100話 男としてのプライドが・・・
5-13.男としてのプライドが・・・
モンテネムル侯爵家の本邸を守護していた門番の1人が去り、俺は無事に屋敷へと入れた。
「ミネル様。先程は、本当に申し訳ありませんでした」
セバスさんが、とても綺麗なお辞儀で俺に謝罪する。流れる様な動き、なんて素晴らしい角度だ。確か45度なんだよな、謝罪での角度は。何処かに分度器ないか、分度器。
「セバス。今回の事、ちゃんと報告書を作って私に提出なさい。もちろん反省文も添えて、早急にね。それくらいなら貴方にも出来るでしょう?」
「かしこまりました、アンジェラお嬢様」
「改善はもちろんの事、以後このような無様を見せないでね。あの門番を解雇したのは私だから、お父様には私から報告するわ」
「お手を煩わせてしまい誠に申し訳ありません、アンジェラお嬢様」
小夜さん、前世の自分が出てるよ。嫌だな、こんな10歳になる女の子。
「あ、待ってアンジェラ。セバスさんは必要、『アレ』が起きたかもしれないんだ」
セバスさんが小夜さんにお辞儀をして、屋敷へ帰ろうとした。だけど、俺が呼び止めてイベントの発生を教える。先程、商店街で起きたのはおそらく疫病事件の始まり。もしそうなら、これからもっと犠牲者が出る。
俺の言葉を聞いた小夜さんが、驚いた顔をしたかと思うと一瞬で真剣な表情になった。仕事が出来る人は切り替えが早いっすね、すげー。
「セバス、作戦開始よ。ミネルを例の場所へ」
「はい!」
小夜さんの命令で、執事のセバスさんが素早く俺の近くまで来た。
うわっ!セバスさん、いきなり抱え・・・ん?これって、もしかして・・お、おお、お姫様抱っこ!?
ちょ、ちょちょっ、セバスさん、ストーーープ!止まって、止まれ、止まってくれ!恥ずい、これは超恥ずいよ!俺、男だから!胸キュンイベントなんて要らないから!!
男性による伝説のお姫様抱っこをされた俺は、顔を真っ赤にしながら泣きそうになった。そして、ミネル姫はセバス王子の手によって豪邸の中へと連れ込まれてしまった。何やら、後ろに居た小夜さんから「・・・天啓が降りたわ、うふふ」とか言うのを聞いてしまったが気にしないのが自分の為だ。
セバスさんによって連れられて来たのは、いつもの小夜さんのゴスロリ部屋。そこにある大きな鏡の前で先程のお姫様抱っこよりも、さらに上級の恥辱に耐える事になりました。
「あら。良く似合っているわよ、ミネル」
「・・・・・」
ああ、父さん、母さん。あなた達の息子である秋斗は、女装をするような息子に育ってしまいました。どうかお許し下さいませ。 PS 姉ちゃんには教えないでね。
鏡の前に居る俺は、とても器用なセバスさんの手によって少女にされてしまった。
ピンクのロングヘアでユルふわウェーブの小柄な少女。服装は黒の小夜さんとは対照的な、白を基調とした色合いのゴスロリ衣装。胸にはハート型のペンダントが輝いています。
男の俺が、女装してゴスロリ・・・
うん、嫌がらせとしか思えない。潜入作戦の時、俺が油断して屁を出してしまった事を怒っているとしか思えない。人間の身体の自然的な現象なのだから仕方がないじゃん。小夜さんだって、セバスさんのせいにしてたし。
「あ、アンジェラ?どうせ幻影魔法でアンジェラの姿を張り付けるのに、俺が女装する意味ってあんの?」
「あら。ミネルは男の姿のまま、そのフリフリ衣装を着たいの?そんな姿、女装趣味の変態にしか見ないから余りおススメしないわよ?」
「うっ・・・」
「それにしてもその姿、本物のヒロインにそっくりね。少し目が違うけど」
小夜さんの言葉で俺はもう一度、鏡を見た。
確かに似ている。俺が女装したら、ヒロインのミネルソフィ=ターシアに見えるんだな。まぁ、この体は元々本人のだしな。男だけど。
ただ、、目だけは似ていない。ミネルソフィは優しそうな瞳をしていたが、俺は・・・なんか悪ガキみたいな・・うん、ちょっと馬鹿っぽい。
いやいやいや、馬鹿っぽいってなんだよ。自分で言っててヘコむわ!違う違う、えーと、そう元気!元気そうで活発さのある目だ!いかにも生命力が溢れる健康的な目なのだ!
「アンジェラはキャラ設定が大事とか言いながらも、このゴスロリ衣裳によってその設定を粉々にしていると思うのですがどうですか?そもそも、なんでゴスロリ服を着てんの?」
「〝前〟の時は着たことが無かったからよ。せっかくの〝今〟だから、ゴスロリ衣装を着こなそうかと思って」
なるほど前世では着れなかったら、せっかく転生したのだから今世ではゴスロリ服を楽しもうと。そこまでして着たい衣装なのか?分からん。
「あぁ・・・そんな場合じゃないのに、新作の『聖書(BL本)』に使えるアイデアが次々と____」
俺の姿をガン見しながら、何やら小さなメモ用紙を持ってペンを走らせる小夜さん。何書いとんじゃい。
「アンジェラ!早く≪ダーク・ペイント≫の魔法を俺にかけてくれよ!この姿でフリフリ衣装の恰好は凄い恥ずいんだってばっ!」
「あら、残念。・・・≪ダーク・ペイント≫」
やっと、小夜さんが俺に闇属性の幻影魔法を掛けてくれた。
危なかった、腐教徒達の滑稽なエサにされる所だったよ。怖い、腐信教ちょー怖い。
鏡の前で、俺は右を向いたり左を向いたりした。どう見ても悪役令嬢アンジェラだ・・・この純白なゴスロリ衣装以外は。
でも、凄いな。顔はもちろん、瞳も、髪の色さえも変化している。
「いい?ミネル、良く聞いて。その≪ダーク・ペイント≫は私でも12時間が限界よ。それまでに王都で感染した全員を治療してちょうだい。もう一度言うけど、決して無駄に話してはダメよ。絶対に」
「うん、了解」
「念のため、この白いベールで顔を隠しなさい。これで、近くだと顔が見えるけど遠くなら顔は見えない。それと、進行については全てセバスに任せなさい。ちゃんと計画書を読ませて覚えさせてあるから」
「うん。でもさ、いつもの黒いゴスロリ服じゃなくていいのか?なんで白色?」
「あら、そんなのミネルは黒より白の方が似合うからに決まっているじゃない。どう?特注の品なの、急いで作らせたわ。今は私の姿だけど、さっきのミネル可愛かったわよ?」
「≪ダーク・ペイント≫で隠せるなら化粧までしなくても・・・」
「せっかくの女装なのに、本格的にしないでどうするのよ?」
いや、〝どうするのよ?〟って怒られても困る。本当にどうしよう、タジルが王都に居なくて本当に良かった。もし女装している姿を見破られたら絶対にイジられていた。
準備が完了した。なので、外に用意してあるゴスロリ馬車へと向かう。ヒール靴が歩きづらいな。ハイヒールではなくて本当に良かった・・・いや、ガラスの靴ではなくて良かった。今の小夜さんなら悪ノリで実現しそうで怖い。
「では、セバス。後は頼んだわね。これは重大な責任だと心に刻み込みなさい。決して失敗は許されない重要な任務、いいわね?」
「はい。このセバス、失敗せぬとアンジェラ様に誓いましょう。後は、どうぞお任せ下さいませ」
セバスさんが左手を胸に置いて、綺麗にお辞儀をした。ふわ~なんかカッコイイ。俺もやってみたい。
そして、俺はセバスさんに手で支えられながら馬車へと乗り込む。ゴスロリ馬車は出発し、モンテネムル家を後にした。そして、大通りへと向かう。
「疫病は秋斗君に任せたし、私も頑張らないとね。・・・≪ブラッディ・アイ≫」
ぱん ぱか ぱ~ん!! ヽ(*゜▽゜)ノ~▽▼▽[祝]▼▽▼~ヾ(゜▽゜*)ノ
祝 100話 達成 ☆
読んで頂きありがとうございます
まだまだ完結しそうにないですが 頑張ります