137話 誕生祭 1日目
6-22.誕生祭 1日目
さぁ!今年もやってきたぜ、国王様の誕生祭!王都で行なわれるお祭りだ!
昨日の前夜祭は大変だった。乙女ゲームには無いイベントだったので何が起こるか分からなかったし。そう思うと、ゲーム情報を持っているというのは充分なチートだったな、俺って。
さて、王都中で賑わう人・人・人・人の数。もう王都ランブレスタが人でうっじゃうじゃ!・・言い方がキモイな、王都ランブレスタが人で溢れそうだ!
国民全員が国王様に祝いの言葉を口にしている。でも「お誕生日おめでとう!」ではなく「国王様、ご聖誕おめでとうございます!」だった。〝ご聖誕〟とはなんぞや?〝お誕生日〟と同じ意味なのかな?
だったら〝誕生祭〟ではなく〝聖誕祭〟にすれば良いのに、とか思っていたんだけど〝聖誕祭〟という名前は既に聖王国の建国記念日で行なわれるお祭りに使われているらしい。それだと名前が被るから〝誕生祭〟という名前になっていると、あとで小夜さんに聞く事になった。
「ミネル、考えながら歩いていたら誰かにブツかるぞ」
俺の隣で歩きながら肉に齧り付いているフェイから注意を受ける。さっき朝飯、食べたばっかなのになぁ。
今日はフェイと一緒にお祭りを楽しんでいます。獣人の子供達と一緒にお祭りに参加しないの?って聞いたら、明日から行く予定だと言われた。
それでフェイは、今日お祭りに行く俺の護衛として着いて来てくれた。人が沢山、王都へ来るから心配なんだと。乙女ゲームにも似たようなイベントはあったけどデートじゃねぇからな、勘違いすんなよ!
ちなみに今日は聖女活動をお休みしています。今、この王都には沢山の観光客が来ているのだが、肝心のアンジェラが全身の筋肉痛みたいでしばらくの間、療養中となっているから。偽の聖女アンジェラとして登場するのは無理なんだよ。
それに・・・まぁ、もしかしたら当分は聖女活動を自粛するかもしれない。ちょっと、貴族達が騒いでいて嫌な噂も耳にするし。
なので昨日頑張った俺のご褒美として、今日は聖女活動で稼いだ金でお祭りを楽しもうと思う。大精霊の召還による後遺症で動けない小夜さんにも何か買ってあげようかな。
「お、ミネル。お前にピッタリのイベント告知があったぜ」
フェイが民家の壁に貼られたチラシを指差して教えてくれた。なになに?お菓子早食い競争とかか?それなら自信あるぞ。
「・・・『女装選手権 集まれ美男子!限界を超え、性別を超えた強者を募集中!!!』・・・」
「な?ミネルにピッタリじゃねぇか」
笑いながら言う悪意たっぷりのフェイを睨みつける前に、俺の体は汗でビッショリになった。
フェイは俺が昨日女装していた事を知らないクセに、なんてタイミングだ。一瞬、心臓がドギンと打たれたぞ。もちろん腹パンをして断った。なのにフェイの奴はケロッとしてやがる。前衛職の腹筋硬すぎ、ちょっと手が痛いぞ。
「イチャついてんじゃないわよぉ!この、淫乱ピンクーーーーーー!!!」
げふーーー!!!
前回同様、少女から横腹をドロップキックされ、吹っ飛ぶ俺。同時に回復魔法を行なう。反射神経が良くなっているのか、衝撃後から0.5秒くらいで回復魔法を発動させるとは何かのレベルが上がっている気がする。
「・・・カンナ、暴力はダメだぞ。大丈夫か?ミネル」
「あ~ん、フェイお兄ちゃんってば、や・さ・し・い♪あの淫乱ピンクなら大丈夫よ。ちゃんと(少し)手加減して(もしかしたら)優しく蹴ったから」
聞こえてるからな、カンナちゃん。小声でも狼人であるフェイにも聞こえてるからな。
「カンナ、いきなり走り出したら危ないだろう。こんなに沢山の人が居るんだから離れたらダメだよ」
「あ、カムイお兄ちゃん。ごめんなさぁい」
お祭りを楽しむ人波の中から、お兄さんのカムイ君がやって来た。早く連れ帰って下さいな、痛いのは嫌です。ていうかイチャついてねぇよ!
「・・・あっ」
「ん?どうしたんだ、フェイ?」
突然フェイが声を上げたので見てみると、ある一点を見つめ険しい顔をしていた。
「すまん、スリを見つけた。悪ぃがミネル、ちょっと此処で待っていてくれ。すぐ捕まえて来るからよ」
フェイはそう言って、早歩きで去っていく男の後を追って走っていきました。
王都の大通りは、観光客などで沢山の人達が行き交っている。人気がある露店では行列が出来ているし、お店の中ではレジに並ぶお客さんが窓ガラスから見えた。さすがは王都のお祭りなだけはある、凄い人の数だ。
これだけ人が集まれば犯罪者だって集まってしまうだろう。きっとスリやケンカも当たり前の様に起きているだろうから俺も気を付けないと。
フェイが行ってしまい、此処に残されたのは俺とカムイ君とカンナちゃん・・・何を話せば良いんだろう?今日は良い天気だねぇ~的なやつか?でも、それは会話に困った感が丸出しだ。
「そ、そういえばカムイ君とカンちゃんは2人でお祭りを周っているの?」
「そうよ。だから今日だけはフェイお兄ちゃんを譲ってあげるけど、明日は私とお祭りを楽しむ約束をしてるんだから邪魔しないでよ淫乱ピンク」
「カンナ、明日はフェイさん獣人街の子達と約束があると知らせてもらっただろう?それに明日は俺とカンナで孤児院の子供達をお祭りに連れて行くんだ。ラクシャス様にも頼まれたし、残念だけどフェイさんと祝祭を周るのは無理だと思うよ。空いているのは明後日の夜くらいだね」
カンナちゃん、嘘かい!俺もフェイは明日、獣人の子供達とお祭りに行くって聞いてたからアレ?とか思ったよ。
えーと、〝ラクシャス〟って確かヴァンさんの事だっけ?いつもヴァンさんって呼んでたから忘れてしまう。本当にもう孤児院の事はヴァンさんに任せっきりだからなぁ、すんません。
妹さんはブーという不機嫌な顔になって頬を膨らましている、ちょっと可愛い。それと、別に俺はフェイとデートをしている訳じゃ無いからな。ただ俺には一緒に楽しむ友達が少な・・・フェイがどうしても俺に着いて行くってうるさいから一緒にお祭りを楽しんであげているだけなんだからね!勘違いしないでよ!
スザクは今日、護衛の仕事で忙しいらしく、タジルは冒険者の仕事関係で今日は無理だと言っていた。孤児院の子供達は俺の目立つピンク髪を引っ張るし、いつかハゲると忌避していて近付けない。でも、いいもん。あと3年くらいでルッソとルードが俺に会いに王都へ来てくれるらしいから。そしたら俺は脱・友達不足となるのだ。
「そうだわ、淫乱ピンク。アンタに言っておきたい事があるのよ」
突然、カンナちゃんが真剣な顔で俺に話し掛けてきた。え~、どうせ〝フェイお兄ちゃんは私の物よ〟とかでしょ?聞き飽きたよ。
「そうだな、今なら大丈夫だと俺も思う」
「もし、ロイドさんにバレたら怒られちゃうけどね。その時は一緒に怒られましょう、お兄ちゃん」
ん?ロイドさん?なんかカンナちゃんだけでなく、カムイ君も真剣な顔で俺の方を向いたんだけど。なに?俺なにかやらかしちゃった?
「一回しか言わないからね、よく聞きなさい」
「お、おう」
なんだ?ま、まさか兄妹なのに〝私達、結婚しました〟とか?ダメだよ!そんな近親そ__ゲフンゲフン、そんなマニアックな////
・・・落ち着け、俺。年齢的に結婚なんて有り得ないし、確実に違う話だ。
「淫乱ピンク」 「ミネル君」
「カムイお兄ちゃんを」 「俺を」
「「生き返してくれて、ありがとう」」
え?
「じゃあね」 「じゃあ」
満足したのか、二人は笑顔で去って行った。
え?
・・・・・・・・・
え?
なんで、だって、あれ?俺はあの時ずっとフードを深く被っていたのに。それなのに、なんで2人はあの時の子供が俺だと知っているんだ?フェイやタジル達が言う訳ないし、なんで・・・
まさか身長?いやいや、ちゃんと2cmも伸びてるし。いや、その前にあの時の子供が大聖堂を破壊した小さな子供だと知られれば、犯人が俺だとバレちゃう危険な状況ではでは?
混乱している俺の元にフェイが戻って来るのが見えた。どうやら無事にスリを確保して巡回中の騎士に渡して来たみたいだ。
「あん?どうした、ミネル。変な顔しやがって、何かあったのか?」
「え、いや、別に、なんでも、うん、ないよ」
俺はフェイにブンブンと首を振って否定した。
「そうか?なんか顔が真っ赤になってっし、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、大丈夫。あっ、あそこのジュースでも買って行こうよ。トロピカルなジュースだって、うまそ~!」
少し、うん、少しだけ嬉しかった。
あの時、俺は自分の嫌な現実から逃げて死んだ彼を生き返らせた。蘇生魔法は確かに神の救いだけど、それは〝死〟という生命が既に失われてしまった事象を破壊する行為。それがただ一人の人間の手によって行なわれて良いのか、本当に許される事なのかは分からない。
でも、感謝された。それが、うん、やっぱり、とても嬉しかった。
それから俺は、王都の誕生祭をフェイと一緒に楽しんだ。さすがに露店全部は食べ周れなかったので、明日またチャレンジします。
ちなみに、ミニ情報。『女装選手権』の優勝者はタジルだったらしい。お、おめでとー。でも冒険者の仕事はどったのよ、まさかサボったのか?