12話
次に目を覚ましたのは、昼過ぎの夕方だった。部屋をノックされて夕食である事を知らせに来たメイドに寄って目を覚ましたのだ。
この、1日を無駄にした感覚と言うのは実に腹立たしい。
顔を洗う為に廊下に出ると、田上とジャンヌに幾ばくか顔に生気が戻った木下が待っていた。木下を眺めてこの荒んだ気持ちをリセットしよう。
「木下、体調は少しは良くなったか?」
「は、はぃ……まだ、あ、頭が少し痛いです」
「了解だ。
夕食は軽めにしておけ」
顔を洗ってくるから少し待ってろと中に入ってるように告げて洗面所に向かう。その途中那須川の一団と出会った。
「あ、南じゃん。
今起きたの?」
「ああ」
返事だけして洗面所に入ると那須川も入って来た。那須川は取り巻きに先に行ってと告げると、俺の隣の洗面台に陣取った。
「昨日の戦い大活躍だったらしいじゃん」
「……何の用件だ」
「別にぃ?
南と会話したいだけ」
俺はしたくない。
するなら木下と話したい。天気の話でいいから話したい。取り留めのない会話したい。
「ねぇ、南って明日香の事めっちゃ嫌いでしょ?」
「いや?」
「いや、隠さなくていーし。
明日香の事嫌いでしょ」
何だコイツ?
「ああ、嫌いだ」
「何で?」
何で?こいつマジかよ。
「説明するだけでも腹が立つし、お前みたいな奴と話したくもない程にお前が嫌いな訳だが?」
「んー、明日香としてはさ、どーして南にそんなに嫌われてるのか知りたいの」
「今じゃ無きゃ駄目なのか?
飯前に話す事でもなければ話したくない。飯が不味くなる」
「ん、良いよ。
夕ご飯食べ終わって暫くしたらで」
「分かった。
場所は?」
「明日香の部屋。
同じ部屋の人にはその時間だけ開けて貰う」
「なら20時位にお前の部屋に行こう」
「オッケー絶対来てね」
「ああ」
何でこうなった!まぁ、忌々しい那須川が付き纏わなく成るならそれで良いか。しかし、気分が悪い。折角一眠りして木下を眺めて気力回復したのに!
足速に部屋に戻ると田上と大輝がクソみたいに70年代ラブコメ臭を出していてジャンヌと木下が居心地悪そうにしていた。
「そこのバカップル。
イチャイチャするなら余所でやれ」
「イチャイチャって……」
「と、言うか優の顔メチャメチャ怖いよ?」
「極めて私事だ。
気にするな」
5人で食堂に向かい、会話があまり無いままに食事を摂りそのまま解散する。全員が俺をチラチラ見てきたのには辟易したが、無視していたら何も言ってこなかった。
部屋に戻り、AKとM4を取り出してリロードの練習。
銃の使い捨ても弾倉だけ出すのも大して変わらないが、状況では弾倉交換の方が良い場合もある。AK系のリロードとM4系のリロードでは動作が全く変わる。
AK系統の銃はマガジンハウジングのトリガー側にマガジンリリースボタンとでも言える爪が付いており、それを弾倉側に押しやればロックが外れるのだ。
左手に予備弾倉を持ち、それで爪を弾きながら空の弾倉を弾き飛ばす。そして、弾倉前側にある引っ掛けを入れて爪のロックをする。
そして、左手をそのままAKの機関部左側面にある槓桿にまで伸ばしてコッキングする。AK系の銃にはボルトストップが付いていない。
コイツの機能は弾を撃ち切った際にボルト、つまり槓桿が前進して薬室を閉鎖させず射手に弾切れを知らせると共に次の装填を素早くさせる為の機能だ。
AKにはそれが無いので一々撃ち切ったら槓桿を引かなければいけない。
「……ふむ」
AKのリロードを数回こなす。威力的にはAKだが操作性命中精度や拡張性はM4系だ。
敵に寄って銃を使い分けるよりも、威力と貫通力勝負で行くか?だったらバトルライフルも選択肢に入るが……
「何やってんだ?」
「リロードの練習。
素振りとかそう言う奴みたいなもんだ」
ふ~んと大輝は暫く俺の動作を見ていたが、飽きたのか腕立て伏せをし始めた。やる事無くて筋トレするとかアメリカの刑務所かよ……まぁ、刑務所よりはマシ……マシか?
それから時間までトレーニングをし、結果当面はAKでいこうと決めた。大輝は気が付いたら寝ていた。
廊下に出ると、那須川が一人廊下の壁に背を預けて立っていた。手には携帯。そう言えば、あの時なんで携帯が通じたのか聞いていなかったな。明日聞こう。
「那須川」
「ん、部屋来て」
那須川のあとに続き部屋に向かう。部屋に入ると所謂女の子の匂いがした。木下の匂いとはまた別の甘い匂いだ。
「それで、なんで南は明日香の事嫌いなの?」
俺は何時か大輝に話してやった事を目の前の腐れに言ってやった。
「あー……あれね。確かにアレは明日香が悪かった。
でも、別にささっち達イジメてないし、つーか、仲良い方だし?」
「お前の言を信じられるとでも?」
「ンじゃささっち達呼ぶからさ、本人達に詳しく聞いてみたら?」
ちょっと待っててと那須川は言うと部屋を出て行く。暫くして佐々木の一派、三人を引き連れて戻って来る。そして、那須川は外で待ってるから終わったら教えてと部屋から出ていった。
「あ、あの、えっと……質問があるって那須川さんから聞いたんだけど」
佐々木が代表で俺に尋ねる。三人は俺の向かいに立ったままだ。俺は一人掛けのソファーに腰を下ろし、テーブルを挟んで三人掛けのソファーがある。
「ああ、そこに座ってくれ」
佐々木達は緊張した様子で俺の向かいに座った。
「急に呼び出して悪かったな」
「い、いえ、暇してたので大丈夫です」
「そうか。回りくどいのは嫌いだ。率直に聞こう。お前達は那須川共にイジメられているのか?」
俺の質問に佐々木達は顔を見合わせ、少し笑うと違いますよと首を振った。
「確かに、那須川さんが初めて私達に話し掛けて来た時は色々と騒ぎになっちゃいましたけど、その後はちゃんとフォローしてくれましたし、今でも何かと気に掛けて貰って仲良くさせてもらってますよ」
「……ふむ」
佐々木達の様子に脅された様子も無ければ嘘を言っている様にも見えない。本当の事なのだろう。
だが、そうなると話が見えない。何故、那須川は佐々木達オタク女子に話し掛けたのだ?那須川の言動を見る限り、オタク趣味は無いし、雑誌を読むならアニメ雑誌よりもファッション雑誌等だろう。
「そうか。
何故、那須川はお前達に話し掛けた?」
俺の質問には佐々木達の顔は困った様に歪む。答えの知らない質問をされた、と言うよりも答え難い、それこそ子供に赤ちゃんはどうやって出来るの?と質問された親の様な顔をしていた。
「それは私達には答えられないわ」
「どっちかと言うと答える立場にないわ」
「那須川さんに聞いて」
三人はそう言うと質問は終わり?と立ち上がる。
「ああ、悪かったな」
「ううん、大丈夫」
じゃあまたと部屋から去って行く。それと代わる様に那須川が入って来た。
「誤解は解けた?」
「ああ。今までの言動を詫びる。
お前の事を誤解していた。本当に済まなかった」
立ち上がって頭を下げると那須川は別に良いよと笑う。
「それで、何故、那須川は佐々木と関わろうと?」
「えー?内緒」
「そうか」
立ち上がって、部屋から出ようとすると那須川が慌てた様に扉の前に立つ。
「なんだ?」
「もうちょっと話そうよ」
腕時計を見ると21時近い。
「夜も遅い。
俺は帰る」
部屋から出ようとするが今度は止められなかった。
「そっ。まぁ、良いか。
それと木下さんには負けないから」
「は?」
どう言う意味か問いただそうとしたが、その前に扉を閉められてしまった。何だコイツ?木下には負けんとは何がだ?
……まぁ、良い。しかし、次に会う時に気不味いな。
部屋に戻ると田上と大輝がイチャイチャしていた。
「ナニするのはお前たちの勝手だが、コンドームはしっかりしろよ。それと、余り色ボケている俺が活を入れるからな」
二人が何かを答える前に扉を閉めて、木下の部屋に訪れる事にした。扉をノックし、返事を待つ。
すると、恐る恐ると言う顔で木下が顔を出す。可愛い。そのままドアに足挟んで抉じ開けて怯えてる様子を見てゾクゾクしたい。
「み、南君!?」
「ああ。
今、田上が部屋に来ていて大輝の奴とイチャイチャしやがっているのだ。少しこの部屋で待たせてくれ」
「は、はひ!ど、どぞ……」
木下に誘われて中に入ると、想像していた通りジャンヌが柔軟と言うか筋トレと言うか、180度開脚しながら腕だけで立つというジャン・クロード・バンダムみたいな事やっていた。
バンダミングアクションでもする気か?
「お前は何をしているんだ?」
「キンツォーレデス!」
何だそのカンツォーネみたいなのは。歌いながらボートでも漕ぐのか?
「筋トレだ。
変に伸ばすな」
「Oui」
全く……違う、そうじゃ無い。
「お前のキンツォーレなぞ、どうでも良いのだ。
何故、お前が木下の部屋に居るのか聞いたんだ」
「Oh là là.遊びに来たのデス」
「まぁ、良い」
勝手にしろと木下の座るソファーの向かいに腰掛ける。
それから深くソファーに腰を預けて、バレないように深呼吸。鼻孔からたっぷりと木下の匂いを吸い込み肺胞に行き渡らせる、幸せだ……
「あ、あの、み、南くん」
「何だ?」
「南君は家に帰りたい、家族に会いたいとか思わない、ですか?」
チラリとジャンヌを見るとジャンヌは親指を立てていた。何か奴が吹き込んだらしい。
「家には帰るし、家族には会いに行く。
俺はこのゲームもネットも漫画もアニメもないクソみたいな世界から必ず帰る。勿論、その時はお前も一緒だし、ジャンヌも大輝も田上も後はクラスメイト共も」
木下を見ると何やらニマニマしているがそれを必死に隠そうとして凄い不思議な表情をしている。スマフォに収めてロック画面にしたい程に可愛い。ほんと好き。告白したい……どうしよ?よし、告白する前に木下の情報を集めよう。
「木下には好きな人がいるのか?」
「ふぁっ!?」
「Dis donc!コイバナデスネ!!」
そこにジャンヌも加わり何やらアニメの登場人物の話をし始めたので黙らせる。
「それで、木下は?」
「い、居ません、けど、あ、憧れてる人はい、いまぅ……」
もう一言一句録音して寝る前に聞いて子守唄代わりにしたい。
「そうか」
憧れてる人ってどういう区分だ?好きな人にはいるのか?
「それは誰だ?」
「ひ、秘密です……」
秘密か、ふむ……
「そ、その、み、南君はいるんですか?」
「いる。正直、俺は其奴のためならばこの命を賭して戦えるし、喜んで投げ出せる」
「え……」
木下の顔から感情が一瞬だけ消えた。
「それは誰デスカ?
私は言いマシタヨ!」
ジャンヌが親指を立てて俺にうなずきマグってる。これは告白しろということか?
「フミカも知りたいデスネ?」
「っぁ……ぁぃ……」
木下は凄い苦しそうな顔をしながら頷いた。
人生には何度か選択を迫られる時がある。そして、その選択を間違えると、後悔する。死ぬほどに。
「木下」
「ひゃぃっ!?」
答えるが木下からの反応はない。
「……俺は言ったぞ。
木下には憧れている奴が居るらしいが、悪いがそれは諦めて貰いたい」
「あ、え、あ?」
木下は俺ではなくジャンヌを見る。ジャンヌはムフフと笑っていた。
「それで、木下。
俺はお前の返事を聞いていないぞ?」
「ひゃっ、ひゃい!
え、えっと、そ、その、よ、よろしく、お願いします……」
「ああ、よろしく頼む。
さて、そろそろ俺は部屋に戻る。帰るぞジャンヌ」
「Oui!」
二人で廊下に出、そのまま俺はジャンヌに抱き付いた。
「さすがフランス人だ。
何を考えているのか分からない変な奴だと思っていたが、お前は良い奴だ。
これからも木下のために力に成ってくれ。俺は部屋に戻って幸福に包まれて寝る。また明日だ」
「Oui!
ヨイユメヲ!」
部屋に戻ると田上と大輝が半裸で濃厚なラブシーンを展開していた。
「俺は今から幸福に包まれて寝る。
朝飯の時間以外に起こしたら殺す。俺を起こさなきゃお前達が何していようが構わん。ただし、子供は出来んようにしろよ?良い夢を」
こうして俺は幸福に包まれたまま眠りにつくことに成功した。ああ、異世界最高!
暗殺部展開したくてウズウズしてる。




