150話 俺の恋人は精霊界に!?
6-5.俺の恋人は精霊界に!?
聖樹ユグドラシルを見に来る観光客は、孤児院へは入ってはいけない事になっている。庭にある果物や野菜が欲しい場合は、孤児院の玄関で配るようになっている。その責任者はカンナちゃんで、小さな子供の孤児達がお手伝いをしながら食べ物を求めにくる人達へ配っていた。
配布する食べ物の計算とか、喧嘩の仲裁とかで大変そうだ。昔、入り放題だったが為に孤児院の庭でおしっ○をした馬鹿が居たので頑張ってもらいたい。
聖樹の近くでそんな行為をしたそのお馬鹿さんは精霊達の怒りを買い、いつかのハゲ神官長みたいにお空を飛んでいきました。観光客に重症者が出てしまった事から、対策として孤児院の庭を立ち入り禁止にし、庭にある食べ物は孤児院の玄関で配布する事をヴァンさんが取り決めた。
観光客からは見えない場所で俺とダイアナさん、そして初対面となる水の大精霊リリーシアさんとで話を始めた。
「でも、さっきの貴族さんは、なんで俺を城へ連れて行こうとしたんだろう?」
早朝での騒動イベントは無事に終わったので、フェイや怖がっていた孤児達に知らせて安心させた。相変わらず孤児院に居る子供達は俺の珍しいピンク髪に興味津々で、引き抜く事に全力を発揮してくるから怖くて近付けない。
【ん~、情報通の風の大精霊なら何か分かるかもしれないけど、あの子は自由気ままに世界を飛び周っているから聞くのは難しいわね】
確かに乙女ゲームの設定では、風の大精霊はイタズラ好きな男の子だったかな。楽しい事や面白い事が大好きで、世界を飛び周り楽しそうな場所を捜している、だったかな。
「でも急ですよね。他の大精霊様を連れてくるなら先に教えといて欲しかったよ、ダイアナさん」
【あら、何を言っているの、ミネル君。私、ちゃんと言っておいたでしょう?】
へ?そうだっけ?
【〝もしかしたら近々、誰か会いに来るかもしれないから、よろしくね〟って、ちゃんと私は伝えておいたはずよ?】
「ダイアナさん、それ、1年も前に聞いた話じゃ……?」
【ほら、ちゃんと私は伝えておいたでしょう?たった1年前に】
そんな〝たった2日前じゃない〟みたいに言われても、俺は前日とかに教えて欲しいんだけど。もしかして大精霊は時間軸が狂いまくっているのかもしれない。
【そんな事よりも、ミネル君。私達、良い情報を知らせに来たのよ。もしかしたら、もうすぐミネル君もユグドラシルから精霊界へ行く事が可能になるかもしれないわ】
えっ、マジで!?だって〝500年後くらいかしら?〟とかダイアナさんは言ってたのに。でも、この人達の〝もうすぐ〟って……うん、信じてはいけない気がする。
【ねぇ、リリーシア?】
【ええ、その通りです。私達、大精霊もその事にはとても驚いています。聖樹がここまで急激に成長をするとは誰も思いもしなかった事ですから】
それは俺も思う。
あの3年前、孤児院の庭で見付けた時。この聖樹はまだ鉢植えに収まった小さな若木だった。だが今では改築して三階建てとなった孤児院を遥かに上回り、王都の何処に居ても聖樹が見えるくらい、巨大な大樹となってしまったから。
【王都に出来たこの門は、すぐに空間の大精霊であるスターク=オリジスが管理を行ないました。大勢の人間が集まる王都で聖樹の門が開いたままだと〝迷い子〟が出てしまうかもしれませんからね】
【ミネル君はこの王都で人々を癒し、救い、讃えられ、真なる感謝を集め続けているからね。しかも、この場所を聖域にして聖樹が安全に成長する場所まで確保してくれた。誰にも真似出来ない、素晴らしい事をミネル君はしたのよ。凄いわ】
そうだよな、素晴らしい事なんだよな。だから空間の大精霊さんに少しくらいお願いをしても許されるよな。でも、まず会わないとだけど。
【それに精霊界には、ミネル君へどうしても渡したい物がありますから。それを、ずっと待ち続ける子も居ますし】
【ふふっ、あの子もミネル君と会えるのをとても楽しみにしているわ。早く聖樹の門から行けるようになれば良いのにね】
「渡したい物?あの子?誰ですか?」
【【ひ・み・つ(です)♪】】
えぇ、気になるじゃんか。
………ん?ちょっと待て。渡したい物=プレゼントって事だよな?それで俺を待っている人物は、冬のイルミネーションみたいな聖樹の中。それは、つまり………
サンタさん!?
まさか、サンタさんが俺の事を精霊界で待ってくれているのか!?そうか、そういう事だったのか。いくらこの世界で待ち続けていても俺の元へは来なかった訳だ。
なるほどそうか、子供達に夢を届けるサンタさんは精霊界に居らっしゃるのねん。あぁ、毎年悲しみと共に空から舞い落ちる白い雪を何度眺めた事か。いつも期待をしては裏切られ春が来る。そんな俺が会えずにいる愛する人は精霊界に居たのだ。
ママン、パパン、お姉たま。やっぱりサンタさんは実存したんだよ。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
【しかし、ダイアナもヒドイ事をしましたね。あの子よりも先にミネル君と契約してしまうなんて。あの子、さぞ怒ったでしょう?】
【ああぁ~、言わないでリリーシアぁ。泣き叫んで怒られたわよぉ、もうちゃんと反省してるからぁ】
【はぁ……あの子も可哀想ですね。それが『定められた物語』とはいえ、ミネル君と契約する事がまだ不可能なのですから。それなのに貴女ときたら……】
【もう、リリーシアってばぁ!ちゃんと理解しているから苛めないでよぉ!】
【本当に、あの子が不憫でなりません。早くミネル君が精霊界へ行ける様、祈りましょう】
【……ええ、本当にね】
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○