2話
パーティー決めの翌朝。俺は木下と朝食を摂っていた!
何時もは食堂の隅の隅でパンとちょっとした野菜やソーセージ等を少し食べた後に逃げる様にして去って行くと言う絵に描いたような陰キャラ系ボッチを演じていた木下。
俺はそんな木下が食堂に来る時間を見計らって入り口で捕まえ、食堂で俺達がいつも使っている区画、食堂の中央で共に食事をする事にした。
更に何時もは食べて居ないデザートも取らせる。
「フルーツとヨーグルトを摂れ。
その少量の野菜だけじゃ必須栄養分が足らん。そして、もっと量を取れ」
「は、はぃ……」
俺の正面に座らせ、食べる動作を全て見る。可愛過ぎんぞ、コイツ。どーなってんだ!おい!オドオドしながらも少し震える手でフォークを使い、ソーセージを突き刺す。そして、口に運びモグモグ。あぁ……好き。
「あ、居た居た。
先行くなら行ってくれよ」
そこに大輝と田上がやって来る。朝食は田上から大凡の時間を教えて誘う様に指示を出したのだ。田上は此方に親指を立てていたので、どうやらお誘いに関しては上手く行ったようだ。
「オース、木下さん」
「おはよう木下さん」
二人はバイキング形式の朝食を取ってから俺たちの隣に座る。
「お、おはよぅ、ござい……」
また言葉尻が聞こえなかった。オドオドしすぎ可愛い。部屋に持って帰って抱き締めながら眠りにつきたい好き。
「木下さん結構食べるんだね」
田上は俺が無理矢理取らせた食事を見ながら告げる。
「こっ、これは、み、南君が勝手に……」
凄い緊張して滅茶苦茶吃ってて超かわいい。天使かよ。
「余りにも食事を取らなかったから多めに取るよう言ったのだ」
代わりに答えて即座にフォロー。
「えー?でも、こんなに食べたら肥っちゃうよー」
「なら動け。
まぁ、確かに男女では極限状況下において、体の機能が違うから余り量をとるのも問題だが、お前達の量は流石に舐めている」
男は極限状況下ではかなりのカロリーを消費して生命を維持しようとするが、女は逆にカロリーを溜め込む。理由は確かに子供の為に必要なカロリーを取っておくため、だったか?そんな理由だった気がする。
なので、軍隊でも男女では摂取カロリーは全く違ってくる。米国海兵隊では男はアホの様に飯を食わせるが、女は食べさせないらしい。
理由は教育期間中に食べさせると肥え太るから。
「まぁまぁ。
それで、今日からパーティー毎に近くの森で戦うって話だったけど、どうする?」
「そんなもの行くわけ無いだろうが」
大輝は行く気満々だった様だがアホかこいつは?
「えぇ!?行かねぇの?」
「当たり前だ。
まだ、パーティーの役割分担と各人の立ち位置を決めてないだろうが」
昨日のざっくりとした説明で満足していた大輝の先が思いやられる。
取り敢えず、召喚の時に巻き込まれた個人の荷物、机とその中身や掛っていた鞄に椅子、からノートと筆記用具を持ってきたので、ノートを広げて三人の前に。
「ポジションは俺が前衛だ。
前衛の役目は知っての通り敵と戦うと同時に後方に敵の攻撃を抜かせない盾役でもある」
簡単な役割を説明。これは昨日のパーティー編成の際にもこっちの俺達の筋トレや剣技等の修行に付き合ってくれたと言うか、指導していた騎士やら冒険者共から説明を受けた。
「しかし、知っての通り俺は敵と剣を斬り結ぶ事はしない。
最低でも15メートル程の距離を保ち敵と戦う。だが、数で押されたら流石にヤバくなるだろう。
だから、後方より敵に対してデバフを掛けたり俺に対してバフを掛けたり、敵の集団を漸減或いは撃滅させて欲しい。その役目はあの頭の可笑しい双子と木下の爆弾だ」
全員の視線が木下に向かうと木下は居心地悪そうに首を竦めて俯向く。視線に慣れない木ノ下可愛い。ギュッと抱き締めながら頭を撫で撫でして上げたい。よしよしってしたい可愛い。
「木下はまだ爆弾の制御が安定していないと聞くが?」
「は、はひぃ!す、すみません……」
「構わん。未だに能力を上手く操れん者は多くいる。
あとでお前には俺が知っている手榴弾について話してやる」
「は、はひぃ……」
はいがはひになってる木下可愛い。すごい好き。テンパり可愛い。
「で、大輝の役目だ」
「おう!」
「お前は木下と田上に双子の護衛と盾だ。
会敵した際に俺は遠距離攻撃をしてくる敵の個体を優先的に排除するが、それが叶わない場合もある。お前の役目は俺が撃ち漏らした敵の遠距離攻撃から後衛部隊を護るのが役目だ。
特に田上の死守だ」
俺が田上を見ると全員が田上を見た。
「田上は生きていればあらゆる傷や病気を治せるチート級治癒術士だ。つまり、田上さえ生きていれば俺達はある程度の損害を被っても生きて帰れる訳だ。
逆に田上が術を使えなくなった時点で俺達の生還率は低くなる」
俺の言葉に大輝が息を呑んだ。
「勿論、木下も重要だ。木下に関しては下手すれば俺よりも重要な存在になる。
爆弾を精製し、扱えるんだ。敵の漸減撃滅が出来なければ俺達は数に押されて死ぬしか無い。
戦いは数だ。敵が俺達との間合いを埋めた時点で俺達は負けるしかない。だから、木下が爆弾の制御が出来無ければパーティーで出発はしない。
最も田上と大輝は別のパーティーに着いてドンドン腕を上げて行ってもらう。特に田上は怪我人を治療しまくって精度と魔力消費を抑えれるようにして欲しい。
大輝は適当に魔物とか斬って剣の腕上げてこい。」
「わかったよ!」
「俺だけ適当じゃね?」
それから田上と大輝は実戦の話をし始めた。俺は木下を視姦し愛でる事にする。
「あ、あの……」
視姦し愛でていると木下が話し掛けてきた。これはレアだ!
「なんだ?」
「あ、あのぉ……わ、私が居ると、そ、そその、み、南く、君も森に行けなくて、そ、そ、その、ご、ごめん、ね?」
ね?の時に俺の顔色を伺うようにチラリと見た際に図らずも上目遣いになり、俺は無事死亡した。ああ、木下尊い。明日から木下尊い史華って名乗るべきレベルで尊い。
尊過ぎて最早罪。こんなの許すしかない。許されないと言えば木下の尊さと可愛さのみ。原罪の一つに加えるべき尊さと可愛さだ。
「あ、あの……」
「あ、ああ。そんな事なら気にするな。
パーティーに無理矢理加えたのは俺だ。俺こそ、お前の意志を無視する形で勝手に引き込んでしまって申し訳無いと思っている」
もちろん嘘。申し訳無いとかこれっぽっちも思っていない。
「そっ!そんな事っ……ない、です。
わ、私、と、友達居なくて……そ、その、能力も上手く、使えなくて、だ、誰ともぱ、パーティー組んでもらえないと、お、思ってた、から……」
寧ろ、誰かとパーティー組もうとしてたら俺が阻止した。
「フン、お前の能力の有用性に気付かない奴等なんぞどうでも良い。
朝飯終わったら後で俺達の部屋に来い」
因みに俺の相部屋は大輝だ。女子は知らん。
「へ、部屋にい、行くの!?」
「何だ?」
「い、いや、え、えっと、み、南君の部屋、た、確か、か、加藤君とお、同じ……」
む、もしかして木下は大輝狙いだったか!?
「木下は加藤が好きなのか?」
尋ねると木下はとんでも無いと顔を横に振った。ふー……焦らせるなよ、マイ・フェイバリット天使よ。
「か、加藤君は、じょ、女子全員がす、好きだから、そ、その部屋に行くのは……」
成る程、大輝の部屋に行ったと言う事実はイジメの対象になる訳か。
「なるほど」
「だ、だから、え、えっと……私の部屋何かは、ど、どうですか?なんて……」
何それ最高!オメカシして行きたい!
「構わんぞ。相部屋は誰だ?」
「ひ、一人……です」
コマ?そんな危ない所行く?俺、木下襲っちゃって良いの?え?え?暫くフリーズしていると木下が泣きそうな声で聞いてきた。
「……や、やっぱり、だ、駄目ですか?」
何故か滅茶苦茶涙目!?
「だ、駄目も何もお前、普通、女子の一人部屋に男を連れ込むのは色々とアレだろうが」
「あ、アレって?」
「お、俺がお前をお、襲うとかそう言うことを考えたりしないのか?」
何か言ってる俺が恥ずかしい。多分顔が赤い。
「な、何故、み、南君がわ、私を、そ、その、お、襲うの?
わ、わ私、ぶ、ブスだし可愛くないし……む、寧ろ、わ、私とい、一緒に居ると、そ、その、め、迷惑だったり、す、するかもし、しれないし、へ、変なう、噂とか……」
「そんな下らん事は言いたい奴に言わせておけ。
お前が良いならお前の部屋に行こう」
もっかいシャワー浴びなきゃ!
「行かせねーよ!?」
大輝が慌てて俺の手首を攫む。遂にコイツと剣を交えるときが来たか?まぁ、俺は銃だけど。
脇で聞いていたのか二人は顔を少し赤くしていた。
「優とは言え、流石に男子を一人、女子の部屋に連れてく事はさせない!つーか、俺が許さねぇ!!」
「そ、そうだよ!南君とは言え流石に木下さんの部屋に一人では行かせられないよ!」
大輝の私念と田上の謎の協力により俺と木下は中庭のちょっとしたベンチにて手榴弾の座学をする事になった。
俺は鞄に入っていた小林源文著の武器と爆弾を木下に渡してやる。
「ここの手榴弾のページを元にして爆弾への理解を深めろ」
木下は本を受け取るとそれを読み始めた。ああ、至福。幸せ過ぎて俺は死んでもいい。
ジッの木下を眺めていても良いが、それをやると木下は困るだろうから適当に銃を取り出して分解結合する。取り出したのは89式小銃折り曲げ式銃床。自衛隊が使っている突撃銃だ。
口径は5.56mmで固定銃床ではなく折り曲げのために持ち運び性能は高い。空挺団や機甲科隊員が保有する滅茶苦茶レアな小銃で、個人的にはFNCみたいで好きだ。弾倉はもちろん20発弾倉。
「あれ?南じゃん何してんの?」
そこに女子カーストで田上と対を成すクソビッチ那須川が現れた。那須川明日香。ビッチな格好をしたビッチで、俺の嫌いな人種だ。
下位カーストのオタク女子をいびり倒して楽しんでいるカスだ。皮が良いだけで中身は残飯である。能力は……知らん。興味無い。
「見てわからんのか?銃の分解結合だ」
分かったらあっち行けと、言うと那須川がヒッドーと笑いながら何故か俺の隣に座って来た。木下は本に顔を向けているが、耳は俺と那須川の会話に集中しており、ページも捲っていなかった。
「それ、たのしーの?」
「楽しい」
「えー?マジで?明日香にもやらせてよ」
そう言うと那須川は勝手に銃のパーツを一つ手に取る。複座バネ軸と呼ばれる複座バネ、つまり、撃発時に下がって来たボルトやら槓桿やらを元の位置に戻しつつ弾倉から次の弾丸を拾い上げて薬室閉鎖を行う為のバネを支えておく棒状のパーツを手に取ったのだ。
こいつは機関部をバラす際に一番最初にバラす部品でありその後、被筒留め軸やら引き金室留め軸等を抜く時に使うのだ。
本来はちゃんとした、と言うかマイナスドライバーやら何やらで抜くのが良いのだが誰もやって無いし、人によってはこのパーツで切り替えレバー留めピンなるピンを抜く際に使う。
「触るな。
お前もお前のパーティーと実戦を経験して来い」
「えー、何か明日香にはキビくない?」
何なのコイツ?何でこんなうざ絡みしてくるわけ?俺と木下の幸せな時間邪魔して何したいの?大輝も居ねーのにウゼェ。
「大輝は実戦に行った。
俺に付きまとっていてもアイツは来ない」
那須川の手から複座バネ軸を取り返し、元に置く。
「はぁ?何それ?私が大輝に用あって南に話しかけてるみたいじゃん」
何を言ってんだコイツ?何時も俺に話しかけてくる際に大輝は?と聞いてきたのはコイツだぞ。頭おかしいのか?同じ空間に居るだけで腹が立つ。
見ろ、木下が遂に本を読むと言う動作を止めて俺と那須川のやり取りをハラハラした顔で見守り出した。可哀想に、こんなビッチのせいで緊張して……
「俺達は忙しい。
木下。邪魔が来ない場所で勉強するぞ」
木下の手を掴み、中庭から出ていく事にした。
「い、良いんですか?」
「構わん。俺はアイツが嫌いだ。
オタクだからとオタクの女子達をイジメて笑ってる様なクズなんぞ関わるだけ人生の損だ。
お前も大輝のアホと近い位置になってしまったからああ言う輩に絡まれるかもしれん。何かあったら、いや、話し掛けられただけでも報告しろ」
「は、はぁ……」
全く俺と木下の時間を邪魔しやがって!何処が良いか探さなくては……