語り
「それで、何が聞きたいんだっけ?」
蓮と鈴谷は屋上にきていた。
春を思わせる日が照り付ける。
心地よい風が吹いていた。
鈴谷は屋上のフェンスに寄りかかりながら口を開く。
「外の事を教えてほしいの…」
「それが非常識って知ってて?」
「うん。その点は本当に申し訳ないって追ってるんだけど、でもこのまま何も知らないわけにはいかないから」
鈴谷の瞳からは強い意志を感じた
「どういう意味だ?」
「黒道くんはさ、このまま平和な日常が続くと思う?私は思わない。私ねお父さんが軍の関係者だったの」
悲しそうな表情をする鈴谷。
関係者〝だった”
つまりはもうこの世にはいないということだろう。
「お父さんからいろいろ聞いてね。いつかは終わりが来るからって格闘技とか習ってたんだ。」
悲しそうに笑いながら懐かしむような表情でそういう
「だから、知りたい。知って、勉強して…生きたいッ」
鈴谷からはまじめで、素直な感情しか見えなかった。
蓮は素直に感心した。
この平和ボケした世の中にこんな意思を持つものがいたとは…
「色々辛いことがあったのは想像はできないけど理解はできる。貴方が辛いなら辞めてもらっても構わない」
最後にそう言い切り真剣な表情でこちらを見る鈴谷
ここまで言われたら話さない理由などない。
それに、俺にとっては辛いなどという感情はない。
何故なら、あの時すでに俺は…
「面白い話じゃねぇよ?」
「構わない」
「そうか」
静寂――。
蓮は頭上に広がる青空を眺め、数舜したのち静かに語りだす。
「俺の両親は目の前で奴らに食われた―――
あの日、すべてが終わった日。
両親をイケニエに生き残った俺はしばらく自宅に引きこもっていた。
1週間はそうしろと言われていたからだ。
時が経ち、食料がなくなったため食い物を探しに外出するも奴らが多すぎてとてもじゃないが出歩けず
様々な試行錯誤の末周囲の奴らを追い払い、食料を手に入れた。
しばらくして狂った生存者に家を壊され、拠点を移した
様々なコミュニティに拾われ食い物をもらい、生かされた
コミュニティは次第に人数が増え、崩壊した
何度も同じ目にあい、一人の方が安全だと悟ったこと
外界で体験した様々なことを話した
「一番大事なのはな、音を出さず感情を殺すことだよ」
「感情を殺す…?」
「そう、目の前で人が食われていようと。食い物を奪われようと。知り合いが奴らになっていようと。
感情を殺し音を出さず、いかに早く処理するかだ。
ここもそう長くないだろうよ、お前、銃の扱いは?」
「た、多少は」
「そうか、なら銃は使うな。かえっておびき寄せる。」
「そ、そうね」
この時はまだ、こんなにも早くアウトブレイクが起きるとは思いもしなかった。