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162話 残してきたもの


 7-17.残してきたもの



 俺達を連れた騎士団の遠征が、王都ランブレスタを出発してから数日が過ぎた。その数日間、野営時などで俺の事が騎士達の間で噂となっている。



 ___あの白いドレスの少女が噂の?


 ___聖女アンジェラ様と仲が良さそうだが、あの少女も貴族なのか?


 ___いや、貴族ならばパーティー等でもっと有名になっているはずだ。


 ___だが彼女は1年前、王城で開催された前夜祭に出席をしていたと聞くぞ?貴族なのは確定だろう?


 ___分からん。騎士団長様の説明では、名が〝ソフィ〟というだけなんだ。他に詳しい情報は教えられていない。



 風の精霊達の協力で、今日も騎士達が小声で噂しているのを盗み聞き。チラチラと俺を見て来るから気になって何を言ってるのか確かめている。


 どうやら国王のユナイセル陛下と騎士団長のガイアードさんは、約束通りに俺の情報を隠してくれているみたい。〝こっそり〟の約束を破っていたから少し心配だったんだよな。


 そういえば今回の遠征に騎士団長さんは居ない。それも乙女ゲームと同じ。どうやら騎士団総隊長ともなれば王都から簡単には離れられないらしい。騎士団を取り締まっている重要人物だし、国王を守護する最後の砦だからな。


 そして、今回の任務には騎士団長の息子さん、つまり乙女ゲームで攻略キャラだったアイツが参加しているはずだ。確か騎士見習いとして参加しているんだよな?ドコに居るんだろう。


 野営の為にセバスさんが用意してくれた椅子に座り、モグモグと夕食のパンを食べながらキョロキョロと彼を探す。だけど、残念ながら彼を見つける事は出来なかった。夕食時、騎士達は仲が良い仲間とで集まり食事をしているのだが、騎士見習いの彼は何か雑用を任されているのかもしれない。


 数日が過ぎたけど、騎士達が多くて彼をまだ見付けられていない。アイツがゲーム通りにこの遠征に参加しているのか少し心配になった。




 その後、食後の運動の為か、騎士達が木刀での訓練が自主的に行なわれた。


 俺は食後のお茶を頂きながら彼等の訓練を拝見。みんな、食後の休憩は大切だよ?お腹が痛くなっても知らないぞ。


 …………木刀での訓練かぁ。そういえば、ルッソとルードは元気にしているかなぁ。2人が剣の訓練をしているのを、こうやってボンヤリと見ていたっけ。懐かしい。


 友人の2人からの手紙は数ヶ月に一度届くけど、彼等の所持金が心配。王都のような遠くに手紙を届けるには結構なお金が必要になるからだ。どうやってるのかは知らないが、魔物や盗賊などの被害が無いように安全確実に届けられるのが売りらしい。そのせいで地味に財布に痛いが、それでも自分達の無事や今の状況を知らせてくれるのは嬉しい。俺も喜んで友人達に返事を書いている。


 その友人達とも、もうすぐ会える。楽しみだ。



 「ソフィ、騎士の方から明日には目的の町に到着すると教えて頂いたわ。だから今回のイベントについて最終チェックを行なっておきましょう」


 小夜さんが一際大きいテントから出てきて、俺の居る場所へとやって来た。


 あの大きなテントでは騎士団の部隊長とか偉い人達が会議を行なっている場所で、俺には理解出来ない言葉で作戦を練っている。あのテントから話し声が聞こえてたけど専門用語ばかりで意味不明だった。そんな作戦会議に出席していた小夜さんが今日の会議を終えて外に出てきた。


 小夜さんは紅茶を準備してくれたマーサさんに少し離れているように命じ、目的である町の地図を机に広げた。


 「今回の標的は乙女ゲームで知っている通り、町を襲う〝魔竜族〟。だけど、今回のイベントではゲームのストーリーだった〝聖剣〟での制圧ではなく、私と秋斗君で最上級の消滅魔法での殲滅。そこまでは良いわね?」


 「あのさ、あのさ、殲滅ってさ、本当に殲滅させて良いのか?ゲームでは〝魔竜族は魔族領域まで吹き飛ばされた〟っていう物語だったけど」


 「ええ、別に良いんじゃないかしら。魔竜族は自分達が魔族で一番強いと証明する為だけに町の住民達を殺戮しようと考えているのよ?そんな愚かな獣達は全員死んでもらった方が世の為なの。人族の町に攻め込んで来るのだから死ぬ覚悟もあるでしょう」


 小夜さんの言いたい事は分かる。でもさ、そこら辺に居る魔物と違って魔竜族は〝人〟に化ける事が出来たんだ。相手が魔族だと分かっていても、姿が〝人〟になれる生き物を殺すのは俺は苦手だ。


 「確か、今回のイベントには魔王軍の幹部が関わっていたわね。なら、魔王の力が復活する前にあの幹部を排除できれば上々よ」


 ごめんよ、この乙女ゲームをプレイしているファンの皆様方。どうやら、また乙女ゲームでは有るまじき『ピー――』という規制音やモザイクを多用しなければならない風景が発生するみたいだ。どうか、俺には炎上コメントを書き込まないで下さい。俺ではなく、小夜さんが全ての責任を持ちますです。



 「ゲームではさ、この任務に騎士団長さんの息子さんが居るって事になってたけど小夜さんはもう彼を見掛けた?」


 「いえ、私もまだ見ていないわ。だけど是非、秋斗君と彼との初めての出会いは拝見したいわね。とっても運命的なのを期待しているわよ」


 それは、つまり次回作の聖書(BL本)の参考としてだよな。


 だ、大丈夫だ、俺!この世界は乙女ゲームの世界なのだから、男の俺よりも女の小夜さんの方が運命的な出会いをするかもしれないだろ。ゲームをプレイする乙女達は男と女の出会いを期待しているのであって、男と男が運命的な出会いを展開する筈がない!





 「そーいえばさ、だいぶ昔に小夜さんから聞いたけど、旦那さんに内緒でアパート借りてBL本を大量に保管してたんだよな?その部屋って小夜さんが亡くなってから、どうなったんだ?」


 確か結婚してからは、旦那さんには知らせていない秘密のアパートを借りてBL本を収集してコレクション部屋にしていたと言っていた。小夜さんが亡くなってからは、その魔部屋はどうなったのだろうと気になった。


 「あぁ、懐かしいわねぇ。確か、あの部屋についても神みたいな存在に聞いた覚えがあるわ。結局、旦那にはバレちゃったみたいよ」


 「そうなんだぁ、旦那さんはビックリしただろうなぁ。なんたって給料の4分の1だっけ?を使ったコレクションの量だもんなぁ」


 俺が「旦那さん、可哀想に」と言った後、小夜さんが「ふふふっ」と笑い出した。


 「ん?なに?」


 「ふふっ……その事なんだけどね、秋斗君。なんか、少し素敵な事になっているみたい」


 小夜さんが片手を口元に当て上品に笑う。その姿を見た遠くに居る騎士から「可憐だ」とか聞こえたけど、見た目で騙される騎士のようなので心配になった。


 「……素敵な事って?」


 「旦那は私の遺品から秘密のアパートの鍵を見付け、最初は不審に思って調べたらしいわ。まさか浮気?とか、そんな訳無いのにね。旦那は頭が良いくせに、たまに馬鹿なのよねぇ」


 「ふむふむ、それで?」


 「秘密のアパートが何処なのかを発見して、そのアパートに乗り込んだみたい。それで、旦那に私の秘密がバレたみたい。その部屋にある全ての本棚にはBL本が納められ、壁にはBLポスターが張られ、BLCDの棚なんかには唖然としていたらしいわ」


 「うわぁ…………」


 「コレクションの中には男性キャラのフィギュアとかも集めていたわねぇ、懐かしいわぁ」


 「そ、それで、旦那さんはどうしたの?」


 「それでね、旦那はその処分に困り果てたらしいのよ。捨てるにしても愛する妻が何年も掛けて一生懸命に集めたコレクション。捨てるには胸が痛い」


 「う~ん、確かに難しいのかな、その状況では」


 「そして考えた結果、愛する妻が好きで集めた『BL』というモノを捨てる前にせめて一度だけでも読んでおこうかって事にしたみたい。私、愛されてたわって感じちゃった。それで、うちの旦那は_____」


 「旦那さんは?」


 そこで小夜さんはニッコリと笑った。



 「見事にBLの世界にドハマりして私のコレクションがある、あの秘密のアパートを受け継いでくれたの。ね?素敵な話しでしょう?」


 「恐ろしい話しだよっ!!!!」


 なんて事だ、旦那さんはBL世界へと旅立ってしまい戻ってこなかったのか。なんて恐ろしい遺産を残したんだ、小夜さん。経済力がある旦那さんだからコレクションも増え続けるだろう。コレクションしておける保管場所が増える可能性だってある。な、なんて恐ろしい遺産だ。




 秘密のアパートはその後、旦那さんから息子へと受け継がれ、BLコレクション専用の家が建築される事をミネルは知らずにすんだ。




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