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122話 食事マナーは大切に


 6-7.食事マナーは大切に



 とうとう、この日が来てしまった。


 今日、この日。丁度、太陽が一番高く昇った時刻に俺と宿敵が出会ってしまったのだ。この宿敵とは、この場所で出会うのは今日で2度目。1度目は屈辱を味わったが、今日はその雪辱を晴らさせてもらおう。


 俺の宿敵の名前は『リトリア産 ハマラシアアカオールエビ』


 ヴァンさんの豪邸に招待され、昼食に出される豪華な食事が俺の目の前で並ばされていった。その中に俺の宿敵である奴が出されたのだ。また、この場所で出会ってしまうとわな。これも運命か・・・


 ふっふっふっ、我が宿敵、巨大エビよ。この場で俺と出会った事を後悔するがいい。今の俺はな、お前の対応策は既に習得済みなのだよ。


 小夜さんのモンテネムル邸で食事を頂いた時に、お前の仲間が俺の前に出されたのだ。いきなりの急襲で驚愕したが、執事であるセバスさんに師事してもらい冷静にお前の対策法を学ばせてもらった。


 残念だが、お前の仲間はその時に・・・悔しいか?お前の仲間が俺によって見事に食されてしまった事が。それとも恐ろしいか?お前への対策法を熟知している俺が敵である事に。


 仲間の仇を討ちたいだろうが、お前にはもう出来ないよ。この俺による素晴らしいナイフ捌きの絶技によってお前を綺麗に解体してやろうぞ、ふははははっ。






 数時間前____


 今日も、いつものように孤児院の庭で育った果物と野菜をヴァンさんとロイドさんが買い取りに来てくれた。この孤児院で育った果物等はとても体に良く、食べたら健康になるという噂が流れたらしく、売れ行きが好調だと教えてもらえた。おそらく、聖域で育てているのが原因だろう。


 ちなみに、王都に住む一般の人達は孤児院の庭に育っている食べ物を取りには来ません。だって、この場所は路地裏を通り抜けた旧市街にあるからだ。一般人の奇麗な格好でこの場所へ来たら、まずスリに会い、その後は怖い人達に囲まれて身ぐるみを剥がされちゃうだろうからね。


 それでも、貧民街よりかはマシ。噂では〝殺してから奪う〟というのが当たり前らしいからな。怖いッス。絶対に近付かない。


 そんな訳で、こんな場所へ無料の果物や野菜を取りに来て嫌な思いをするくらいなら、普通に商店街の店で商品を買った方がマシだろう。


 この旧市街にある食べ物の楽園へ採取に来るのは、とても貧しくて食べ物を求める人か、悪い連中を退けられる実力を持った人しか来ない。




 今日の買い取りが無事に終わったと思うと、ヴァンさんに昼食を一緒にと誘われた。その時、一緒に居たフェイは何故か遠慮して欲しいと言われた。フェイにとって、ヴァンさんは獣人街の為に一役買った大恩人。フェイは素直に従ったよ。


 なので今日、俺が居るのは『大聖堂消滅事件』の日に目覚めた後、俺が食事をした覚えのある場所。豪華な椅子に座り、白いクロスを被せた机の上にズラーーーッとメイドさん達が料理を置いていき、食事の準備をしてくれた。そして、その食事の中に奴が居たのだ。


 体を赤くし、蒸気を纏った奴が。2本の大きなハサミを両手に構えて、敵である俺を威嚇してやがる。あの時は、奴の対処法を知らずにいた俺は敗北を味わった。その宿敵が今、目の前で緑葉野菜に囲まれて皿の上に佇んでいる。



 俺は左手にフォークを持ち、右手にナイフを構える。肘は上げ過ぎず、背筋を伸ばす。標的を見下ろし、殻と身の間にナイフで軽く切れ込みを入れる。その場所にフォークを入れ、ナイフで殻を押さえながらフォークで身を殻から引き抜いて行く。


 うむ、完璧だ。なんと美しい技だろう。


 この流れる様な動きに、決して無駄な音を出してはいけない。食事作法で音を出すのは不作法なのだと教えてもらった。セバスさんに直接教えてもらった時は手が震えていたが、今の俺は落ち着き、震えてはいない。今まで数々の経験を積み、成長したのを感じる。



 「それでね、ミネル君。今日、君を呼んだ理由なんだけどさ」


 俺による美しい食事マナーを実践している時、ヴァンさんの後ろで待機していたロイドさんが話し掛けてきた。この時「ん?な~に?」と声を出してはいけない。声を出すのであらばナイフとフォークを置いてからだ。今の俺には、それが出来ない。宿敵への見事な攻撃がクリティカルヒットしている俺にはな。


 俺は顔をロイドさんに向けて、軽く会釈する。聞いていますよ、という合図だ。さぁ、続きをどうぞ。


 「ミネル君も王城で開かれる国王様の祝賀パーティーに参加するのだろう?それで、ある情報が俺の部下から入ってきたんだ。それをミネル君にも教えてあげようかなと思って今日は呼んだんだよ。そうだよな?ヴァン」


 「・・・ああ」


 へ~、そうなんだぁ。おっと、フォークを余り深く刺してはいけない。身の中にある美味しい汁が無駄に出てしまうからだ。軽く、軽くだ。


 殻から身を見事に取り出せた。そして、身の繊維をなるべく傷付けずに切り分けていく。サイズは一口の分量を基準としなければならない。そして、切り分けた1つをフォークによって俺の口内へと導いていく。


 あぁ、素晴らしい。完璧だ。優雅な食事を行なう俺は、勝利を確信して宿敵を口内で味わった。



 「まぁ別に食べながらでも聞いてくれてたら、それで良いよ。それでね、ミネル君。実は、ある人物が近々開催される国王様の誕生を祝うパーティーで暗殺と窃盗を企んでいるらしいんだよ」



 ぶふっ!!!!!



 げほげほげほっ、がはっ!み、みず、水をおくれ。ごほごほごほっ。


 俺はロイドさんのせいでマナーでは最大の禁忌を犯してしまった。口の中で咀嚼していた食材(宿敵)を盛大に外へブチ撒けるという禁忌を。


 急いで近くにあったグラスを掴み水を飲む。ぐびぐびぐび、ぷっは~。


 はぁ・・・死ぬかと思った。やはり、俺の宿敵は強敵であったか。油断した瞬間に俺の喉奥に攻め込んで来るとは、なんて恐ろしい奴だ。完璧だった俺の食事マナーが奴の一撃により完全に崩壊してしまった。


 くそっ、今回は引き分けか。悔しいが、ここから優雅な食事マナーを再開しても恥ずかしいだけだ。もういいやぁ、ヴァンさんなら食事のマナーが悪くても許してくれるだろうし。



 「それは大胆ですねぇ。暗殺って国王様のかな?しかも窃盗も?それは、かなりの重大情報ですね。俺に教えちゃって良かったんですか?」


 「良いの良いの、気にしないで。それじゃ続きを話すね。犯人等が窃盗で狙うのは、王城の宝物庫に保管されてあるお宝らしい。暗殺の方は、国王様が標的じゃないみたいだけど」


 あ、そうなんだ。国王様が標的かと思ったよ。あっ、前にも食べたパンがあるじゃんか。このパンって凄く柔らかくて美味しいんだよなぁ。えーと、オリーブオイルかバターかぁ・・・ジャムは無いのか。仕方がない、バターで食べるか。いただきます。


 「奴等が暗殺で狙う標的は、今王都で一番の有名となっている人物。聖女アンジェラ=K=モンテネムル。そして、窃盗に狙われているのは王家が保管している聖剣らしい」


 俺は、また盛大に口内の咀嚼物をまき散らした。


 急いで待機していたメイドさん達が綺麗にしてくれている。どうも、すいませんです。食事マナーが悪いのは庶民で育ちが悪いせいなので許してくんろ。


 メイドさんから水を入れたグラスを受け取り、グビグビと一気飲みをする俺。もう食事に美しさの欠片も無いので、俺は気にせずに喉を潤してから「ぷっはー」と声を出して息を吐く。


 あ~あ、せっかくの美味しいパンをもったいない事をしてしまった。まぁ、まだ沢山あるけどさ。それにしても俺の不作法な行動にメイドさん達の目が冷たい。ロイドさんはニコニコ笑っていてヴァンさんの表情は常に一定だったけど。気にしてないよ、と思ってくれているのであれば有り難い。


 おっと、それよりも今は先程ロイドさんに教えてもらった情報についてだ。


 「それは確かな情報なのですか?」


 「うん!俺の部下は優秀な者達ばかりだからな!信用してくれていい、間違いないよ!」


 ロイドさん、そんなニコやかに・・・重大事件なのに凄く楽しそうに見えるのは気のせいだと思いたい。



 それにしても、聖女が暗殺の標的なのか。


 他国の者なら誘拐の方が良いだろうし、わざわざ金のガチョウを殺すような事はしない。じゃあ、もしかして魔王軍が犯人?アイツ等は聖女を憎み、恐れ、死んで欲しいと願っているだろう。その魔王軍の何人かは(俺のせいで)聖女を怨んでいるからな。


 それに、もう一つの目的である『聖剣』。魔族の者が最も忌み嫌い、恐れる対象の聖なる武器。


 納められていた大聖堂が(俺のせいで)消滅してしまい、王城の宝物庫で保管される事になった神々から授かったとされる剣。たった一振りで悪しき者を退ける力を持つという伝説がある。


 大聖堂も復興されつつあるので、教会は聖剣を返してほしいと王家に頼んだ事がある。


 大聖堂で聖女アンジェラ(偽物)を演じるようになっていた俺は、これ幸いと聖剣との面会を求めた事があった。だが、俺が求めていると分かった瞬間に国王の野郎が大聖堂に聖剣を戻す事を拒否しやがったんだよ!


 つまり、聖剣を見たいなら王城に来て俺と会えという脅しだな。こんにゃろ・・・


 あれ?じゃあ今回、誕生日パーティーで王城へ行くのであれば、もしかしたら聖剣に会えるかもしれない。これはちょっと期待できるかも。



 「ちなみに、なんですけど・・・その暗殺と窃盗を計画している犯人が誰なのかとか、もう知ってたりします?」


 「・・・ああ」


 知ってるかなぁ?と気軽に聞いてみたのだが、ヴァンさんが頷いた。ロイドさんもニコニコしながら頷いている。


 え、マジで?


 おぉ、スゲーな!ヴァンさんとこの情報収集力、パネェっす!俺がロイドさんの働きに尊敬の輝きを向けて拍手していると、そのロイドさんが俺に教えてくれた。



 「主犯の名前はゲンブ=黒曜。日ノ国の者で、向こうの呼び方だと『黒曜 ゲンブ』だね」




第一章の文字を増やす再編集が終わりました

21日(土)か22日(日)の時間ができた時に書き換えを行いますので

よろしければ読んで下さい

後 追加で「※クリス※視点」も載せますので

よろしくお願いします m(_ _)m

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