016話 ※タジル※ Prt.2
16.※タジル※ Prt.2
※ ※ ※ 攻略キャラ タジルマース 視点 ※ ※ ※
本隊と離れてしまったせいで俺達は武器での魔物討伐となった。ミネルがくれた塩は全部、東部隊に置いていたからな、仕方がない。
初めに本隊から離れた冒険者達は俺等から注意を受け、今は本隊の方へと逃げている。そして俺達は、彼等が無事に避難できるように魔物達を引き付ける。
「ああぁ、クソ。あのマヌケ冒険者共め。帰ったら説教してやるからなっ!」
「タジル、今は手を動かして!少しずつ後退するわよ!」
「ああ、分かってるよチクショウ」
苛立ちと共に魔物を両手に握る短剣で切り捨てていると、後方で弓矢による支援をしていたトリアから指示がきた。それを苛立ちと共に了承する。臭いしジメジメすし、本当に最悪だ。
トリアからの指示に従い、俺達は魔物達を退けながら少しずつ後退していった。その時___
「アナタ方ですかな?ワタシの可愛い死霊共を倒しに来たという者達は」
魔物達が居る場所の上空から声がした。どこか気味の悪い声で、耳障りな声。俺達は魔物を斬り伏せながら、声がしたであろう空を見上げる。
そこに見えたのは、空に浮かぶ黒いローブだった。本隊から照らされた光で見えたのは黒いローブ姿の骸骨だった。その姿と登場の仕方から、いかにも親玉って感じがする。
「これ以上、死霊共を減らされては困りますね。ですから、まずはアナタ方から消えて頂きましょうか」
相手は確実に敵。一番近くに居た俺達に標的を定め、殺気を放ってきた。
クリスとトリアが弓による攻撃をしようとしたが、距離がある為に骸骨野郎の方が早かった。奴は自分自身の頭上にまで腕を上げ、何やら呪文を唱えている。おそらくは魔法、面倒だな。
骸骨野郎の上に、黒と紫が混じり合った色をした球体が出現する。その球体から奇妙な音が辺りに鳴り響く。
「亡者の嘆きで呪われるがいい」
あぁ、うっせぇ!頭にガンガンくる!トリアとクリスが聞こえる騒音に顔をしかめながらも矢で骸骨野郎を攻撃するが、奴の周りにある闇の障壁に邪魔をされて届かない。
「・・・む?アナタ方は、なぜ呪いが効いておられないので?何故、まだ平気に動いているのです?」
んなもん知るかよ。お前の魔法が失敗しただけだろうが。俺も二刀の短剣から、最も得意とする弓での攻撃に移ろうとした。だが、弓矢の武器はマジックバックの中だった事を思い出し、自分の間抜け具合を思い知る。
「仕方がありません。ならば、このワタシがアナタ方を斬り刻んで差し上げましょう」
骸骨野郎の右手が、俺へと向けられた。
「・・がっ!!」
「「「タジルっ!!!」」」
くそっ!油断した。空に居るあいつを注意していたのに下からの攻撃か。
俺の影から槍状の黒い武器現れ、俺を串刺しにしようとした。〝何か来るっ!〟と感じた俺は、間一髪でその攻撃に気付いたが、完璧には避けられずに右目近くを切ってしまった。だが、浅い。大丈夫だ。
「おやおや、アレを避けられるのですか。大概は串刺しになって死ぬのですが、残念です。ならば、これは如何です?」
右目近くに負った傷に、すぐに血止めの薬を塗る。血が邪魔になって視界が遮られないように。
すると、敵が次の攻撃を放ってきた。奴の周りや俺達の周りに、暗闇から出現したのは黒い剣やら斧やら槍などの多数の武器。その刃物達は宙に浮き、そこら中に浮かんでいる。
「ククッ・・では、お仲間と共に仲良く死になさい」
骸骨野郎が勝利を確信し、宙に浮かぶ大量の武器を俺達に向けて放とうとした。
「実体が闇の武器なんて、光りを当てれば無くなるんですよねぇ」
その時、聞こえたのはこの戦場には似つかない幼い子供の声だった
宙に浮かぶ黒い武器で俺達へ攻撃しようとする敵に備え、体勢を整えた。その時に俺達の後方から子供の声がした。その声には俺達全員が聞き覚えがあり、あの町で保護した男の子の声だと分かった。
その子の声がした後に、俺達の後方から爆発的な光が溢れ、広がった。辺りを明るくしたその眩しい程の光は、空中に浮遊する黒い武器達を霧散させていく。
「ミネルか?なんで君が、こんな前線に____」
俺は、声が聞こえた場所である後ろを振り向いた。ミネルは本隊よりも後方にある救護テントの中に居るはずだ。何故、こんな魔物達が沢山いる場所に居るんだ。そう尋ねようとした俺は後ろを振り向いたが、それよりもさらに驚愕する事態になり振り向いた体勢のまま硬直する。
ミネルの全身から光が溢れていたんだ。
あれは何だ?街灯か?暗いダンジョンの中だとランプ代わりになって便利そうだよなぁ。
じゃなくて、ミネル!お前、変だぞ!?何か変な物でも拾い食いしたんじゃねぇだろうな!?何で体が光ってんだ、バカ野郎!
「おやおや・・・魔王軍には情報がありませんでしたが。そうですか、もうすでに〝聖女〟が生まれていたのですね」
聖女?
骸骨野郎が何か言っている様だが、〝聖女〟という言葉が確かに聞こえた。しかし、ミネルは男の子だ。今はフードを深く被り姿が分からないし、まだ子供だから声でも分かり辛いだろうが男の子だ。性別は女じゃねぇぞ?
「だが聖剣がないこの状況で、この死霊王が倒せるとでも?たかが子供の聖女が私を倒せますか?」
「あなたを倒すのは無理でも、嫌がらせくらいは出来ますよ?」
そう言ったミネルは左手を、自身の左側にある遠くの大地に向けて呪文を唱え始めた。そのミネルの行動を見ていた骸骨野郎は、何故か急に慌てだす。
「そ、その方向は・・・ま、待て貴様!まさかっ___!?」
「〝闇の祠〟って、どんなに弱い光魔法でもすぐに壊れちゃうんでしょ?」
焦る髑髏野郎を嘲笑うかのように、ミネルの声はとても楽しそうだった。それに、フードから覗くミネルの口元がすごく面白そうに笑っているのが見えた。
そして俺達の左側で光り輝く稲妻が轟音と共に落ち、何かが崩れ落ちる大きな騒音が俺達の場所まで届いた。
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