145話 ※カンナ※ Prt.3
6-30.※カンナ※ Prt.3
※※※ カンナ 視点 ※※※
私が目覚めたのは次の日だった。
座敷にひかれた布団の中で寝ていた私を、神威お兄ちゃんが心配そうな顔で看病をしてくれていた。私が目覚めると、お兄ちゃんがホッとした顔になったのを覚えている。私は寝ぼけながら「おはよぉ、お兄ちゃん」と言った後、昨日の記憶が蘇えった。慌てて傍に居た神威お兄ちゃんに、あの後どうなったのか、お母さんがどうなったのかを尋ねた。
私は睡眠の術で眠らされ、お母さんは桜様によって拘束されたらしい。今は監禁塔に捕らわれているみたい。
そして今回の騒動はすぐに調査され、犯人が父による犯行だと分かった。あの人は今代の神楽様を暗殺して、先代であるお母さんを姫巫女として戻そうとしたらしい。
本当に愚かだ。お母さんは姫巫女としての力が弱まっていたというのに・・・
あの人の計画に感づいたお母さんは止めようとしたけれど、あの人に罠に嵌められ身に宿す双尾様に〝呪〟を掛けられたらしい。
あの人はお母さんに計画を知られ、現当主に知られれば今の地位から転げ落ちるのを恐れた。だから、口封じをしようと神楽様に行なうハズだった儀式をお母さんに使用してしまったの。その計画は、桜様の浄化により呪が消えて失敗。結果、あの人は捕まった。
お母さんの〝呪〟の術式や、罠に嵌めた時の痕跡が残っていたから、その術式が解析されて残留霊子で誰が犯人なのか判明した。そして、弁護の余地も無く捕縛されたみたい。
あの人は今でも自分の犯行を認めていないらしい。自分は無実だと叫び、しかも息子である神威お兄ちゃんこそが真犯人だと騒いでいる。あの人の血を継いでいる神威お兄ちゃんとは霊力が似ているから。
でも、神威お兄ちゃんには犯行は無理だった。その日は朝からずっと術式についてを学んでいて、教師と共に居たのだから。しかも、それを命じたのは父だったのに。
私の事も身代わりの犯人として訴えようとしたみたいだけど、絶対的な無理があった。私に霊力が無いという事は東雲家では有名で、呪の術式を成功させるなんて不可能だから。
今回の騒動は、今代の姫巫女様である神楽様の命が狙われたという大事件。それに東雲家の本家にお住みになっている御当主様や、初代姫巫女である桜様をも危険にした重大な事。今回の騒動のせいで、東雲家が崇め奉る御狐様も憤慨したらしく、神楽様が三日三晩寝ずの祈りを捧げる事になってしまったそうだ。
その全ての責任を考え、父であるあの人はもちろん、お母さんや私達も重罪人として処刑される事が数日後に決定された。
処刑の日、私と神威お兄ちゃんの牢へ桜様が現われた。桜様は私達兄妹を牢から出し、奥の牢へと案内してくれた。
両端にある頑丈な牢屋を通り抜けていき、その最奥に札や鎖で封じられている牢があった。その中にお母さんが居るのが見えたて、私とお兄ちゃんはその牢まで走って近付いた。
久しぶりに見たお母さんは別人かと思う程に痩せていて、黒く美しかった髪も老婆の様に真っ白となっていた。服の隙間から少し見える手や足は、骨と皮しか無いみたいに細くてすぐに折れそうだった。
私と神威お兄ちゃんは泣いてお母さんを呼んだ。その声に反応したのかお母さんが少し動いた。顔は髪のせいで見辛いけど、私達に微笑んでくれた様に思えた。
「さ・・くら・・様、あと・・は・・よろしく、おねがい・・します・・・」
聞こえたお母さんの声は小さく弱りきっているみたいだったけど、いつもの優しい声だった。
「ええ、安心なさい。大丈夫ですよ」
桜様の言葉を聞いた後、お母さんは私達の声に反応しなくなってしまった。
桜様は私と神威お兄ちゃんの牢に、私達ソックリな姿の式神を作り身代りとしてくれた。初代様がお作りになった身代りの式神は5日間、まるで本物の人間みたいに騙せるらしい。体の内臓構造も忠実に模写され、怪我をすれば赤い血も出る。こんな芸当が出来るのは昔も今も初代姫巫女である桜様だけだ。
「貴方達だけには教えておきます。今回の事件、犯人として捕らわれた貴方達の父は黒幕ではありません」
お母さんが居る牢から離され、桜様が逃亡用に準備してある場所へと私達を連れて行く途中で、信じられない事を教えられた。
「どういう事、ですか?」
「今回の事件、本当の黒幕は神楽の母である東雲 岬です。貴方達の父は岬の言葉に乗せられて犯行に及んだものと分かりました」
「・・・え・・・・」
「どうやら岬は、自分が姫巫女に選ばれずにいた事を幼少の頃から怨んでいたみたいです。貴方達の母である渚が居なければ良かったと、ずっと昔から。そして岬の口車に乗せられて、欲の深かった貴方達の父が利用されました」
「そんな・・・岬おば様と母上は、あんなにも仲が良さそうだったのに・・・」
「残念ですが、今回の事で東雲 岬を裁く事はありません。確実な証拠が無く、今代の姫巫女である神楽の母を罪人には出来ないと判断されました。貴方達には、とても理解出来ない事でしょうけど諦めて下さい」
その言葉を聞いて、私の手を握っていてくれた神威お兄ちゃんの手が強くなり、痛かったのを今でも覚えている。
そして私達は知らない国の船に乗せられ、私は遠ざかる故郷へ「お母さん、お母さん」といつまでも泣いて呼び続けていた。そして、私達は桜様によって日ノ国から知らない国へと逃がされた。
父であるあの人とお母さん、そして私と神威お兄ちゃんの身代わりの式神は次の日に斬首された、と神威お兄ちゃんが召還した式神で知る事ができた。
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夜中、私は目が覚めた。
久しぶりに昔の夢を見たわ。小さい頃は、ずっとあの夢ばかりを見ていたのにね。
「あっ、もうこんな時間じゃない。急がなきゃ」
私は時計を見て慌てだす。もう子供達は寝たかしら?そっと孤児院の子供達が寝ている寝室を覗いて、あの子達が寝ているのを確認して私は外へ出掛ける。
「カンナおねぇちゃぁん、どこかにいくのぉ?」
「・・っ!?」
び、ビックリしたわ。トイレに行っていた子が居たみたいで、出掛ける為の服装を着ている私を不思議そうにして話し掛けてきた。
「違うわ、ちょっと喉が渇いただけなのよ。さぁ、夜も遅いから早く寝なさい」
「そうなんだぁ。じゃあ、ぼくもうねるねぇ。おやすみぃ、カンナおねぇちゃん」
「ええ、おやすみなさい」
男の子が寝室へ入って行くのを確認して私は孤児院から外へ出た。向かう場所は商業区の端にある教会。今日はまだ祝祭の日だから夜でも騒いでいる大人達が大勢いた。そしてあまり人が居ない商店街奥へ向かい、小さな教会が見えてきた。
「ようこそ、いらっしゃいました」
教会の入り口に1人の修道女が立って居て、私に声を掛けてきた。
「ここは神聖なる教会です。この教会への入室を願うのであれば、貴女様が信者である証を提示して下さい」
私はすぐに鞄から一冊の本を取り出す。
「先日発売された『アキート恋愛物語 第二章 アキートと愛しき冒険者』」
「はい、確認致しました。どうぞ中へお入りください」
私が取り出した聖書(BL本)を確認した修道女は道を空けて中へと導いてくれる。それを見て私は持っていた聖書を鞄の中へ戻した。
「ところで今日、腐教祖様は来られていますか?」
「いえ、腐教祖アンジェラ様はお見えになってはおりません」
「そう・・・残念だわ」
私はこの国で信仰する気持ちを学んだ。今までは神道の家系に生まれたのに、神を怨んでさえいた私。でもこの王都で〝腐神教〟と出会い、私の世界は一変した。〝腐った神の教え〟、ああぁなんて素晴らしい名前なのでしょう。神様に姫巫女として選ばれたせいでお母さんは死んだ。そんな神様が腐っているとも読める『腐神教』との出会いは、私を大いに感動させた。
今日この教会へ来たのは、次回発売される『アキート恋愛物語 第三章 アキートと愛しき魔術師』について新情報が発表されると聞いたからだ。うふふっ、楽しみだわ♪
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次から第7章なのですが
ネット環境が整うまで しばらく投稿は無理だと思います
すいません m(_ _;)m