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5話

 翌朝、俺は木下との図書館デートに心を馳せて食堂に向った。木下との幸せな日々。生きる活力。好きな女子と毎日話せると言うだけで生きる喜びが生まれてくるのだからもう木下史華大天使。

 好きぃ……因みに昨日は木下でかなり抜いた。抜き過ぎて、なんか今日会うのに申し訳なくなるぐらい。久し振りに抜いたわ。


「……何だ貴様等は?」


 食堂、いつもの定位置。目の前には大天使木下。その左右には腐れファッキンビッチの那須川とどっちかと言うとジル・ド・レ寄りのヒラコージャンヌが座っている。俺の左右は勿論大輝と田上。

 

「私も是非ともミナミのパーティーに入れて下サイ。

 私の武器は火炎放射器。ミナミと並んで前衛に立てマス」


 地獄の炎が私を浄化シテクレル!とどこぞの怒りみたいな事を言い出した。


「明日香、魔力めっちゃ持ってるからばふ?でばふ?とか言うの一人で全部出来ちゃうから入れてよ」


 何言ってんだこいつ等?


「私の火炎放射器は至近から近距離で効果を発揮シマース。

 ミナミがロングからミドルまでの単体及び複数の敵を殲滅出来マス。また、敵の殆どは炎を怖がりマス。ツマリ、テキトの距離も火炎放射器で強制的に作れるのデス!」


 どうです?と俺を見る。俺は両脇の二人を見るが後はお前が賛同するだけだという顔で見てきた。


「ジャンヌは入れても良いと思うが、那須川は要らん。

 バフデバフは双子で足りてる」

「えー別に多くても良いじゃん。

 バブバブいっぱい居ればめっちゃ強くない?」


 知らん。


「そもそも、お前はお前でパーティー組んだだろうが」


 そっちはどうなったんだ。


「どっちにしろ、推奨人数が5から6人で7人目を入れたら明らかに過剰だ。

 それに、バフデバフの要員ばかり多くたって何の意味がない。火力もジャンヌが加わったお陰で十分以上にある。

 ダンジョンに潜ってどうしてもバフやデバフが足らなくなったら考えてやっても良いが、今は十分だ」


 なんて話していたら後ろから袖を引っ張られる。振り返れば双子が居た。


「それなら」「私達が抜ければ」「良かろう」


 何でコイツ等居るんだよ。騎士団所属だから此方には来ねぇのが常だろうが。


「アホ言うな、馬鹿。

 お前等と那須川だったら圧倒的にお前達の方が優秀だろうが。初心者ばかりよりも経験者を含むパーティーが圧倒的に強い。能力では覆せないのが経験だ」


 下らんことで木下が怪我をしたり苦労したりするのは避けなければいけない。それは俺の願いだし、無理矢理引きずり込んだ俺がしなくちゃいけない義務だ。


「ん~……

 俺的には7人でも良いと思うんだけどなぁ~」


 大輝の馬鹿がそんな事を言う。本当に殴ってやろうかコイツ?


「と、言うかだな。

 このパーティーは女子率が高過ぎる。こう言うと男女差別だなんだと言われそうだが、ハッキリ言って俺達のパーティーは俺を含めて体力が無さ過ぎる奴が多い。特に、俺と木下は行軍に際してお前等の足を引っ張ることは多い。

 それに、女子と男子では身体能力の差はハッキリしている。つまり、日頃から鍛えている双子や運動部の大輝に何故かは知らんがやたらと身体能力が高い上にスタミナ多すぎるジャンヌは問題ないだろうが、帰宅部の木下と俺、美術部の田上だとお前達の行軍速度にはついていけない可能性は高い」


 昨日の8時間行軍も正直、死にかけた。田上にヒールして貰わなければ多分、筋肉痛で今日は死んでいただろう。


「つまり、俺と木下と田上は今後は筋トレや駆け足をして基礎体力と筋力アップを目指す方針で行く。

 双子は大輝を連れて修行をしてくれ。田上は週に三日筋トレやランニングをして残る4日で能力向上だ。俺と木下は基礎体力作りと敵についての勉強だな。ジャンヌも敵についての勉強をする。

 これを大凡一ヶ月続けたい」

「お前は」「他の者達と」「違いますね」


 本当に面倒臭い喋り方をするなコイツ等。


「何がだ」

「他の者は」「直ぐにでも迷宮に」「行きたがる」


 それはそうだろう。元の世界に戻れる可能性があるとの事だし、誰も彼もが前向きに生きていかなければこのせ殺伐とした世界では死にたくなる。しかも、俺達の迷宮探索はほぼ強制されている。この世界には迷宮、つまりはダンジョンを探索する連が存在している。世界中に散らばるダンジョンから溢れ出る魔物を殺し、地上の魔物や山賊、海賊を抑制する民兵組織としての冒険者だ。

 ダンジョンには宝物等が有るのでそれを狙うものも居る。この冒険者制度は冥王を倒したらしい先に召喚された7人の勇者達が作った制度でそいつ等も俺達と同じ日本人だったとか。


「彼を知り己を知れば百戦殆うからず。彼を知らずして己を知るは一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば戦う毎に殆うし。俺達の世界にはそういう言葉がある」

「どう言う」「意味?」


 彼、つまりは敵だな。所謂敵を知り己を知れば百戦危うからずってヤツの全文だ。敵を知り、自分を知っていれば百度戦っても負けは知らない。敵については知らんが自分達を知っているなら一勝一敗する。しかし、敵も自分も知らなければ戦うたびに負ける。そういう言葉だ。

 もっとも、それだけで戦いには勝てないから数多くの金言を残しているわけだ。孫子の兵法を読めば大抵のことは勝てる。特にビジネスとか。


「つまり」「ダンジョンに」「挑むのは」「敵の情報を集め」「自分達の鍛錬を終えてから」

「そうだ。

 俺達は死ぬためにダンジョンに挑むんじゃない。生きるために挑むんだ」


 朝食を食べ終えたので席を立つ。


「それじゃあ木下とジャンヌは9時に騎士団詰め所前に集合。大輝達はゴブリンだの何だのを適当に据物斬りして来い」


 じゃあな、と席を立ち上がり返却口に皿などを持っていく。それに追い縋るようにして那須川がやって来た。


「ちょっと待ってよ」

「何だ」

「何かさー南さー明日香にだけメッチャ厳しくない?」

「さぁね。悪いが、俺はお前に構ってる時間は無いんだ。

 そっちはそっちでやって死なないように頑張ってくれ」


 じゃあな、と今度こそ本当にその場を後にした。やれやれ。部屋に戻る道、後から走って追いかけて来た大輝が俺の横に並ぶ。


「お前、名須川だけあんなに冷たいんだよ。

 同じクラスメイトだろ?」

「フム。

 理由は簡単だ。俺はあいつが嫌いだ。死ぬ程嫌いだ。アイツとともにダンジョンに行くならば俺は一人で行く」


 歩く速度は変えずに部屋にまで向かう。大輝は驚いた顔をしていたが黙って付いてきた。


「何で嫌いなんだ?」

「何故?ああ、そうか。お前は知らないのか」


 そらそうか。寄って来る女子は全員が全員コイツが好きなのだ。そんな奴に自身のマイナス面を見せる訳がない。


「お前は佐々木と言うメガネを掛けた女子を知っているか?」

「佐々木?えっと……」


 記憶に無いらしい。そらそうだ。佐々木は中流グループでオタク派閥の女子の一人だ。上流たる大輝の周りに寄ってくることもなければ下流に属するボッチ達でもない、変に目立たず壁の風景にモブに徹している。

 そう言う分類に居る女子の一人である。


「そう言う女子がクラスに居るのだ」

「あ、ああ」


 前提で躓いていたが、其処は無視して貰わねばいかん。


「それで、その佐々木さん?がどうしたのさ」

「正確に言えば、佐々木とその一派が名須川の一派に虐げられているのだ」

「どういう事?」


 大輝は眉を寄せた。


「佐々木一派は所謂腐女子だ。分かるな?」

「ああ、ゲイが好きな女子だっけ?」


 間違っては居ないが、正解でもない。まぁ、此処でそれを正す事はしない。


「名須川はそう言うのに興味があると思うか?」


 大輝は暫く考えてから絶対にないと首を振った。そらそうだ。


「佐々木達はアニメの雑誌とかは教室で広げているが、所謂BL系の話はしない」

「そこまでは知らないけど……と、言うか優は何でそんな事まで知ってるのさ?」


 何故って俺もああ言う会話を出来る男友達が欲しかったが何時も何時も何時も何時も大輝が俺の隣にやって来てそれを契機俺とは絶対に分野の違う連中が集まってくるから、ある意味で羨望の眼差しで見ていたのだ!

 まぁ、それを言っても始まらない。


「何だって良いだろう。

 ともかく、そんな存在達に名須川はこれ見よがしにデカイ声で佐々木達に「アンタ達ってホモ好きなんでしょ?」なんて言いやがったんだ」

「マジ?何時?」


 大輝が丁度季節外れのインフルエンザを罹っていた時だ。あれは5月の中旬だったか?


「そう言えば、学校来たら女子の何人かがホモだってクラス中で言ってたな」


 因みに、それを解決したのもこの男だ。


「趣味趣向は人それぞれだし、そう言うので人を差別するのは良くないよね」

「そうだな。

 兎も角、そう言う悪質な事をあのアマはやりやがったんだ。俺はアイツが嫌いだ。そもそも、アイツはお前狙いだからこんなにしつこく入ろうとしてくるんだ」


 此処数週間のあのアマの動向も序だから教えてやった。俺は木下を迫害してその座を奪いに来るだろうと考えている。奴が木下に手を出し始めたら俺は大輝とパーティーを解消して、木下、俺、ジャンヌに双子で再編成をするつもりだ。


「えぇ!?

 そこまで?」

「当たり前だ。お前とは十数年と幼馴染をしてきたが俺とお前とでは戦術的にも戦略的も相違がありすぎる。俺はこんな訳の分からん世界では死にたくないし、お前にも死んで欲しくない。お互いがお互いの障害に成らないように活動するべきだ。

 そして、その活動に適しているのが木下でありジャンヌだ。まぁ、ジャンヌに関しては強制しないし、正直、アイツは苦手だ」


 なんというかカンが鋭いし、マジで何考えてるのか分からない。しかし、あの火炎放射器は魅力的だ。燃料が無限だからほぼズッと燃やせるらしい。あまり長時間放射してると熱で熱くなるとかで大体10秒で長くても20秒ぐらいが限度らしいが。それでも強力だ。

 俺とジャンヌの火炎放射器がアレば前衛は完璧になり、更に言えば木下の爆弾が加われば向かう所敵なしなのでは無かろうか?


「まぁ、何にせよ名須川の動向には注意してくれ。

 俺が無理矢理に引き込んだ木下が被害を被るなんてあってはならんのだ」

「お、おう、そうだな……」


 兎も角、これで良し。

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