127話 足は挫かなかった
6-12.足は挫かなかった
王都ランブレスタのお城にある大広間では今、国王様の誕生を祝うパーティーが開催されている。
この会場には今、ランブレスタ王国に属する貴族が集い、他国の王族関係者や権力者達もランブレスタ国王陛下を祝う為に参加なされている。だが、まだランブレスタ王国の王族を誰も会場で見掛けていない。ランブレスタの王族達は招待した全ての来客が訪れたのを確認してから、主役である国王様と共に入場なさるのだとか。
そして祝いの場となる会場では、煌めく装飾、心地よい音楽、楽しそうに笑い合う声で賑わっていた。その全てが、この会場を華やかな空間へと変えていく。
「ソフィ、右のステップがズレているよ」
そのパーティー会場で俺こと、ミネルソフィ=シンデ○ラはレギオールにクルクルと回されております。
「ソフィ。次の曲の区切りは、女性の後ろ方向へ進む始まりだから左足を先に後ろにするんだよ」
え~と、つまりはバックステップって事?高難度な事をおっしゃりやがりますね。というか、こんな歩きにくい靴でステップを踏む事さえ難易度が高いわ。レギオが支えてくれているから足を挫いていないだけで、手を離した瞬間に俺の足はグギッと嫌な音が鳴るだろう。
つまり、俺の足の生命線はレギオに係っている。手を離すんじゃねぇぞ、コラ。お願いだから!
「ソフィ。ほら、もっと自然体に。力を抜けば自然と出来るだろう?」
出来るかボケ。
それにしても、さすがだなレギオ。何度もレギオの足を踏みそうになったが、その度に綺麗に避けられる高等テクを見せつけられた。お前ダンス上手過ぎ、さすがは攻略キャラな。ワザと足を踏んで良い?
「はい、次はターン。その場で回るだけだから」
くるくる~。
レギオが少し離れて、俺は指示通り回った。天井から吊るされた綺麗に輝くシャンデリアが照らし、薄いピンク色で仕上がったふわふわドレスの裾が舞う。そして爽やかに笑うレギオが俺を受け止め、遠くの御令嬢様方から刺すような視線を受ける。あぁ、うん、死にたい。
こんな姿を両親には絶対に見られたくない。特に・・特に姉さんには!あの悪魔に知られれば動画をネットにアップされて、しかも題名に「これ私の弟wマジウケルwwww」とか書いて面白がるに違いない。
ただでさえ、こんな踊りは初めてだというのに女装して慣れていない靴で踊るなんて上手く出来る訳が無い。こんな踊りより、ヨサコイ音頭を踊りたい。アレなら何回か踊った事もあるし、上手く踊れる自信がある。い~じゃないか♪い~じゃないか♪ヨイ、ヨイ、ヨイ、ヨ~イ♪
まぁ、そんな踊りをこんな場所でやらかしたらレギオはもちろん、小夜さんにも怒られそうだけどな。なにより、もっと恥をかくだけだ。
とりあえず、一曲を無事に踊り終えた。これでもう踊らなくて良いだろう。
俺はそそくさとドリンクコーナーへと向かい、後ろでは俺が離れた瞬間にレギオが淑女の皆様に捕まった。「次は私と」「いえいえ私と」という声が聞こえたので、しばらくレギオは連続でダンスをする破目になるだろう。頑張れよ、レギオ。俺は休憩がてら料理を楽しんでくるから終わったら迎いに来てくれ。
来たぞ、念願の桃源郷!!
まず食べる前に、とりあえず周りを確認する。貴族の子供達用に用意された料理は、大人用よりも机の高さが低い。あと、大人用よりも肉料理やお菓子類が多い気がする。なんか量も多いしな。子供達は料理をお皿に乗せてから、会場の端にある食事コーナーみたいな所で食べていた。
次に、大人用に用意された料理を見る。子供達に用意された食事より、見た目を重視された芸術品みたいな料理が並んでいる。でも、食べている人が凄く少ない。ほとんどの人が飲み物しか口にせず、せっかくの料理が冷めてしまい次々と料理が交換されていた。
まだ全然減っていない皿を、違う料理と入れ替える。子供達の料理は無くなり次第の交換なのにな。
あの冷めた料理はドコへ持って行かれるのだろうか?まさか捨てたりしないよな?食べるよな?冷めたからって、また温めたら美味しいんだから捨てたりはしないと信じたい。
それにしても、大人貴族の皆様方は料理をあまり食べないんだなぁ、とお皿に盛った唐揚げをパクパク食べながら思った。みんなお喋りが大事みたいで、ずっと誰かと話している。そういえば小夜さんが、このパーティーの本当の目的は〝情報収集〟と〝情報交換〟だとか言ってたっけ。
料理を交換しにきたメイドから「申し訳ありません、料理は少しずつお取りになった方がよろしいかと」って言われちゃった。どうやら、お皿に料理を盛る行為はマナー違反なんだって。食べ放題っていったら好きな料理を盛るのが当たり前なのにな。こんな高級なお食事場所では行儀が悪いらしい。みんなは気を付けろよ。
「皆様、ご静粛に。ランブレスタ国、国王ユナイセル=C=ランブレスタ陛下のご到着です」
レギオが何人目かの御令嬢と踊っているのを、エビチリみたいな料理を食べながら見ていたら、男性の声が会場に響いた。おそらくは音声魔道具を使ったのかな。その声と共に会場内で奏でられていたダンスの曲が終わり静かになった。
皆が注目している先には大きな扉があった。先程まで、その扉はカーテンで隠されていた。
そして、見事な装飾をされた王座まで赤い絨毯が執事達の手によって引かれていく。まさにモーゼの様に左右に参加者が分かれ、ランブレスタ国の王族達が通る道が出来た。その準備が完了した事を確認して、大きな扉が少しずつ開いていく。
見えてきた人物達の一番前に居る人が国王様なのだろう。乙女ゲームで重要な登場人物だったから覚えている。ゲームより若干、若いが間違いない。攻略キャラのエルナルド第二王子と同じく金色の髪、そして青い瞳。俺のピンク髪よりかはマシだけど、あの金髪も結構目立つよな。
国王の隣に居るのが王妃。あの人も乙女ゲームでの登場人物だった。いつも国王の隣で微笑んでいるだけの置物みたいな存在だったよな。でも、一度だけ国王様に魔王の力が復活したとかでヒロインちゃんが城に呼ばれた時「なんと恐ろしい事なのでしょう」というセリフを言っていたような気がする。王妃様という重要な人物なのにセリフが1つだけって、なんと酷い設定なのでしょう。
続いて国王様の後ろから歩いて来たのは第一王子である・・・あ、あれ?エルナルド第二王子じゃん。第一王子はドコ行ったの?
俺の想像と違い、国王様の次に現れたのは攻略キャラであるエルナルド第二王子と隣に居る婚約者のアンジェラ(小夜さん)だった。おっかしぃなぁ、普通この場合は第一王子、第二王子と順番に登場するんじゃないのか?
そう思っていた俺と、アンジェラの目がバッチリと合った。俺と目が合い、俺の持っている皿に目線がいき、そして目線が俺に戻ってきた。
「・・・・」
「・・・・」
違う、違うんだよ、小夜さん。この皿に盛っている肉料理は・・その・・食べ盛りな子供貴族達との戦いに勝った戦利品といいますか、取られる前に取れ精神が働いてしまった結果というか・・・その・・・。
小夜さんの目が鷹の様に吊り上がってしまったのを見て、オドオドしだす俺。先程、メイドにマナー違反ですよと注意されたのだが、初めは守っていたマナーだったが気付いたらまた料理を盛ってしまっていた。
悪魔と化した鷹の目の小夜さんは、一瞬で微笑む天使となった。ああぁ、許してくれたのかなと思った俺を殴りたい。あの笑顔を俺は知っている。あれは〝あとでO・SHI・O・KI・ね☆〟という堕天使の微笑みだ。姉さんが小学生という若さで取得した伝説のスキル。さすがは戦闘民族同士、小夜さんも同じスキルを習得していたか。
俺はプルプル震えながら小夜さんから目線を外す。エルナルド王子と小夜さんに続いて歩いてきたのは第一王女だった。あんれー?どうやら第一王子は居ないみたい。父親の誕生日会なのに出席しないんだ。まぁ理由はなんとなく分かるけど、その行為がエルナルドのトラウマになっている事を知らないんだろうなぁ。
俺はエルナルドのルートをプレイしていないけど、彼のトラウマだけは姉さんがボヤいていたのを聞いて覚えていた。
ランブレスタの王族達が王座のある場所まで進み、用意されていた椅子にそれぞれ座った。中央はもちろん国王であるユナイセル陛下だ。
この後、国王様からのお言葉があるらしいけど「みんな来てくれて、ありがとぉ」的なやつでしょ?今の内に王城探検にでも行こうかな、聖剣の事も気になるし。
俺がそう思った時に、周りの貴族達が驚いた声を出した。俺も〝なんだ?〟と気になって皆が注目している方向へと目を向ける。すると、そこには椅子に座っていたはずのエルナルド王子が立ち上がりコチラをガン見して驚いた顔を向けていた。
「・・・・」
「・・・・」
小夜さんの次は、エルナルド王子との見つめ合い。えーと、エルナルド王子よ、シンデ○ラの演目をしているからといって物語を忠実に再現しなくても良いのだよ?
「ど、どうしましょう。エルナルド様が私の事を見つめてらしゃいますわ」
「な、何を言っておりますの。エルナルド殿下が見ていらっしゃるのは私よ」
あっ、そうだよな。俺じゃないよな。なんだ、ビックリした。
〝いえ、私が〟〝いえいえ、私が〟と俺の後ろや周りで騒ぎ出す貴族の御令嬢達。そしてエルナルド王子は王妃様に何やら言われて椅子に座った。
もしかしてと、シンデ○ラ物語のように王子様が主人公に惚れるという展開になるのかと思ってしまった。俺ってば自意識過剰、恥ずかしい。でも一応、エルは攻略キャラだし、俺はヒロイン役のミネルソフィだからな。注意はしといた方が良い、ピンク髪はただでさえ目立つのだから。
俺がホッと安心した時、遠くに居たレギオが俺の所までやって来た。
「やぁ、ソフィ。僕を置いて随分と楽しんでいた様だね」
なんか、レギオの言葉にはトゲがあるような・・お前もダンスを楽しんでいたんだから良いだろう。
「あら、レギオール様。お勤めご苦労様でした。ここのグラタンとプリンは絶品でしてよ。私、大満足です」
「そう、良かったね。ところで・・・ソフィは、第二王子であるエルナルド殿下と面識があったのかい?」
「いえ、別にそのような事は・・・」
あったな、10歳になって王都へ来た時に出会ったッスよ。でも、少しだけしか話していないしエルナルドも俺の事はもう覚えてないんじゃないか?
それよりも、今は聖剣だ。この王城の宝物庫に保管されていて教会へ返す事を拒んでいるゲームの重要武器。というか、俺に対しての嫌がらせだろうけど。まぁ、今となっては宝物庫に保管されていて良かったな。今回、その聖剣が狙われている。宝物庫にある物を盗むなんて簡単では無いだろう。
でも、やっぱり気になるから王城を見学__じゃなくて、警戒して見回りにでも行きますかの。
「レギオール様、私ちょっと用事がありますので外れますわね」
「ん?どこへ・・・あぁ、分かったよ。でも気を付けてね」
いや、トイレじゃないからね。何、その僕は察したよみたいな顔。殴って良い?
「大丈夫ですわ、ちゃんとこの場所は覚えましたから迷子にはなりません」
「まぁ、それも心配だけどさ。他にも気を付けた方がいい事があるんだよね」
「他にも、ですか?なんでしょう?」
「そうだねぇ、簡単に言うと〝女の嫉妬〟・・かな」
ああぁ、なるほど。確かに今でも視線が凄いし背筋も冷える。気を付けないとな。
シンデ○ラの話にも出てきた義理母と義理姉からのイジメの様なイベントが発生しちゃうのかな。俺、床とかを雑巾で磨いたりするのか?
だ、大丈夫だよ。俺ってば姉さんに空手道場の掃除に無理やり連れていかれて、手伝わされた経験が沢山ある。慣れてるッスよ。
というかレギオ、12歳の男の子が〝女の嫉妬〟という言葉が出てくる事に恐ろしさを感じるよ。
はぁ・・俺は今、主役のシンデ○ラ。意地悪な嫌がらせなんて耐えて・・・・うん、逃げてみせるぜ!