャラ達の守護者、タジルの神鳥、フェイの天狼、そしてアレクの斉天大聖…………鳥、犬、猿とくれば、もしかして俺の守護者は、あの有名な桃から産まれる太郎さんかもしれない。製作者が、そこまでバ……おちゃめではないと信じたい。








 「凄いな、君は」


 攻略キャラのアレクシスが上空を見上げながら呟いた。


 「まるで猿の様だよ。ちゃんとした人間として地面に降りて戦おうとは思わないのか?」


 守護者が猿のお前に言われたくねぇ。


 俺は今、壁と壁との間を跳び交っている。まさに気分は忍者。スパイアクションのゲームみたいに壁から壁へと移動して地面に降りる事無く空中にいた。アレクシスと出会った広場から、狭い通路がある方へと逃げて彼をおびき寄せたのだ。


 「遠慮しま~す!どう見ても、お前ってば近距離戦闘型じゃん。悔しかったらお前も遠距離攻撃してみろよ」


 壁を蹴り、風魔法を駆使して体を浮かせながら下に居るアレクシスを挑発。


 「卑怯者が考えそうな作戦だな。いや、臆病者と言った方がいいのかな?」


 「卑怯、臆病で結構!勝てば正義なのだよ、チミ。勉強になったね!」


 「小悪党風情が……」


 バカめ。俺が真剣に立ち向かうと思ったか?そんな事しねぇよ、お前が持ってる剣ってば痛そうだし。


 乙女ゲームをプレイしていた俺は知っている。アレクシスの強みは全て大地に関係している事を。ゲームの初期段階で、彼は既に〝大地に接触している限り自然治癒効果が発動される〟というスキルを所持していた。だから、たとえ今の13歳の彼でも既にそのスキルを所有していると考えた方が良い。


 そして、俺はアレクシスの弱点も知っている。それは、遠距離攻撃が苦手という事。ゲームでは、彼にも遠距離攻撃が有るには有るのだが、敵キャラが地面に接触していないと発揮されないというものばかり。つまり敵が飛行体ならば攻撃不可能という事。それがアレクシスの弱みだった。だからこそ今回のイベントである魔竜族相手に苦戦するハメになるんだけど。


 現に今、壁と壁とを跳び交い地面に降りる事の無い俺を、彼は攻撃できずにいる。最初は落ちていた石を投げていたようだが、俺の周りにある風の壁に弾かれた。今はもう諦め、魔力が消費して時期に降りて来るのを待っているようだが、ヒロイン設定がある俺にとって長時間の空中維持は可能だ。さすがはヒロインちゃんの魔力。




 「鬼はぁ、外ぉ!!」


 俺はマジックバックからポメポの実が入った袋を取り出して、袋ごとアレクシスに投げつけた。


 投げ出された袋は、空中で中身が飛び出して散らばる。そして、ポメポの実が広範囲に広がった。アレクシスは持っていた剣で自分に当たる実だけを見切り、全て切り裂いて防いだ。どんな動体視力してんだよ、ハイスペック攻略キャラめ。


 美味しい食べ物をもったいない事してしまったが、これは緊急事態という事で諦める。また買いに行こう。辺りにポメポの甘い香りが漂い、アレクシスの周りにポメポの実が転がっているのを見て俺は準備が完了した事を知る。


 俺は壁に着地して、某映画で見た蜘蛛男の様に張り付いた。スザクが得意としていた闇魔法の影縛りを応用すれば可能。自分の影と自身の体を貼り付け、横向きが地味に気持ち悪いが維持する。そして、俺の事を小悪党呼ばわりした単純バカさんに向けて光魔法を発動させる。商店街で俺に危害を加えようとした自称冒険者達を捕えた方法でアレクシスも捕えにかかる。


 樹魔法の≪フォレスト・ウィップ≫よりも頑丈さは無いが、数が違う。あれだけの種が地面にあればアレクシスも捕えられるかもしれない。


 俺の魔法により地面にあった種が芽吹き、樹となる過程でアレクシスが状況に気付いた。自分の周囲で育つ木々に危険を察知した彼は何処かから盾を取り出し、その盾で自分を襲う全ての木々を弾いてしまった。


 最初、アレクシスは得意とする盾を持っていなかったから余裕で勝てると思っていた。しかし、まるで某アニメの猫型ロボットみたいに大きな盾を取り出した。そうだった、忘れてたよ。この世界では〝マジックバック〟というチートアイテムが流通しているんだって。


 しかし、困った。アレクシスが盾を装備してしまったら俺の攻撃は通じない。彼の盾スキルはチート級だから。



 「先程から、君の攻撃には殺気というモノが感じられない。自分を侮っているのか?」


 自分?あぁ、そうだった。アレクシスは自分自身の事を〝俺〟や〝私〟ではなく〝自分〟と呼ぶんだっけ。でも、正直分かりづらい。関東では自分自身の事を指す言葉だけど、関西では相手の事を指す呼び名だからな。


 「だからぁ、俺は誘拐犯じゃないってばさ。何度も言わせんなよ!」


 「ならば何故、今も自分に攻撃を続けてくる?」


 「お前が俺に剣を向けてくるからだろうがっ!!」


 もう、コイツにだったらお婆ちゃんも許してくれると信じてズビシッ!と指差してやった。


 なに自分は被害者ですぅ、みたいな顔してんだよ!先に刃物を向けて来たの、お前じゃん!善良な一般市民である俺に!しかも犯人扱いしたあげく、斬りかかって来たのもお前が先だかんな。俺、武器持ってなかったのに。


 「では、まずは平和的に話し合いをしないか。その為にも、まず降りてきたまえ。そうすれば自分も剣を鞘へ収め、攻撃態勢を解除すると約束する」


 「先に剣を向けてきたのはお前なんだから、まずはお前が先に剣を収めるべきでは?」


 「む……なるほど、そうだな」


 あ、やっぱ単純。


 でもまぁ、お前が剣を持っている状態で俺が地面に降りると思うな。そんな危ない事を誰がするか。これはビビッている訳ではないぞ、慎重なのだ俺は。


 彼が「これでいいか?」と剣を鞘に納めたのを確認して、俺は地面に降りた。でも話し合いと言ってもなぁ、コイツ相手に無実を勝ち取るのは難しい。乙女ゲームでも王子と一緒に悪役令嬢アンジェラの言い訳を断罪していたのコイツだったし。あ、いや、あの時のアンジェラは無実ではなかったけど。


 「では、君が誘拐犯ではないという主張を聞こう」


 腕を組み、俺を睨んでくるアレクシス。


 ですよねー、俺はまだ容疑者扱いみたいです。でもさぁ、普通その前に自己紹介とかしないの?俺はお前が見習い騎士だと乙女ゲーム情報で知ってるけど、普通だったら自己紹介しないと〝お前誰よ?〟とかなるだろう。


 「俺は誘拐を目撃したから犯人達を捕まえた善良な市民なんです。悪党を大人しくさせた所にお前が来たの!つまり地面に倒れている男達が本物の誘拐犯で、俺は何も悪くない一般市民なんだよ!」


 「その証言が偽りでは無いという証拠は?」


 「証拠?証拠……ん~……な、なら俺が犯人だっていう証拠はドコにあんだよ!」


 「自分が目撃したのは地面に座りこむ君の姿だった。そして近くには縄で縛られている子供や大人の男女計8名。唯一、縄に縛られず自由の身であり、気を失っていないのも君だけという状況。よって犯人は君以外に考えられないと判断した」


 「うっ……」


 うん、確かにそれは怪しい……かも?


 「ちょ、直接、俺が縛っている場面を見た訳じゃないだろう?もしも、たまたま現場を発見して生死の確認をしていた善良な市民だったらどうすんのさ?」


 「ふむ、なるほど……その可能性も確かに考えられるな。申し訳ない、自分の早計な判断で君には多大な迷惑を掛けてしまった。しかし、その場合、犯人達はどこへ……」


 「いや、まぁ、あの大人達を縛ったのは俺で当ってるけど」


 「貴様、騙そうとしたのかっ!?」


 なんで、そうなんの!?


 今のが例え話だって分かるだろう!?俺、〝もしも〟って言ったよな!?もう、やだコイツ。意味分かんない。どんな被害妄想だよ……


 アレクシスが俺を睨みながら、先程鞘に収めた剣に手を添えた。俺も光の精霊さんに協力してもらい結界を張り防御体制を整える。第二ラウンド開始か?と思っていたら聞き覚えのある声が俺達を止めた。



 「はい、そこまでぇ!二人とも、止まれ」



 パンパンと手を叩きながら俺達を止めた人物。その人物が居る方へと目を向けると、そこには見覚えのある弓を持った男性と大剣を装備した男性が立っていた。




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