138話 誕生祭 2日目
6-23.誕生祭 2日目
今日、一緒にお祭りを楽しむ約束をしているのはスザクとタジルだ。
タジルの仲間であるクリスさんと、トリアさんと、ジルさんは残念ながら欠席。クリスさんとトリアさんは二人だけでのお祭りデートをするんだって。ジルさんは父親のヴァンさんに呼び出せれて、まだ戻って来ていないらしい。
お祭りは三日間で、本当は明日にタジル達とお祭りを周ろうと思っていたのだけど、体調不良でベットの住人となってしまった小夜さんのお見舞いに明日行こうと思っているんだ。来て良いよという返事も貰ったし。お土産は、もちろん露店の品やお祭りの話。聖女様関連のお土産品も沢山売られているし、買っていこう。明日、小夜さんに渡すのが楽しみだ。にひひひ。
「やぁ、ミネル。おはよう」
約束してあった場所へ15分前に到着したのだが、すでにタジルが到着していた。何時から待っていたのだろうか、待たせちまったな。
「おはよぉ、タジル。早いね。ごめん、待たせて」
「いや、俺も今来た所だ。気にする必要はないよ。今日はよろしくな、ミネル」
少しだけ恋愛中の男女みたいな会話になって精神力を削られました。
なんかタジルってば、こういう所もホストっぽいよなぁ。これでもし、タジルが赤いバラの束を持っていたら俺はクルリと回れ右して全速力で来た道を走って逃げていたな。攻略キャラの中で機敏性に長けたタジルには追いつかれただろうけど。
「昨日、手紙で知らせたと思うんだけど、今日のお祭りにあと一人だけ一緒に周る約束をしてるんだ。良いよな?」
「ああ、別に良いぞ。祭りは人数が多い方が楽しくなるからな」
「良かった、ありがと」
これで後はスザクを待つだけだな。今日はまず何を食べようかなぁ、昨日の柔らかい肉とクレープみたいなのは絶対に食べるぞ。
「そういえば、ミネル。ちょ~と聞きたい事があるんだけどさぁ」
「え・・・・な、なに?」
突然タジルがニヤニヤしながら俺の肩に手を回して尋ねてきたので、俺の体に警戒警報が鳴り響いた。
「知ってるか?今、貴族界では〝光の聖女様が現われた〟という噂が流れているって」
え・・・
え、ちょ、国王様ぁぁ!?貴方様ってば参加した人達に箝口令を発令してくれたんじゃなかったのぉ!?貴族じゃない冒険者のタジルが知ってんだけど!?
「い、いや、あの・・・」
「そ・れ・と、光の聖女様はピンクの髪でとても可愛らしい女の子なんだとさ。なんでも、その女の子が死者を生き返らせたという奇跡の噂で貴族界は大騒ぎらしいぜぇ?」
「ふ、ふぅん・・そうなんだぁ・・・」
「懐かしいよなぁ、光の聖女様という噂。ミネルと初めて出会った時も、そんな噂が町中で流れたなぁ、確か。そうだったよなぁ、ミネル?」
「そ、そうだっけぇ・・・」
「死者が生き返る、かぁ。それもあったよなぁ、2年前の孤児院で。いやぁ、まさか誰かさんの他にも、そんな奇跡を起こす子が居たなんてビックリだよ。是非とも、そのピンク髪の可愛い女の子に会ってみたいな」
そうだ、落ち着け、俺。タジルは俺の性別が男だと知っているんだ。なんたって俺の大事な男の象徴をガン見していた時があったからな。噂の女の子が俺だとバレずに___
「で?女装したのか、可愛らしいピンク髪の娘さん?」
「・・・・・・・・いいえ」
バレてる、確実にバレてる。完全にタジルにバレちゃってるじゃんか、俺が噂の本人だって。
そりゃそうですよねぇ!タジルは俺が蘇生魔法を行なえる事を知っている。死者を生き返すなんてゲーム設定のチートを出来る奴がホイホイ他に居てたまるか。だったら噂の女の子ってのが、俺が女装した姿なのではと考えるか。
俺が小さく拒否したのに、タジルのニヤニヤ顔が変わる事は無かった。
「じゃあ、ミネルは知っているか?その女の子。俺、その子についてジルの親父さんやロイドさんにも聞いてみたんだけどさぁ、教えて貰えなかったんだよ」
「さぁ、見た事も聞いた事も無いなぁ。貴族界の噂なんでしょ?俺が知る訳ないじゃないか、タジル君。あはははは!」
なるほど、これは早急にヴァンさんとロイドさんに賄賂を__ではなく、お礼を送らなければならない。99%の確率で噂の聖女様が俺だとタジルにバレていそうだけど、証拠が無い限りは知らんぷりで通そう。その間に、なんらかの対処方を考えなければ。それが出来ないと、俺が女装していた事がタジル一味に知られてしまうぅぅ!
「・・・ミネル、待たせちゃた、ごめん」
「スザク!おはよう!良いタイミングでバッチリだ、ナイスな時間だぞ!」
気配も無くいきなり現れたスザクにビックリはしたが、緊急事態は免れそうだ。これでタジルの話を変更できるだろう。
「タジル!この子が今日一緒にお祭りを周る事になっている黒曜 スザクだ。日ノ国の出身者だよ」
「・・・よろしく、お願いします」
「そんで、スザク。この人は冒険者のタジルマース。A級冒険者で結構有名人らしい」
「おう、よろしくな!」
「はい、ではでは自己紹介が終了した所で、さっそくお祭りを楽しもうではありませんか君達。あはははは~」
俺は選択画面で〝逃げる〟を選択した。乙女ゲームで戦闘以外にそんなコマンドがあったのかは覚えていないけど。
走り出した俺にスザクがトテテと着いて来て、タジルも笑顔で追い駆けてくれた。さぁ、今日もお祭りを楽しみましょう。
昨日、食べた中で一押しだった料理をタジルに沢山ゴチになりました。タジルには〝お兄ちゃん〟という魔法の言葉を使えば、お金がジャラジャラ出てくるのです。
2~3回、スリに会っちゃったけどタジルとスザクがすぐに気付いてくれて助かった。財布に付けた紐をズボンに括り付けてあったのに、まさか紐を切ってまで盗まれるとは恐ろしい。その行為をまったく気が付かなかった俺も恐ろしい。いやいや、スリの皆様の腕前が神っていただけなのだろう、きっと。
というか、なんで俺ばっか狙われてんの?そんなに俺ってば隙だらけ?それとも田舎から王都へ来たお上りさんとか思われてターゲットにされてんの?失礼な、俺は王都で2年間も過ごした今ではもう都会っ子だぞ。
「あのスザクって子、ミネルの前でしか笑わないのな」
露店にあったダーツ投げみたいなゲームを制覇しているスザクを見ながら、タジルが俺に話し掛けてきた。ダーツが全弾ド真中に命中し、店主が泣いている姿が見える。
「そうかな?」
「ああ、俺にも露店の定員さんにも無表情で話してるし。笑うと可愛い顔してんのに、なんかもったいねぇなと思ってな」
「・・・タジルお兄ちゃん、また禁断の性癖が発病しちゃったの?」
「違うわ!ていうか〝また〟でも無いわ!」
どうだか。俺の時も、いきなり「脱げっ!」とか言ってたくせに。俺まだ6歳だったんだぞ、あの日に汚された事は絶対に忘れられないだろう。よよよよよ。
でも確かに前夜祭で会った時、スザクが笑っていたのには驚いた。初めて会った時のスザクは、まったくの無表情だったし。父親が生きているって分かった地下牢でも、父が助かり一緒にゲンブを撃退した時もずっと無表情だったからな。
あれから4年経って、今のスザクは笑える様になっている。乙女ゲームではヒロインの手作りお菓子を食べる時にしか表情は緩まなかったのに。そう思うと、今の状況は良い方向へ向かっているのだろうと信じたい。
でも、それを言うならタジルだって乙女ゲームでは全く笑わないキャラだったんだぜ?
もうすぐ陽が落ちる時間、今日のお祭りも十分楽しんだ。タジルの財布を空にしてやろうと企んでいたのに、全然まだ余裕そうだった。いったいA級冒険者であるタジルの財力はいか程の大金なのか知りたくなった。
「・・・ミネル、あのさ」
「ん?どうした、スザク?」
アイスクリームを食べながら大通りの端にあるベンチで休んでいると、隣に座ったスザクが呟いた。
ちなみに、タジルは露店にてゲーム中。コインを入れたカップが高速で移動し、どのカップに入っているのかを当てるゲームだ。もうタジルが12連勝もしていて、店主がムキになって挑戦させているみたい。俺が欲しいなぁ、と言った商品は既に獲得しているのにゲームは続行されて、見物人達も増え続けている。
「・・・明後日、帰るって、父上に言われた」
「あぁ、そっか。スザク、日ノ国へ帰っちゃうんだな。久々に会えたのに、もうお別れは早ぇよなぁ」
スザクは、まだまだ日ノ国で修行中らしい。今回の護衛任務も修行の一環みたいで、護衛期間中は忍術を禁ずるとセイリュウさんに言われたらしい。この護衛任務を体術だけで乗り切れという事なんだって。だから風神雷神との戦闘では忍具の攻撃しか行なっていなかったのか。
「・・・ミネル、見送り、来てくれる?」
「ああ、もちろん行くぞ!でも、寂しくなるなぁ」
「・・・うん、でも、またきっと、会えるから、会いに来るから」
「そうだな、俺もスザクに会いたし。待ってるよ」
・・・あんれぇ?なんか小夜さんが飛んで来そうなピンクな雰囲気になってないか?・・・気のせいだよな、ドコかから花ビラが風に乗って飛んできたんだけど気のせいなんだよな。一度、乙女ゲームの設定野郎をぶん殴ったら直るだろう。
そして遠くの露店では店主の叫び声が聞こえ、観客達の拍手する音を聞きながら俺はアイスクリームを食べきった。