104話 ※アンジェラ※ Prt.1
5-17.※アンジェラ※ Prt.1
※ ※ ※ 悪役令嬢 アンジェラ=K=モンテネムル 視点 ※ ※ ※
ふふふっ、見ぃーつぅーけた♪
まさか王都の外に居るなんてねぇ。おかげで捜し当てるのに、かなりの魔力を消費してしまったわ。それにこの場所からだと、かなりの距離があるわね。どうしようかしら?
馬車で行く?いいえ、ダメね。今、私は王都の治療院に居る手筈になっているもの。もし私が違う場所で目撃されたら計画が台無しになってしまう。
なら、仕方ないわね。秋斗君には〝しない方がいい〟と教えたのに、私が使う事になるなんて。
「・・・【闇の盟約の元・我が呼び声に答えよ ≪ジェスバン=ダークナイト≫】」
闇の大精霊。
大精霊の召喚はとても強力なのだけど、明日の事を考えると憂鬱になってしまう。前世でも体験した、ひどい筋肉痛みたいに体が痛くて怠くなってしまうから。
【おや、アンジー。相も変わらず小さくて可愛らしいのぉ】
私の影が広がり、その影からゆっくり上へと昇ってきたのは闇の大精霊ジェスバン=ダークナイト。私と契約した、闇を司る変た・・・偉大なる大精霊らしいわ。
その大精霊の第一声に、さすがの私もゲンナリした。人族に崇められる大いなる大精霊が、そんな挨拶で本当に良いのかしら?でも、大精霊の力というのは本当に強力なモノ。その力を請う立場なのだから笑顔で対応しなければなりません。
「そう。ありがとう、ジェスバン。さっそくで悪いのだけど、ちょっと本気で潰したい方達がいるの。協力してくださる?」
【可愛い幼じょ__失礼、可愛いアンジーの頼みだ。良かろう】
「じゃあ、まずは王都の北門へ〝門〟を開いてちょうだい。あ、北門にいる門番を驚かせないよう、北門の右にある森林にお願いできるかしら?」
【了解した。・・・≪シャドー・ゲート≫】
さすがは大精霊。『転移』の上級魔法でさえ詠唱破棄とは、やはり凄いわね。
私の前に発現したのは、まさに闇属性だと思える程の禍々しい門。相変わらず、この転移門は趣味がよろしくないわ。全然、可愛くない。
ゆっくりと開く扉。ギギギッと古めかしい音が周りに響く。
さぁ、今から会いに行ってあげるわ。お待ちになってね、病魔師さん。
私が自分に隠蔽魔法をかけ、敵が居る場所まで移動中の事でした。その時、王都で起きた現象に気が付いて立ち止まります。
秋斗君、凄いわね。でも、これは・・・
王都の空に出現したのは、巨大な魔法陣。光り輝くそれは、まさに奇跡的な光景でした。
でも、アレは〝巨大な〟という簡単な言葉で表して良いのか分からないくらい異常な物。人々にとっては『神の奇跡』と称えられるでしょうけど、闇属性が主軸の私には恐怖の対象に見えてしまう。
乙女ゲームをやり込んでいない私には、アレが何か詳しくは分からない。でも、恐らくはヒロインである聖女ミネルソフィ=ターシアが使えた光属性の最大上級魔法のどれかよね。
乙女ゲームで、このイベントの時にもヒロインであるミネルソフィ=ターシアが奇跡を起こして人々を救った。その奇跡と似ているけど、さすがに王都全域という非常識ではなかったはず。なのに・・・
秋斗君、それは流石にやり過ぎよ。
王都中を囲める程の魔法陣なんて、どれだけの魔力量があれば実現できるのかしら。想像すらできないわ。こんな現象、異常としか思えない。これを私がした事になるなんて、絶対に矛盾が生まれてしまう。きっと誰かに嘘がバレてしまう。・・・困ったわね。
【ほう、アレはアンジーが言っていた本物の聖女が行なった事か?】
私と共に王都の空に現れた魔法陣を見ていたジェスバンが、関心を示しながら尋ねてくる。
「ええ、そうよ。闇属性が主軸である私には決して真似できない神の偉大さの如く凄まじく、そして神の救いの如く優しい光。まさに、聖女よね」
【アンジーよ。ところでその『聖女』とは、どの様な姿をしておるのだ?可愛いのか?小さいのか?どうなのだ、ん?】
鼻息を荒くして近付くんじゃないわよ、ド変態。
「・・・ええ。〝小さくて〟とても〝可愛らしい〟子よ。そして、とても将来が楽しみな才能ある子よ」
【ほほぉう。そうかそうか、小さくてカワユイのか。なるほどなるほど】
・・・秋斗君。ごめんなさい。でも、嘘は付いていないわよ?
それより今回の、この非常識な魔法陣をどう説明したものかしら。いい言い訳を考えないと・・・まぁ秋斗君からしては絶対に成功させるには必要な事だったのだろうし、そう思う気持ちも分からなくもない。
だって、〝あなたが〟壊しちゃったんですものね?王都にあった大聖堂を。
秋斗君は私に内緒にしようとしていた様だけど、ごめんなさい。最初から知っていたのよ。
あの大聖堂の跡地を消滅させたのは光り輝く魔方陣だったと証言があり、確実に光属性の消滅魔法だと分かる。そして、あの巨大な建築物だった大聖堂を囲える程の魔法効力の適性範囲を発動させるなんて、この王国で働くどの上級魔術師でも無理。
そんなの、いったい何人の上級魔術師が必要だと思っているのかしら。
そして、、それを行なったのが1人だったという情報。捜査資料に、犯人は〝小さな子供だった〟という証言者が多数いた。
あの日、秋斗君は私に言ったわよね。
__乙女ゲームのミネルソフィ=ターシアよりもチート級になってる
あの言葉で、私は確信に変わった。あの事件は、秋斗君が犯人なのだと。乙女ゲームの物語でも、光属性の奇跡を行えたのはヒロインであるミネルソフィ=ターシアだけ。そのヒロインよりも〝チート〟だと言っていたんだもの。
理由までは調べなかったし、聞くつもりも無いわ。その犯人が泣いていた、という騎士からの証言もあったし、秋斗君にとって何かつらい出来事があったのでしょう?
闇の精霊との〝視覚同調〟で犯人達の居場所は分かった。その目的の場所まで歩いていたら、声が聞こえてきた。今の私は隠蔽魔法で隠れているとはいえ、ゆっくりとその方向へと近付いていく。
「ガ、ガダル、どうしよう。逃げた、方が、いいよ」
「メガル、オラも、そう、思う」
まだ遠いので内容がよく聞こえない。それに、暗くて敵の姿がよく見えない。でも、あのシルエットから確実だと思うのよね。背が低くて、ぽっちゃりした体系。そして思い出すゲームでのキャラボイス。
・・・居たわね。魔王軍の幹部、病魔師。そして、このイベントでの諸悪の根源。ありがとう、闇の精霊たち。すごく助かったわ。
「おやおや、もう逃げるのですか?まだ策はあるでしょう?」
・・・あら?
あらあら、まぁまぁ♪
まさか貴方まで居たな・ん・て♪ 私、貴方にすごくお会いしたかったのよ?まさか、ここでお会いするとは、なんて偶然かしら。ふふっ、嬉しいですわぁ♪
ねぇ、死霊王さん
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