117話 聖女アンジェラ(?)
6-2.聖女アンジェラ(?)
ランブレスタ王国にある名所の1つ。神々への信仰者が祈りを捧げる場。
大聖堂。
2年前、この神聖な建築物が消え失せた。今では、この大聖堂は王国が大急ぎで復旧している現状だった。外見こそは同じだが、内部は以前とは違い全ての部屋に防音設備が施されている。そして大聖堂を守る結界も、より頑丈なものとなった。
大聖堂で一番の観光場所となる大広間。見上げる程に大きい礼拝堂。その場所にも防音効果がある術式が組み込まれ、外からの建設作業音が一切聞こえてこない。なので、礼拝者や観光客達は静かに礼拝堂で祈りを捧げる事ができている。
その祈りの場である礼拝堂で、1人の少女が皆の注目を浴びていた。
堂内ではパイプオルガンを修道女が弾き、祈りの聖歌が奏でられていた。その聖なる音色によって、この場がさらに神聖さを纏っている。
皆から注目されている1人の少女。その少女の元へ、1人の男性が修道士に連れられやって来た。その男性は木で出来た杖を使い、懸命に歩いている。
男性は片足を失っていたのだ。
「聖女アンジェラ様。どうか私の右足を、無くなってしまった片足をどうか治して下さいませ。どうか、どうか、もう一度、自由に歩けるように。どうか、どうか・・・・」
少女の前に跪く男性。その男性は少女に泣きながら懇願した。
この男性は、森で鹿肉を求めて狩りをしている猟師だった。ある日、帰り道の途中で魔物に襲われ足を食い千切られたそうだ。魔物は猟師仲間が倒してくれて、男性はすぐに村へと担ぎ込まれた。治療を行なったが右足の怪我による感染症で数日の間、寝込む事になったが命は助かった。しかし、やはり食い千切られ失った片足は戻ってはこなかった。
男性は失った右足を見て、絶望した。これでは、森で満足に猟など出来ないと。
「聖女アンジェラ様、お願いします。私には妻や子供達が居るのです。あの子達を父として養ってあげたい・・森での猟を教えてあげたいのです。しかし、今の私には片方の足しかありません。お願いします・・お願いします、聖女アンジェラ様。どうか、お助け下さい」
必死に願い、そして祈る男性。礼拝堂の遠くでは彼の近しい人達が泣いていた。それ程に彼は苦しみ、彼の周りにいた人達も心配だったのだろう。
そして、王都に滞在している『聖女』の噂を頼りにやって来た。もう一度、森で狩猟をしていたあの日に帰れると信じて。
「貴方の苦しみ、さぞ辛かった事でしょう。しかし、もう大丈夫ですよ。あなたの悲願、聖女アンジェラ様により叶えて頂ける事でしょう。さぁ、祈りなさい。あなたの望みを、心から」
聖女と呼ばれた少女の隣で立っていた神父様が、男性に優しい声を掛ける。その言葉に、男性は頭を下げ祈り続けた。その必死さは少女や、周りにいる者達にも伝わっただろう。
「それではアンジェラ様、よろしくお願いします。この者に神々の祝福を。そして、大いなる救いと慈悲をお祈り下さい」
少女はコクリと頷き、男性に近付いた。
聖女と呼ばれた少女の背後にはステンドグラスがあり、その光に照らされる少女は聖なる神々の御使いにも見えた。白いドレスに白いベールで顔を隠し、長く綺麗な黒い髪がなびく。そして何よりも、その少女自身が少しずつ輝き始めたのだ。
まるでステンドグラスからの光りが少女を包むように輝く聖女。その聖女は男性にそっと触れて、回復魔法を唱えた。
白い光に包まれる男性。その男性の失った右足の部分にも光りが集まり、やがて足の形へと変化していく。そして光りが収まり、失ったはずのそこには、かつて共に森を掛けた右足が存在していた。あの日、魔物に食い千切られ失ったはずの右足が。
男性は驚きながらも杖無しで、その場に両足で立ち上がる。右足を動かし、そして何度も右足に触れる。
「おおぉ~」と礼拝堂の中に、たくさんの声が響く。この場所に来ていた礼拝者や、他国からやって来る観光客。そして、聖女アンジェラ様を見ようとランブレスタ王国内に住んでいる見物人達だ。
「あぁ、足が・・私の、私の足。あの日、失った私の足が・・・ありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます。ありがとうございます、聖女アンジェラ様」
男性は泣きながら何度も「ありがとう」と礼を口にして頭を下げた。そして、神官達の案内で出口へと歩いて行く。あの日からずっと望んでいた、ずっと夢みていた自分の両足で歩く、一歩一歩を噛みしめるように。
「次の方、どうぞ前へ」
神父様の言葉に、今日も次々と救いを求める者達が礼拝堂へと現れる。聖女様に願いを叶えてもらう為に。
今、王都ランブレスタには天から地上へと舞い降りた天使様が居るという。それは心優しき聖女様で、苦しむ者全てに祝福をもたらして下さる、神々の御使い様。
ランブレスタ王国の貴族、モンテネムル侯爵家の一人娘アンジェラ=K=モンテネムル。その聖女様の奇跡は他国にも広まる事となった。
大聖堂にある礼拝堂から退出し、聖女様専用の休憩場所へと歩いて行く。
聖女と呼ばれたアンジェラ(?)は、少しグッタリとしながら部屋へと到着。そして履いていた靴を脱ぎ棄て、部屋にあったソファーにダイブした。
「ぬがぁ~!疲れた~!ずっと立ってるの結構きつい~!」
アンジェラ(?)はソファーに手足をバタバタと叩きつける。この手足の運動は毎回の事で、これで少しは体がほぐれるのだ。そんな運動をしながら、今日も愚痴をソファーにぶつける。
「ご苦労様、ミネル。マーサ、ミネルに飲み物を用意して」
「はい、アンジェラお嬢様」
アンジェラ(?)が寝転がっているソファーの向かいには、もう1つソファーが設置されていた。そのソファーに座り、本を読んでいるのはアンジェラ(?)に瓜二つの少女。その少女の言葉に、控えていたメイドがティーカップに紅茶を入れる。
本を閉じて、こちらを向く少女。そう、この少女こそが本物の侯爵令嬢アンジェラである。ミネルと同じで、この乙女ゲームに似た世界に転生してしまった少女。前世の名前は品川 小夜。今世では乙女ゲームに登場した悪役令嬢アンジェラ=K=モンテネムルだ。
「くっそ~、国王め。俺が会いに来ないからといって、こんな嫌がらせをさせるなんて!」
アンジェラ(偽者)がソファーに座り直して、着ていたドレスとカツラを脱ぎ捨て幻影魔法を解除する。そして、現れたのはTシャツに短パン姿のミネルだった。つまり、俺ッス!
「あら、これは半分ミネルも悪いのよ?あの2年前にやりすぎちゃったから」
「ぐっ・・・・」
まぁ、そうなんだけど。
あの『王都疫病事件』で行なった光属性の最大上級魔法。そのせいで、王都に居た難病者や体の部位の欠損などが光によって完治・復活したのだ。
今ではその噂が広まってしまい、他国の者までもがこのランブレスタ王国へとやって来てしまう始末。なので、王都の人口はかなり大幅に増えたのである。
此度の事は、ランブレスタの国王陛下がローダリス侯爵を経由してミネルに伝達した事。国王が仰るには『お前のせいなんだから責任もてや。は?逃げる?国際手配犯になりてぇのか?ああ?』と、とても激オコらしい(泣)。
「まぁまぁ。良いではありませんか、ミネル様。今日も救われた人々から、たくさんの感謝の言葉を頂けたのでしょう?それは、とても素晴らしい事ですよ?」
「あ、ケーキだ。わーい!ありがとう、マーサさん」
アンジェラの専属メイドとなったマーサさんが俺に紅茶とケーキを持ってきてくれた。俺は喜んで受け取る。やっぱ言葉よりも、こういう実物的なお礼の方が良い。
「そうよ、ミネル。今、この国では他国から噂の聖女様を見ようと観光客も沢山やってきているの。そして、聖女様の奇跡を求める者は数えられないくらい増えたのだから頑張りなさい」
「なんたって、その奇跡を受けるのは無料だしな。さすがは心優しき聖女様だぁ、ハゲそう」
そうなんだよ、この聖女の治療を受けるのは無料。ただし、教会による厳しい審査を通り、認められた者しか受けられない。もちろん武器を持っていないか身体チェックもされている。
しかし、この聖女様による治療の見物には教会関係者以外は『有料』。奇跡の見物を有料にする事により、見物人の厳選をする。そうでないと礼拝堂が人で溢れてしまうから。下手をすれば押し潰されたり、誰かが倒れたらドミノもみたいに倒れてしまい大惨事になる。
それ程に、聖女の奇跡が今は人気らしい。このランブレスタ王国の立派な観光スポットになってしまった。客寄せミネル再び。
「それに、ミネル?貴方、ちゃ~んと国王様からお小遣いを頂いているのでしょう?私、知ってるわよ。その給料がいくらかも・・・ね」
「うっ・・・」
あい、ごめんなたい。確かに、この聖女活動でバイト代をガッポリと貰っちゃっています。
聖女の奇跡を見物ツアーを有料にして、大聖堂の復興へと回し、俺へのバイト代もそれで払ってくれているらしい。それに、以前あった大聖堂を消しちゃった罪悪感もあり、協力には惜しみません。愚痴くらいは言いますが、俺は良い子だから。去年もサンタさん来なかったけどな!
コンコン
俺達が居る聖女専用部屋の扉がノックされた。マーサさんが対応しにいき、その扉から1人の男性が入ってきた。先程の聖女活動で、俺の隣に居た神父様だ。
「お疲れ様です、ミネル様。今日も素晴らしい奇跡でございました」
俺に微笑みながら話すのは、この礼拝堂を任さられている新しい教祖様。名前はミカルドさん。結構、女性達にも人気があると聞いた。
確かに高身長だしな・・・あ、ちょっとイラッとした。でも、この人って確か既婚者なんだけど。それでも女性達にキャーキャー言われるとは・・・・あ、またイラッとした。ミカルドさんを見ると、たまに俺はジェラってしまう。
この世界では、昔に教会を建て宗教を設立した、とても偉い教祖様がいたそうだ。そして、その偉大な教祖様の血を引き継いでいる者達を〝教祖〟と呼ばれている。つまり、ヴァンさんのおかげで追い出した前任者の教祖さん、ロイドさんいわく〝豚教祖〟もその血を継ぐ者だったみたい。
この新しい教祖様、ミカルドさんも俺がしているバイトを詳しく知っている1人。なんでも他の者に話さないよう、特別な契約もしたたらしい。魔法的な契約で、それを破るのは無理らしい。詳しい事は分からん。そういうのは小夜さんに任せているから。
「大変申し訳ありません、ミネル様。急遽、聖女様の奇跡を求める者が尋ねて参りました。お休みの所、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「はいよぉ~、了解で~す」
さぁ、バイトバイト。これもお給金の為だ、頑張ろう。
時々、居るんだよな。教会の審査を受けずに来る人。本当に緊急の時もあったけど、たまに傲慢そうな貴族さんが来た日があった。そういう傲慢貴族さんには〝お布施〟として、すっげー値段を頂いているらしい。
まぁ、対応は全部ミカルドさんに任せているので、俺はミカルドさんの指示に従うだけ。それじゃあ、いってきまーす。
鼻水 やヴぁい
花粉症の同志達よ 大丈夫だろうか?
自分は結構 重症です 外に出たくないでふ ( TДT)