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3話

 それから木下との能力制御の特訓をしていると必ずと言って良い程に那須川が現れるようになった。奴は奴でパーティーを持っているし、そのパーティーもちゃんと実戦経験を積む為に戦っているにも関わらず、このクソビッチだけは俺と木下の邪魔ばかりして来る。


「今日は特別コーチに野球部のエースを連れて来た」


 木下の能力は言ってしまえば無限の爆弾精製だ。俺は銃。大輝は剣。武器精製系能力は自身にある程度の使い方や必要最低限の知識を与えるがそれを熟達させるには訓練が必要だ。

 木下なんかは良い例だ。木下の爆弾は木下自身が知識としてあった導火線式のボンバーマンなどが使ってる爆弾かパイナップルと呼ばれた2次大戦中の手榴弾しか出せなかったが、俺の貸した本を見て様々な手榴弾や何と地雷なども精製できる事が分かったし、爆発能力に関してもちゃんとした知識を与える事でその精度もかなり上がった。

 しかし、次の問題として、爆弾を投げる能力の欠如であった。具体的に言えば手榴弾を遠くに投げれない。フラッシュバンで練習させてみたらなんと、フラッシュバンの加害半径から脱せずに自滅していた。

 自滅して悶ていた木下の可愛らしさは今でも忘れない。アホの子可愛い。


「木下にボール投げ教えるの?」


 野球部のエース、星野は小馬鹿にしたように木下を見た。因みにコイツはバット風の棍棒を召喚出来る生粋の野球バカだ。棍棒振るうし可能がない坊主で爆轟と爆燃の違いも分からぬし、低感度爆薬や高感度爆薬の違いすらも理解出来ないだろう野球バカがその辺を確りと理解して様々な爆弾を精製できるようになった木下を見下すことは許されない。許されないのだ!


「そうだ。

 ボールを大体30メートルまで持っていけるようにしたい」

「30メートル?そんだけでいいの?」

「ああ。それ以上は器具を使う」


 クロスボウやスリングショット等を使う。しかし、この世界にクロスボウやスリングショットって存在してるのか?まぁ、良い。無ければ作れば良い。……いや、待てよ!


「ハッハ!スゲーな、これ。クロスボウも銃に入るのか?」


 俺の力で出て来たのはTAC-15と言うM16系統のロアレシーバーを使って作られたクロスボウだ。


「木下。これをやるから、遠距離は矢型の爆弾を作ってこれで撃ったりしろ。

 お前の戦術が幅が広がる。お前の戦術が広がれば俺達の生存率が上がる」

「は、はい!」


 それから野球バカ星野の遠投方法を習う。ボールを遠くに投げるには下半身が大事だから下半身を強化するスクワットや確りと力をボールに伝えるための手首のスナップなどを一時間ほど教えてもらった。俺は勿論、木下もノートに星野の言葉を書き取っていくの。ああ、真面目な木下可愛い。必死になって自分の至らなさをカバーしようと懸命にノートを取っている木下は真面目可愛い。頭をよしよししてあげたい。

 あぁ……幸福だなぁ……

 それから野球バカ星野は退場していき、俺は此処の騎士団の連中に会いに行くことにした。木下には十分に肩を休めてストレッチするように告げる。あいつはボールなんぞ殆ど投げていないのでバリバリ肩を使って下手すれば筋肉痛になるだろう。

 俺達は召喚した国の王城で暮らしている。そして、王城には騎士団の司令部が置かれているので其処に顔をだすのだ。


「騎士団長に会いたい」


 一番近くに居た騎士に告げる。騎士達は俺を見ると嫌そうな顔をした。それもそうだ。此処数日騎士達が散々俺に実戦経験をするように言って来たので全て突っ撥ねて来たのだから。


「団長は貴方のお仲間の様子を見に沈黙の森に行きましたよ」


 沈黙の森とは実戦経験を積むための森だ。


「なら、団長殿に会いに行きたい。

 案内してくれるか?」


 俺の能力は銃火器を想造だ。本来はあり得ない、例えば今召喚したウィンチェスターのM1カービン、正確に言えばそれのフルオートモデルM2にM1のパラトルーパーモデルのM1A1の機関部を取っ替えた言うなればM2A1カービンとでも言う存在を作れるのだ。

 それとコルトのM1911A1ガバメントを護身用に持っておく。


「あ、あの!私が案内致します!」


 若い女の騎士が腰に剣を提げながらガチャガチャとやって来た。


「ああ、頼む」

「馬を用意しますので」

「いや、歩いて行く。

 急いでいないし、馬には乗れん」

「し、しかし、遠いですよ?」


 何キロだと聞くと5リーグと言われる。リーグは何キロだ……

 馬でどのぐらいか?と尋ねると大体1時間位掛かると言われた。


「いや、歩く。

 ちょっと待て」


 しょうがないので歩数を数えて大凡の距離を出す事にした。俺の歩幅を定規で測る。大体70センチだ。それから同行する女騎士の歩幅も測る。

 こっちは大体60センチ程だった。


「よし。

 じゃあ、門を出たら歩幅を森に付くまで数えてくれ。多分途中でわけが分からなくなるから、これで百づつ印を書いてくれ」


 ノートと鉛筆を渡す。


「じゃあ、歩くぞ」


 こうして1リーグの概算距離を出す為に歩き出した。女騎士は関節部が剥き出しで兜は然程頭を守らない。スペインの大航海時代に被っている鋼鉄の帽子みたいな奴だ。

 二人して道を歩いていく。

 道中は飛ばす。結果から言うと5リーグは大凡16キロちょっとだ。つまり、1リーグは3.5キロ程になる。因みに3時間ちょっと掛かった。


「つ、疲れました……」


 肩で息する女騎士。俺よりも思い装備とは言え、俺よりも体力は多い筈だろう?


「ここの何処かに騎士団長はいるのか?」

「は、はい。

 多分、道なりに、行けば、会えるはず、です」

「分かった。

 俺はゆっくり先に行くから息を整えて戦える程に復活したら追い付いてきてくれ」


 ウィンチェスターを構えて道を歩く。銃に付けたスリングは三点スリングだ。銃の留め具を外して何時でも構えれる。人間は日中と夜とでは夜の方が敏感になる。

 それは視野が効かない事が原因らしい。


「……これは何だ?」


 俺の目の前には立体的な水溜りがある。水溜まりを眺めていると水溜まりに石を投げると、石が入った場所から勢い良く円錐型の水が飛び出る。

 一瞬で水は消えたが、あれは何だろうか?今度は新しい銃、スプリングフィールドM1を取り出して銃口から放り込んで見る。その瞬間、水は銃を破壊した。銃口から円錐型を無理矢理差し込んだみたいに銃口から裂いて、機関部まで達した。

 完全に使えない。


「こりゃ……生き物なのか?」


 弾丸を一発取り出して水溜りのすぐ近くに落とす。すると水溜まりは確かに脇を転がる弾丸を飲み込む様にスッと動く。


「もしかして……もしかして、コイツは」

「それはスライムですよ」


 咄嗟に脇に転がって銃を向ける。女騎士だった。


「何してるんです?」

「敵だと思った」

「敵?ゴブリンとか?」


 女騎士は脇にある石を拾い投げ込む。すると石が入った場所から円錐の、針と言おうかスライムの一部が飛び出る。その瞬間、女騎士は剣の腹で水を叩く。

 すると、スライムは水溜まりになって消えた。


「……行きましょう?」

「……倒したのか?」

「ええ」


 試しに水溜まりに石を投げてみる。すると、パシャリと音を立てるだけだ。


「何でこいつは死んだ、のか?」

「んー……死んだと言うかまた暫くすると復活します」

「復活?

 どうして?どうやって?そもそも、コイツは生物なのか?ただの水では?おい、瓶はあるか?」


 何だこれは!すごいなスライム!魔石破壊すれば死ぬとかそう言う展開じゃないのな!えー?これ観察していたい。何の位で復活するのか、とか。よく見れば確かに水溜まりは土に吸収されないし!

 やっぱり、持って帰りたい!


「スライムを持って帰るつもりなので?」

「当たり前だ!

 お前は、お前はこの凄い生物を前にして何も感じないのか?何故、剣の腹で殴っただけで自身の身体を保持できなくなるが、時間が経てばまた復活する!

 不死身の、不死の生物だぞ!?あー、コレが生物だったら、だがな」


 水溜まりに顔を近付け匂いを嗅ぐが匂いは無し。指先に取って粘性を確かめるが、無し。舐めてみると少し甘い。

 うん。甘い。なんだコレ?


「お前はスライムを舐めたことは?」

「あるわけ無いでしょ!」

「何故だ?

 スライムは甘い。何故甘い?」

「あー……学院の教授方に聞いてみては?」


 やはり疑問に思う奴は居たんだな!


「ああ、そうする。

 その前に騎士団長を探す。スライムを倒す方法は?」

「スライムは最初に体に侵入した物体がある方角に体で作った槍を突き出すの。

 槍が形成されている間は他に槍を作れないからその隙きに体の一部の水を外に弾くと水溜まりに戻るわ」


 成る程。

 俺の場合は槍を作らせたら銃口突っ込んで撃つか?試しに今度やってみよう。そうなると、質量のデカイ弾を飛ばす銃を用意した方が良いのか?


「ショットガンか?」


 サイガ……よりもポンプ系か?ロングバレルにしてデカい消炎制退器取り付けるか?だが、散弾とコンペイセイター系って相性あんまり良くないよなぁ、普通にあるけど。

 四方からガスが吹き出れば内側の膨張率上がって水を四散させやすい。こーゆーのは木下の分野だな。

 爆竹一つ放り込んだだけで倒せるから、コイツ。


「あ、またスライムですね。

 多分団長達が通って丁度復活する時間だったんですね」

「丁度良い。実験台になって貰う」


 スライムに弾を一つ放り込み、銃口を突っ込む。そして、発砲。すると、ヨーヨー風船を叩き割ったみたいに破裂した。スライムはかなりの密度らしい。

 足がビショビショになっちまった。糞。まぁ、良い。


「しかし、スライムは無視しても良いな」


 無視だ、と告げると女騎士はハイと頷いた。反対してこないと言うことはそう言う存在なのだろう。ちょっと気を付ければ然程害なしみたいな。

 それからまた歩いていると今度は110センチ程の大きさをした毛の殆ど無い不気味な猿みたいな奴が2匹、スライム相手に石を投げて遊んでいる。


「アレがゴブリンです」

「成程」


 彼我の距離は約30メートルでゴブリン達はスライムに夢中だ。こっちを見て貰おう。その場にしゃがむ。右膝を地面に付け、踵を立ててそこに尻を置く。

 人によってこの姿勢は変わる。


「弱点は人間と一緒か?」

「はい。

 頭や心臓などもほぼ人と同じです」

「分かった」


 狙いは大体胸あたり。胸、正確には乳首と顎の先端を結んだ三角形辺を撃てば死ぬ。死ななくとも死に至る重傷を負う。狙いを定めて引き金を絞る。

 まずは一発目。命中。肺でも撃ち抜いたのかゴブリンは口から血を吹き出してスライムに倒れ込む。スライムはゴブリンの胸を貫いて、ゴブリンは完全に絶命した。

 続いて撃つ。もう一匹はこちらに振り返る途中で、狙いが甘くなっていたが構わず撃つと、その細い腕に当たって持っていた棍棒を落とした。

 引き金は絞ったままで、狙いを体軸に向けていく。弾は完全に頭を捉え、頭の半分を吹き飛ばす。

 ドイツ軍の防寒コートを撃ち抜けないと謂れのない非難をされたが、腐っても7.62mmだ。威力は申し分ない。


「よし、片付けた」


 スライムに倒れ込んだゴブリンはズルズルとスライムに取り込まれつつある。どう言う理由か知らんが体の一部が融解し始めている。

 スライム怖い!?


「……何だアイツ?」


 ガチャガチャと音が聞こえてきたので、進路方向を見ると煤けたバケツヘルムと革と金属の複合鎧を纏った奴が見えた。手には何か持っている


「アレは敵か?」

「い、いえ、彼女はジャンヌさんです」


 ジャンヌ?ああ、あのハーフか。確かにカースト外の中二病女。自分をジャンヌ・ダルクの生まれ変わりだか何だかとか言う設定で痛々しい事やっていた。


「Bonjour、ミナミ!

 ヤハリ、ミナミでしたね!」


 フランスに中学まで暮らしていたそうだがANIME好き過ぎて日本の学校に入りたいと入って来た女だけあって日本語はめちゃくちゃ上手い。外見の良さとフランス人と言うだけあって最初はかなりモテていたが、今ではボッチになっていた。まぁ、本人は学校外と他クラス学年に友達を持っていたので然程苦痛ではなさそうだった。


「ジャンヌ!何だその格好は?」


 まだ、結構距離があったが向こうが話しかけてくる。俺は小走りでジャンヌに近付く。


「フッフッフッ!

 トテモ格好いいでしょう?」

「否定はしない」

「それで、ミナミはどうしました?

 キノシタとシュギョーしていると聞きました」


 シュギョー、まぁ、修行だな。


「ああ、その事で騎士団長に会いに来たんだ」

「A-han.案内します」


 こうして俺は騎士団長に会うためだけに大冒険をしたのだ。

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