123話 エスコート役
6-8.エスコート役
夜、俺は孤児院にある自分のベットの中で考え事をしていた。
俺のベットは寝室の一番左側。中央のベットがカムイ君ので、一番右側にある窓辺のベットがフェイのだ。
初め、俺が中央だったのだが、それを見たカンナちゃんが「フェイお兄ちゃんの横で寝るなんて~」とか叫ぶ一悶着があったので、仕方なく真ん中にカムイ君を挟んで寝る事になった。そしたら、無事にカンナちゃんの怒りが収まってくれた。
二人のベットからは、もう寝ているらしく寝息が聞こえる。俺は眠らずにベットの中で考え事をしていた。今日の昼、ロイドさんから知らされた情報について。
『黒曜 ゲンブ』
攻略キャラ〝黒曜 スザク〟の叔父にあたり、スザクの父親である〝黒曜 セイリュウ〟の実の弟。
暗殺組織『朧』を束ねる黒曜家当主の座を欲し、魔王軍と手を組んだ人物。4年前のスザクのトラウマイベントにより、魔王軍幹部の呪術師ライバッハ共々、計画が破綻して魔王軍に逃げ帰った。
スザクのトラウマも無事に解決できたのは俺のおかげだ。俺のおかげ!!
(= ̄▽ ̄) ドヤァ
まぁ、そのせいで呪術師とゲンブから聖女が恨まれてしまったのだけど。だからこそ、今回の聖女暗殺計画なのかな。それとも魔王の命令?
てことは、呪術師ライバッハもこの王都に来るのかもしれない。もし来るのであれば、アイツは捕まえて尋問したい事がある。たぶん、だけどライバッハだと思うんだ、フェイに『特殊な奴隷契約』をさせた人物って。
最初は〝魔王軍にも下級呪術師がザコ敵として沢山ポップしていたし、別の呪術師かもな〟と思っていたけど、契約を行なった敵の特徴をフェイから聞いてみると、どうやらライバッハっぽいんだよ。特に話し方とか服装が。
もしそうなら、ちょっとOHANASHI☆をしないといけなくなる。俺の光属性魔法でも、フェイに掛けられた特殊な奴隷契約は解除されなかった。呪いの一種と聞いていたから解呪できると思ったのだけど無理だった。おそらく、フェイが自分の名を書いたという奴隷契約書が残っているからだと思う。その契約書が存在しているかぎり、奴隷の解除は無理っぽい、残念だ。
なので是非、呪術師ライバッハには今回の暗殺と窃盗計画でこの王都へ来て欲しいよね。ふん縛ってあげよう。
そう決意して、俺は瞳を閉じて眠りについた。
「おはよう、ミネル。今日は母様の焼きたてクッキーを届けに来てあげたよ」
朝、ヴァンさん達との野菜や果物の買い取り作業が終わり、その後すぐにレギオが孤児院へとやって来た。
レギオの母親は、2年前の〝疫病事件〟から無事に元気で暮しているらしい。毎日、屋敷の庭を散歩したり厨房でお菓子作りをしているんだと。貴族界でも病弱だと噂されていたレギオの母親が完全に元気になっている姿を見て、貴族達の間では驚きと祝福が数ヶ月も絶えなかったとか。
そして何よりも驚いた事に今、彼女のお腹の中には子供を授かっているとレギオから聞いた。つまり、レギオールに弟か妹ができるという事だ。おめでと-。
「おはよぉ、レギオ。どうぞどうぞ、入って入って」
「ありがとう、ミネル。お邪魔するよ」
レギオは、この孤児院へ来る前に聖樹の様子を見て来たらしい。無事に成長している聖樹を嬉しそうにいつも見ている。レギオってば巨大になった聖樹を研究対象にしているみたい。樹の大精霊であるダイアナさんにも何か色々と質問をしていたし。
「そういえばミネルも今年、王城で開催される国王陛下の祝賀パーティーに参加するんだって?アンジェラから・・・ふふっ・・・女装ミネルのエスコートを頼まれたよ」
ブッ!
お、俺の紅茶が・・・なんか俺ってば最近、食事マナーで最低な行為をしまくっているような。というか、なんで皆、俺が口の中に食べ物や飲み物がある状態の時に驚く事を言うのん?そんなに俺の無様な姿が見たいのか。
「安心すると良い。頼まれた〝女装ミネルのエスコート〟は引き受ける事にしたからさ。ありがたく思うんだね、この僕に」
「えっと・・ん?エスコート?なんで、そんな事を俺がされないといけないんだ?」
「ミネル・・・本気で言っているのかい?君には呆れるね。まさか1人で馬車に乗ってパーティーに参加するつもりだったのかい?」
「いやいや、俺はアンジェラの馬車に乗ってパーティーに・・・というか王城を案内してもらおうかなぁとか思っていたんだけど」
「君はアホかい?アンジェラには婚約者であるエルナルド王子がいるんだよ?当然、殿下にエスコートされてパーティーに向かうに決まっているじゃないか。〝ミネルと〟なんてありえないよ」
「あ、そうなんだ。でも、ちゃんと一人でも行けるぞ。王城だろう?王都の中央にある、あのでっかい建物なんだからエスコートなんてされなくても迷わずに一人でも行けるよ」
「ミネル・・・あのね、貴族ではない君が分からなくても仕方がない事かもしれないけどさ、普通はエスコートもされずに女性がパーティーへ向かうなんて、ありえない事なんだよ?」
「・・・何故に?」
「はぁ・・君にも分かりやすく説明してあげるよ。仕方なく、この僕がね。感謝してくれよ?」
レギオってば、どんどん乙女ゲームの登場人物と同じ性格になってきたな。まぁ、同一人物だから当然だけど。
「簡単に言うと、エスコートも無い女性は〝自分は寂しい女です〟とパーティーの参加者に宣伝している様なものだね。それと同時に、男にエスコートさえしてもらえない程、自分が〝変な女〟として注目される行為でもあるよ」
ふ~ん。でもさ俺、男だし別に〝寂しい女〟だと思われたとしてもどうでも良くね?その日だけ変な目で見られたとしても、我慢すれば後はもう貴族達とは関る事なんて無いんだし。
「夫を亡くした未亡人でさえ、親や兄弟などに頼んでエスコートをしてもらうんだよ。集まった貴族達から〝寂しい女〟〝変な女〟だと思われて恥をかきたくないからね」
「でも俺は男だし、貴族でもない。だから、別に思われたとしても・・・」
「ふ~ん、ミネルは別に良いと?でもさ、そんな目立つ行動をしても本当に良いのかい?ただでさえ、女装をしているといのに?余程、その女装には自信があるようだね。記念に映像記録の魔道具で撮影しておこうかな。当日を楽しみにしているよ、ミネル」
ぐはっ! ( ゜∀゜)・;'
〝自分の女装に自信がある男〟。イタい、イタ過ぎる。これはさすがに恥ずかしいッス。うむ、それは無いな!目立つの禁止、女装がバレる恐れがある行為は控えると注意事項に記入しておこう。
「どうかエスコートの件、是非にでもよろしくお願い申し上げます、レギオール様」
俺の頭は、たやすく地面とお友達になりました。