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152話 俺にはストーカーがいるらしい


 7-7.俺にはストーカーがいるらしい



 王都ランブレスタには旧市街と呼ばれる区域がある。俺が住んでいる孤児院もこの旧市街にあり、その区域には〝獣人街〟と呼ばれる新しい区域ができた。とても緑豊かな公園で、王都に住んでいる人達の自然を感じる娯楽となっている。


 これが完成したのは、小夜さんのモンテネムル公爵家とラクシャス伯爵家であるヴァンさんが協力してくれたおかげ。


 ランブレスタ国王であるユナイセル陛下からも、この場所を『獣人地区』として無事に認められた。フェイはこの場所によく来ていて、仲間達と楽しそうに談話している姿をよく見掛ける。


 この獣人地区には獣人達が住む居住区があり、元・違法奴隷だった獣人やこの王都に避難して来た獣人が暮している。彼等の仕事は主に、この獣人地区となった大きな公園の管理なのだが、他にも冒険者となり働く者や力が自慢の獣人は土木関係に就く者も現れ始めた。


 フェイの家族も、この獣人地区に住んでいる。だけど、まだフェイの妹さんが見付かっていない。捜索を続けるモンテネムル家でも、未だに情報さえ集まっていないらしい。


 そんな状況が続いている時、小夜さんが仮説を出した。〝もしかしてフェイレシルの妹は魔族領に居るのではないか?〟と。小夜さんはそう考え、それならば未だに情報さえ集まらない理由に納得が出来るとの事。




 「ミネル、ココに居たんだな。やっと見つけたよ」


 獣人地区にある花壇のお手伝いをしていたら、冒険者をしている攻略キャラのタジルがやって来た。


 タジルも26歳となって、かなり大人な雰囲気だ。乙女ゲームでは過去の悲しみに捕らわれたタジルだったけど、こんな風に笑っているタジルの方が俺は好きだよ………違うからな、BL眼で俺を見るんじゃねぇ。


 「タジル!王都へ戻って来てたんだな、おかえりなさーい!」


 俺は手に付いていた土をズボンに叩きながら落とし、花壇を一緒に手入れをしていた獣人さんから休憩をもらった。そして、タジルの方へと歩いて行く。


 「他の皆は?皆も一緒に帰って来ているんだろ?」


 「ああ、今は冒険者ギルドで報告をしてもらっている。でも俺はミネルに頼まれ事されていたから、すぐに知らせに来てやったんだ。嬉しいだろう?」


 あー、うん、はいはい。ほら、ぎゅーーー!あんがとな~。


 「タジル、苦しい……それで?それで?遠出のお土産とかもあるのか?」


 「………兄ちゃん、変わってないミネルを見て〝帰って来たなぁ〟と感じて安心したわ。まさか知りたい情報よりも、お土産の方を先に求められるとは……」


 立ったまま話すのも疲れるので、タジルと一緒に近くにあったベンチに座る。タジル達はA級冒険者なので沢山の村や町から助けを求められ、呼ばれる事も多いみたい。今回の依頼も遠く離れた村で特殊なトロールが目撃されたとかで王都から離れていた。


 「そうだ、ミネル。悪いんだが、俺等はまた王都を離れる事になったんだ」


 「えっ、今帰って来たばっかりなのに早過ぎない?」


 どこかの村の特産品である食べ物を口にしながらタジルの言葉に驚く。驚くといえば、このクッキーに塗ってあるジャムは美味すぎる。なんの果物かは知らないが、いくらでも食べられそうだ。


 「帰って来て、すぐにギルド長から緊急招集で呼び出されたんだよ」


 タジルが肩を落として溜息する。でも緊急招集………嫌な予感がする。もしかして俺が頼んでいた事と関係しているのかな。


 「懐かしいよなぁ、冒険者ギルドの緊急招集。そういえばミネルと初めて出会ったのも緊急招集が切っ掛けだったよな。向かった町でギルド長から別の依頼を頼まれ、その関係でミネルと出会えた…………ミネル、身長がほぼ変わってないぞ?」


 「うっせぇ!!さすがに6歳よりかは身長は伸びてるわボケェ!!それよりも俺が頼んでいた情報は集まったのかよ!あと謝れ、俺に謝れ、俺の成長期に謝れ!」


 昔の事を思い出してほのぼのとした雰囲気で懐かしんでいたのに、なんでいきなり残酷な言葉を口にするんじゃい。その言葉が呪いとなり俺の成長期がグレて再発しなかったらどうしてくれる。ケッ、攻略キャラは良いよな、高身長で顔の偏差値も高い設定だから。


 「あぁ、そうだったな、すまない。確かに、この王都ランブレスタから北東にある村で、遠く離れた空に生き物らしき黒い影が集まるのを目撃した情報があった。その方向が魔族領にある高山だったが為に村人達が怖がってな、今では近くの町に避難する住民も増えたそうだ」


 ………やっぱり。あのイベントがもうすぐ起こるという前兆だ。


 「俺の緊急招集も村人達が避難した町からのモンでな、俺等はすぐにその北東にある町へ向かわなければならない。それでミネル。お前は何故、この王都から遠く離れた村や町の情報を求めたんだ?まさか知っていたのか?魔族領にある高山に魔物が集まっている事を」


 「勘!」


 俺は一言でスッパリと答えた。乙女ゲーム情報にあるイベントなんだと誰が言えるよ。


 「………はぁ、まぁいい。だがミネル、今は北方には近付くなよ。分かったな?」


 「了解ッス!」


 嘘です、行く気マンマンです。


 さすがに大勢の人命が掛かっているのに小夜さん1人に任せる程、俺は鬼ではない。王都では心優しき聖女様として勘違いされ…………称えられているからな。


 まぁ、タジルにはバレなかったら別に良いだろう。向かう時は小夜さんの馬車にコッソリ乗せてもらう予定だし。そんな運悪く出会うなんて普通ないだろうし………おや、なんかテンプレ的な運命を感じる。この世界が乙女ゲームの世界だという事を侮ってはいけない。ヒロイン補正で〝偶然出会ってドッキドキ☆ラブイベント〟が発生しないとも言えないし注意は必要だろう。


 「魔族領で不穏な動きがあるという情報で騎士団の連中も動くそうだ。冒険者ギルドも何組かの腕の立つ冒険者を集めているから、俺等も数日後には出発しなければならない。寂しいだろうが、まぁ仕方がないんだ」


 「うん、気を付けてね」


 「………ちなみに、ミネルが「行かないで、お兄ちゃん。僕、寂しい」とか言ってくれたならば数日間は一緒に居られるようにするぞ?」


 「うん、気を付けてね」


 何を言ってるんだお前は。お世話になっている冒険者ギルドに逆らう行為は止せ。緊急招集に逆らえばA級冒険者のお前でも罰せられるだろうが。


 「……はぁ……困ったり助けが必要な時は俺に頼れよ、絶対だからな」


 「おうよ!あんがとな」


 タジルってば優しいのぉ、さすがは攻略キャラだ。ヒロイン役の俺に優しくしても男なので結ばれる事なんて無いのに、ありがたや。


 でも、これであのトラウマイベントが発生する事は確定になった。その町へ騎士団も向かうとタジルから教えてもらったので、攻略キャラであるアイツも向かうハズだ。これは、また小夜さんと作戦会議をしなければならない。次は冷た~いアイスとチーズケーキが食べたいとマーサさんに伝えておいたので準備されているだろうから楽しみだ。



 「………ところでミネル、誰かに見張られるような何かをした覚えはあるか?」


 ん?見張り?……ん~、もしかして国王様関係かな?アンジェラの父親であるローダリスさんが国王様には諜報部隊たる者が存在していると聞いた事がある。その連中が俺を見張っているのかもしれない。まさか小夜さんが注意していた、偽アンジェラの正体を暴こうとしている貴族関係者では無いだろう。俺、男だし。普通、俺が聖女様とは考えないだろう。


 俺が黙って考え事をしていたら、タジルにポンポンと頭を撫でられた。


 「まぁ、いっか。この兄ちゃんに任せておけば、ミネルは何も心配しなくて良いからな」


 そう笑顔で言った後、タジルは歩いて帰っていきました。



 ………今、なんか姉ちゃんが「全然、怒ってないわよ?」と本気で怒っていた時みたいな寒気を感じたんだけど。なんだ?タジルは怒っているのか?俺が何したって……あ、伊土産を貰ったのに〝ありがとう〟と礼を言っていない。ごめんよ、タジル。



  ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○



 「目標が移動を開始しました。追跡を再開しますか?」


 「了解。目標は我々の事を感づいてはいない様子、追跡を許可する」


 「了解しまし___「お前達は誰だ?」___っ!?」


 「おっと、動くなよ?間違って、このまま刃が喉を貫いてしまうかもしれない。さて、もう一度聞くぞ。お前達は誰だ?」


 「わ、我々は____。______だ。ソイツを離してやってくれ」


 「ん~、それはまだだな。お前達は、どうして俺の大事なミネルを監視している?答えろ」


 「そ、それは………言えない。それを話す事を我々は許可されていない」


 「ふ~ん、契約か……なら、ちょっと冒険者ギルドまで一緒に来てもらおうか。もちろん、これはお願いではない、命令だ」


 「………分かった、従おう」



  ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○




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