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139話 誕生祭 3日目


 6-24.誕生祭 3日目



 王都国民達がランブレスタ国王陛下への祝いの言葉を口にし、王都の中央広場では人々が今日も音楽と共に楽しそうに踊っている。王都ランブレスタで行なわれる国王の誕生祭も今日で三日目。つまり、今日が最終日。


 朝食を食べ終えた後、俺は王都の大通りを歩いている。すると、商売人達が早くも客を集める元気な声や、踊りたくなるテンポの良い音楽が聞こえ、男女の楽しそうな声が周りから聞こえてくる。はしゃぐ子供達が、ゆっくりと歩く俺を追い抜いて行った。あぁ~、平和だぁ。


 今日フェイは、カムイ君とカンナちゃんと一緒に孤児院の子達とお祭りを周るらしい。タジルは冒険者仲間と一日中酒を飲むとか言ってたし、スザクはお仕事で姫巫女様の護衛で忙しそう。


 俺は今日、誕生祭を楽しみに来た訳じゃない。小夜さんとの面会が許可されたので、モンテネムル邸へと向かっている所です。さすがに、あの黒い馬車でのお迎えはありません。王都の大半の場所が、誕生祭により馬車での移動を規制されているからだ。なので今日は歩いて貴族街へと向かっています。



 貴族街にあるモンテネムル邸へと到着し、門番さんにあいさつ。今では、もう顔見知りになっている。奥さんと娘さん二人が居る一家の大黒柱さんに〝お仕事頑張ってください〟と応援しておいた。


 「アンジェラ、お見舞いに来たよぉ」


 執事のセバスさんに案内してもらい、黒一色な小夜さんの私室へと来ました。扉が開かれ見えた小夜さんはベットではなく、いつもの様に黒いゴスロリ衣装でソファーに座りながら紅茶を飲んでいました。


 「いらっしゃい、ミネル」


 「やっほ~、なんか久しぶりに感じるっすね。もう全身の筋肉痛は治った?」


 「正確には筋肉痛ではないのだけど、まぁね。まだ少し痛むけど、もう大丈夫よ」


 机の上にお菓子や紅茶の準備を終えたセバスさんとマーサさんが、綺麗な一礼をしてから部屋から出ていき扉が閉められた。


 「本当に大精霊の召喚は困ったモノだわ。代償として数日間、体を少し動かすだけでも泣きたくなるくらいの激痛を味わってしまうから。しかも、何故か回復魔法が効かないし」


 「はははっ、御愁傷様。パーティー会場で大暴れだったもんな、小夜さん」


 頬に手をやり〝困ったわぁ〟と表現をする小夜さん、そんなに痛かったんだな。そんな事を言われたら俺、樹の大精霊であるダイアナさんを召喚するのが怖くなるよ。



 「それよりも、小夜さん!」


 俺は紅茶で口を潤してから、机をバンッと両手で叩き小夜さんに抗議した。


 「なぁに?」


 「今回、小夜さんに女装は絶対にバレないって言われたから女装をしたのに、嘘だったじゃん!レギオに絶対バレるって言われたんだからな!ひどいッス!」


 俺の抗議を聞いた小夜さんは、のんびりと首を傾げた。


 「あら?何を言っているのかしら?私は〝バレない〟なんて一言も言っていないわよ?〝イケるわ〟って言ったの」


 おいぃ、そんな〝何言ってんの、こいつ〟みたいな顔しないでよ!


 「だから!〝バレずに行ける〟って事だろう!?」


 「ふふっ、違うわよ。〝バレるだろうけど、可愛いからイケる〟って意味よ。秋斗君、覚えておきなさい。どの世界でも可愛いは正義なの」


 こんちくしょう!!


 なんて奴だ。小夜さんの自己満足の為に、俺は男なのに薄ピンクのふりっふりドレスを着用する黒歴史を刻んでしまったのか。今頃、国王の奴が「お前、女装癖があるのなプークスクスww」とか思っているかもしれないんだぞ!


 あっ、国王で思い出した。前夜祭の日、結局は国王さんと面会する事は無かったッス。めでたしめでたし。まぁ、あれからドタバタで大変だったみたいだし、国王さんも俺と会う暇も無かっただろう。いや~、残念残念!




 「そういえばさ、ちょっと聞きたいんだけど。小夜さんは〝エリザベート様〟っていう公爵令嬢さんを知ってる?」


 俺はパーテイー会場で不良の令嬢達に囲まれた時の事を思い出した。その原因だった人みたいだから、ちょっと気になっている。


 「ええ、エリザベート=U=ラファメルノ公爵令嬢でしょう?もちろん知っているわよ。彼女がどうかしたの?」


 「ん~、前夜祭のパーティーで貴族の人達から聞いた名前だから少しだけ気になったんだ」


 「そうねぇ、彼女は絵に書いたような貴族の御令嬢って感じかしら。プライドが高く、少しだけ平民を見下し、負けず嫌い。しかも笑い声が〝おーほっほっほっ〟と、なんとも漫画みたいな人物よ」


 〝おーっほっほっほっ〟って、マジか。本当に居るんだ、そんな笑い方する人。会ってみたいかも、ていうか見てみたいぞ。


 「今回、開催された前夜祭にも参加されていたわよ。エルナルド王子の婚約者として隣に居た私の事を、ずっと睨んでいたし。秋斗君は覚えているか分からないけど、会場でドキツイ赤を基調とした豪華なドレスを着用していたのが、そのエリザベート公爵令嬢よ」


 ・・・・・・う~ん、知らね、覚えてない。豪華料理なら何があったか覚えてるんだけどなぁ。また食べたい、あの肉料理。



 「・・ところで、秋斗君は大丈夫なの?あの日、秋斗君、倒れちゃたでしょ?」


 「あぁ、俺は大丈夫だよ。寝たら元気になってたし、次の日にはお祭りを楽しんだから」


 「・・・・・・・・・・・・ちっ」


 「あのぉ、小夜さんや?何故に舌打ち?」


 「気のせいよ。でも、羨ましいわぁ。あんな非常識な魔力量を消費したというのに、次の日には元気になっているだなんて相変わらずの非常識っぷりね」


 「それたぶんさぁ、ヒロインが持っている光の女神様の加護とかに関係してるんじゃないかな?さすがは主人公設定、便利だよなぁ」


 「ゲームの製作者も〝光〟の女神が居るのなら、〝闇〟の女神も登場キャラとして設定して欲しかったわ。そしたら私も、寝れば魔力が完全復活するなんていう馬鹿みたいな体質になれたのに」


 気のせいかな、俺が馬鹿みたいと言われている様な気がするんですけど?


 「でも、本当に凄かったわよ、今回の秋斗君。まさか魔法で、これ程の奇跡を起こすなんてね」


 「俺っていうか、なんか光の精霊達が凄く頑張っちゃったみたいだけどな。そのせいでゴッソリと魔力を持っていかれて、気が付けば朝になってたし。まさか精霊達が勝手に会場に居た人達全員を対象指定に変更するとは思わなかった」


 「秋斗君、倒れた貴方は覚えてないかもだけど、あれは対象指定ではなく範囲指定だったわよ。死者を蘇えらせる、なんていう非常識な奇跡を範囲で行なったら魔力が空になって当然ね」


 「空になったのは俺のせいじゃないからな?精霊達が俺の魔法に干渉してきたのが原因で、後先考えずに魔力を使いまくって気絶したバカじゃないからな。そこは勘違いしないでくれよ?」


 俺はあの時、床に倒れて動かないローダリスさんを対象指定にして蘇生魔法を発動させた。それなのに光の精霊達が対象指定を範囲指定に突然、変更してきたんだ。


 結果、そのせいで俺はぶっ倒れて気絶した。異常なまでにゴッソリと魔力が無くなっていくのに気が付いて、俺の魔法に精霊達が干渉してきたのが原因だと分かった時には、もう遅かった。魔法の発動と共に俺の魔力はスッカラカンにまで使わされ、俺は床とお友達になりました。


 俺が気絶した後、王城に用意されてあった客室で寝かされていたらしい。目覚めた後に俺の看病をしてくれていたレギオから、倒れた後の出来事を聞いた。




   ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○



 光りがパーティー会場に溢れ、その中心に居るピンク髪の少女が皆の注目を受けていた。


 モンテネムル公爵家の令嬢である聖女アンジェラ様が無残に敵を殺害した恐ろしい会場が、今は明るく優しい光りに包まれている。その原因は、会場に突然現れた少女によるものだった。


 とても目立つピンク色の髪は軽く波がある巻き髪になっており、薄いピンクの豪華なドレスを着用している可愛らしい少女。逃げ遅れて会場に留まっていた者達の中には、彼女に見覚えのある者も居たのだろう。何処からか、彼女が〝ソフィ〟と呼ばれていたという声が聞こえた。


 あの少女はランブレスタ王国の公爵家が1人、ミクシオロン家の嫡男様がエスコートしていた子だった。とても小さな女の子で、確か会場では顔と体に似合わない程の肉料理を食べていた子だ。



 少女の全体から光りが溢れ、その光がこの会場を照らす。そして少女を中心に、床一面に巨大な魔法陣が出現した。その白く輝く魔法陣から小さな光の球が無数に浮かび上がり、残酷な殺人現場となっていた会場は誰も言葉に出来ない程の幻想的な空間へと変わっていく。


 聖女アンジェラ様が攻撃に用いた黒い茨や黒い針などは、その光によって掻き消されていく。そして怪我を負った騎士団員や衛兵、それに敵である襲撃者達も白い光に包まれた。


 「い、痛みが、消えていく・・・」


 「・・凄い、傷跡さえ残っていないぞ」


 「あぁ、目が、目が見える。失ったはずの目が・・・」


 光に包まれていた者達から聞こえる声。その全てが驚愕し、救われた事に感動している言葉だった。つまり、この光は〝回復魔法〟によるものだと皆が理解した。それも異常なまでの治癒能力があるものだと。


 先程、黒い針に刺され怪我を負った者達は、針が消えて血が止まり怪我の跡さえ無くなっていた。拘束されている男の失った足には白い光が集まり足の形となった後、光が消えると同時に無くなったはずの足が元に戻っていた。


 誰もが〝奇跡だ〟と感じた。だが、それよりも神に等しい出来事を彼等は目撃する。


 「・・・ぐっ・・・こ、こは・・?」


 襲撃の始まり、突然花瓶が割れて驚いていると衛兵の姿をした男達が聖女アンジェラ様に持っていた槍を投げた。聖女アンジェラ様を身を挺して守り、その槍によって殺された男性が声を出したのだ。


 会場に居た誰もが彼は死んだと理解していた。5本の槍全てに体を貫かれたのだ、生きているはずが無い。それなのに、その男性が目を覚まし、そして声を出して息をしている。


 「・・・死んだ者を・・生き返す・・・魔法・・・?」


 誰かの声が静まる会場内に響いた。そして生き返った男性の近くでずっと泣いていた女性が、泣き叫んで男性に抱き着く。生き返った彼はとても困惑している様で、彼女の背に戸惑いながらも手を置いた。


 死者が蘇るなんて神に等しい奇跡は、それだけでは終わらなかった。


 聖女アンジェラ様によって無残に殺された襲撃者達からも声が聞こえたのだ。顔を魔法の槍で貫かれ死んだ者も、下半身しか残されていなかった者も、全員に奇跡が訪れた。生き返った者、それを目撃した者、その全てが呆然とし動きを止めていた。


 「襲撃者を全員、拘束しろ!!」


 静かな空間の中、会場の入り口から男性の大きな声が会場内に響いた。その声に驚いて、声がした方向を見る。そこにはランブレスタ王国が誇る騎士団の頂点、最強と名高い騎士団長様がいらっしゃいました。


 騎士団長様の命令で、蘇生された襲撃者達が騎士団員や衛兵の手によって拘束されていく。襲撃者達は、まだ自分の状況が理解できていなかったのかアッサリと捕えられた。



 そして襲撃者達の拘束が無事に終わった後、会場内を包んでいた光が収まっていった。


 少しずつ白い光りは消えていき、最も輝いていた光の中心である少女が纏っていた光も消えていった。誰もが声を出せずにいると、その少女が突然倒れてしまったのだ。気のせいか、少女が「ぶへー」という汚い言葉を口にした様に聞こえたのだが、きっと聞き間違いであろう。


 「「ソフィ!?」」


 2人の男女が、その少女に駆け寄った。


 2人とも公爵家の者で、1人は聖女アンジェラ様、もう1人はミクシオロン家のレギオール様だった。2人は少女に駆け寄り、その子を抱き起した。しかし少女の反応は無いようで、どうやら気を失っているらしい。


 「騎士達よ!モンテネムル家、ミクシオロン家両名のお子とその少女を急ぎ医療室へと案内いたせ!」


 ランブレスタ国王陛下の言葉により、騎士団長様が動いた。部下達にこの場を任せ、騎士団長様が少女を抱き上げ会場から出ていく。その騎士団長様を追って、少女に駆け寄った男女も出て行った。


 会場内はその後、襲撃者達の移送や会場の清掃、そして国王陛下に詰め寄る者達で大騒ぎとなった。



   ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○




 小夜さんの言うとおり蘇生魔法を対象指定ではなく範囲指定で使ったら、そりゃあぶっ倒れて当然だわ。


 ただでさえゲーム終盤で覚える超高等魔法なのだから、ヒロインちゃん設定で膨大な魔力を保有していても、さすがに空になる。ホント、なんて事すんの?


 確かにラブ&ピースは好きっすよ?残虐な殺人現場が平和な世界へと変わり、楽しい乙女ゲームの世界観を守れたんだ。確かにハッピーエンドで嬉しい事だよ?でも俺は床に倒れて頭にコブが出来たんだぞ、こんにゃろー。



 俺の目が覚めたのは、まだ陽が昇る前の早朝だった。そして、レギオと一緒に(こっそり)王城から抜け出した。その時に小夜さんは居なくて、ローダリスさんの所へ行っているとレギオから教えてもらった。


 一応、置手紙として「ありがとうございました。疲れたんで帰りま~す」と書いた手紙を机に置いておいたけど・・・国王様、読んでくれたかな?



 「さすがは本物の聖女様ね、秋斗君。でも、まさか私が殺めた人達まで蘇生させてしまうなんて・・あの人達は死んで当然の人間だったのよ?」


 俺が必死に守った乙女ゲームをぶち壊しそうな小夜さんの辛辣な言葉だけど、声色からもう怒りを感じなかった。殺されたアンジェラの父親であるローダリスさんも生き返り、犯人の暗殺者もフルボッコにできたので満足したのだろう。


 「でも変ね、契約もしていない精霊達が勝手に魔力を吸収するなんて。しかも契約者ではない人物が使用する魔法に干渉して指定変更までしてくるなんて普通なら有り得ない事よね」


 「う~ん、俺にとっては今までも普通にあった事だからなぁ。勝手に魔力を吸い出して精霊達が魔法を使った事もあったし・・・あっ」


 「ん?どうしたの、秋斗君?」


 「前に樹の大精霊さんから、俺の波長ってのが精霊によく似てるって言われたんだよなぁ。もしかしたら、それが原因かも?」


 「精霊に?どういう事?」


 「さぁ?俺もさっぱり分かんねぇ。でもまぁ、便利だし俺は別に理由なんてどうでもいいや」


 とりあえず自動で結界を張ってくれて俺を守ってくれる便利機能だと思っておこう。ヒロインの特別設定って事で、もういいや。考えるの面倒いし。



 「でも・・気を付けてね、秋斗君。貴方の事を聖王国という国が探り始めているらしいから。ランブレスタ国王も聖王国からの使者に質問攻めにされているらしいし、無いとは思うけど誘拐なんてされないように注意してね」


 「うげっ・・・分かった、気を付ける。これは今となっては、小夜さんに女装させられたのってラッキーだったよな。聖王国の人達も〝奇跡を起こした少女〟を探すだろうし」


 さすがに、あれだけの他国の人達が居る中、乙女ゲームでチート級だった最上級の光魔法を使っちゃったからなぁ。噂の女の子が俺だってバレない様にしないと厄介事に巻き込まれそうだ。


 でも聖王国、かぁ・・・聖女であるミネルソフィ役としては一度は行ってみたいかもな。美味しい名産物とかもあるだろうし。まぁ、行く前に聖剣の覚醒を済ませてからじゃないとダメだけど。




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