116話 身長が伸びた俺!
6-1.身長が伸びた俺!
王都ランブレスタには他国に誇れる建造物が数多く存在している。
その1つが、白く巨大な『大聖堂』。邪悪なる者を退けると伝えられる場所で、一番高い塔には王都の全域に響き渡る大鐘があった。
その鐘が毎日、信者達に拝礼の時間を知らせる。礼拝者にとって神々への祈りは大切であり、時間ぴったりに知らせてくれるその大鐘に感謝をしていた。
しかし、その大事な大鐘に__いや、大聖堂そのものに大事件が発生する。
それは今から二年前、突然の出来事だった。その事件の目撃者は多数いて、証言者によるとたった1人の、それも小さな子供による行ないだったそうだ。
その小さな子供が、ランブレスタ王国が誇る大聖堂を魔法によって消し去ったとの事だった。
その子供の正体も、理由も、使用された魔法でさえ、今でも分かってはいない。そんな、嘘みたいな大事件の調査をランブレスタ王国の騎士団により調査がされている。
ただ、大聖堂に保管されていた聖剣は無事だったらしく、安心してほしいと王家からの知らせがあった。その聖剣は今でもランブレスタ王国の王城にて、大切に保管されているとの事。
2年前に消え去った大聖堂。その場所には今、看板が立てられており、あの大事件についてが書かれた記事が何枚も貼られている。ビッシリと。
俺は、ゴソゴソとマジックバックから油性のペンを取り出した。そして、その記事に書かれている〝小さな子供〟の〝小さな〟という文字を延々と塗りつぶしていく。此処にある記事は全部、俺に喧嘩を売っているのだから。
あの『大聖堂消滅事件』から2年が経ち、俺は無事に12歳となりました。
俺、やっと身長が伸びたんだ。俺、やっと身長が伸びたんだよ!!2cmも伸びたんだぞ!やっと、やっとだ!俺の高身長への物語はココから始まるんだよ。まだ確かに小さいと言えなくも無いかもしれないが、たかが2cm、されど2cmなのだよ。
これからニョキニョキと伸びる事を期待している。そんな俺に記事を書いた奴等はなんて事を言うのだ。まったくもって許せない。
そうそう、大聖堂の話。
その大聖堂、今でも再建中となっています。費用はもちろん王国持ち。神教徒や礼拝を願う住民達からの祈願書が集められたそうだ。はよ、直してって。そして、急ピッチで大聖堂の再建復興が行なわれている。
完全に再建するのには何年も掛かるので、大聖堂にあった礼拝堂だけでも国王の指示の元、すぐに再建されたようだ。
ランブレスタ王国に滞在している土魔法の上級魔術師の手によって、元あった大聖堂に似せて再築されている。そっくり、そのまま。しかし、それは外見だけらしいと小夜さんからの情報で聞いた。内部は現代寄りになり、信者達が暮しやすくなる予定なのだと。この乙女ゲームの世界にいる技術者達の素晴らしい腕の見せ所だ。
そんな建築中の新・大聖堂を俺は眺めている。さっきまで落書きがバレないように被っていた闇の衣と油性ペンをマジックバックにしまいながら。
俺は今でも王都でのんびり過ごしています。つまり、旅人にジョブチェンジはしなかった。
2年前のアンジェラ父が国王陛下に機密の報告書を送り、それから数日後に国王陛下からの返事が返ってきた。恐る恐る赤い蝋で止められた封筒を破り、紙を取り出す。手紙を開いてドキドキしながら読んでみたけど、俺には内容が難しすぎて訳ワカメだった。あ、古い言葉つかっちった。
なので、小夜さんに分かりやすく説明してもらいました。それで分かったのが『OK~。内緒?別に構わないよ~。そのうち会ってくれたらオレっち嬉しいなぁ』的な内容だった。国王には、結局まだ会えていないけどな。
でも、俺の事はもう調べ尽くしているのだろう。大精霊のダイアナさんと伯爵のヴァンさん(の隣りに居たロイドさん)が教えてくれました。
孤児院の近くで怪しい人達がたくさん居たらしい。俺には、まーったく分からなかったけどな。きっとアンジェラ父のローダリス侯爵が言っていた国王陛下直属の諜報員だと思う。
旧市街にある大事な孤児院も孤児達が増え、かなり賑わっています。さすがはヴァンさん、やり手だ。市街地にある孤児院も、以前の様に『優秀な者を贔屓する』という行動をしなくなったらしい。他国から孤児達がやってくるので市街地の孤児院へ入りきらなかった子供達が旧市街の孤児院にやって来る。
孤児が増える原因。色々あるだろうけど、一番は魔王軍だろう。フェイの村も攻め落とされたし。
魔王の力が完全に復活するまで、あと4年。
乙女ゲームではヒロインちゃんが貴族学園の高等部に進学する時だったはず。その時点では、もう大体の攻略キャラと仲が良かった。魔王の力が完全復活するという物語が始まった辺りでゲームの中盤だった。
魔王の〝力が〟という事は、本人はもう存在している。魔王軍を率いているのは魔王だろうし。魔王を倒す唯一の武器である肝心の聖剣の覚醒は・・・来年だっけ?あのイベント。
本当は、魔王の力が復活する前に聖剣の覚醒を終えたい。しかし、今でも王城にある宝物庫に保管されているので聖剣に会えずにいる。困った、どうしよう。
・・・ま、いっか。魔王の完全復活まで、まだ4年もある。魔王軍が調子乗るまでに小夜さんと策を練り、彼女に全部考えてもらおう。
そうそう、旧市街にある俺の大事な孤児院についてなのですが、2年前に少し困った事がありました。実は____
「やっぱ目立つよなぁ、あの『聖樹』」
俺は大聖堂復興作業近くにある高台から、旧市街の孤児院がある方向を見た。そして其処から見えたのが1本だけ他の建物を追い抜いて空に向かって伸びる巨大な木があった。
聖樹 ≪ユグドラシル≫
聖なる神木で、大精霊達が住まう『神域』に繋がる門。精霊達が愛し、大切に育てる植物。
そうなんですよ。俺が無事に演じたク○ラを__間違えた、聖女アンジェラを演じた日、その夜に孤児院へ帰って来たら俺はドえらい物体を目にしてしまった。
聖樹ユグドラシルが、あの小さかった聖なる神木が、孤児院の天井を突き破って巨大化していたのだ。
OH NO~!
痛い!痛いよ精霊さん!違う、違う!『斧』って叫んだ訳じゃないんだよ!誤解だよ、誤解!
なんとか精霊さん達を鎮める事ができた俺は、もう一度いきなり成長しまくった聖樹を見た。というか見上げた。これは一体どうしたの?というか、どうしよう?何故に聖樹は巨大化を??
俺が孤児院の外で呆然としていたら、フェイがやって来て教えてくれました。
王都の空に光り輝く巨大な魔法陣が出現したと思ったら、いきなり聖樹ユグドラシルがどんどん大きくなっていったらしい。
その時、まだ孤児院の中に居た皆は無事だった。突然、孤児院がミシミシと音を立て、ガタガタ揺れ始めたので急いで外へと逃げ出した。そして、外へ出た皆は孤児院を突き破って巨大化する木を呆然と見上げていたらしい。
まったく!精霊達はいったい、この聖樹にどんな栄養や肥料を与えたんだ!おかげで孤児院が滅茶苦茶じゃないか!
もちろん、今でも壊れた孤児院は立ち入り禁止。一度、面白半分で立ち入り禁止の場所に忍び込んだ悪ガキが居たのだが、精霊達の怒りを買って大泣きさせられていました。
その後、ヴァンさんとロイドさんによって新しい孤児院が建てらた。場所は横にあったボロボロの教会の隣。つまり、教会の左側には壊れた孤児院があり、右側に新しい孤児院を建設した。費用はヴァンさん持ちです!俺、1円も払ってないッス!さすがは貴族様じゃ!
でもさ、これだけ聖樹が大きくなったという事は、俺の元へやって来るサンタさんが100人は居てもおかしくない。ぐへへ。
レギオのトラウマイベントも無事終わったので、今ではのんびりと過ごしている。
しかし今年、乙女ゲームに関係するイベントがある。ヒロインちゃんが12歳となった時、あの攻略キャラがモンテネムル侯爵家へやって来るのだ。
・・・うん、小夜さんに任せよう。彼のトラウマは悪役令嬢アンジャラが原因だし、小夜さんが何もしなければ虎にも馬にもならないだろう。
さてと、そろそろ時間だ。俺はバイトへと向かう為に歩き出す。もうすぐ、礼拝の時間だ。
俺は建設中の新・大聖堂にある礼拝堂へ向かう。その入り口には大勢の人々が並んでいて、その人達を横目で見ながら礼拝堂の裏側へと歩いて行った。
2018.06.26 修正
聖剣の覚醒 3年 → 来年 に変更しました。