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輪葬  作者: 加部宮
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四季祭急行

「あら、乗り遅れちゃったわね」

 隣のLはどんどん小さくなる急行電車を見て、さして慌てる様子もなく呟いた。

「ねえ朱鳥。私、まだここにいようかと思うの」

 Lはそんな調子で自販機の飲み物を飲んでいた。その飲み物を長々と選んでいたせいで乗り遅れたといのに。どうせこの駅には次の電車が来るまでいなくてはならない。

「どうしてそんなに焦っているの? 楽しいところじゃない。焦りが表に現れる人間は、大人の皮を被った子どもなのよ」

「呑気な調子ね。幻想とイマジネーションに生きるあなたと違って、私は現実的な事を考える主義なの」

「ねえ朱鳥。あなた、子どもが足りてないんじゃないかしら」

 子どもを鉄分やカルシウムのような言い方をされても困る。Lの話す比喩はどこかぼんやりしているというか、抽象的なのだ。

「子どもが足りない?」

「ええそうよ。あなたは過去に引きずられたり未来を気にし過ぎなの。悩みと効率は負担と不安。今が辛いなら悩めばいいけど、前の事先の事を悩んでも、どうにかできるのは『現在』その時しかないのよ」

「はいはい。私はユーモアも余裕もない焦りまくり人間よ。でもね」

 私は別の意見を持っていた。Lの幻想主義とは違う、現実に基づく正義を。

 過去があるから今がある。未来を考えて今を作るから、それが正しい過去になる。だから過去に学んで未来を考えて、現在の選択をしていく。私は運命みたいなものは信じているが、それは決められた一本道ではなく選択の分岐の結果がある程度定まっている、程度のものでしかない。

「だめねえ、朱鳥は。やっぱり思春期のまま成長しちゃった大人なのね。思い悩むのが大人を目指す子どものすることだから」

「あら、私子どもが足りないんじゃなかったの?」

「何も考えず今を突き進むのが本当の子どもよ。疑問を持って、それを解決しようとする行動力に溢れた素晴らしい生き物だわ。朱鳥、あなたに潜む子どもはこういう幼いものではなくて、焦りに焦って大人のフリをする思春期の子どもなのよ」

 相変わらず分かりにくい説明だ。でもどこか説得力のある言葉だった。それで私が曲がることはないけど。

「ほら、次の電車が来たよ」

「朱鳥ったら、ずっと線路の向こうを気にしてたのね」

「そりゃ誰かのせいで乗り遅れたし」

「ま、何事も駆け込み乗車よりゆったり行くのが幸せなのよ?」

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