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「これも、こいつのおかげかな」
正はにんまりとしながら、頭上の木を撫でた。
「頭山さん、何かいいことありましたの?」
役員のおばさんに顔を覗きまれている事に気が付いて、正は慌てて表情を引き締めた。
「い……いや、その……」
「電話、彼女さんからですか?」
「いや……会社からです」
「ああ、ひょっとして木を枯らす方法が分かったのですか?」
「いえ……まだ……!」
せっかくいい気分になりかけていたのが、一気に覚める。
生まれて初めて女性から告白されたのに、この木をなんとかしないと会いにもいけないのだ。
「おおい、桜の兄ちゃん。そろそろお開きにするけど、その桜切るなら手伝おうか?」
おっさんがノコギリを持っていた。
「じゃあ、お願いします」
公園の駐車場に、ワゴン車が走りこんできた。
「頭山さん。あの車、会社のでは?」
「え?」
ワゴン車の横に「コスモ製薬」のロゴが入っている。
ちょうどその時、おっさんがノコギリを桜の木に当てたところだった。
「切っちゃだめだ!!」
車から降りてきた男が叫んだ。




