129話 可愛かったスザきゃんが・・・
6-14.可愛かったスザきゃんが・・・
俺を助けてくれたトイレの救世主は攻略キャラであるスザクの父親のセイリュウさんだった。
セイリュウさんが話し掛けた事によりカラーレンジャーみたいな小鳥達は何処かに飛び立って行きました。何人かの令嬢はセイリュウさんに見惚れてたみたいだけど。カッコイイもんな、この人。
「久しぶりだね、ミネル君。初めに見掛けた時は女装をしていたからビックリしたぞ。まぁ似合っているから良いかもしれないが」
セイリュウさん、それ褒め言葉なのかは微妙ですよ。でも良かった、これでやっとトイレに・・・ってあれ?なんかセイリュウさんの登場にビックリして尿意が引っ込んだんだけど。
俺、知ってる。学校の授業中に我慢しすぎて尿意が引っ込んだ事があったんだ。だけど、これって凄く健康には悪いですってテレビで言ってた。だけど、今は再会を喜び合う場面。耐えろ、下の俺。
「お久しぶりです、セイリュウさん。それと助かりました、ありがとうございます。でも何故、セイリュウさんが此処に居るのですか?」
「俺は今回、護衛として来ている。日ノ国で重要な人物の警備を任されてな」
あっ、それって______
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
「姫巫女様?」
俺はロイドさんから聞かされた人物に首を傾げた。そんな人物、乙女ゲームに登場してたかなぁ?
「そう、姫巫女様。日ノ国では結構、重要な人物らしくてね。祝祭の日に王都ランブレスタへ来るみたいなんだよ」
ロイドさんはニコニコしながら俺にそう教えてくれた。隣に座っているヴァンさんは目を瞑って食後の紅茶を楽しんでいるみたいだ。
「今回、聖女アンジェラ様の暗殺計画があるみたいって言ったけどさ、どうやら一番の狙いはその姫巫女様の暗殺らしいんだよね」
「えっ!?」
「あっ、これまだ国王様にも知らせていない重要で最新の情報なんだ。もちろん内緒でよろしく」
内緒も何も、誰に言うんだよ。
じゃなくて、なんで俺にその情報を話してしまう訳?ロイドさんは俺に何を期待してるんだろう?
「暗殺者の一番の狙いは姫巫女様で、ついでに聖女様も殺しちゃおうって計画らしいよ。聖剣の強奪は出来れば良いかな~くらいみたい」
「王家が誇る宝物庫に出来れば感覚で盗みを成功されたら、王家の面目が丸潰れですねぇ」
「姫巫女様の暗殺で騒ぎを起こし、騎士団の警備が姫巫女様に集中したら聖女様の暗殺を実行する。それが暗殺者達の計画らしいよ」
「・・・あんの~、ロイドさん。もしかして内通者とか居たりします?いくらなんでも詳し過ぎません?」
「ブッブゥー、はっずれ~。最近、優秀な人材が俺の部下として手に入ってさぁ。その部下の〝耳〟が素晴らしい性能なんだよね。おかげで俺の仕事がはかどる、はかどる」
へぇ~、俺が使う風の精霊さんによる遠耳よりも便利なのかな?どんなスキルなんだろう?
「でも、そんな彼を含む優秀な部下達でさえミネル君の事が詳しく分からないっていうのは不思議だよねぇ」
へぇ~、俺の・・・・って!
「何、勝手に俺の事を調べているんですか!?ロイドさん、ヒドイっす___」
「おっと、口がスベッちゃった。ところで、はいコレ。この前、仕事で行ってきた隣国の超有名店で売られていたお菓子詰め合わせセットの特上サイズ3個。ミネル君へのお土産だよ、どうぞ」
「わーい」
ひゃっほーい!うっまそ~、帰ってフェイと一緒に食べようかな♪
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
俺の怒りは一瞬で、かつ簡単に流された様な気がしなくもなくもない。だが、特上サイズのお菓子詰め合わせセットは最高の御手前でした、絶品でした、すぐに無くなりました。
ふむ、俺は心が広い男なので、ロイドさんを許してやろうと思う。
日ノ国の『姫巫女様』
もしかしてセイリュウさんの護衛対象は、その姫巫女さんかな?ロイドさんも日ノ国の重要な人物と言っていたし。でも、今回のパーティーには重要な人物がわんさか来るみたいだから違うかもだけど。
あれから俺はその『姫巫女様』というワードを思いだそうとしたけどダメだった。もしかしたら乙女ゲームのクリア後の登場人物かもしれない。なら、俺が知っている訳ないし。
「もちろん息子のスザクも護衛の任に付き、この王都へ来ているぞ。手紙にも、そう書いてあっただろう?」
いえ?手紙には『誕生祭 王都 行く 会いたい』と4つの言葉が並んでいるだけでしたよ。
「はっはっ、スザクもやっとミネル君に会えて嬉しそうだな」
「・・・うん、嬉しい」
「うぇっ!?」
セイリュウさんと話し合っていた時、後ろから誰かに抱き付かれてビックリした。
「・・・会えた、久しぶり、ミネル」
この声はスザクか?
俺は後ろの人物が体に抱き付いて動けないから、首だけを回して後ろの人物を見る事にした。そこに居たのは____
「・・・ミネル、女の子だ、可愛い」
俺よりも少し背が高く、セイリュウさんにそっくりな男の子が居ました。
・・・・・え?あんた誰?なんでスザきゅんの声で喋ってんの?
う、嘘だよな?俺よりも3歳も年下で、あの可愛かったスザクが・・・俺よりも背が小さかった、あのスザきゃんが・・・
そんな、嘘だ!俺は認めないぞ!お前がスザクだなんて・・・
俺よりも背が小さくて安心したあのスザクが、なんで俺を見下ろしているんだ!何を食べて育ったのか是非とも聞いてみたい!じゃなくて、なんで俺よりも身長が伸びてるんだよぉ!
俺の驚愕と悲しみは、スザクが俺の頭に手を置いて撫でた事によって絶望へと変わった。
「ひ、久しぶり、スザク。会えて嬉しいよ。ところでスザクもセイリュウさんも、よく俺だと分かったな。今、俺って女装してるしメイクも完璧にしてもらったのに」
まぁ、素材がヒロインちゃんだとしても、やっぱこの珍しいピンク髪は目立つし、目の形とかでよく見れば俺だとバレちゃうのかな?
「・・・ミネル、気配も、匂いも、変わらない」
・・・なるほど気配か、分からん。
あ、でも姉さんの気配とかは分かってた様な気がする。でも、あれは危険察知が働いていたとも言える。何か寒気の様なものを感じれば、俺はすぐにでも身を潜めるスキルを覚えていたからな。しかし姉も成長し、スザク達みたいに俺の気配を察知して捕まえる事に成功する日々が続いた。あれ?うちの姉ちゃんてば、いつ空手家から忍にジョブチェンジしてたのん?
「ミネル君、申し訳ない。どうやら君を巻き込んでしまったようだ」
窓の方を見たセイリュウさんが視線を外さず突然、俺に謝ってきた。すると俺の周りに居る精霊達が騒ぎ出し、光の精霊が俺の魔力を勝手に吸いだした。
俺等の周りに光の結界が張られた後、突風が窓のガラスを割り、内部に吹き込んできた。
「うわっ!?」
驚く俺をスザクが抱きしめ、セイリュウさんが俺等の前に立った。吹き荒れる風は、城内の壁や柱を切り刻まみ、光の結界に当たり甲高い音をたてて弾かれていった。
そして、ズタズタになった柱は轟音と共に倒れ、窓があった壁には大穴が空き、外の綺麗な庭園が見えていた。
その庭園に二人の男が立っているのに気が付く。どちらも黒い衣装を着ていて、覆面をしている。だが、その懐かしい黒服は見覚えがあった。乙女ゲームではスザクの衣裳であり、敵側にもその黒い衣装を着た者が居たから庭園に居る2人が何者かはすぐに分かった。
スザクやセイリュウさんと同じで、あの二人は忍の者だ。そして、おそらくは暗殺者。
・・・・・・・助けて、トイレの神様。