表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/187

130話 VS 中ボス二人組


 6-15.VS 中ボス二人組



 夜の庭園に、忍の服を着た二人の人物が立っていた。


 王城にある庭園は、王族はもちろん貴族達にも目の癒しとなるように匠達の技で素晴らしい景色が維持されている。今は夜の時刻の為、小道には光る魔道具が設置されてあった。


 その光に照らされる二人の人物。黒装束で覆面という出で立ちは明らかに怪しい不審人物。その不審者達が刃物を取り出し、こちらを見ている。


 「・・・結界術ですか。奇襲は失敗の様ですね」


 「ああ、らしいな。やっとこさ姫巫女から離れたと思い、襲ったのにな」


 あ、この声。乙女ゲームで聞き覚えがあるぞ、誰だっけ?


 「ミネル君、防壁をありがとう。しかし、ミネル君は此処から去りなさい。奴等の用があるのは俺だろうから」


 セイリュウさんが俺にそう言った後、破壊された壁の大穴から庭園へと外に出て行った。そのセイリュウさんの後をスザクも追う。


 「お前達も久方ぶりだというのに随分な歓迎ではないか。俺はお前達の昔の上司だったというのに」


 「お久しぶりです、セイリュウさん。残念ですが、貴方を裏切った俺達はもう貴方の部下ではありません。今の俺達の上司は、あの人ですから」


 「・・・ゲンブ、か。では、この襲撃もアイツの指示か?」


 「さぁ、どうでしょうね・・・ですが、貴方を殺しに来たのは事実ですよ。安らかに死んで下さい」


 覆面男の言葉を合図に、黒曜親子と暗殺者の覆面2人組が同時に武器を構えた。セイリュウさんとスザクよ、今その武器どこから出したのん?


 「暗殺組織『朧』を束ねる黒曜家の当主に勝てると、本気で思っているのか?元、風神に雷神よ」



 あっ!あぁ~、思い出した。乙女ゲームでゲンブ戦の前に戦った中ボスじゃん、コイツ等。



 スザクの好感度が90以上で発生するスザクイベント『ゲンブとの決戦』。


 〝黒曜 スザク〟の好感度が90に達すると隠しエリアである『日ノ国』へ行けるようになる。普段のマップでは霧で囲まれた場所なのだが、その場所の近くまで船で向かうとスザクが『霧払いの術』のスキルを使って島を発見する事が出来るのだ。


 イベントダンジョンはスザクの故郷である『隠れ里』と、俺のマジックバックに保管してある〝闇の衣〟があった『士勇山』。他にも日本を参考にした地区がたくさんあった。サルが大量に居る温泉地区や、桜並木や歌舞伎場がある宿場町なんかもあったなぁ。



 その隠しエリアの日ノ国にはスザクが育った隠れ里があり、俺がスザク救出の為に侵入した当主の館があった。そこが暗殺組織として有名な『朧』の本拠地であり、実は今回みたいに護衛なんか引き受けているらしい。セイリュウさんは殿様ともお茶飲み仲間だと俺に教えてくれた。


 乙女ゲームでは、その当主の館にある『当主の間』というエリアでゲンブとスザクとの戦闘イベント場所となっていた。でも、その前に中ボス戦が発生するんだよ。確か、『当主の間』の手前にある階段下での戦いだったかな。


 それが、中ボスである風神・雷神との戦い。そういえば、本名とかは知らない。ちなみに、この二人も有名な声優さんが使われております。一回の戦いしか出番のない中ボスに金かけてんなぁ、製作者。


 風神・雷神ともに上忍であり、それなりに強かった。攻略方法は風神を先に倒す事。風神は回復薬を何処に持ってんの?と思いたくなる程、大量に使用してくるからだ。だからまず後衛に居る風神を先に潰すのがオススメである。


 前衛に居る雷神の攻撃を上手く防ぎつつ、レギオの魔法やタジルの弓などの遠距離攻撃で削るといいだろう。以上、博士ミネルの攻略コーナーでした。




 さてさて、開戦となった黒曜親子 VS 風神雷神とのデスマッチ。壁に隠れながら襲い来る尿意と戦う俺は彼等の戦闘を観戦している。


 黒曜親子と雷神風神コンビとの壮絶な戦い。庭師の匠達が精魂込めた芸術作品は哀れな姿となっていく。焦げる地面に、破壊された小道、花々は全て散りました。この人達は、この庭園の維持にどれだけの経費と努力が費やされていると思ってるのだろう。一応言っておくけど、俺は関係ないので弁償とかは絶対に求めないで下さい。




「・・・【風遁・空斬風】」


 中ボスだった風神がスザクに向けて忍術を放った。セイリュウさんの後ろから、何処に隠しているの?と思いたくなる程の暗器を投げまくっていたスザクに風のカマイタチが襲う。セイリュウさんが防ごうとするが雷神が邪魔をした。素早く攻撃を避けるスザク。だが全てを避けられなかったのか、スザきゅんの腕から血がっ!


 「・・・【大地に満ちる・女神の慈愛・命の息吹よ・奇跡となりて・今ここへ ≪キュア・オーライト≫】」


 こんな薄暗い中、よくあんな見えにくい風の忍術をスザクは避けられるなぁ、と思いながら魔法の詠唱を開始した。そして傷付いたスザクの体が光り、同時に腕の傷が跡形もなく完治する。


 そういえば上級回復魔法を行なう際、この聖女の祈りポーズをしなければならないのは正直恥ずかしい。でも、このポーズをしないと実は上級魔法が発動しないんだよ。厄介な設定だよ、ホント。


 傷が完治したスザクは、すぐさま敵に大量の暗器を投擲。


「・・・ちっ!」


 おっと、スザクの攻撃を避けている敵さんの1人にめっちゃ睨まれたッス。こっわーい。


 はい、もちろん俺はただ見ているだけの観戦をしている訳ではございやせん。風神雷神が黒曜親子にダメージを与えたとしても、すぐに回復魔法で完治させています。


 掠り傷に上級魔法はもったいなくない?と思うかも知れないが、この≪キュア・オーライト≫は体力回復と共に状態異常回復を同時に行なってくれる。なので、忍との戦いでは結構必須なのですよ。なんせゲームと違ってステータスが無く、状態異常に罹ってしまったのか分からんもん。


 本当はシールドを張りたいのだが、忍みたいに動き回る人には邪魔になるんだよね。だから身体強化魔法とスタミナ回復魔法を黒曜親子に掛けてある。


 壁に隠れて安全地帯からの遠距離補助活動。〝セコイ〟とか〝ビビり〟とか〝男のくせに〟等のブーイングは受け付けておりませんので。考えてみろよ、相手は刃物を振り回していて俺は武器なんて持って無いんすよ?そんな状況なら、敵さんから隠れて支援するのは普通だと俺は思う。



 俺は(男だけど)ヒロイン役であるミネルソフィ=ターシアだ。乙女ゲームでは最強の補助役戦闘員として素晴らしい成績を残してきたヒロインちゃんの代わり。その俺の前で味方が傷付く事を許さんよ。どれだけダメージを与えようと、状態異常を加えようと俺がすぐに完治させてみせるぜぃ。


 スタミナ回復、身体強化、上級回復連発、俺ってば12歳でこれだけの魔法を同時発動しているって凄くね?まぁ、光の女神の加護に、ヒロインちゃんの主軸である光属性設定と、協力してくれている光の精霊達のおかげだけどな。あれ?俺自身の実力は如何に。


 だけど、これだけの補助を行なっているのに戦力は均等している。


 元、風神と雷神の二人は戦う前にビンを取り出して中に入っていた何かの液体を飲んでいたから、たぶんソレが原因だと思う。おそらくは身体能力を上げる薬だったのだろう。ゲームでも似た様な物はあったが、ここまで強力ではなかった気がする。そもそも聖女の補助魔法と同じくらいの効果なんてズルくね?



 セイリュウさんは水遁の術。スザクは暗器での遠距離攻撃。


 風神は風遁の術と回復薬。雷神は雷遁の術。


 そして、俺は邪魔にならない様にビクビク壁に隠れながら黒曜親子に支援活動。


 ・・・別に〝情けない〟とか〝格好悪い〟とか思ってないもん。これは適材適所というやつだ、絶対にそうなのだ。


 夜での激戦。周りは薄暗く、光の支援魔法を行なっている俺は電球の如く光っています。なので破壊された壁に隠れて覗いていた俺だが、雷神と風神にはもちろんモロバレでめっちゃ睨まれている。


 いやいや、風神も回復薬を使ってんじゃん。回復の威力は俺の方が各段に上だけど、お互い様だよね?怪しい薬なんか飲んで身体能力上げているクセに睨まないでよ、怖いじゃん。


 「雷神、あそこに隠れているピンク頭の娘を先に殺しましょう。あの娘の回復魔法は厄介です」


 「ああ、分かったぜ」


 あれ?え?こっち来るの?こっち来ちゃうのん?い~や~助けて~、光の精霊さ~ん、防御結界を安全を考えて5重層でお願いしや~す。


 「・・・【水遁・流鱈水牢壁】」


 セイリュウさんのリュウセツ・・・なんとかとういう水遁の術で、俺に向かって来ていた雷神を閉じ込めてくれた。ホッとした俺だったけど、雷神は持っていた忍刀に雷を這わせてセイリュウさんの水遁を切り裂いた。


 「お前等、その力は何だ?その強大な力を4年で身に付けた訳ではあるまい。先ほど飲んだ薬のせいなのだろうが、あの薬はなんだったのだ?」


 「・・・お前に教えるとでも?」


 あ、セイリュウさんの方に雷神が顔を向けた。これって、チャンスなのでは?


 「・・・【光よ・輝く鎖を・彼の者に ≪ブライト・チェーン≫】」


 隙ありと、俺は指先から光の鎖を発射させた。光属性の初級束縛魔法。人差し指から放たれた魔法の鎖の数は全部で5本。その光り輝く鎖の全てが雷神を捕えようと向って行く。


 あ、人様に指を差しちゃダメってお婆ちゃんが言ってたなぁとか思っていたら、雷神にあっさりと避けられた。


 んもう!忍者の素早さってマジで大っ嫌い!なんであの一瞬で簡単に避けられるんだよ意味分かんない!マジでチートじゃんか!


 5本の鎖を全て避けた敵の姿を目で追えた俺は、すぐさま次の束縛魔法を放つ。


 小夜さんに教えてもらった『詠唱破棄』を実行。俺は樹の大精霊と契約しているから、樹属性の魔法なら詠唱の必要が無い。それに此処は庭園、樹属性の威力も跳ね上がる。


 「・・・≪フォレスト・ウィップ≫」


 地面に手を付き、魔法名を口にした。


 森の中ならば、強力な蔓で相手を捕らえる樹属性の中級束縛魔法。庭園の地面から緑の蔓が生え相手に襲い掛かり、雑草も巨大化して相手に絡みつこうとした。雷神が着地した瞬間に詠唱破棄での束縛魔法。避ける体制ではないだろうから、これなら_____



 ____避けられた。しかも、あっさりと。



 ・・・ムカつく・・・


 ムカつく、ムカつくムカつくすっげームカつく!!どんだけの回避力だよ、マゾゲーかっ!しかも雷を纏っている忍刀で斬らない態度もムカつく!こんな物、斬る必要なんて無いとか言われているみたいで、めっちゃムカつく!セイリュウさんの水遁は忍刀で斬って防いでいたくせに!


 「小娘が、邪魔ばかりを____」


 「・・・【天にまします・我らが神よ・裁きを光に・輝きを鉄槌に・悪しき者に聖裁を ≪ルナティック・レイ≫】」


 暗い夜空から光が落ちる。光は光線となり地上に降り注ぐ。敵を焼き尽くかの如く。



 はい、俺の事を睨んでいた雷神さんのセリフを無視して光属性の上級攻性魔法を放っちゃいました。俺、ムキになってます。


 雷神風神との戦闘によって破壊された庭園は、俺の攻性魔法による光りに照らされ焼野原。庭師の努力の結晶だった見事な庭園は見るも無残な大惨事に。樹の精霊達からは、もちろん大ブーイング。火の精霊達はヒャッホー状態。後で治すから、許してちょ☆


 黒曜親子には俺の魔力で出来た結界を張ってあるので、俺の魔力で放った攻性魔法には無傷のはず。回避チートの風神と雷神であったとしても、これだけの広範囲魔法攻撃ならば当たった事でしょう。


 上級攻性魔法だけど、光属性の攻撃力は弱い。火傷の損傷はしているだろうが、炭になる程の威力は無いはず。死ぬほど痛いだろうが安心せい、聖女様が治してしんぜよう・・・焼き爛れた皮膚とかは見たくないけど。


 でもさ、さっきから気になっている事があるんだ。俺達が戦い始めて結構経ったけど、壁が崩れる轟音とかで警備していた騎士団や王城の警備兵が集まって来ない。もしかして隠蔽魔法が使われている?



 「人様が喋っているのに、教育がなっていない御嬢さんだ」


 攻性魔法の効果が切れ、焼け付く大地から出る煙が急に吹いた風によって上空へと消えて行った。そして視界を奪っていた煙が晴れ、平然と立っている風神雷神の姿が見えた。しかも2人とも無傷で、うっそーん。


 「計画の邪魔になるであろうセイリュウさんとスザク君の殺害を頼まれていましたが、時間をかけ過ぎましたね。私達は貴方達の殺害よりも肝心な依頼がありますので、残念ですがそろそろ退散すると致します」


 「・・・そうだな。部下達の隠蔽術も、そろそろバレる頃合いだろうぜ」


 ふ~ん、〝それよりも肝心な依頼〟ねぇ。それって、もしかしなくても___


 「それって〝姫巫女様〟とかいう人の暗殺ですか?それとも、もう1人の標的である聖女アンジェラ様?あぁ、城の宝物庫に収められている聖剣を盗み出すって方ですか?」


 俺の発言に驚く雷神。


 「・・・小娘が、何故それを知っている。俺等の計画を___」


 「雷神、止めなさい。今は時間がありません、ここに警備の者達が来ます。早々にこの場から去りましょう」


 「・・・ちっ」


 ロイドさん情報パネェ、大当たりじゃん。でも隠そうとしないあたり、乙女ゲームと一緒で雷神は脳筋タイプなのかもしれない。風神の方は見事な平常心で対応していたのに。


 雷神が刃物を握りしめ俺の方へ来ようとした時、黒曜親子が俺の前に出て阻んだ。それを見た風神が雷神を止めて懐から出した何かの球を地面に叩きつけたかと思うと、煙が辺りに爆散する。結界を張ってあったので煙たくはないが、何も見えない。


 俺と黒曜親子も、人が集まって来る足音や声が聞こえた為にこの場を離れる事にした。まぁ、こっちは被害者だけど庭園を破壊した人物には変わりないから(主に俺が)。


 ごめん、樹の精霊達。後で必ず庭園の修理にくるからさ、今は逃げるよ。というかトイレーーー!!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ