英雄の奥様と王子の婚約者
マリロード王国で、国一番にモテる男、王太子のエドワルドに婚約者ができた。
新たな同盟国となったユリナーダ王国の王女で、ナリス・ユリナーダ18歳である。
初めてエドワルドに会った時のナリス王女は美少女であったが、無感情な人形のようなタイプで、エドワルドは彼女の感情を読み取るのに、はじめはとても苦労した。
そんな彼女が表情を明らかに崩すことが3回あった。
1回目はサイラスを紹介した時。
国の子供達がサイラスを英雄として憧れの眼差しで見るが、彼女の表情もそれと同じようでキラキラと輝かんばかりであった。
2回目はサイラスのスーザン自慢を目撃した時。
100年の恋も冷めたような顔つきで、(何この人……。はいはい、奥様が大好きなのね。はいはい。……英雄は変態か)という残念そうな心の声が聞こえるくらい、クールに引いていた。
そして、3回目は……。
恒例の王妃様主催のお茶会でエドワルドと一緒に参加したナリス王女は、そこで、スーザンとタチアナに初めて会った。
「ふぉー!ぷにっ、ぷにっ!!」とタチアナを抱っこしたナリスは思わず素で叫んでしまった。
素を出さないように、頑張ってポーカーフェイスをしていたナリスであったが、タチアナの肌の前では耐えるのは難しかった。
その後に、はじめは遠慮していたスーザンの肌も触らせてもらい、「さすが元祖!!」と感動していた。
「ほほほ、よかったわ~。
ナリスにも、その肌の素晴らしさがわかるのね~」
「はい!こんな方を奥様にするなんて、サイラス将軍、さすがです!!」とお人形のような美しさであったナリスは、感情豊かな美少女になっていた。エドワルドとしては、こちらのナリスの方が好ましいなと思えた。
「本当にね。サイラスが見つけなかったら、スーザンはきっと、よその地味な貴族のところにでもお嫁にいっていたわね。二人が出会えたのは、運命ね」としみじみ語るクリスティーナ王妃。
ナリスはそれにコクコクと頷きながら、「お嫁に来るのが楽しみ!」と言って、しっかりスーザンの手を握りしめ、ナリスの初めの挨拶時とは比べものにならないくらいに積極的な様子に、驚くスーザン。
「えっと、喜んでいただき、光栄です!」と言って、スーザンもナリスが心を開いてくれたことにほっとした矢先であった。
「……私、本当は英雄に憧れていたの」とぼそっと爆弾を落とすナリス。
「ええ!?」と今度は違う意味で驚くスーザン。
エドワルド達は予想通りと思っていたが、スーザンは今度こそ、サイラス様が奪われる!?と一瞬、焦ったが……。
「……でも、今はエドワルド様の婚約者で本当によかったです」と心底そう思っている様子のナリスに、エドワルド本人も(そうだろうな……。英雄とはいえ、あのサイラスの妻よりは……)と密かに思い、スーザンもそれを聞いてホッとする。
「……あ、そうなのですね」と安心したスーザンは、そのナリスの瞳からも、サイラスへの思慕は全くないのを確認できた。
「ええ。だって、あなたが英雄の奥様でないと、あなたの肌に触れることもなかったと思います」と言って、嬉しそうにスーザンの手を二ギニギするナリス。
「そ、それはそうかもしれませんね」
「それに、サイラス将軍が英雄になったのはあなたがいたからだと思います」
スーザンを褒め称えるナリスに、エドワルドも同意して「ああ、それは事実だね。あんなに短期間に北の蛮族が壊滅したのは、サイラスのスーザン禁断症状のせいだしね」と言ってため息をつく。
「い、いえ、そんな恐れ多いです。私は何もしておりませんわ……」と言ってスーザンは否定するが、スーザン以外の皆は「サイラスが英雄になったのはスーザンのおかげ」と肯定する。
「我が国ユリナーダは、このマリロード王国と同様に北の蛮族に苦しめられていたので、英雄の功績は素晴らしいと考えられておりますが、この国に来て『真の救世主』はあなたということがわかりました」と言ってナリスは、初めてサイラスと会った時のようにキラキラとした憧れの表情でスーザンを見て、スーザン以外の皆はその様子を微笑ましく思っていた。
そう、スーザン以外……。
やめて~!
私、北の蛮族殲滅に何も関わっておりませんよー!!
そう思いたいです……。
今でこそ愛していますが、あの頃はできればサイラス様のプロポーズも断りたかったくらいですし……。
と心の中で嘆いているが、表面上は引きつりながらも、否定の意味を込めて微笑むだけのスーザン。
英雄の奥様と娘は、魅惑肌で未来の王太子妃すら心を開かせ、虜にする。
しかし、王族の方々からの『真の救世主』扱いは、切実に止めて欲しいスーザンであった。