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136話 ※とある風の忍※

※注意※

この話にはチンマリだけ「残酷な描写あり」があります

苦手な方はご注意ください m(_ _)m


 6-21.※とある風の忍※



 ※ ※ ※ とある風の忍 ※ ※ ※



 今回の暗殺は計画通りにいかない事ばかりですね。


 ゲンブ様から計画には無かったセイリュウさんとスザク君の殺害を命令されたり、ゲンブ様自身が聖女アンジェラの殺害に行かれたりと。今回の計画ではゲンブ様の個人的な恨みで変更され過ぎだと思います。


 先程、もう1人の暗殺対象である姫巫女が会場から退室したとの報告もありました。我々にとって危険人物指定だったこの国の騎士団長は聖女アンジェラの護衛となっていました。どうしたものでしょうか・・・



 「本当に良かったのかよ、風神。あのピンク娘と黒曜親子を殺しておかなくて」


 後ろで歩いていた雷神が俺に尋ねました。振り向いて彼の顔を見ると、少し不機嫌な様子です。暗殺が失敗してしまったので仕方がない事ですが。


 「・・・止めておきましょう」


 「なんでだ?俺等の計画を知ってた娘だぜ?処分しておいた方が良いんじゃねぇの?」


 「コレを御覧なさい」


 俺は自分の隠し袋から一掴みサイズの黒い石を取り出す。


 「それはぁ・・・確か・・・なんだっけか?」


 「魔晶石の結晶体です。魔族領にしか生成されない特殊な鉱石で、主に魔法を内部に凍結保存するのに使用されています」


 「あぁ、ライバッハの奴が〝あの薬〟と一緒に俺等に寄越したやつか。あん?しかし、あの石は宝石みたいに透き通ってなかったか?そんな黒い石じゃなかったはずだぜ?」


 「この魔晶石に保存されていた魔法は防御壁です。純度は高3級、上級攻性魔法でさえ4度は確実に守れると教えられた代物ですよ・・・今では、もうただの石となってしまいましたが」


 「・・・もしかして、最後のアレか?」


 「ええ、そうです。あの娘が最後に行使した魔法。その魔法を防ぐの使用しましたが・・・壊れてしまいました」


 「なんだよ、ライバッハの奴。4度は確実に守れるとか偉そうな事を言ってたクセに、一度の魔法でぶっ壊れてんじゃねぇか。はっ、あのホラ吹き野郎が」


 「そうですね、ライバッハさんがあんなにも自信作だった代物を、あの娘は一度の魔法で破壊を成し遂げました。そして回復魔法は異常なまでの治癒能力です。風に微量の麻痺毒を乗せていたのですが、黒曜の御二人はマスクもしていない状態で平然と動いていましたし」


 「・・・それは、つまりあの娘には何かあるという事か?」


 「まだ分かりませんので、その可能性があるとしか。しかし、容易に殺害が可能なのかは分からない人物ではありますね。最初の奇襲も、どうやらあの娘が防いだみたいですし注意はしておいた方が良いでしょう」


 殺気も気配も収めていたハズなのですが、セイリュウさんに気付かれてしまい咄嗟に準備していた忍術で奇襲を行ないました。殺すのは無理でも、少しだけでも負傷してくれてさえいれば俺達が優位になると考えたのですが、残念ながら結果は無傷。最低最悪な奇襲となってしまいました。


 「で、どうすんだ?あの娘が計画を知っていて処分する事が不可能の場合は、計画を放棄して退避するのが普通だろう?ゲンブ様に知らせて俺等も逃げるか?」


 「そうですね・・・ライバッハさんとゲンブ様に頼まれた聖女の暗殺と、魔王軍の目的である姫巫女様の殺害は不可能かもしれません。ですが、あの方の依頼である聖剣の奪取は出来るかもしれませんね」


 「なんでだ?あの娘がこの国の国王に知らせていれば、宝物庫の守りも厳重に強化されいる筈だろう?」


 「コレを使用します」


 俺は隠し袋から一束の草花を取り出し、雷神に見せました。


 「そいつはぁ、ネミネ草か?お前、そんな貴重な素材を持って来てたのか」


 雷神が驚いた顔をして俺の持っている草花を指差しました。


 この黄色い花がある草は『ネミネ草』と言って、主に気温の低い高山などで生息しています。近代ではその数は大きく減り、今では竜族が住むという険しい山々にしか生息していないのではとも云われている貴重な素材です。


 このネミネ草に咲く花には、強力な睡眠作用がある花粉を生み出します。その効能を利用して、竜族は敵から自分達を守っているそうです。険しい山に気温が低く、空気も薄い場所でのマスクは危険ですからね。そんな危険地帯に巣を作り、竜種の貴重な素材を手に入れようとする愚かな狩猟共から身を守っているのです。



 この草の花粉を使えば宝物庫への侵入は可能になるだろうと考えています。


 部下からの報告では宝物庫の守備は扉の外だけで、中には誰も居ないそうです。ならば、扉の前に居る守備兵達をどうにかすればいい。パーティー会場の様な広い空間ではなく、天井は高いが広くは無い廊下に居る者達ならば、これだけの量で足り得ると思います。


 「じゃあ、聖剣を奪って逃げるって事で決まりだな。ゲンブ様に知らせるか」


 「ええ、そうしましょう」


 雷神が懐から小さな球を取り出しました。その球に魔力を通す事で、部下達が持っている球に光信号が届く様になっています。それで部下達を呼び戻す事にしました。これもライバッハさんの作品らしいです。


 「・・・おかしい、部下達からの応答がねぇ」


 その小さな玉を見ていた雷神が呟きました。作戦中、通信の大事さは部下達も分かっている筈です。それなのに誰一人として応答を返さないというのは異常な出来事でした。



 「ごめんねぇ。残念だけど君達の部下なら、もう来る事は無いよ」



 俺達の右側にある草影から男の声がして、咄嗟に武器を構えます。


 「あっ、安心しなよ、殺しちゃいないからさ。ただ、みんな手足の骨は砕けちゃってるかもだけど」


 暗い草影から、王城の光りに照らされる場所まで歩いて来たのは、とてもニコやかに笑う男でした。特殊な服装を着ていて、おそらくは何処かの民族衣装だと思います。両手にはそれぞれ武器を持ち、あの武器は確か〝カトラス〟と呼ばれる特殊な武器に似ています。


 「テメェ、何者だ?気配なんて全くしなかったぞ」


 確かに雷神が言った通り隠れているのに全く気が付きませんでした。それに、目の前に来たとしても男の気配は凄く薄く感じます。これ程に近付かれたというのに、あの戦闘狂の雷神が気配を読めなかったとは信じられません。


 「俺?俺はロイドって名前、どうぞよろしく。君達は暗殺者の仲間だよね?それも格下の部下ではなさそうだ。もしかして暗殺計画の主犯である〝ゲンブ〟と呼ばれる人物の居場所を知っているのかなぁ?」


 この男の口元がニヤけた瞬間、体に寒気の様なモノを感じました。これは・・・殺気?いえ、これは恐怖に似ている気がします。


 俺が感じた事を雷神も感じ取ったのでしょう。すぐに自分の忍刀に彼が得意とする〝雷〟の力を纏わせようとしました。


 「あぁ、ダメダメ。動いたらダメだよ」


 ロイドという男の腕が一瞬ブレたかと思った後、地面にボトリッという音がしました。その音を追って地面を見ると、忍刀が握られている腕が落ちています。


 「ぐ、がぁああああぁあぁ!!」


 俺の横に居た雷神が叫び、彼の腕から勢いよく出血が起こりました。あの地面に落ちたのは、まぎれもなく雷神の腕。まさか、あの一瞬で・・・


 「ら、雷神っ!今、薬を______」


 「あぁ、ダメだってば。君も動かないでねぇ」


 「___なっ!?」


 俺の首筋には、あの特殊な形状の武器が置かれていました。そして俺の背後にロイドと名乗った人物が居ます。顔は相変わらず笑顔なのだが、その笑顔が仮面の様に感じました。


 「あの距離を、一瞬でっ!?」


 「残念だなぁ。忍の者といっても、こんなものなのかぁ。もう少しマシな反応が出来ると思ったのに、本当に残念」


 首に刃物がある以上、抵抗はしない方が良いでしょう。私は大人しく両手を上げました。


 「まっ、安心しなって、殺す気はないよ。君達を殺したら国際問題になって、頭のかた~い兄弟子(あにでし)に怒られちゃうからさ」


 「・・・ならば、彼に薬を与えて貰えないでしょうか?これでは出血により死んでしまいます」


 「あっ、それもそうか。分かったよ」


 このロイドという男が笛の様な物を吹き、おそらく部下であろう何人かの者達が遠くからやって来ました。そして、その部下の1人が雷神に回復魔法を行なってくれます。


 「じゃあ、質問。さっきも聞いたけど〝ゲンブ〟という主犯は今ドコに居るのか君は知っているかい?」


 「いえ、残念ながら知りませんね」


 「・・・本当に?」


 「ええ、本当です」


 ロイドという人物と、ただ話しているだけなのに腕の震えが止まりません。しかし、此処でゲンブ様の居場所を言うつもりはありませんよ。それは、とてつもない裏切り行為ですから。


 「ん~、まぁいいか。君の体に直接、教えてもらう事にするよ」


 「拷問ですか?知らないという証言は続けますが、我々忍が拷問の訓練を受けていないと思っているのですか?」


 「ん?あぁ、違う違う、別に拷問をしようとは思っていないよ。それこそ国際問題になるし。もっと確実な手段があるからさ」


 男がそう言うと、二人の人物にコチラへ来る様にと合図を送りました。


 「ロイドさんが呼んだの、絶対にそうなの」


 「お呼びですか?ロイドさん」


 コチラへ来た人物は、まだ子供の男女でした。女の子の方は長い赤毛で垂れ目、男の子の方は我々の様な黒髪だった。


 「瞳ちゃん、耳君、ご苦労様。ちょっと瞳ちゃんに頼みたい事があってさぁ、この男を視てくれない?」


 「うん、了解したの。私、任されたの、絶対にそうなの」


 ロイドという男のお願いに、女の子が俺に近寄り腕に触れてきた。逆らってはいけません、雷神の様に一瞬で斬り捨てる事がこの男には可能でしょうから。


 「あの、ロイドさん。すいませんが、やっぱり〝耳君〟というのは変更して頂けませんか?」


 「え、何故だい?ピッタリじゃないか、君の耳には凄く期待しているんだからさ」


 「しかし・・・」


 ロイドという男の言葉に、〝耳君〟と呼ばれた男の子の顔が歪む。そうとう嫌なのでしょう。


 「そんなに〝耳〟が嫌なら〝盗聴野郎〟とかで良いと私は思うの、絶対にそうなの」


 「おや、瞳ちゃん。もう終わったのかい?」


 「うん、終わったの、絶対にそうなの」


 俺から離れ、少女はロイドという男に近寄り耳元で何か囁いている。


 「〝盗聴野郎〟なんて絶対に嫌だ!それなら本名で呼ばれた方がマシだよ!」


 「うるさいの、盗聴野郎。報告中なのに迷惑なの、絶対にそうなの」


 「それなら、君は〝覗き魔〟だろう!?」


 「ヒドイ事を言ったの!今、盗聴野郎は私にヒドイ事を言ったの、絶対にそうなの!」


 睨み合う2人にロイドという男が溜息をしながら止めに入りました。


 「こらこら~、喧嘩すんな。それよりも瞳ちゃんは報告中だろう?」


 「そうだったの。盗聴野郎に構っている場合じゃなかったの、絶対にそうなの」


 少女は、また男の耳元で囁く行為を再開しました。男の子の方は不満気にしている様ですね。


 「____ __________。以上で終わりなの、絶対にそうなの」


 「ふ~ん、なるほどねぇ。ありがとう、瞳ちゃん」


 少女から離れ、俺の方へ笑顔でふり向くロイドという男。とても楽しそうに笑いながら俺に向かって口を開きました。


 「どうやら主犯のゲンブは、もうパーティー会場に侵入しているみたいだね。兄弟子の警備もたいした事ないなぁ、こんな簡単に侵入を許すなんて。あとでバカにしてやろ、楽しみだなぁ」


 「・・・え・・・」


 「でも、なるほどねぇ。〝姫巫女様〟の殺害が魔王軍で決まり、ついでに今回の主犯であるゲンブという人物とライバッハという魔王軍の研究員が〝聖女アンジェラ様〟の暗殺を狙ったと。そして、シュザークと呼ばれる人物から〝聖剣〟の奪取を頼まれてたのかぁ。君も大変だねぇ」


 「っ!?まさか、記憶を!?」


 「でも、まさか君が魔王の副官と繋がりがあるなんてねぇ。これはもしかして本当に当たりかな?」


 男が言った通り、ゲンブ様はもうパーティー会場への侵入を成しています。そして今も、その会場に居るというのも事実です。それに俺等が実行している計画の依頼者まで、この男は口にしました。考えられるのは、あの少女。あの子の能力が他者の記憶を読むのであれば、確実に脅威です。


 「でも、良かったね。もし、君達と戦ったピンクの娘さんに怪我でもさせていたら、俺は君達を殺していたかもしれないからさ。あの娘さんが優秀な魔法の使い手で本当に運が良かったよ、君達」


 「・・・ぐっ」


 「あぁ~、ごめんよ。俺の殺気を直に受けてしまったみたいだね。でも俺を怒らせるような事をした君達がいけないんだよ、あの子に攻撃をするなんてさ」


 「・・・・」


 「じゃあ、君達にはもう用は無いね。丁度いい所に丁度いい物があるみたいだし、君達にはグッスリと眠っていてもらおうか」


 男がそう言うと、先程俺が懐に隠したネミネ草を奪っていきました。そして花粉を俺と雷神に振りかけます。遠のく意識の中で、さっき居た子供達の言い争いが聞こえます。そして、男が溜息をして子供達に近付いて行ったのがボンヤリと見えました。


 「はいは~い、喧嘩はそこまでぇ。まったく、お互い似たような後衛職なんだから仲良くしなよ。瞳ちゃんも先輩なんだし、後輩には優しくな」


 ・・・意識が・・ゲンブ様・・すいません・・貴方様からの任、叶えられそうに・・ありません。どうか・・お許しを・・・・


 「そんなに〝耳君〟ってのが嫌だったんだ、残念。でも、君には本当に期待しているんだよ___」


 俺は、そこで暗闇の中へと意識を失いました。



 「____シノノメ カムイ君」




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