108話 小夜さんとの交渉
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5-21.小夜さんとの交渉
あの『王都疫病事件』から数日が経った。
その数日の間、小夜さんは体調不良と国王陛下からの呼び出しで会えなかった。まぁ、あんな魔法陣を発現させた責任を小夜さんに全投げしたので大変なのだろう。
俺は、いつもの平和な日常に戻った。なので、せっかく乙女ゲームに登場した王都ランブレスタに居るので色々と観光しまくった。ていうか王都、広すぎ。迷路みたいな造りで楽しかったけど、何回も迷っちまったよ。
そうそう、レギオっちの母親は無事だったよ!また、乙女ゲームの設定と違う箇所が出来たけど、俺は満足している。
ただ、レギオが〝あの事件〟から孤児院へ来てくれない。きっと母親に甘えてるのだろう・・・お、俺は別に寂しくなんかないんだらね!
そして今日、やっと小夜さんから面会OKの返事がきた。
今、王都では右を向けば「聖女様が~」左を向いても「聖女アンジェラ様が~」と、聖女ブームに大突入しております。
という事は、王城でも大騒ぎなのだろう。アンジェラである小夜さんも、そりゃ長い間会えるはず無ぇよな。きっと、王族や貴族から質問攻めにあっているに違いない。
いや~、大変だね。ガンバレ、小夜っち!俺は応援だけは得意だぞ。
そして、俺の応援が効いたのか小夜さんと今日会える。上手い事、誤魔化してくれただろうか。巷では小夜さん、というかアンジェラが聖女としての爆発的な人気となっている。そのおかげで、そのうち〝アンジェラ様人形〟とか〝アンジェラ様まんじゅう〟が王都で売り出される予定だってさ。〝ご予約、受付中〟とか店に書いてあった。
もし買えたら、お土産として持って行ってあげよう。ぷくく。
「・・・・・ふへ?」
俺はマヌケな顔で呆然とした。小夜さんから聞かさえれた言葉を理解できずに、そして処理も不可能になってしまったから。
場所はモンテネムル本邸にある小夜さんの部屋。今日、以前会った執事軍団が現われて俺をゴスロリ馬車へと押し込んで招待してくれたんだ。少し久しぶりとなる小夜さんは、相変わらずのゴスロリ衣装で優雅に紅茶を飲んでいた。
小夜さんは、『大精霊の召還』を行なったらしく、その代償として療養が必要だったらしい。治ったら国王陛下から届いた召還状のせいで王城へ行っていたとの事。そして、王城での出来事を教えてくれた小夜さんの言葉を理解できずに俺は固まった。いや、理解したくなかった。
「ごめん、今なんて?」
聞き間違いでは無いだろうが「冗談よ♪」という言葉を期待して、俺は小夜さんに尋ねる。
しかし・・・
「嘘がバレちゃったのよ。というか、信じてさえ頂けなかったわ。本当に残念だけどね、申し訳ないわ」
・・・〝嘘がバレた〟??
えーと、やっぱり聞き間違いじゃなかった。冗談でも無いっぽい。え、マジで?
つまり、あの恥ずかしい俺の女装は意味を成さなかったという事?俺、ちょー恥ずいの我慢したのに?
「お父様に陛下、それとレギオの父親である宰相様にも嘘は通じなかったわ。それに、おそらくだけど騎士団総隊長にもバレている可能性が高いわね」
そんなにバレてるんかい!?
・・・ん?あれ、いや待て。今、小夜さん〝騎士団総隊長にも〟と言ったか?
あるぇ??でもあの人、俺を無事にモンテネムル本邸へ帰還させてくれたけど?なんじぇ?どういう事なのん?
「騎士団の、隊長にも?え、でも本当に?だって、あの人・・・」
「ええ。本当よ、秋斗君。陛下からの召還状で王城へ向かった日にね、言われたのよ。あの事件についての尋問を嘘で固めた帰りにね、あの騎士団長にお会いして〝アンジェラ様は、たった数日で背が伸びたり縮んだりするのですね?〟と」
「あー・・・」
確かに、俺の背は今のアンジェラよりもち、ち、ち、小さい・・・し。
でも、俺は男だからな!数年後にはスクスク成長して、すぐに俺の方が高くなるさ!・・・落ち着け、俺。今はそれどころではない。
あの騎士団長さんバレれていたのか。という事はだ、あの大根役者ペー○ー執事の演技は騙せ通せた訳じゃなかったのねん。あの時は奇跡だと喜んだのに、残念だ。
じゃあ、俺を無事に帰宅させてくれたのはあの人の慈悲か。あざーッス!あんな民衆に囲まれた場所で〝聖女は偽物で男だ〟なんて発表されたら公開処刑と同じだ。男としてのメンタルは地に落ちて踏み潰されていただろう。
「昨日の夜も、お父様の書斎に呼び出されて尋問よ。それはもう長々とね。前世の記憶がなければ耐えられなかったでしょうね。その点は転生しても記憶があった事に感謝しているわ」
「でも、どうしようか。俺、旅に出た方がいいのか?」
「ん~、そうねぇ。秋斗君の事は誰にも話していないわ。もちろんセバスも。でも、マズイ事が1つ」
「な、なに?」
「貴方を、このモンテネムル本邸へ連れてきた執事達や貴方を見たメイド達、その存在がたくさんいる今の状況はかなりマズイわね。この人達の口を全部塞ぐのは、ほぼ不可能よ。部外者には話さなくとも、お父様___つまり、この家の当主であるモンテネムル侯爵様には報告の義務があるもの」
「お世話になりました、小夜さん。また出会える日まで御無事をお祈りいたします、さらば!」
俺はセバスさんのような綺麗なお辞儀をマネして白いハンカチを振りながら立ち去る。
「待って待って、秋斗君。お願い、ちょっと待って」
小夜さんが慌てて俺を呼び戻す。分かってるって、ちゃんと地方のお土産を買ってくるから心配しなさんな。
「ねぇ、秋斗君。一度、私の父に会ってみない?」
「・・・・・はい?」
誰に会うって?ちち?乳?え、もしかして、これは〝夜のおさそ___
「私の父。つまり、アンジェラのお父様なのだけど、口の堅さは保証できるし、悪い事態にはならないと私は思うのよね。どう?秋斗君」
でっすよねー。
下的な話のはずが無いっすよね知ってた。俺はこの世界でも『童帝』として君臨し、輝き続ける運命なのだろう。魔法はもう使えるがな。
「え~、乙女ゲームの登場人物じゃん。結構、重要なキャラだろ?」
「まぁ、やっぱりそんな顔するわよね、分かってたけど。でも、真剣な質問よ?一度だけでも良いから会って話しをしてもらえないかしら?」
でも、どうせアレでしょう?その次は国王に会えとかでしょう?俺をタライ回しにする気なんでしょう?俺がアホだとしても騙されないんだからな!
「その代わり、交換条件として報酬を出すわ」
ぴくっ
俺の体が反応してしまった。報酬・・・つまりは金!?金なのか!?貴族はいつもそうだ、金の無い奴には大金で積めば釣れると思っているのだろう!?なんて、ありがたい話だ。その通り、いか程の値段を僕ちんにくれるのですか!?
「秋斗君と一緒に住んでいた彼。あの人って『フェイレシル=ラシュール』でしょう?攻略キャラの」
「え?うん、そうだよ。確かにゲームに登場した攻略キャラのフェイレシル。ちょっとした事情で俺の奴隷になったんだ」
「まぁまぁ、〝奴隷〟ですって?それはそれは、うふふふふ・・・。あっと、ごめんなさいね?何やら天啓が下りたような気がしたもので、おほほほほっ」
天啓・・・もしやBL神からの?またっすか?腐教徒の腐教祖様はそんなレアスキルまで常時発動を可能としているのか、恐ろしい。
「こほん・・・で、報酬なのだけど、彼『フェイレシル』が捜している奴隷となった村人を、モンテネムル家の全勢力を使って探し出してあげるわよ?期限は〝奴隷となった者、全員を見つかるまで〟。どう、秋斗君?」
・・・・金じゃなかった。
べ、別に金が報酬だったら応じていたクズ人間じゃないぞ、俺は(泣)。でも、そうか。フェイの・・・さすがは小夜さん、交渉が上手い。
俺はソファーに戻り、また座った。
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諸事情で毎日投稿が無理になりました
すいません
土日は頑張れそうですが あとは不定期になりそうです m(_ _)m