163話 不運な一日 Prt.1
7-18.不運な一日 Prt.1
次の日の昼前、やっと目的の町が見えてきた。
王都ランブレスタから北東にあるこの町の名前は『トロメンフィス』。この町一番の特徴は、町の中央にある大きな時計塔だ。まだ町から離れているこの場所からでも、あの大きな時計塔が見えている。
「そういえば小夜さん、小夜さん」
向かいの席に座り本を読んでいた小夜さんに話し掛けた。動いている馬車内で本なんか読んで、よく酔わないよなぁ、と感心する。
「なぁに?」
「あのさあのさ、イベントの前に町を観光__じゃなくて、町を調査してきて良いかな?いざという時に何が何処に美味しい食べ___じゃなくて、何処に住民達の避難場所があるのか確かめておかないとだろ?そんで町の探検___じゃなくて、雰囲気や状況が今どんなのかも調べなきゃだし、お土産__じゃなくて、戦闘につかえそうな道具とかもお店で確かめといた方が良いよな?」
やっべ、興奮の余り本音がダダ漏れだ。でも、王都から離れて遠出をしたのは何年ぶりかの事だから仕方ないよな。
「はぁ……秋斗君に緊張感は無さそうね。ええ、別に見てきても構わないわ。でも、迷子にならないよう気を付けてね」
「あり?小夜さんは来ないの?」
「私は遠慮するわ、少しする事があるから。お供が必要ならセバスを連れて行くと良いわ」
「あ、大丈夫、1人でも平気だし。だけど、する事って何?俺は手伝わなくて良いの?」
「ええ、大丈夫よ。内容については秘密」
小夜さんはそう言って、また本の続きを読み始める。本の題名をチラッと見たけど、なんとか構成術式についてとか書かれてた。題名を読んだだけで吐き気と頭痛がする。
と、いう訳で……俺は自由である!
無事にトロメンフィスの町へ到着し、門番達に聖女様用に用意されたという屋敷へと案内された。屋敷へ到着した俺達は馬車から降りて、荷物を使用人達に運んでもらった。そして、うっとおしいカツラを脱ぎ捨て、ヒラヒラしたドレスも脱ぎ捨てる。
今回、泊まる屋敷で俺専属の執事になったセバスさんに町へ出掛ける事を告げ、マジックバックから久々登場の『闇の衣』を取り出して姿を隠し、俺は裏口から町の商店街へと出発した。
短パンにTシャツに小さめのジャケット。少し汚れていた方が良いとセバスさんからアドバイスをもらった。綺麗な服を着ていると悪い連中に絡まれたり、スリに会うかもしれないとの事。今の俺の姿は、いかにも〝お金の無い子供〟だ、町に馴染みやすい。
町の商店街に到着し、どのお店から調査をしようか悩み中……と思っていたら美味しそうな肉の焼ける香りが俺の嗅覚を刺激する。右斜め10メートル、焼き肉の露店を発見!急ぎ向かわれたし!
俺は本能のままに従い、露店でとりあえず10本程の串焼肉を購入。ヒロイン設定のおかげなのか、俺は太る事が無いらしいので今日は爆食いする予定だ、ゲーム世界最高!
………と、はしゃいでいた時もありました。
さて皆さん、ちょっと困った状況になりもぅした、助けてくんろ。
「テメェ、このガキがぁ!タダじゃおかねぇぞ!」
「分かってんのか、このクソガキが!テメェのせいだぞコラァ!」
「どうしてくれんだぁ!?責任とれや!!」
俺の前には3人の頭が悪そうな……ではなくて人相が悪そうな男達。周囲の人達は俺達から離れ、面白半分に見ている人と心配そうに見てくれているご婦人達などから注目されています。
ここは、俺が食べ物を爆買いしていた商店街の広場。そこで武器を装備している男達に俺は怒鳴られていた。
………なんで、こんな状況になってしまったんだろう?
皆さんは、この地方で採れる〝ポメポの実〟という果物を知っているだろうか?実はこの状況、1つの〝ポメポの実〟が原因で引き起こってしまったのだ。
果物屋の店主から「美味しいよ」と声を掛けられ味見を勧められた。なんか、すんげ~美味かったから2袋分購入して両手で持つ。両者ホクホク顔で別れ、両手が塞がった状況では〝ポメポの実〟が食べられないと気付いた俺は1袋をマジックバックに収め、左手に袋を持ち、右手で美味しい〝ポメポの実〟をモリモリと食べながら商店街を食べ歩く。
そしたら俺の後ろで何か騒いでいるのに気が付いた。すると、人々の間を上手にすり抜けていく1人の男性を発見。ニヤニヤと笑うその男性が俺を追い抜き、人々が行き交う流れの中へと消えて行った。
その後すぐに、また後ろから怒鳴り声を上げながら走って来る男性達を発見。なんか「待てや、こらぁ!」とか「返せ、この野郎!」とか叫んでいるので借金取りか何かかな?
そんで巻き込まれたくない俺は、周りの人達と同様に道の端へと移動する。しかし、ここで問題が発生した。俺はとてもクシャミがしたくなった。先程、走って行った男性のせいで砂埃が舞い、それが俺の鼻をくすぐるのだ。あと、この季節に短パンは少し寒かったのかもしれない。
「……ふぇ……クシュン!」
耐えられなくなり、我慢する事無く解放。すると俺が持っていた袋から〝ポメポの実〟が一個だけ地面に落ちてしまい転がっていく。しかも道のど真中へ。急いで拾おうとしたけど、見事にコロコロと転がるポメポの実。そして、走って来た男達の前へと到着し、止まった。
なんの因果か、見事に果物を踏み潰した男はツルンと滑り、後方に居た二人を巻き込み大転倒。
そして男達は追っていた男性を見失い、原因となった果物がこの地方では有名な〝ポメポの実〟と分かり、近くで大量に〝ポメポの実〟が入っている袋を持つ俺を発見して睨んできたのだ。
瞬間、俺の周りからザザザッと人々が離れ、怒った三人の男達が怒鳴りながら此方へとやって来た。
結果、今の状況が完成しました。
「テメェのせいで盗人を取り逃がしたじゃねぇか!どうしてくれんだ、このガキが!」
おや、この人相が悪い人達は借金取りでは無かったようだ。どうやら、さっき逃げた人に何かを盗まれた可哀想な被害者だったみたい。
「どう責任を取ってくれんだって聞いてんだよ!なんか喋れや、このクソガキ!」
「どうも、すいませんでしたー」
まず謝る、これ大事。
小学校の先生が教えてくれたように、まず謝る。しかし、男達は「謝って済む問題じゃねぇ」とまだ怒っている。それならばと、お詫びとして俺が持っていた〝ポメポの実〟を差し出すしかないだろう。また買えば良いし。
「詰まっている物ですので、お詫びにどうぞ」
「こんなもん要らねぇよ!そんなんで済む訳が無ぇだろうが!!」
「あっ!」
まだ30個くらい入っていた果物の袋を、悪党の1人が払い落とした。俺の手から袋が地面に落ち、中に入っていた美味しい果物達が地面に散らばっていく。
「テメェ、このクソガキが!俺等が盗まれたのはB級魔獣の大切な討伐部位なんだぞ!?ギルドで換金するはずだったのによぉ。依頼の成功報酬も台無しだ!どうしてくれんだテメェ!」
男は怒鳴りながら地面に転がった果物達を踏み潰していく。
ひどい……俺、謝ったじゃん。そもそも、B級の魔物を倒せるくせに道のド真中にあった果物に気付けなくて見事に転んだのはお前じゃん。本当にB級魔獣を倒せるほどの実力者なのか?
「ちょいオメェ、俺等に着いて来いや。責任を取らせてやるからよ」
俺に近寄ろうとして、また地面に落ちてるポメポの実を男達は踏み潰した。
………許せない
「……【光の雨よ・小さき種に・祝福を ≪プラネット・シャイン≫】」
俺は光魔法の植物成長効果を発動させた。
植物の成長魔法は樹属性での促進魔法が有名だが、光魔法の効果の方がより高く、成長速度も速い。魔法の効果範囲は彼等に踏み潰されてしまったポメポの実がある場所。
男達が踏み潰したポメポの実には沢山の小さな種があると店主さんから教わった。その種は柔らかくて食べられるし、ツブツブして美味しいよと言われていたので俺は種ごと食べていた。
今、その種は男達の足元に大量にある。そして俺は、その種全てを魔法効果範囲に指定して発動。種を急成長させた。
王都から着いて来てくれた光の精霊達も、俺の怒りを感じとったのか協力してくれた。樹の精霊達や面倒そうにしている土の精霊達も俺の為に魔法の補助をしてくれる。
「うおっ、なんだこりゃ!?」
「くそっ、離せ!なんなんだよ、こりゃぁ!?」
うわ~お、美味しそうなポメポの実が沢山実ったぞ。とても見事な木が商店街にある道のド真中にできてしまったけど。
木の幹等に絡まって宙ぶらりんとなっている男達がポメポの実の隣で騒いでいる。やっぱりB級の魔物を倒せたなんて嘘じゃないか?避ける事も、防ぐ事も出来なかったぞい。
木に絡まり騒ぐ男達を見ていると、遠くの方から鎧を来た人達がガチャガチャと音をたてながら此方へと走って来るのに気が付いた。
やばいな、と思い逃走を開始。走り出した俺の後ろでは木に吊るされた男達が「テメェ、逃げんな!」と騒いでいたが、もちろん無視する。だって衛兵とかに捕まったら小夜さんから怒られるし。
さて、ある程度の距離を保てた所で路地裏に隠れ、マジックバックから〝闇の衣〟を再び出す。このレアアイテム、日ノ国で入手しておいて本当に良かったよ。超便利!
俺の事を認知する事が難しくなり、追い駆けて来た鎧の人達が路地裏に隠れる俺に気付く事無く何処かへと走って行った。
とりあえず安心。少し走って疲れたので家と家との間にある木箱の上に座り一休み。やれやれ。
だが、休憩していた俺に不穏な声が聞こえた。
〝うわぁぁあ!!〟 〝誰か助けてぇぇえ!!〟 〝みんな、逃げろぉおお!!〟
……あー、なんかデジャブった。
幼そうな声で必死に叫ぶ声は子供だと分かる。なんか昔もこんな事あったなぁ、と思っていたら大人達の声で〝大人しくしねぇと、ぶっ殺すぞ!〟という危ない声も聞こえてきた。
声がした方向を見れば、精霊達が路地裏の奥を必死に指差していた。
先程の声は、前にも経験した通り風の精霊達が俺に声を届けたみたいだ。そして、前回と同じく精霊達は俺の髪の毛を引っ張りだす。この助けを呼ぶ声を無視すれば俺の毛髪は確実に死滅していくだろう。
………うん、分かってる。行くよ、行けば良いんだろう。
俺は肩を落としながら、トボトボと路地裏の奥へと歩きだした。待っていろ~今助けに行くぞ~、と気落ちした体に気合いを入れながら進んで行く。