143話 ※カンナ※ Prt.1
2018.7.14
投稿が遅くなってしまい すいません
今 ネット環境に問題が発生してしまい 投稿が難しくなってしまいました
ごめんなさいです m(_ _)m
6-28.※カンナ※ Prt.1
※ ※ ※ カンナ 視点 ※ ※ ※
「「生き返してくれて、ありがとう」」
私とカムイお兄ちゃんが一緒にそう言うと、彼はポカーンとした顔になってしまい少し笑っちゃった。やっぱり彼は、私達兄妹が気付いていないと思っていたみたいね。お兄ちゃんの命の恩人である貴方の事を分からない筈ないのに。
「・・・彼にやっと礼が言えたな」
「そうだね、カムイお兄ちゃん」
自分の命を救ってくれた彼に、ずっと礼を言いたいと思っていたカムイお兄ちゃんはスッキリとした良い顔で笑った。カムイお兄ちゃんはあの日から、自分の状況が分かり、すぐ彼に礼を言おうとしていたの。でも私達が住んでいる孤児院の責任者である伯爵様が、彼に礼を言う事を禁じてしまったのよ。
その理由は教えてもらえなかった。でもあの日、同時期に起きた大事件『大聖堂消滅事件』に彼が関係しているのだと私達は気付いた。王都中にある掲示板に、あの大事件を詳しく書かれた紙が張り出されていたから。
その事に気付いた私とカムイお兄ちゃんは、伯爵様との約束を守ると決めた。
でも、やっぱり無理だったわ。私の唯一の家族であるカムイお兄ちゃんを生き返してくれたのだから。だから今、王都中で行なわれている祝祭の騒ぎでバレないかもしれないからと、私が彼に礼を言おうとカムイお兄ちゃんに提案したの。
「お兄ちゃん、伯爵様の見張りは本当に大丈夫だった?」
「うん、まぁね。『式神』の反応は無かったよ」
「そう、良かったわ」
カムイお兄ちゃんはポケットから出した、五方陣が書かれた紙を見てそう言った。
あの紙はカムイお兄ちゃんが放った式神達の本体。私には不可能な継承能力で、お兄ちゃんは小さなネズミ程度の式神なら無数の形成召還を成功させられる。
「まぁ、ロイドさんにバレたとしても許してもらえると思うよ。今回、『聖女様暗殺計画』の調査で犯人達の事を詳しく調べる事が出来たのは僕のおかげだから」
「・・カムイお兄ちゃんは本当に良かったの?ロイドさんの部下になって働く事になっても」
「うん、もう決めた事だから」
その事をカムイお兄ちゃんから聞かされた時は驚いたわ。お世話になっているラクシャス様の護衛であるロイドさんから勧誘を受けて、それを了承したって。
でも、まさかロイドさんがカムイお兄ちゃんの能力を知っているとは思わなかった。
伝統ある私達の家系が受け継いできた特殊能力は、昔から秘匿されてきた秘術。それなのに何故、カムイお兄ちゃんの能力を知られていたのかと疑問だったけど、その事は勧誘を了承した数日後に教えてもらえたらしい。それは、ロイドさんの部下に〝相手に接触して記憶を読む事が出来る〟という特異能力を持った人が居たんだって。
でもロイドさんは、お兄ちゃんの勧誘にその情報を使って脅す事はしなかった。あくまでも、カムイお兄ちゃんの意思を尊重してくれたみたい。
「そうだ、カンナ。今、貴族街には近付いちゃダメだよ。どうやら『神楽様』が、この王都へ来ているみたいだから」
「・・・そう、神楽様が・・・・」
私の俯いた頭を、カムイお兄ちゃんが優しく撫でてくれた。
神楽様には絶対に会わないようにしないと。だって、だって私とカムイお兄ちゃんは___
___日ノ国では死んだ事になっているのだから。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
「やーい、やーい!神無し、神無!東雲家の落ちこぼれ~!」
「神が宿らなかった神無し、神無!東雲家の出来損な~い!」
庭で1人、遊んでいると私の事をいつもイジメてくる男の子達にまた石を投げられた。痛い、痛いよ、止めてよ。なんで毎日、そんなヒドイ事をするの?
「止めろっ!!」
あっ、神威お兄ちゃんだ!
庭にある木に隠れていたら、神威お兄ちゃんが助けに来てくれた。私はすぐにお兄ちゃんの後ろに隠れる。悪い男の子達に苛められていたら、いつも助けに来てくれる優しいお兄ちゃん。私の大好きなお兄ちゃん。
神威お兄ちゃんが来てくれたおかげで、イジメっ子達は走って逃げて行った。お兄ちゃんは、もうこの歳で式神の形成を成功させられるから強いんだ。前も年上の子を術で追っ払ってくれた。だからお兄ちゃんは、私の自慢のお兄ちゃんなんだよ。
「大丈夫?神無」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、神威お兄ちゃん」
優しいお兄ちゃんは、いつでも私の事を心配してくれている。だから誰よりも私はお兄ちゃんが大好きで、いつものように今日も抱き付いた。
「神威、何をしておる!陰陽五行説の暗記をまだ終えてはいないであろう!すぐに勉学へ戻れ!」
あっ、あの人に見付かっちゃった。私が一番、一番、いっちば~ん大っっ嫌いな人。
「はい、父上」
神威お兄ちゃんは、あの人に頭を下げてから行っちゃった。あの人も私の事をチラッと見た後、いつもの冷たい目で「ちっ」と舌打ちして何処かに行ってくれた。
あの人は、残念だけど私とお兄ちゃんのお父さんなんだ。そして、あの人は私の事を嫌っている。でも、良いの。だって私も、あの人の事は大嫌いだから。
それに私には、お兄ちゃんと____
「神無ちゃん」
「あっ、お母さん!」
私を優しく呼ぶ声で、お母さんが来てくれた事に気が付いた。そして私はお母さんの所まで駆け寄って勢いよく抱き付く。
私の事を優しく受け止めてくれたお母さん。うん、私には大好きなお兄ちゃんと、大好きなお母さんが居てくれるんだよ。だから他の人なんて別に要らないもん。
私達の家系は、日ノ国では有名だった。
東雲家。
特殊な術式を学ぶ陰陽師と呼ばれる者を育て、それを纏めてきた伝統ある家系。そして、天皇様に長年仕える名家としても有名だった。大昔から最も信頼と信用がある相談役として活躍し、天皇様が治める国を影ながら支えてきたの。そして、もっとも重大な役割を東雲家が担ってきた。
それは、『予知』。
東雲家に古くから受け継がれた占術。怪しい人が詐欺紛いで行なう嘘臭い占い等では無く、東雲家が行なう占術は、ほぼ確実に起こりうる未来を見通す事ができた。その知らされた未来予知のおかげで、天皇家は何度も助けられてきたんだって。
暗殺、飢饉、事故、天候。あらゆる未来を言い当てては、この国の者達を助けている。
だけど、その占術を行なうには特殊な条件が必要。東雲家の血筋で、長女である事。そして何よりも、生まれた月に『神降ろし』を成功させなければならないの。
『神降ろし』とは、私達が拝めている御狐様の分身を我が身に宿す事。つまり、神の力を少しだけ授かるという事。
そして、最も力のある神を宿せた者は予知の能力に目覚め、姫巫女と呼ばれてきた。
私のお母様は、先代の姫巫女様だった。神降ろしの儀式で、御狐様から双尾様を授かり〝星見の術〟が使える様になったの。そして、分家の身でありながら姫巫女の座に選ばれた。
本家の長女も御狐様から分身を我が身に授かったのだけど、その人は未来を見通す能力には目覚めなかったみたい。
双尾様の本当の名前は双ツ尾様ですよと、お母さんが教えてくれた。だけど私達人間は、いつの間にか双尾様と呼ぶようになっていた。だけど、お母さんだけは双尾様を「双ツ尾様」と正式名称でずっと呼んでいたのを覚えいている。
お母さんは星見の力で未来を見通し天皇様を助け、姫巫女様としての立場を無事に成していた。その後、あの人との婚礼が決まり力が弱まって引退した。
次の姫巫女様の候補は、東雲家の本家でお生まれになった神楽様と、分家で生まれた私。
だけど祭場で神霊様を讃えた神降ろしの儀式で、私には神を授かる事ができなかった。それに引き替え、本家の神楽様は初代と同じ九尾様を宿すという偉業を成し、儀式は終わった。
本家はすぐに九尾様を宿した神楽様が今代の姫巫女様であると決定し、発表した。その結果に私のお父さんが憤慨してしまった。
姫巫女の家族として暮してきた場所から離れにある家へと移され、使用人も居なくなった。そして、あの人はその怒りを表すかの様に私の名前を、宿す神が無かった出来損ないの娘『神無』と名付けたの。
「ごめんね、神無ちゃん。神無ちゃんに寂しい思いをさせてしまうなんて、お母さんはダメね」
「ん~ん、大丈夫だよ。寂しくないもん。だって、お兄ちゃんとお母さんが居てくれるだけで良いから、私は大丈夫だよ」
そう。私には神威お兄ちゃんとお母さんだけが居てくれればそれで良いの。他の人達なんて要らない。だから本当に大丈夫なんだよ、お母さん。だから、謝らないで?だから、悲しそうな顔をしないで?お願い、お母さん。
今代の姫巫女様である神楽様は、とても優秀な力を有していると東雲家で働く使用人達が噂していた。
先々代の力は『夢見』、先代であるお母さんの力は『星見』、そして今代の神楽様が宿した力は『先見』。
先々代は眠らないと未来を予見できなかったし、先代であるお母さんは夜でないと正確な未来が分からなかった。だけど今代の神楽様は予見する人物を見ただけで、その人に起こりうる未来を先に知る事ができた。
しかし欠点もあり、夢見や星見よりも未来の事が断片的なモノらしく、全てが優秀とはいかなかったみたい。
父であるあの人は、神威お兄ちゃんを神楽様の許嫁にしようと計画しているらしい。それも東雲家で働く使用人達が噂しているのを聞いて知った。
でもそんな事、絶対に成功しないと私は思っている。だって神楽様には好きな人がいるから。
確か忍の子で、名前は知らないけど忍達の首領さんの息子だと聞いた覚えがあった。だから、いくらお兄ちゃんが優秀でも神楽様の許嫁にはなれないと思う。
神楽様が、その少年と話をしている所を神威お兄ちゃんと目撃して、とても楽しそうに神楽様が笑っていたから。その少年を見る目も、彼の事が好きなんだぁと私でも分かるくらい輝いていたもん。神威お兄ちゃんだって、神楽様の事どう思う?と尋ねたら「好きと言うか、おっちょこちょいの妹みたいだな」とか言ってたし。
神威お兄ちゃんが神楽様の事を〝妹〟と言った事に少しだけムッとしたのは、お兄ちゃんには内緒。
名前だって似ているし、本当に兄妹みたいに感じちゃう。私のお母さんと神楽様のお母さんは仲が良いみたいで、名前が似ちゃったんだって。でも、神威お兄ちゃんの妹は私だけなんだから、それは譲らないよ。
その後、やっぱり神威お兄ちゃんが神楽様の許嫁に選ばれる事は無かった。でも、まさかあの人がそれに怒って禁忌に手を出すとは思いも寄らなかった。そして、その結果が私の大好きなお母さんを失う事になってしまうなんて。