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106話 ※とある侯爵※


 5-19.※とある侯爵※



  ※ ※ ※ 悪役令嬢アンジェラの父親 ???侯爵 視点 ※ ※ ※



 私は侯爵家の長男として大切に、そして厳しく育てられた。次期当主として恥ずかしくないように立派にと。


 大人になった私は無事、父に認められ侯爵家を継いだ。


 学園で恋仲となった女性とも婚約する事ができ、恋愛結婚となった。貴族としては、とても珍しい事。私は幸せだと感じた。



 私と妻との間に初めての子供を授かった。女の子だ。


 妻が妊娠したという知らせに私はどれ程、喜んだ事だろうか。いざ出産の時、私は人生で一番情けない姿を妻に晒してしまったのだろう。本当に恥ずかしい事だな。


 そして、私が慌てふためいた時でも愛する妻は頑張ってくれて、無事に出産を終えた。母子共に無事だという知らせに安心した。私はただ〝頑張れ〟と心で応援する事しか出来なかった気がする。


 初めて抱く我が子。とても小さく、とても愛らしい。私は泣きながら妻に礼を言ったのを覚えている。



 あれから数年。私は小さな疑問を感じてしまった。


 私の娘は『アンジェラ』という名前を付け、メイド達に協力してもらい無事に育っていった。娘のアンジェラは赤子の頃からあまり泣かない子だった。


 知り合いからは赤子とは〝夜泣きが激しい〟〝何かあればすぐに大声で泣く〟〝常に一緒に誰か居ないと〟など、寝不足な目にクマが出来た状態で訴えていたというのに。


 なのに、我が子は全くと言っていい程に我がままをしない子だった。


 確かにとても育てやすく、子育てが初めてという私達のような新米夫婦にとってはありがたい事。だが、もう少し世話をやかされたいと心配に感じてしまうのは変な事なのだろうか?




 娘が生まれて数年。私は父親として、とうとう最低な者になったようだ。


 娘アンジェラが生まれて、もう10年が経った。もうはっきり言おう、私の娘は『異常』だと。



 ___わずか5ヶ月で言語を理解し、口下手だが話すようになった


 ___たった3歳で闇属性の魔法を発現させた。


 ___まだ6歳なのに、〝因数分解〟や〝魔法力学〟〝量子力学〟を理解し勉学に励むようになった。



 私は、自分の娘であるアンジェラが恐ろしくなった。


 妻は〝まぁ、凄いわ〟〝さすがは、あの人の娘ね〟などと喜んで褒めていた。愛する夫との間に生まれた、唯一の子供なのだから娘を愛する気持ちは当然だと思う。


 私も妻の前では笑いながら、娘を褒めた。私の感じている僅かな恐怖を悟られないように。


 だが娘は、私が褒める時だけ目が笑っていないように感じる。まるで、私が演技で褒めていると理解しているかのように。それが、私をさらに恐怖へと落とした。




 娘が10歳となり、教会で行なわれる属性検査を受ける日となった。魔王の力を封印して数十年、もうすぐ封印が解かれるのではないかと恐れている貴族が増えた。その為、今は属性検査で判明する『勇者』と『聖女』という存在の誕生を待ち望まれていた。


 そして、私の娘アンジェラが『聖女』としての能力を備えているとして国王陛下に認められた。


 私も・・本当は、私も父親として喜ばなければならなかった。だが、私は自分の娘なのにどう接したら良いのか分からなくなっていた。


 愛する妻はとても喜んだ。自分の娘が伝説の聖女だと知り、とても嬉しかったのだろう。だが、その妻も私と娘との間があまり良くないと気付いているようだ。時々、悲しそうな顔をしているのを見掛けてしまった。私は、それがとても・・・つらい。



 そして、聖女に認められたアンジェラは、我が国の第二王子『エルナルド=C=ランブレスタ』様の婚約者となった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 今日の出来事は王都で暮す民にとって、どれだけの絶望に包まれただろうか。


 騎士から知らされたのは『疫病』の発生。それも、その発生地がこのランブレスタ王国の大都市でもある王都でだった。連絡が入った時には市民街だけではなく、すでに貴族街にも感染者が現われたと知らされた。



 「陛下による緊急招集が発令されました。モンテネムル侯爵様も急ぎ会議の場へとお越しください。国王様の出席の元、緊急会議が行なわれます」


 王城で働いていた私に、執事の男から知らされた国王陛下の招集命令。どうやら上位貴族の皆に伝達がされているようだ。


 急ぎ向かった会議の場では、陛下も出席されての疫病の対策会議。


 疫病は既に、この王都で蔓延しているだろうとの事だった。名のある貴族達は冷静を保てていたが、まだ親から爵位を引き継いだばかりの若輩者達は慌て始める。


 私も驚いてはいるが冷静を保つ。その時、珍しく陛下の隣に居た宰相様の額には汗が滲み出ているのが見えてしまった。いつもは冷静な彼が珍しい。


 そういえば、彼の妻は長年、病弱な方だったはず。今の彼は、心配で心が押し潰されそうになっているのだろう。それなのに表情には全く現れず、冷静に会議を行なっている。強い男だ。


 この時、私は愛する妻と娘が心配になった。その事が、今の状況下では場違いな事だと分かってはいるのだが、私にとって嬉しく思う。


 私は、ちゃんと自分の娘の事を心配する父親になれている。娘を怖がっているとはいえ、やはり父親としてアンジェラを愛していると分かった事がとても喜ばしい。




 緊急で開かれた会議の場は、国王陛下からの説明が続くにつれ騒然としていった。


 こんな時、腐った貴族が誰なのかがはっきりと分かる。国王陛下の話も聞かず、ただ下を向いて〝死にたくない〟〝私は選ばれた存在だ〟〝何故、私のような大貴族が死ななければ〟などと呟いている。


 緊急な事態が発生したのだから、国王陛下の判断を聞かなければならない重要な場面なのにだ。その様な態度や信念では、この家は馬鹿貴族であると教えているようなもの。こいつ等の呟きは、遠い場所に居る陛下には聞こえていないだろうが、近くに居る私には聞こえているというのに。


 今、陛下に意見を述べているラクシャス伯爵とは随分な違いだ。彼は国民の心配をしているというのに、この男共ときたら・・・せめて家族の心配をしたまえ。



 緊急会議は難解な問題に悩まされていた。治療院からの報告では疫病の正体は判明されており、治療薬も存在するとの事。しかし、備蓄してある量では数が足らないらしい。


 騎士団からの報告からは、まだ死者の報告は受けていないらしい。だが、いつ騎士からその報告が来てしまうのかと誰もが恐れている。


 「・・・どうしたら良いものか」


 陛下の小声が、不思議とこの騒がしい部屋で聞こえた。


 王の相談役が進言しているが、しかし打開策が見つからない。先程、教会本部からの報告で、大司祭様や大司教様でさえ治療は不可能だったとの事。誰しもが暗い顔をした。絶望しか無いのかと、救いは無いのかと。



 そんな時だった、アレが起きたのは。



 突然、会議の窓から明るい光が照らされた。全ての者達が何が起きたのかと窓の方向を見た。その窓から見える外の情景に、誰かが息を飲んだ音が聞こえた。


 王都の空に、信じられない程の巨大な魔法陣が出現していたのだ。理解が追いつかない程の出来事だった。王都全体を囲える程の魔力なぞ、いったい何万人の優秀な魔術師が必要だと思っている。これは異常だ。


 空に輝く魔方陣が出現し、その異常さを理解した全ての者が言葉を失った。


 会議に出席していた教会の代表者から、「偉大なる神々がお救い下さるのか!?」という叫びが聞こえてきた。


 私はあまり信仰には疎い方なのだが、この現象には〝神の御業〟というものを信じてしまう。それ程に壮大で、美しかった。





 王都の空に出現した魔方陣から、輝きと共に白い雪の様な小さな塊が降り注いだ。その美しい風景に、会議の場は静まり返ってしまった。


 陛下が空の状況を見て、何やら悩んでいた。そして、近くに居た宰相様とラクシャス伯爵が小声で何かを進言している。



 その後、誰しもが陛下のお言葉を待っていた。だが、慌ただしい足音が聞こえたと思うと、会議の場の扉が開かれた。


 「陛下、陛下!緊急にお知らせしたい事がございます。どうか無礼をお許し下さり、発言の許可を願います!」


 緊急会議中の場に慌て入って来たのは騎士団の者だった。それを見た貴族の中から「なんと無礼な」などと言う非難の声が聞こえる。


 「無礼者、今は緊急会議中だ。後で____」


 「良い、申してみよ」


 上位貴族の言葉を遮り、国王陛下からの許しが出た。


 「はっ、ありがとうございます。先程、王都に蔓延していた疫病が、聖女アンジェラ=K=モンテネムル様が行なわれた奇跡によって解決したとの報告がありました」



 ・・・今なんと?私の娘であるアンジェラが?・・・解決だと?



 騎士の報告を聞き、誰しもが信じられない顔をしていた。突然の脅威であった疫病が解決?まさか先程の魔方陣は聖女が、人間が行なった事だというのか?と。


 そして、それは陛下も同じらしく騎士に問う。


 「奇跡によって解決?詳しく申せ」


 「はい。大通りにある治療院にやって来られた『聖女』アンジェラ様が、奇跡的なお力を行使し、空に巨大な魔法陣が出現。そして、その効果により王都中で確認されていた感染者が次々と回復したとの事です。まだ調査は続いていますが、疫病そのものが消滅したと考えられます」


 騎士の言葉に、静まり返る会議の場。そしてポツリ、ポツリと驚きと共に喜びの声が聞こえてきた。


 「それは、真の事なのか?嘘偽りではないな?」


 「はい。今も、この王都中を囲う巨大な魔法陣を維持されております。まさに、聖女。神々の御使いだと信じられる、大いなる奇跡の様でした」


 ・・アンジェラが?あの、アンジェラが?先程の魔法陣を?しかし、私の娘は____


 「して、その聖女アンジェラは今、何処に居る?」


 「今は大通りの広場にて、市民の皆様に感謝をされていて動けない状況だそうです」


 「なるほど・・・では至急、『聖女』である侯爵家の御令嬢アンジェラ=K=モンテネムルを我が元に召還せよ」


 「はっ」




 だがその後、娘のアンジェラは体調不良により国王陛下の召還に断念。我が家にて療養中となった。


 私は・・いや、私と陛下、それに宰相様も、私の娘アンジェラが、あの奇跡の魔法陣を発現させたとは信じていなかった。


 あの光り輝く魔法陣は、どう考えても光属性によるもの。私の娘は確かに全属性所持者。よって、もちろん光属性も扱えるのだが・・・



 その主軸は、光属性とは対照的とされている闇属性だった。



   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




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