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118話 獣人街


 6-3.獣人街



 今日も無事にバイトが終わった。


 新しく改良された大聖堂は素晴らしいくらいに居心地が良い。エアコンみたいな魔道具が取り付けられ、暑い日は部屋が涼しく、冬は床暖房のおかげで温かぬくぬくだ。いったい、どれくらいの費用をつぎ込んで再建されているんだ。


 それにしても、本当に人口が増えたっすね。王都の大通りは観光客などでいっぱいだ。冒険者の人も増えたような気がする。あ、聖女様クッキーだ。買って帰ろうかなぁ。


 アンジェラをマスコット化して可愛らしいデザインが施されたクッキーをモグモグ食べながら、旧市街にある孤児院へ帰る。


 孤児院に到着した俺からクッキーを奪っていく子供達。美味しそうにクッキーを食べているので、まぁいいかと思いながら俺は入り口の扉を開けた。


 「ただいま~。フェイ~・・・あれ?フェイ居るか~?居ないのか~?」


 帰ってきて、さっそくフェイを呼んだが返事が返ってこなかった。出掛けてるのかな?と、なるとフェイの居場所は___


 「フェイお兄ちゃんなら『獣人街』の方に行っているわよ、淫乱ピンク」


 俺が孤児院でキョロキョロしていたら、後ろから女の子の声が聞こえた。後ろを振り向くと、小さな子供達を連れた黒髪の女の子が立っていた。


 「あ、やっぱり獣人街か。あれ、カンナちゃん。子供達から凄い人気じゃん。遊び相手、大変そうだね」


 「別に・・貴方と違って暇じゃないだけよ」


 「そ、そう・・・」


 俺にフェイの居場所を教えてくれたのは、いつも仲が良い兄妹の妹さん。相変わらず俺の事を〝淫乱ピンク〟と呼んでいる、困った。


 嫌われているのかな?と思っていたが、たまーに話しかけてくれるから分からなくなった。凄く嫌いな相手だったら話し掛けずに無視するだろうし、謎だ。


 「まぁ、これでも神職目指してるからね、私。それにフェイお兄ちゃんに相応しい女になる為の特訓にもなるし」


 「神職の人が、他人に〝淫乱〟ってはしたない言葉を言うのはどうかと思う」


 「毎日、フェイお兄ちゃんと一緒の部屋で寝ている貴方は危険なの。私が読んだ本に、その危険性がどれ程のモノかが書かれていたわ。ああぁ、なんて恐ろしい」


 「だ、だからさ、俺は別にフェイとは・・・ん?本?」


 「だから、私は貴方に負けない為に女子力を上げているのよ。決して、決してフェイお兄ちゃんが禁断の世界へと旅立たない為に、私が繋ぎとめてみせるわ。フェイお兄ちゃんは私の物よ!」


 「うん、欲にまみれている修道女はヤダなぁ」


 「おだまり!」


 カンナちゃんは相変わらずフェイLOVEなのであった。まぁ、乙女ゲームで攻略キャラだったし、そりゃモテて当然なんだけど。


 しかし、今のフェイは恋愛をしている暇はないと思う。


 とりあえず、カンナちゃんに教えてもらった獣人街にフェイが居るみたいだし行ってみようかな。あぁ、その前に聖樹の様子も見に行かないと。今日も聖女活動のバイトをしてきたから、きっと___









 【あら。ミネル君、おかえりなさい。今日もたくさんの人達を助けたみたいね。聖樹が、また一段と大きく育ったわよ?】


 俺は教会横にある聖樹の場所までやって来た。


 旧孤児院内で育ってしまったが為に建物が壊れ、それでも成長を続ける聖樹ユグドラシル。その高さは、ここから見上げても頂点が見えない程になっていた。


 その聖樹の近くで精霊達に囲まれている樹の大精霊ダイアナ=ドリアルドさんが話しかけてきた。


 「うん、ただいまダイアナさん。でも、やっぱりかぁ。本当にスクスクと育つな、聖樹」


 俺は、もう一度とても大きくなった聖樹ユグドラシルを見上げた。なんだか、映画のト○ロを思い出す。あの映画に登場した、おばあちゃんの〝おはぎ〟は美味しそうだったな。


 この森の主であるトト○___間違えた、樹の大精霊ダイアナさんが聖樹を優しく撫でていた。この聖樹が大きくなってから、よく聖樹の近くでダイアナさんを見かけるようになった。その理由を聞けば、この聖樹の門が大きくなって通りやすくなったとか言ってたな。


 実は、この聖樹ユグドラシル。俺が聖女活動してから少しずつ成長を続けている。今日もまた育ったらしい。


 なので、俺が昔〝精霊達は聖樹にどんな肥料をあげたんだか!〟と言っていたが、もしかしなくても俺のせい?と判明してしまった。



 【このまま、この子が元気に育ってくれたら嬉しいわ】


 「でも、場所がなぁ。このまま大きくなると、横にある教会も飲み込みそうで怖いな」


 【さすがに、もう聖樹を移動させるのは無理よ?だから、ココで伸び伸びと成長して欲しいしわ。うふふ、楽しみね】


 「・・・ちなみに、聖樹ってば縮んだりは出来ないの?」


 【私は聞いた事ないわね~、さすがに】


 でっすよね~。


 さすがにファンタジーの世界でも無理か、当たり前だけど。それじゃ、その事の相談をヴァンさんに聞きに行こうかな。この間、ヴァンさんが旧市街の区域争いに一段落したと言っていたし、挨拶に行くついでとして。


 あ、でも行くならご飯時が良いな。ヴァンさんは貴族で、しかも伯爵様なのだ。きっと、今日も高級感あふれる料理を食べているに違いない。ゴチになってこようかな、ぐへへ。


 【そうだわ、ミネル君。大精霊の間でミネル君の事が最近話題になっているのよ。もしかしたら近々、誰か会いに来るかもしれないから、その時はよろしくね】


 そういえば、ゲームに登場した大精霊はダイアナさんとしかまだ会っていない。出来れば、時の大精霊ジーク=クロノウスさんが来てくれたら凄く嬉しいかな。聞きたい事が沢山あるし。


 聖樹の様子を確かめた俺は、ダイアナさんに手を振って別れた。そして、フェイが居るであろう場所へと向かう。









 王都ランブレスタには新たに出来た区画がある。その場所は『獣人街』と呼ばれ、放置されていた旧市街に存在している。


 この獣人街は、その名の通り主に獣人達が集まり暮している場所。だけど、獣人専用の区画という訳では無く、他の種族の人達も自由に出入りはできる。


 この場所は、分かりやすく言うと〝大きな公園〟。王都ランブレスタに新しく整備された獣人街は、大自然を想わせる程の緑に溢れている。


 石で作られた道もあり、この大自然を感じながら散歩が出来る人気スポットになった。休憩用として屋根付きの椅子が所々に設置され、ゴミ捨て用に分別箱も置かれている。


 この獣人街は『モンテネムル侯爵家』の権力と、旧市街を治めるボスの『ラクシャス伯爵家』との協力の元、設立されました。


 ランブレスタの国王陛下に許可を頂き、この王都に大自然が設立された。実は、俺も協力したんだ。精霊達にお願いして、この場所を緑いっぱいにしました。


 王都に、こんな大自然の公園を作ろうと考え、実行したのは1年くらい前かな?


 小夜さんからの報酬としてフェイが育った村人達を、モンテネムル家の権力と情報収集力を駆使して集め始めたのが切っ掛けだ。


 フェイが育った村。つまり、魔王軍によって攻め滅ぼされ、奴隷として売られた獣人達だ。


 この世界に奴隷制度は確かにある。でも『犯罪奴隷』か『借金奴隷』だけ。平和に暮らしている人が奴隷になるのは普通はありえない。


 しかし、それは王国によって違う。ランブレスタ王国は『犯罪奴隷』か『借金奴隷』だけを認めているのだが、他国では『一般奴隷』というモノも許可している国がある。


 一般奴隷。それは、このランブレスタ王国では『裏奴隷』と呼ばれる者達だ。その一般奴隷となったのは主に、誘拐された人。そんな人達が高値で取引されている。


 そして、他国で『一般奴隷』となった人が、このランブレスタ王国でも裏ルートで売られる時がある。『一般奴隷』として登録されているのに『犯罪奴隷』か『借金奴隷』に変更されて。


 フェイも、乙女ゲームでは犯罪奴隷として正規の奴隷商に売られていた。ゲームの物語でフェイが本当は裏奴隷だと分かり、解放するイベントもあったけど・・・この世界ではフェイの立場がゲームとは違い、そのまま裏奴隷として売られてた。どうしてかは分からない。






 獣人街に到着した。


 とても広い公園。ここは緑が溢れているから、とても空気が良い。歩いていると獣人族の他にも、チラホラと散歩している人族のお爺さんやお婆さんを発見した。


 石で整備された道の脇には飲み物や立ち食いができる、軽い食べ物の露店もあった。


 店員は、もちろん獣人族。その向こうでゴミ拾いを仕事にしている人も居たけど、その人も獣人族だった。この獣人街で働いているのは全員が獣人族なのだ。


 この獣人街とされた公園で彼等は暮らし、管理を任されている。本当は元の自分達が住んでいた場所へ帰りたがっていたけど、今ではその場所は魔王軍に占領されていて近付けない。


 彼等の暮していた場所を魔王軍から取り戻せたら良いのだが、さすがにソコまではモンテネムル家も協力は出来ないらしい。魔王軍と本格的な戦争になり兼ねないらしいから。まぁ、今でも小競り合いは続いているらしいけどな。


 「フェイ~、やっほ~い」


 「・・ん?おう、ミネルか。用事は終わったのか?」


 「うん、終わった。はい、コレ。お土産の聖女様クッキーだよ。沢山買ったから子供達にもどうぞ」


 「おう!ありがとな、ミネル」


 商店街で買ってきたお菓子の袋をフェイに渡した。


 実はフェイには俺がしているバイトの事は秘密にしている。だって、聖女活動は女装をしなくてはいけないから。そんな姿をフェイに見られたら確実に笑われる。絶対に言わない。


 フェイは小さな獣人の子供達の遊び相手になっていた。だけど、この子達の遊びって力勝負がほとんどだから俺は参加した事はないし、するつもりもない。ポーンと投げられて終わりだろうしな。


 この子達も元気になってくれて良かったよ。奴隷商から買い取った時は、それはもう震えていたし汚れていたから。


 食べ物をあげても許可をしないと食べなかった。「御主人様の命令がないと、まだ食べちゃダメなの。お仕置きさちゃう。痛いのは、もうヤなの」と震えながら言われた時はマジ泣きしました。胸がキューっとなった。



 「こりゃ!〝ミネル様〟とお呼びしろと何度言えば分かるんじゃ、馬鹿者がっ!!」


 「ンガッ!?」


 バコーンと見事な音を出してフェイが地面にめり込んだ。後ろから来たご老人にフェイが頭を殴られたのだ。軽く小突いた程度に見えたのに、この威力。こ、怖いッス。


 「いってぇな!何しやがる、クソじじぃ!!」


 地面にめり込んだ頭をガバッと上げ、フェイが怒鳴る。それを見たご老人が鼻で笑った。


 「何度言っても分かん馬鹿孫に教育しただけじゃ。ワシの孫なら、もう少し賢いと思っておったのにのぉ」


 「クソじじぃの孫なんだから賢い訳ねぇだろうが!テメェが馬鹿なんだからよぉ」


 「なんじゃと、馬鹿孫め!ワシの賢さが分からんとは情けないもんじゃ!この、たわけが!」


 「何が〝ワシの賢さ〟だ!とうとうボケやがったか、クソじじぃ!!」



 あ~、うん。いつも仲が良いね2人とも。


 そうッス。このご老人はフェイの実の祖父。つまり、フェイが住んでいた村の村長だ。この人も無事に見つかり、今では獣人街のまとめ役として協力してもらっている。


 フェイもお爺さんが見つかった時は泣いて喜んでいたよ。・・・まぁ、それなりに酷い状況だったけどな。でも、今では元気になってくれて良かった。


 俺は微笑みながら、壮絶な殴り合いになった家族喧嘩を眺めていた。止める?無理無理。とりあえず二人が落ち着くのを待つしかない。




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