132話 ※アンジェラ※ Prt.3
6-17.※アンジェラ※ Prt.3
※ ※ ※ 悪役令嬢 アンジェラ=K=モンテネムル 視点 ※ ※ ※
「アンジェラお嬢様、良くお似合いです」
いつもの黒いゴスロリ衣装ではなく、公爵令嬢に相応しいドレスを私に着させて髪を整え終えたマーサが褒めてくれた。
ここは王城の中。今日の夜、開催される前夜祭のパーティー前に会って話をしませんか?と王妃様に誘われてしまった。この招待を拒否する事は許されない、それが王族に従う貴族の掟。
もちろん普段のゴスロリ服を着るなんて、もっての外。見事にデザインされた豪華なドレスに身を包み、そのドレスに合った装飾品を付けて着飾る。見事に研磨されたガーネット、綺麗ね。公爵令嬢である私が安物なんて付けるのはありえない、もちろん偽物も。そんな事をすれば他の貴族にナメられるだけですから。
「では参りましょう、王妃様がお待ちです」
マーサの言葉に了承し、椅子から立ち上がり扉を出てから王城で働く騎士に案内される。
「アンジェラ=K=モンテネムル様をお連れしました。入室の許可をお願いします」
城の廊下をゆっくりと歩き、素晴らしい装飾がされた大きな扉の前まで到着しました。その扉の警備を任されている衛兵に、案内してくれた騎士が声を掛ける。そして少し待った後、扉が開き衛兵が扉の両脇に退いた。
マーサは扉の前で立ち止まり、私だけが中へ入る。そして、マーサが一礼している状態のまま扉は閉ざされた。この部屋へ入る許可を頂けていなければ、専属メイドであろうと入室する事はできない。この部屋に居るのは私と、若いメイドが1人と、そして窓の外にあるバルコニーで椅子に座っている綺麗な大人の女性が1人だけ。
「お待たせして申し訳ありません、フレアティーナ様」
「いえ、大丈夫ですよ。ようこそいらっしゃいました、アンジェラ様」
「お招きして頂き、ありがとうございます」
両手でドレスを少し摘まみ、淑女の礼を行なった。この方は現国王の王妃フレアティーナ=C=ランブレスタ様。この国では2番目に権力を持つ御方です。なので礼儀を欠いてはいけません。
たとえ、まだ12歳の子供だとしても第2王子の婚約者ならば礼儀作法に完璧を求められる。
「さぁ、どうぞ。お座りになって」
「はい、失礼いたしますわ」
王妃様の許可を頂き、バルコニーへ向かい椅子に座る。
「あぁ、そうだわ。アンジェラ様、お茶を頂く前に真名を聞かせて頂けるかしら?」
「・・え?ですが・・・」
王妃様に尋ねられて、私はお茶の準備をしている若いメイドに目を向けた。
「彼女は大丈夫ですよ、契約を施してありますから。ですから安心なさって」
「はい、申し訳ありません。分かりましたわ」
私は椅子から立ち上がり、もう一度、淑女の礼を行なう。
「私の名はアンジェラ=カリサファン=モンテネムルにございます」
「ええ。ありがとう、アンジェラ様」
もう一度、真名を加えた自己紹介を行ない、それで王妃様から椅子に座る許可を頂けた。そして、若いメイドが机にお茶とお茶菓子の準備を始める。
『真名)』
アンジェラの実家であるモンテネムル家が王家から頂いた名。それが『カリサファン』という真名。
この真名を知っているのはモンテネムル家の家族とランブレスタ王国の王族のみ。真名を口にする事で偽者では無いという証拠になる。この王家から頂いた真名を他の者達に知られてはいけない。悪意を持って他者に知らせた場合は一生を牢獄で暮らす事となる。知った者は禁術で、ある程度の記憶を消すという施術を受けなければならない。それ程に、この真名というモノは大事なもの。
先程、王妃様が若いメイドには契約が施されていると言っていましたが、それは知った真名を他者に教えてはならないという奴隷契約に近い契約の事。逆らった場合は命がありません。
この真名という存在を平民である国民は教えられていない。それを知るのは伯爵位以上の貴族で、その国が真名という規律を定めているかによる。スザきゅんの日ノ国や獣人達は、その規律を定めてはいないので知らないでしょうね。
そして、先程言った通り伯爵位に満たない貴族達も知らされてはいない。子爵や男爵の者達が王族と二人きりになる事はまず無いから。王族から、そこまでの信用があるのは伯爵位まで。なので伯爵位以上の者達だけが他に誰も居ない部屋で、個人的に王族と会う事が許された時にだけ真名を口にする。
まぁ、もしかしたら秋斗君もこの設定を知っているかもだけど。真名という設定も、アンジェラの真名が〝カリサファン〟だという事も乙女ゲームの攻略情報に記載してあった事だから。
ヒロインの名前が『ミネルソフィ=ターシア』で、悪役令嬢の名前が『アンジェラ=K=モンテネムル』だったからね。ゲームのプレイヤーで、なんでアンジェラの名前の間には〝K〟というイニシャルがあって、ヒロインのミネルソフィには何も付いていないんだ?と疑問に思った人は大勢いたでしょう。
その疑問を解決しようと、攻略情報を見れば分かる事。そこで真名という存在を知り、侯爵位である悪役令嬢には真名があり、男爵令嬢であるミネルソフィには真名が存在していないと分かる。
ちなみに、王族の真名は貴族達は誰も知らない。それを知るのは真名という規律を定めている国の王族だけだ。王族の真名を確認するのは、同じ王族である他国の王家のみ。まぁ、私は攻略情報を見て攻略キャラであるエルナルドの真名もレギオールの真名も知っているけどね。あぁ、騎士団長様の真名も知っているわ、息子が攻略キャラだから。
「今回の紅茶はいかがです?アンジェラ様」
私の前に座っていらっしゃる王妃様に尋ねられた。細く素敵なスタイルで、お綺麗な方だわ。
「たいへん美味しく頂きました。香りが優しく、とても落ち着く素晴らしい味でしたわ」
紅茶のカップを置き、笑顔で答える。本当は抹茶の方が好きだけど、悪くなかったのは本当よ?
「そう、良かったですわ・・・ところで今日、アンジェラ様は陛下から何か教えて頂けましたか?」
「はい、私に暗殺者が送られたと教えて頂きましたわ」
今日、王城へ到着したと同時に陛下からの手紙を受け取った。そこに、そう書かれていた。
「アンジェラ様は凄いですわね、そこまで平常心でいられるなんて。私が初めて、その事を体験した時は部屋に引き籠り震えていましたのに」
国王様のお妃であるフレアティーナ様も、周りの令嬢達からは疎まれたり憎まれたりしたのでしょう。暗殺者を送り込まれる程に。
「アンジェラ様は、その勇気をどうか大事になさって。王族にとって暗殺は、ごく普通の出来事となってしまっていますから。今代のランブレスタ王家には側室という人はいませんので、まだマシなのですけどね。それでも、エルナルドの婚約者である貴女には次世代の王妃として知っておいて頂きたかったのです。そして、その覚悟も」
「怖くはない、と言えば嘘になります。しかし、私は自衛が出来ない弱い女ではありません。ご心配ありがとうございます」
「ふふっ・・ええ、その意気ですよ。それに優秀な警備隊や護衛、もちろん騎士団の派遣もしておりますので安心なさって。暗殺者も必ず捕まえて頂けるでしょう」
「ええ、もちろん我が国が誇る勇気と力ある戦士達を信じておりますわ」
ある程度の信用はしてますけど、信頼は全くしてないけどね。
「そういえば、もうすぐエルナルドも来るはずなのですけど・・・もう、あの子ったら」
私の婚約者となったエルナルド=C=ランブレスタ。つまりは、この国の第2王子で乙女ゲームの攻略キャラ。そう、あの子も招待したのね。
でも、無駄だと思うわよ?だって、あの子は私の事を嫌っていますから。
『闇』属性が主軸で、悪役令嬢だった私。
『光』属性が主軸で、ヒロインのミネルソフィと結ばれるはずだった攻略キャラのエルナルド。
本当に相性が悪い。それなのに婚約者だなんて。乙女ゲームの物語ではエルナルドには婚約者なんて居なかった。そんな設定をすればヒロインとイチャつくイベントが発生できないから。そして、悪役令嬢の私が聖女様だなんて・・・本当にこの乙女ゲームの世界は面白いくらいにぶっ壊れていますわね。
そういえば、なんで私は悪役令嬢の『アンジェラ=K=モンテネムル』を選んだのかしら___
□ ■ □ ■ □ ■
「・・・ここは、どこかしら?」
「やぁ。初めまして、品川 小夜さん。さっそくで悪いんだけど、君は死んだんだよ。覚えてる?」
「・・・いきなりのご挨拶ね。ええ、死んだのは覚えているわ。それで、貴方はどちら様?」
「うん、良かった。僕は君達、人間が言っている〝神様〟ってやつに近いかな?」
「〝近い〟というのは、どういう事?そのものでは無いという事よね?」
「まぁね。いろいろと複雑なんだよ、死後の世界も」
「・・・そう」
「それで、なんだけど。君には、ある世界に転生してもらう事が決定しました。君が死ぬ間際までプレイしていた乙女ゲームの世界にね。ちなみに断る事は出来ません、これは決定事項です」
「転生?つまり、もう一度生まれ変わって生きろという意味?でもゲームの世界っていうのが、ちょっとフザケ過ぎじゃないかしら?」
「僕が決定した事じゃないので、知りませーん。で、君は誰に転生したい?希望とかってあるかな?」
「・・・まぁいいわ。じゃあ主人公で楽しませてもらおうかしら」
「あ、主人公は無理。ごめん。ポイントが足らないんだ」
「ポイント?意味不明ね。じゃあ・・・男キャラは嫌だし、女キャラのモブキャラで楽しもうかしら」
「それだと本当にランダムになっちゃうよ?生まれてすぐ死んじゃう子もいるし、おススメはしないな」
「・・・はぁ、分かったわ。じゃあ悪役令嬢だったあの子でお願い。その乙女ゲームの世界を壊してあげるわ。ちなみに、その転生には何か特典とかあるのかしら?」
「何か欲しいのかい?いいよ、ポイントならまだ残っているし」
「・・・じゃあ、_________を_________________________。どう?出来るかしら?」
□ ■ □ ■ □ ■
「____ジェラお嬢様・・・アンジェラお嬢様!」
マーサの声に気が付いた。少しボーっとしていたようね、転生前の事を思い出していたわ。
今は王妃様とのお茶会も無事に終わり、王城に用意された客室で休憩している。結局、婚約者のエルナルドはやっぱり現れなかった。
「アンジャラお嬢様、お疲れでしたでしょうか?申し訳ありません」
「いえ。大丈夫よ、マーサ。ありがとう」
マーサはホッと安心した顔になり、新鮮な飲み水を用意する為に頭を下げてから退室していった。
「まさか私の『あの特典』が、こんな事になるなんてね。本当にごめんなさい、秋斗くん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※