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(仮題)俺は堅実に生きたい  作者: うぜん
8/8

中等部回想 生徒会編3

今日の農薬散布試験は上々の結果に俺は満足していた。外周から散布して中央付近に集合したトノサマバッタを虫取り網で取り放題の状況にし、200匹近い戦果をあげて無事終了した。


今は原液の匂いが少々鼻につく為、畑の風上に移動してクレア生徒会長の来月の学び舎祭の活動実施要綱の説明と各委員会への担当の割り振りや、例年の活動実績からの予算配分について生徒会会計のカーラ君からの説明に足りない部分を元会計経験者の会長や副会長の俺から補足説明を入れつつ。


たまには野外で生徒会活動するのも面白いわねと会長からの有難いお言葉をもらいながら無事打ち合わせを終え撤収中である。


本日の農薬散布試験に使用したのは例の藁を煮た煮汁を煮詰めずに樽に入れ冷却したもので、農研部では【原液アブサン】と呼ばれる物を使用直前に井戸水で500倍希釈して使用していた。


ちなみに農研部謹製の農薬はその濃度によって呼称と用途が変化する。あの麦藁煮汁を煮詰めて冷ましてライムグリーンに変色したの物はアブラムシ退散薬だったので【濃縮アブサン】と呼称してる。


濃縮アブサンを木製の樽・・・以前は真っ黒に変色していたが最近は木目もしっかり見えるほどキレイになっている、一度も洗った事は無いのだが・・・から毎日少量取り出して希釈したり色々実験して忌避効果を試していたが、井戸水や術式具の水栓から出る水だと不純物が多すぎて忌避効果が直ぐに霧散してしまうことが判明した。


しかし4~5ヶ月すると目に刺さるライムグリーン色が退色しだし、匂いも激減してきて

半年以上放置すると刺激臭は鳴りを潜め無色透明だが、忌避効果はまったく衰えない【アブサクリア】となった。


そのアブサクリアを蒸留水で50倍希釈して試験管に入れて、部室に放置して忌避効果の時間経過による減少実験をしていたのを倒してこぼしたクレア先輩のもの凄い手荒れを一度の塗布で一週間後に完治させた【クレアレチ】。


クレア先輩の実家は家族経営の大人気三ツ星飲食店で、帰宅後はかなりの量の皿洗いをして家業を手伝っているから通年で手荒れに悩まされていたそうだ。


それがタワシを握る一番荒れやすい右手だけ半月の間艶々になり、その半月後に再度皮膚がガサガサになってささくれも再発したので。


症状が改善した他の原因思い浮かばなかったクレア先輩の要請で、モノが藁の煮汁で無色無臭透明だし素手で原液を扱う俺の体にも害は無いので大丈夫かと軽い気持ちで快諾。


希釈倍率を変えたものを指十本に塗布すると最終的に200倍希釈まで効果があった。


クレア先輩の話には続きがあって、自宅が大人気飲食店のため日常的に手早くバターで炒めた濃い味の賄い料理が主食の先輩は、常時その悪くない造詣のご尊顔に一つか二つ吹出物が常駐し数多くの赤いシミのような吹き出物の痕が基本だったのだが。


俺がアブサクリアを実験のため採取した後の空になった試験管に蒸留水30滴で希釈してクレアレチとして常用していたクレア先輩のご尊顔からいつの間にか吹き出物が消え、痕もなくなり、そばかすまで消える現象が発生。


顔のコンプレックスを完全に克服したクレア先輩は、2ヵ月後には3年来の片思いだった初恋の実家の厨房の若手料理人の彼氏までゲットした。


この事態に生徒会役員の女史共全員が騒ぎ出し、クレア先輩は手に塗った後こっそり顔に両手を当てていた事を供述。何故か役員女史全員にクレア先輩が彼氏をゲットする要因となった化粧水【カレット】の提供が決定事項として俺に伝えられた。


最初は役員各自が持ち寄った小指のさきっちょ程の小瓶に週一で提供していたが、この手の話は拡散するのが早かった。


翌々週の週明けには数十人の女子生徒が農研部室の外に押しかける騒ぎになったが、これ以上の幽霊部員は不要なので入部もカレット供給も断った。


しかし女子生徒の繋がりとは深遠なものらしく、翌週役員各自が持ち寄った牛乳瓶程の容器が並ぶテーブルと視線をあわさない女史役員の挙動は、女子の美に対する認識の闇の深さを俺に再認識させるには十分だった。


紆余曲折の末、結局カレット騒動はその翌週の役員一人に一升瓶まで、あとの配分は各自に任せる事で妥協したが困った事に生徒会役員=農研部幽霊部員全員に週一配布する羽目になった。


書記のバルム先輩まで急に彼女が出来て、彼女にねだられたそうだ。時期が時期だけに何とも微妙な話だが、バルム先輩が幸せそうなので敢えてその事はスルーされている。


ところが話はそれで終わらなかった。


事の起こりはエリソン女史に樽からアブサクリアを汲みだしてる所を見られたのが発端で、樽の一番下の方に残っている残液を垂直に曲げたスプーンに棒をくくりつけて何度も試験管に汲み上げる様を発見されてしまったのだ。


アブサンの製法を知ってるエリソン女史が俺の害虫忌避効果の実験に待ったをかけてきた。彼女いわく貴重なカレットの原料を無駄遣いするとは何事だと言うのである。


現在週一でカレットを一升瓶で4本製造している、わざわざ蒸留水を7リットル近く精製するのは実験の片手間だから出来るわけで、そもそも100ccの試験管を週一で消費していた実験を30cc分減らしてカレットに希釈してるのだが。


エリソン女史はアブサクリアが枯渇しつつある現場を目撃して、その場でメジャーを取り足して樽を計測してアブサクリアの残量を計算し始めた。


既に1000ccを余裕で下回っていることが判明すると、エリソン女史は俺を引きずるように部室へ連行し緊急生徒会役員会を宣言し。緊急動議として農研部の農薬試験の安全性の担保が不十分のため、一時農薬研究の凍結を発議。賛成者は挙手をと迫った。


焦った俺は生徒会会計として決議の前に農薬の安全性の担保についての農研部部長(自分)の証言が必要の旨を訴え、エリソン生徒会長と彼女の妹でかなりのしっかり者のモリソン副生徒会長の決議に待ったをかけた。


現状ではこの強行採決事案に対して


エリソン生徒会長  当時高等2年 実は天然  賛成派女子

モリソン副生徒会長 当時高等1年 しっかり妹 賛成派女子

バルム生徒会書記  当時高等3年 彼女一筋  賛否一時保留派男子

クレア生徒会会計  当時高等1年 癒し系   賛否一時保留派女子

ベルト生徒会会計  当時中等2年 農研部部長 反対派男子


なんとかバルム先輩とクレア先輩を反対派に引き入れないと、当時中等2年の俺には弁論で勝つのは絶望的だった。学び舎生徒会には学び舎の総ての資産を管理する権限が確かにあるのだ。


議論は平行線で妥協案も出ないまま賛成2反対1棄権2で可決された。どんな事でも大抵は大人しく従ってきた俺でもさすがに頭にきた。無言で部室を出るとアブサクリアの樽の前まで全力ダッシュ。


「そんなに危ないって言うなら、こんな物すててやる!!」


樽を蹴り倒したその勢いで栓を蹴り飛ばし、樽を逆さまにしてやろうとした瞬間柔らかな物体に後ろから押し倒され右腕をひしっと抱きしめられる。視界にフワリと栗色の髪と慣れない感触にギョッとして振り向くとクレア先輩だった。


「おちついてベルト君!」


はい、一発で怒りは吹き飛びました。それより発育著しい物体に腕を挟まれた状況に罪悪感を覚え腕を反射的に引き抜こうとしたのだが、振り解かれると勘違いしたのかクレア先輩は俺の手首をがっちり脚で挟んで逃すまいと必死だ。


「クレア先輩離れて」


右腕の密着率のあまりの高さに硬直して事実上の白旗宣言を発して動けない俺をよそに、後から駆けつけたエリソン先輩姉妹に振り返るといつも優しいクレア先輩が凛とした声で言った。


「会長も…副会長もやり過ぎ…です。こんなの自由平等を旨とする学び舎の方針に…反してます。自主独立を掲げる生徒会の行いとしても…行き過ぎです。シーバード先輩だってもっと手順を踏んで…もうベルト君動かないで!相手が了承せざる状況に落とし込んで物事進めてたじゃないですか。」


クレア先輩がエリソン先輩姉妹の行いを糾弾している間に、5回程脱出を試みたもののこのホールド状態を抜け出せないどころか、より動きを封じようと抱きかかえられ。右腕はもう完璧にクレア先輩の体に一分の隙間なく密着。


本気で振りほどけば大した拘束力では無いものの、下手に動くと必要以上に色んな所へ密着度が増しそうで怖くて動けない。そんな状況をまったく意識していないクレア先輩は


「ベルト君、ごめんね。本当は反対したかったけど棄権なんて賛成同然の真似して、私もカレットだけはどうしても失いたくなくて。せめて原料を作り足すとか私も手伝うから、もう少しなんとか出来ないかな?」


初めての異性との密着に思考能力すら消失している俺は内容も理解できないまま、黒曜キツツキにも勝るとも劣らぬ速さで首を縦に振る事しか出来ず。クレア先輩は何事もなかったかのように拘束を解くと、いつもの笑顔で微笑みながら俺を助け起こす。


「それじゃ何から手伝えばいいかな?この樽?」


その瞬間、樽を起こして栓をする俺。ちょっと驚くクレア先輩の顔すら現世に光臨した女神のようにまぶしく。その発言は博愛に満ちた女神の宣託に等しい。


「うーん、だったら一緒に原料の藁でももらいに行こうか?」


おれはミノタウルス二世号の納屋に猛ダッシュした。背後で副会長のモリソン女史が俺の事をチョロい奴だとか、会長のエリソン女史が抱きつけば何でもいう事聞かせられるのねとか好き放題いっているが、まったく自己分析がなってないと声を大にして叫びたかった。


肋骨が腕に刺さったって言う事なんて絶対にきいてやるものか!

ぺったんこ姉妹め!!

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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