119話 フェイの家族
2018.5.22
フェイの妹さんの名前が レギオの母親の名前と似ていたので変更しました
6-4.フェイの家族
獣人街にある居住区域。
公園の管理を任された獣人達が寝起きをして、家族と共に暮らす住宅地。まだ簡単な造りでしかないけれど、雨風を防ぐ事はできる。彼等も、いつかは村がある場所へ帰りたいと願っているので今の造りでも構わないらしい。
その居住区域にある、フェイの家族が住んでいる場所に俺は来ていた。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「おぉ、本当じゃ!ありがとうのぉ、ミネル様」
痛めた腰をグルングルンと回して、無事に動く事を確認しているご老人。髪の色はフェイに似た銀色で、瞳も金色。瞳の力強さも似ていて、本当にフェイと同じ容姿をしている。この人の名前は『ガイゼシル=ラシュール』さん、フェイの祖父。
先程行なわれたフェイとの家族喧嘩は壮絶な戦闘となり、次の一撃でフェイがぶん殴られて終わるかな?と思ったらガイゼシル爺さんの腰が〝グギッ〟と鳴り、離れていた俺にも聞こえた。その後、パタリと地面に倒れてしまった。
うん、見事なギッコリ腰だったね、アレは。
フェイと、たまたま通り掛かった大人の獣人さんでガイゼシル爺さんを居住区域まで運び、治療しました。その場で治療しようとしたら、治り次第また殴り合いになるだろうから家に運び込んでからで良いとフェイに言われたんだ。
「もう、お義父さん。高齢なのですから、もう暴れるのは控えて下さいな」
「はっはっはっ、このくらい大丈夫じゃよ。ワシはまだまだ動けるぞ!」
「はぁ・・・ごめんなさいね。いつも、ありがとうございます、ミネル様」
俺に礼を言いながら微笑む彼女。灰色の長い髪を紐で纏めて、エプロン姿が似合っている。
「お袋。調子の悪かった水道、直しといたぜ」
「あら。ありがとう、フェイ」
体が濡れたのか、バスタオルで頭を拭きながら部屋に入って来たフェイ。そうなんです、この女性はフェイの母親。魔王軍に村が滅ぼされた時に離されてしまったフェイを育てた親御さんだ。
小夜さんのモンテネムル家が持つ情報網で違法奴隷となっていた彼女を見付ける事が出来た。
「それで・・・あの、ミネル様。私の娘のレイナは・・見つかりましたでしょうか?」
「すいません。捜索は続いているらしいのですが、まだ・・・」
「そう・・・ですか・・・」
フェイの祖父も母親も、小夜さんのおかげで発見できた。しかし、フェイの妹さんであるレイナリス=ラシュールさんが、まだ見付かっていない。
まだ他にもフェイの村仲間だった数人の行方が分からない状況だった。その1人がフェイの妹であるレイナリスさん。
「お袋・・・」
「どうか、レイナの捜索をよろしくお願いします。ミネル様」
深々と俺に頭を下げるフェイのお母さん。ここで「うん、任せといてよ!」と言えれば良いんだけどな。でも、見付かった奴隷となった村人の中には・・・亡くなってしまった人もいたから。
「それじゃな、お袋・・・・と、ついでにクソじじぃ。また来るからな。元気にしてろよ」
「ええ。いってらっしゃい、フェイ」
「ミネル様に怪我なんぞさせずにするんじゃぞ。ちゃーんと守るのじゃぞ」
フェイの家族が住んでいる家から孤児院に帰る事にしました。本当はフェイもこの場所で暮せば良いのに断ったらしい。今でも俺と一緒に孤児院で寝起きをしている。
孤児院への帰り道。獣人街となった整備された広大な公園を歩きながらフェイと話しをする。
「だいぶ獣人さんの数が増えたね。居住区域の家も増やさないとダメかな」
「すまねぇな、ミネル。世話掛けちまって」
違法な奴隷となっていた者達をモンテネムル家により解放しているが、何人か人族の違法奴隷も居て、元の場所へ返してあげたり保護したりもしている。解放された獣人族は、殆んど帰る村がもう無いと言っている者が多かった。
そんな人達を全員、この獣人街で保護している。もちろん、この公園の維持に働いてもらう事にはなるが。給料はちゃんと払われている。さすがに無償で働いてもらうのは、ヤバいし。俺が払っている訳じゃ無いけど。
「みんな、感謝していたぞ。奴隷生活から解放してくれたお前にな、ミネル」
「俺、というかアンジェラが頑張ってくれてるんだけどな」
この獣人街に住む人達は、もう奴隷では無い。違法な契約書は全て破棄されたから。だから、ここに居る獣人さんは誰も首輪をしていない。フェイ以外・・・
「フェイも・・・早く、その首輪を外せたら良いのにな」
「別に・・・俺は気にしちゃいねぇよ」
フェイは、まだ奴隷のままだ。フェイの契約書は見付からなかったから。
俺の感では、フェイが名前を書いたという特別な奴隷契約書は魔王軍幹部であるライバッハ=K=ミスティオンが持っていると思う。おそらく、ライバッハがフェイの村を滅ぼした魔王軍に居ただろうから。
あと、フェイも心配しているだろう妹さんの事。生きているのか、死んでいるのかさえ情報が集まらない。だから、捜索を続けているモンテネムル家には、まだまだ頑張ってもらう事になる。それが俺への報酬だから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今日は小夜さんの家、つまりモンテネムル家の本邸にやって来ました。少し相談したい事があるので。
「いらっしゃい、ミネル。どうぞ、ゆっくりとしてらして」
セバスさんの案内で、小夜さんの部屋に到着。部屋の中で小夜さんが出迎え、マーサさんが机の上にお菓子やお茶などを準備してくれた。
「マーサ、もういいわ。あとは自分でするから、この部屋に誰も入ってこないようにセバスと待機していて頂戴」
「はい。かしこまりました、アンジェラお嬢様」
お辞儀をして部屋から出て行くマーサさんとセバスさん。そして、静かに扉が閉められた。
「さぁ、どうぞ。お好きにお菓子を・・・・は、もう食べているわね。はぁ・・・」
「んぐ?」
いやっほーい!貴族様が食べているお菓子が食べ放題だぜぃ!うっ・まっ・はー
俺がある程度お腹を満たして、紅茶をグビーと飲んだところで相談開始。俺がガツガツ食べている間、小夜さんは静かに紅茶を飲みながら本を読んでいた。
「ぷっは~!ふぅ~、喰った喰った!あ、小夜さん。侯爵から公爵位への昇格、おめでとうございます・・ゲップ」
「・・・ええ。ありがとう、秋斗君」
「あ、これ祝い品として買ってきた聖女アンジェラ様人形だよ。こんなにクリソツに作れるなんて、この世界の技術も凄いよな」
「・・・・」
2年前、『王都疫病事件』で多くの国民を救った聖女アンジェラ様。
奇跡の力で人々を助けた聖女様は、国王陛下から褒美としてモンテネムル家の爵位昇格をして頂いたらしい。つまり、モンテネムル侯爵では無く、モンテネムル公爵となった。
モンテネムル家の爵位が昇格する事に反対する貴族もいたが、その貴族達を最近になってやっと大人しくさせる事ができたらしく、約2年経った今になりモンテネムル家の爵位昇格が認められた。
その祝い品として、俺は商店街で売られていた1/6スケールの超柔軟性で今大人気になっている聖女様人形を小夜さんに差し出した。
顔はソックリなのだけど、何故かバストがLLサイズ。確かに、乙女ゲームに登場した悪役令嬢アンジェラは胸が凄い事になっていたけど、今のアンジェラはまだソコまで大きくはない。いったい、なんでバストだけ違うの?たくさん売る為だろうか?
「あらあら・・・それはわざわざ、どうもありが・・・とっ!」
「ああぁぁーーー!!首がぁ!!聖女アンジェラ様の1/6スケールフィギュアの首がぁ!!」
ニコやかに微笑みながら俺から人形を受け取った小夜さんが、人形を力強く握りフィギュアの首が吹っ飛んだ。結構、高かったのにぃ。奮発して買ったのにぃ。
「それで?私に相談したい事って何かしら、秋斗君?」
「あ、はい」
なんか怖い。なんで怒ってんの?小夜さんもプレイしていた乙女ゲームの登場キャラが人形になってたから、小夜さんも欲しいだろうとチョイスしたのに。
「え~と・・確かさ、あの攻略キャラが悪役令嬢アンジェラの義弟としてこのモンテネムル家にやって来るのって今年だよな?」
乙女ゲームでのシナリオ。悪役令嬢アンジェラの義理の弟として、攻略キャラだった人物が今年、ローダリスさんによってモンテネムル家へとやって来るはずだ。
アンジェラは女性だ。なので、侯爵家を継ぐ男が必要となる。ゲームと違い、この世界はモンテネムル家は公爵となったけど。
「ええ、そうね。でも、あの子のトラウマって悪役令嬢のアンジェラに苛められる事でしょう?私もシナリオ通り苛めた方が良いのかしら?」
まるで〝困ったわぁ〟と言わんばかりに頬に手を置く小夜さん。別に無理に苛めなくても・・・
「それは、しなくても良いんじゃないか?苛めたとしても、癒してくれるヒロインちゃんが居ないんだから」
「あら、その時は秋斗君が癒してあげれば良いじゃない。じっっっっくりと拝見させて頂きますわよ?」
「止めてくれ!腐信者達の新刊聖書になるなんて絶対に嫌だ!」
「ふふっ・・そう、残念だわ」
まったく、腐信教の腐教祖様は何時でも新作へのアイディアを望んでいるからな。なんて恐ろしい。
「あの攻略キャラって、もう1つ〝親について〟のトラウマがあるけど俺達じゃあどうしようも無いしな。そこは、小夜さんが優し~く接してあげれば良いんじゃない?」
「んー・・そうねぇ。まぁ、いずれはこのモンテネムル公爵家を継ぐ男。今からでも私が優秀な人間に育つように教育しても良いわね。ふふっ、楽しみだわ」
「・・・あの、小夜さん。ほ、程々にな?彼は俺等より1つ下の年下なんだから。優しくしてあげなよ?」
「そうね、潰れないように気を付けるわ」
さ、小夜さん・・・。
あぁ、まだ会ってもいない攻略キャラの義弟さんよ。無事に生き残れよ。俺には関係なさそうだから応援くらいしか出来ないが、立派に生き抜いてくれると信じている。あ、でも小夜さんの調教__じゃなくて教育がトラウマになったら物語通りになりそうだ、どうしよう。
「そうそう、秋斗君。丁度良い所に来てくれたわ。貴方に渡したい物があるの」
俺が机の上にある茶菓子をモリモリ食べてるのを再開したら、小夜さんが紅茶を置いて立ち上がった。そして、勉強机の方へと歩いて行く。勉強机の一番上の引き出しを開けて、何やら封筒みたいなのを取り出した。
「はい、コレ。〝ミネル君へ〟ですって」
小夜さんが持って来たのは、手紙が入っているでだろう一通の封筒。それを俺の方へと机に置いた。何故、その封筒の中身が手紙だと分かったのかというと___
「小夜さん、まさか・・・」
「ええ、そう。去年も頂いた〝例の物〟よ」
小夜さんの言葉を聞き、俺はダッシュで逃げ出した。
扉を勢いよく開けると、そこにはマーサさん率いるメイド隊が立ち塞がっていた。ちっ、仕方ない、ならば窓だ!
「何っ!?」
全ての窓から見えたのは、セバスさん率いる執事部隊だった。ほ、包囲されているだとっ!?そんな・・・俺に逃げ場はないと言うのか。
「諦めなさい、ミネル。これをちゃんと受け取れば良いだけの事じゃない」
「い、いいいい嫌だ!だって、だってそれは!」
俺は全力で拒否をする。去年はなんとか逃げる事が出来たが、今年は無理かもしれないからだ。
「そうよ、国王陛下の誕生祭。その祝祭の日に王城で開かれる披露パーティーへの招待状よ」