120話 4通の手紙
6-5.4通の手紙
旧市街にある孤児院への帰り道、俺はトボトボと歩きながら帰る。
モンテネムル邸からの帰り道なのだが、溜息が出てしまう。原因は俺のマジックバックの中にある一通の封筒。小夜さんから渡された王族の、それも国王様から届けられたパーティーへの招待状が入っている。
行きたくない・・・
国王様の誕生日を祝うパーティーで、王城で盛大に行なわれる。もちろん貴族達がゾロゾロと集まるし、国王様への祝いの言葉とか祝い品を準備しなければならない。そんな場所に、庶民の俺が行く必要はあるのだろうか。絶対に嫌だな。
孤児院の扉を開いて「ただいまぁ」と元気なく声で帰りを知らせた。
すると「おう、おかえり」と子供達に囲まれたフェイが声を掛けてくれる。相変わらず子供達に大人気のフェイ。俺なんてピンクの髪が珍しいのか、一斉に引っこ抜いて来るから近付けない。ハゲたらどうするんだと怒っても、面白がって抜く髪の本数が増えるだけだった。とほほ。
「あ、フェイ。アンジェラの家から沢山、お菓子貰ってきたから子供達に分けてあげて」
「ああ、分かった。あっ、それとな、ミネル。お前に手紙が___」
ビクッ!!!
フェイの口から〝手紙〟という言葉を聞いて、俺の体が飛び跳ねた。
て、てて手紙!?いや、落ち着け、俺。フェイは、俺が国王様から手紙を貰った事なんて知らないはずだ。
「ん?どうした?」
「いや、なんでも。それで、手紙がどうしたのか?」
「ああ、ミネルに手紙が届いてたぞ」
フェイが懐から出した手紙を「ほら」と言いながら俺に手渡した。渡された手紙は2通。その手紙をクルリと裏返すと、送り主の名前が書かれていた。
1通の送り主は〝黒曜 スザク〟
スザきゅんからだった。また修行を頑張っているとかの報告かな?和むわ~。国王様からの招待状よりも、こういう手紙の方が嬉しい。
もう1通の送り主は〝タジルマース〟
タジルから?あ、そういえば今、タジル達って王都に居ないんだっけ?
「ああ、それとな、俺の村仲間達からミネルへの手紙を預かっていたな。ちびっ子どもからも、お前に感謝の手紙を書いたんだとさ」
おお、なんて素晴らしい手紙達なのだ。俺の風化した心がオアシスを発見したかの如く癒されていく。そうだよな、手紙というのは普通は嬉しい物なんだよな。
夜、俺の前には4通の手紙が置かれている。風呂から上がった俺は、それらを机に置いて開けずに眺めているのだ。
『獣人達からの感謝状』 『タジルからの手紙』 『スザクからの手紙』 『国王陛下からのパーティー招待状』
他の3通は良いのだが、最後のが危険だ。これだけは、最後に見るとしよう。
まずは『獣人達からの感謝状』。
彼らもやっと王都の生活に慣れてきたらしく、手紙には沢山の人が書いた〝ありがとう〟という言葉が並んでいた。特に、子供達が頑張って書いてくれた似顔絵が癒される。また今度、お菓子を大量に持って届けに行こう。それと1つだけお願い事が書いてあり、新しい果物の木が欲しいので今度お願いしますと書かれていた。
次に『タジルからの手紙』。
前半はホストみたいなセリフをズラーーーっと書かれているので無視して、後半が大事。彼等は今、結構有名な人の護衛で王都を離れているらしい。タジル達も王都で開催される誕生祭の日には帰ってくるそうなので、一緒に祭りを楽しもうと書いてあった。去年も露店の料理をたくさん奢ってもらったので、今年も財布君にタカろうと思う。
次に『スザクからの手紙』。
いつも、少し短い文が書かれているスザクからの手紙。また数秒で読み終わるのかな?と思ったらビックリする事が書かれていた。
〝誕生祭 王都 行く 会いたい〟
相変わらず文は短かったが、・・・え?来るの?久々に会えるのか、嬉しいなぁ。あっ、小夜さんにも教えてあげようかな。小夜さんはスザク萌えみたいだから、きっと喜ぶに違いない。
さ~て、全部読み終わった事だし寝るとしますかぁ。もう夜も遅いしな!子供なので早よ、寝よ寝よ。
・・・・精霊さん達や、引っ張らないで。も~、ジョーダン☆ちょっとした冗談だからさ。ちゃんと読むよ、俺。・・・嫌だけど。
最後に国王陛下様様からの封筒をビリッと破いて中にある紙を取り出す。糊付けだったら簡単に開けられるのに溶けた蝋を垂らして止めてあるのが不便だ。そして、王家の紋章かは知らんが押し印されている紙を開く。
すんごい綺麗な招待状と共に、1通の手紙が入っていたので読んでみる。
むんずい言葉がズラーっと書かれているけど・・・うん、なんか、ちょっと怒ってるっぽいな。たぶん去年の事をまだ根に持っているのだろう。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
「言っておくけど、去年みたいに「貰っていません」とか言ったら怒るわよ?そのせいで渡した私が国王陛下に強制召還される破目になったのだから」
「はい。去年はご迷惑お掛けしてしまい、申し訳ありませんでしたです」
「結局バレて、下手したら秋斗君かなりヤバかったのよ?王家への偽証に侯爵家へ罪の擦り付け。普通だったら処刑されていたかもしれないのよ?」
「はい、反省しておりますです。さ~せ~ん」
「もう諦めたら?パーティーに参加するだけじゃない」
「・・・ちなみに〝盗まれちった!〟とか〝何処かに招待状無くしちゃった☆テヘペロ〟を実行してしまった場合はどうなるのでしょう?」
「んー。その場合は、まず騎士団総出で盗人を探し、無実の人が間違えて捕まったらその人は無期懲役刑。招待状を無くした場合は、王家からの物品を無くすという大罪を犯したので禁固刑10年か、意図的ならば首が飛んでもおかしくないわね」
「・・・マジで?」
「マジで」
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そういえば去年、小夜さんが怖かったなぁ。
俺の所に王城からの使者が来て、咄嗟についた嘘が仇となった。翌日にやって来た小夜さんが、笑顔で俺の顔面を鷲掴みしてきたからな。苦手な身体強化の魔法まで行使して。俺の頭がリンゴみたいに潰される所だった。
あ~あ、もう逃げられないか。行くしかないのかぁ、また怒られるのヤだし。
でも、行ったとしても俺は何をすればいいのん?王族や貴族のパーティーといえば・・・ダンス?音楽が流れる中、男女のペアが中央広場でクルクル踊るアレか?なんか映画とかで見た事あるし。
でも俺、踊れねぇよ?何?国王は俺に恥をかけと言いたいのか?なんて陰湿な奴だ。
でも、凄いパーティーには豪華な食事とお菓子が山となって準備されている筈だよな。おぉ~、それは素晴らしい。楽しみかも。こっそりマジックバックに入れて持って帰ろうそうしよう。うへへ
「ミネル。寝るぞ、早く来い」
とりあえず、もう寝よう。フェイが迎えに来たしな。俺、寝るわ。おやすみ~。