1話
まぁ、なんだ。俺は木下史華と田上加奈子では木下史華の方が圧倒的に好きだ。田上はクラスで、いや、学年内でも有名な可愛く誰にでも愛嬌がありリーダーシップを発揮する。
対する木下史華はネクラでクラスでも部屋の隅で小説読むか寝てるかで、昼飯時は便所飯かと思いきや時間と同時に一人でもそもそ食べ始め、10分位で食べ終えると図書室に去って行くという女子で、人に話し掛けられたら必ずどもり、愛想笑いをしようとすれば周りに引かれる。
髪で顔を隠すが、その顔は中の上か上の下に入るだろうが肌荒れと隈にソバカスで誰も彼女が美人だと気が付かない。
確かに田上よりは劣る。劣るが、田上よりも魅力的だし田上よりも攻略出来ない。
「ンじゃパーティー組むか」
さて、俺はクラス召喚に巻き込まれた。本来ならば卒業時に告白を決意していたのだが、その予定が早まった。俺のクラスの立ち位置は、上位カーストに組み込まれたオタクだ。そうなった理由はクラスの男子カースト一位たる幼馴染加藤大輝のお陰だ。
俺自身はそこまで活動的でもねぇしムードメーカーではない。どちらかと言えば皮肉屋で消極的だろう。しかし、俺は大輝と幼稚園の頃からの付き合いだ。昔は戦隊ヒーローとかで、今はゲームの攻略とかで、話をする。
ゲームの分野が被っているからこそ向こうも俺も気兼ね無く話せるのだ。大輝はスポーツ万能だしイケメンで頭も良い。モテはないはずが無く、田上も大輝の事を好いている。そして、そんな田植え狙いの連中も自然と大輝の周りに集まる。
じゃあ、当の大輝は誰狙いなのか?と言えば俺の二個上の姉貴だ。今は大学で頑張ってる。顔は平々凡々で体型は幼い頃よりぷよっており、性格は楽天的で大雑把。
俺の部屋に入り浸っては漫画やらゲームやらを勝手に見たりやったりしている。まぁ、ちゃんと片付けるので問題ないが。何故、大輝の奴があの何処にでも居そうな姉貴が好きなのかは知らん。興味ねぇ。
まぁ、兎に角俺の周りはカースト上位の連中が集まり、正直、そこら辺のやり取りも死ぬほど面倒臭いので俺的にはほとんどイジメも無くただ凡庸に生きる木下史華に成りたかった。
だが、俺が近付けば間違い無く大輝も来る。そうなると多分、木下史華の周りには彼女の苦手とする存在や害をなそうとする存在が増えるだろう。
だから、俺はそう言う柵が消え去る卒業時に告白しようとしたのだが……まぁ、失敗だ。
勿論、告白すると言っても今すぐ告白した所で失敗するだけだ。しかし、俺はアグレッシブに攻める。もう、遠慮は止めた。
「なぁ、優。お前も俺の所に来るだろ?」
THE・勇者な大剣を背負った大輝が俺に近付いてくる。その顔には何時も通りの笑みがある。
「いや、少し待ってくれ」
俺は隅の方でオロオロしていた木下の下に向かう。滅茶苦茶可愛い。多分、滅茶苦茶心細いんだろうな。仲間に入れて欲しいんだろうな。でも、自分から声を掛けるほど自分が使えるとは思っていないのだろうし、有能だとは考えていないのだろう。
好きだ。
ここ数週間。全員がこの世界で生き延びるための必要最低限の体力練成と自身の力を修練していた。俺の力は銃だ。拳銃から狙撃銃まで扱えるし、異空間から取り出せる。弾数制限はあるが弾倉を異空間から取り出せるのでもう弾無限のチート野郎になっている。
まぁ、弾頭自体はただの鉄だから魔術強化された敵や石の肌を持つ敵などには殆どダメージが加わらない。
「木下」
「ぁぃ……」
ビクンと凄まじく震えて、声がほとんど出ていなかった。好きだ。抱き締めたい。
「俺の能力は銃を出せる。弾も出せる」
試しにAK47を取り出し、弾倉も取り出す。
「木下。お前の能力は」
「爆弾……ばくだ、ん出して攻撃できま……」
最後は出来ますと言ったのだろうが、声小さすぎて聞き取れなかった。ゴニョゴニョ喋りすぎだ。可愛い。頭を撫でてやりたい。
「ああ。
俺が前衛、木下は後衛。それでどうだろうか?」
木下は嬉しそうな顔をしたが、一瞬でまるでレモン汁を飲んだかのような顔になる。木下は能力が与えられた当初に爆弾の加減を分からずに数人のクラスメイトに怪我をさせてしまった。
怪我は治療の力を与えられたクラスメイト、田上により治療されて何事も無かったように活動しているがクラスメイトの中で木下は孤立してしまった。
大輝や田上がフォローしていたが、普通にハブられていた。不憫可愛い。正直あの泣きそうな顔を見た時は思わず勃起してしまった。
トイレで抜いたのは内緒だ。
「で、でも、私が居ると……」
「能力なんぞ制御すれば良い。
そもそも、手榴弾の加害半径は約150メートル。致死半径は525から50メートル何だぞ?どちらにしろあの狭い状況で使用すれば確実に怪我はした。そもそも、そんな狭い範囲の訓練場しか用意できなかったこの国の連中の責任だろうが」
「そ、それでも……わ、私、あんまり……」
うむ、この自己評価マイナスが堪らない。可愛過ぎる。すごく好きだ。顔に出てしまいそうになる。堪えろ、まだ堪えるんだ……
「いいから、俺の後衛になれ」
胸の前でモジモジと手を動かし、仕切りに俺と周りと足元に視線を動かす。ああ、もう、可愛すぎ。好きだ。抱き締めたい。
そんか気持ちを隠す為に木下に指を突き付けた。
「は、はひぃ……」
木下はコクコクと頷くと、後ろからやって来た大輝が俺の頭を叩く。
「お前、脅すなよ!
木下も本当に嫌だったら断って良いんだからな?」
馬鹿かコイツ?そんな事言ったらお前が木下に入って欲しくないように聞こえるだろうが!
「ふざけるなよ馬鹿大輝?
お前達にとっては木下は邪魔者かもしれんが、俺の力だと木下の能力が良いのだ」
いや、寧ろ。
「木下だから良いのだ。
木下が要らぬとお前が言うのであれば俺はお前とパーティーは組まない。お前と俺との仲だが、流石に己の命や他人の命を賭してまで不利な状況には成りたくない。俺は木下とパーティーを組む」
さり気なく木下を俺のほうに抱き寄せてみる。柔らかいし良い匂いだし何かもう好き!勃起してしまう!大好き!そのまま抱き締めてゴロゴロしていたい!好き!
「い、いや、俺はそんな事は思って無い。誤解しないで欲しい。
ただ、何時もと違って優が強引だったからさ」
うむ。俺は遠慮を止めたんだ。
「当たり前だ。
俺の人生が掛かってるんだ。木下が居なけりゃ俺は死ぬかもしれんし、木下も俺が守ってやらねば死ぬ」
「えぇ!?」
木下が素っ頓狂な声を出す。可愛すぎてヤバい。俺の知らない木下が俺を殺しに来てる。ようこそ木下!デートしよう!
「わ、私死ぬんですか?」
恐る恐るという顔で俺を見てくる。可愛い。キスしたい。
「死ぬ。例えば大輝を前衛にしたパーティーだとお前の場合、自分の爆弾の威力に気圧されてなかなか使えない。
お前の役目は爆弾の威力による敵を圧倒撃滅するか、牽制する。しかし、それをビビって出来ないので結果敵に押し切られお前のところまで敵は来る。
そうなったらお前の場合、為す術もなく敵に殺されるだろう」
容易に想像出来る。言ってみればメガホムがさやかにテメェの爆発ウゼェんだわ、考えて使えよカスって言われる様なもんだ。
そうなったらもう、木下は萎縮して爆弾使えなくなる。そうなったら本当に必要な時に使えず死ぬのだ。うーん、それはいかん。木下が死んだら俺も死ぬ。
「凄い見てきたかのように的確な指摘だな」
大輝が呆れたように告げる。当たり前だ俺は木下を常に見てたんだぞ。ふざけるな。
「この数週間観察して来たからな。
木下の能力と俺の能力が合わされば最強だ。俺は木下が良いのだ。それはお前や田上よりも、だ」
俺と組みたいならば木下とも組む事を忘れるなと大輝に告げると大輝は苦笑して分かった分かったと頷いた。
「じゃあ、前衛は俺と優で後衛は木下と田上かな?」
「いや、前衛は俺。後衛は木下と田上。お前は後衛の護衛だ。俺や木下で倒せ内敵が出たらお前がやれ」
「銃や爆弾で倒せない敵を剣の俺が倒せるとでも?」
大輝が首を振る。こいつは何を言っとるんださっきから?
「俺はあの岩を砕けんがお前は砕ける。
木下はあの草を薙げ無いがお前は薙げる。相性の問題だ。俺と木下は雑魚の一掃は可能だし得意だがそうじゃない場合はお前が出ろ」
「なるほどなー」
へーと頷く大輝。脇ではよろしくねと田上が木下に笑い掛けている。うむ。これにて木下と合法的かつ強制的に一緒に居られる方法を思い付いたのだ。
うむ、明日から楽しくなるだろう!チラリと木下を見ると木下は心の底から嬉しそうな反面、何処か半信半疑と言う顔でタウンの手を握っていた。
周囲を見回すと舌打ちする女子や何であんな奴が?と言う顔の男子が多い。いやー俺が全力でフォローしなくちゃな。田上は大輝になすりつけておくか。
「パーティーは五人から六人って話だけどあと一人が二人どうする?」
大輝の言葉にカースト上位勢が息を呑む。順当に行けば残るはバフかデバフ要員たる魔術師、或いは罠や索敵要員の狩人だろう。
個人的には余り人を入れたくない。人を入れることで木下への余分やマイナス感情を向けさせたくない。それに、男女のバランスが崩れるとそれだけの軋轢が出来る。
「……そうだな」
どうするか?田上は大輝狙いで木下の存在を懸念するだろうからこれ以上女子を入れる事で恋愛沙汰に巻き込まれるのはやめて欲しい。
逆に男子だと田上狙いなる可能性もあるが、木下の魅力に気付かれて俺のライバルが増える可能性も無きにしも非ず、だ。
「なるほど」
こう考えれば良いのだ、既に恋人関係になってる奴等を入れちまえば良いや、と。
と、なると……田上を呼び出すか。
「田上、他のパーティーを見て回る。
大輝は木下と待っていろ」
「俺も行くぞ?」
「ふざけるな。お前はパワーバランスを考えないで入れるだろうが。ゲームでもそうだった。俺は仲良しこよしの編成で死ぬのはゴメンだ」
田上と呼ぶと分かったと俺の隣に立つ。
「俺はクラスの恋愛事情なんぞどうでも良い。だから、誰が誰と付き合っているのかなんて知らない」
「う、うん……」
「但しお前が大輝狙いだと言うのは知っている」
言うと田上はフェ!?と顔を真っ赤にして俺を見る。
「ふん。俺とあいつとでの対応の違いを見ればすぐに分かる。
木下は俺が受け持つからお前は大輝を攻略しろ。もう二人はこのクラスで付き合ってる奴等を入れる。そいつ等の情報を寄越せ」
「う、うん!えっとね……」
クラスにはカップルが3組居た。リア充死ね。
そして、そいつ等の能力を聞いて回るが、3組中2組は能力が被っていた。槍だの弓だのと……魔術師は居らんのか!!
「と、取り敢えず気を取り直して最後の一組行きましょう!」
田上が残る一組に話しかける。
「俺の力は知っているだろう?
銃を作れる。田上は死んでなきゃ治療出来る。後は大剣の力を持つ大輝に爆弾を作れる木下だ。後衛は木下と田上で大輝は二人の護衛。俺が前衛を張る。
後はバフデバフが出来る魔術師を探していてな。お前たちはどうだ?」
残る一組は首を振った。畜生!ふざけてるのか?!
「そうか、ありがとう」
立ち去ろうとしたら目の前に双子が立っていた。クラスメイトではない。同じクラスに兄弟姉妹は配属されない。理由は知らん。基本的にそう決まっているそうだ。
「何だお前達は?」
「私は」「貴方達に」「魔術を教えてる」
面倒くさい喋り方しやがる……
「で?」
「私達が」「貴方達の」「パーティーに」「入ってあげる」
田上が俺を見た。どうするか?という顔だ。俺も田上も予想外だ。
しかし、まさかの盲点!現地人!
「良いぞ。
付いて来い」
二人を連れて戻ると木下と大輝がクラスメイト数人に囲まれている。どれも彼も上位カーストの面子だった。奴等の装備は魔術師も居るが男だったり、槍や剣等の前線組だ。
要らんし被っている。
「お、帰って来た。
南、俺等も入れてくれよ」
案の定ムードメーカー的なお調子者の軽目幸雄がそんな事を言う。武器はロングソード。要らなさ過ぎる!
「お前は要らん。
魔術師もこの二人が入ってくれるから間に合っている」
「でも、前衛はお前だけなんだろ?だったら俺もお前と一緒に前衛出来るぞ?」
全く。
「俺の武器はなんだ?」
軽目に尋ねると軽目は銃だろ?と当たり前のことを聞くなよという顔で答える。そう、銃だ。銃とは飛び道具であるが、弓矢やクロスボウと違ってよっぽどの距離を取らなければほぼほぼ直線に弾は飛ぶ。
そして、目に見えない。
「俺の武器は、弓矢の様な遠距離武器でありながら近距離では槍よりも鋭く、そして、槍よりも長い槍なのだ。
槍と違うのは払う、叩くが出来ないから、槍よりも刺突目的のパイクに近いか?お前と俺ではどうしても間合いがちがう。俺より前に出て戦うのがお前だ。
戦闘中、お前に気を使って敵に発砲出来ない状況が出たらどうする?お前が囲まれたら俺はお前を誤射する危険性が出て射撃は中断、大輝が前に出る事になる。
大輝の役目は後衛の防御兼俺のやられた時の後詰めだ。誤射しても文句を言わんと言う奴がいれば入れてやるが、俺は基本的にアサルトライフルか許せば機関銃を扱う。
誤射する可能性は非常に高いぞ」
そもそも、この数ヶ月で銃の基本をやっただけだ。冗談抜きで誤射する可能性がある。
「そういう訳だからお前達はお前達でパーティーを見付けてくれ」
帰るぞ、と五人に告げてさっさと闘技場を後にする。いやーこれで木下を心置き無く攻略出来る!




